なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第69話:ライラからの誘い

 昼食を食べた後は予定通り馬車でエルガスさんの所に向かう。

 

 ホロウスティアは広いせいで、まだまだ行った事の無い場所が多い。

 

 暮らしている東地区すらほとんど把握出来ておらず、まだ行った事の無い地区すらある。

 

 そんなわけで、馬車を降りてから物珍しく周りを見ながら歩いていると、エルガスさんの店に着いた。 

 

「すみません。エルガスさんは居ますか?」

「はいはい。今…………親方ー! あんた一体何しでかしたんですかー!」

 

 店員だか弟子だかに話し掛け、俺の顔を見たらこの反応である。

 

 陰で色々と言われているので、どう思われているか知っているが、悲しいものである。

 

 店の奥からドタバタと音が聞こえ、それからスキンヘッドのエルガスさんが出てきた。

 

「これはどうも。立ち話もなんですし、此方にどうぞ」

 

 妙に腰の低いエルガスさんに付いていき、応接間の椅子に座る。

 

「ウチの若いのが失礼しましたね。それで、女神像の建造についてでしたね」

「はい。此方がイメージ図になります」

 

 昨日の内に、ルシデルシアの意見を取り入れながら描いた三面図を渡す。

 

 このイメージ図を描くに辺り、俺とルシデルシアで意見が食い違った。

 

 あくまで巨乳で描こうとする俺と、程々の乳が良いとごねるルシデルシア。

 

 女神像と言えば、象徴的なものとなるので、母足る証である胸は大きく描くべきだろう。

 

 だがルシデルシアは、何故か程よい感じが良いと譲らなかった。

 

 最終的にはルシデルシアの意見を呑む形となったが、意見を聞く代わりに理由を話せと言ったのだが……。

 

 ここで新事実を知ることとなったのだが、ディアナは――貧乳だったそうだ。

 

 俺の身体のベースはディアナのはずだが、どちらかと言えば…………俺は巨乳である。

 

 勿論ルシデルシアも出るとこが出てるナイスバディなのだが、ディアナは…………。

 

 多分胸については、俺の内心が反映されているのだろう。

 

 少しディアナに同情することになったが、とにかく女神像は巨乳未満貧乳以上となった。

 

「これは見易いですな……この造形なら問題無さそうです。料金は先日話した通りで。それと、一度粘土で模型を作るので、それで問題なければ施工する形になります」

「分かりました」

 

 用意していた五十万ダリアを渡し、色々あって貯まっていた金がスッカラカンとなる。

 

 聖書を売れば多少金になるが、それも先の話だ。

 

「確かに。それと……」

「はい。イノセンス教についてですね」

 

 出来立てホヤホヤの聖書をエルガスさんに渡し、イノセンス教とはなんなのかの説明をする。

 

 何度も繰り返す内に、俺の話し方も様になってきている気がする。

 

 まあ内容は相も変わらず食事に感謝して、皆で仲良くしましょうってだけである。

 

 エルガスさんは聖書を捲りながら、神妙に俺の話を聞き続けた。

 

「なるほどなあ。これは頃合いかもしれんな」

「頃合い……ですか?」

「ああ。実は親の代からお世話に……お世話になっていた宗教があるんだが、最近落ち目らしくてね。何度も喜捨を頼んできたり、色々と面倒だったんだ。その点シスターさんの所は良さそうに思える」

 

 まあどこかが上がってくれば、どこかが下がる。

 

 こればっかりは仕方のない事だろう。

 

 しかし宗教の鞍替えとか、手続きとか必要なのだろうか?

 

 日本でそういった話を聞いたことが無いので、全く分からない。

 

 なので、シラキリに聞いてみるとしよう。

 

 多分知っていると思う。

 

「手続きは必要ないですが、所属している宗教に脱退の意を伝える必要があります。ただの信徒なら宗教側の同意などは必要なく、伝えた時点で終わりです」

「ただの信徒という事は、それ以外では何かあるんですか?」

「加護を頂いている場合は、返納する必要があります。その場合は加護をくれた人に直接会わなければなりません」

 

 つまるところ、エルガスさんの場合は脱退すると伝えるだけで、イノセンス教の信徒となれるようになるわけだ。

 

 それにしても、シラキリはちゃんと勉強などを頑張っているようだな。

 褒めるついでに頭を撫でておいた。

 

「ちょいと後になるが、入信したいと思う。模型は明日までには作っておくから、頃合いを見て来てくれ。それと、また演奏を聴かせてくれよな」

「確約は出来ませんが、機会があればその時に」

 

 演奏は趣味の範囲なので、そんなに好き好んで弾きたいわけではない。

 

 それに折角酒場に行っても、演奏していては酒を飲む時間が少なくなってしまう。

 

 最後にエルガスさんから聖書の料金を受け取り、大慌てしていた店員から謝罪の言葉を貰ってから外に出た。

 

 此処から馬車停に着く頃には、もう夕方となりそうだな。

 

 後は教会の費用と、教会までの道を如何にかすれば、一通り準備が……あっ。

 

 ヤバい。肝心な事を忘れていた。

 

 ライラの復讐の手伝いだが、それなりの日数が必要となるはずだ。

 

 時期は約二ヶ月程度後。

 

 女神像は間違いなく完成しているだろうし、場合によっては教会もそれなりに形が出来上がっているかもしれない。

 

 そんな教会を放置して出ていけば、女神像は売り払われ、教会は浮浪人の溜まり場になっているだろう。

 

 ――信徒ではなく、俺の下で働く人間を雇い入れる必要があるな。

 

 スラムに教会がある事を許容できて、口が堅い人物。

 

 そしてイノセンス教と言うか、俺の唯一の取り柄である、回復魔法だけの加護を受けてくれるシスターを雇わなければ。

 

「さて、後は……少し散歩をしてから帰りましょうか。何かするにしても、微妙な時間ですからね」

「はい!」

「分かりました」

 

 俺の方へ伸びてきているシラキリの手を掴む、ゆっくりと歩く。

 

 一応護衛であるアーサーは俺とシラキリの後ろに付き、周りを警戒してくれている。

 

 さてさて、これから先どうしたものやら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 グローアイアス家にある、コネリーの私室。

 そこでコネリーは青筋を浮かべていた。

 

「……帰って来ぬか。拾ってやった恩を仇で返しおって」

 

 送り出した暗殺者であるアーサーが、いつまで経っても帰ってこない。

 

 死んだか、或いは逃げたか……。

 

 無駄な事をとコネリーは思いながら、隠してある金庫を開け、中から一枚の紙を取り出した。

 

 それはアーサーとの、奴隷契約の紙である。

 

 奴隷紋と契約書がある限り、アーサーはコネリーに逆らうことが出来ず、逃げたとしても……。

 

「ッチ。くたばったか」

 

 コネリーが持つ契約書からはアーサーの名前が消えており、この世にいない事を示していた。

 

 この契約書は特別の物であり、契約している奴隷が死んだ時に名前が消える。

 

 また、故意に書いてある奴隷の名前を消せば、その奴隷が死ぬようにできている。

 

「あまり時間が無いと言うのに……あの剣が無ければ……」

 

 グローアイアス家としてならば、王家から目を掛けられているが、コネリー個人となれば、話が変わってくる。

 

 ライラの祖父であり、コネリーの父親にあたる元当主と違い、コネリーには何の実績もない。

 

 決して才能が無い訳ではないが、貴族としてのプライドが高く、王都の学園に通っていた時も、真面目に勉強をしていなかった。

 

 しかし公爵と言う立場は強大なものであり、更にこれまでグローアイアス家は王国に寄与してきたため、誰もコネリーに忠言することも出来ないまま今に至る。

 

 アーサー以外のコネリーの手駒は、全てライラによって殺され、別件で雇っていた者達も音信不通となっている。

 

 国内ならともかく他国となれば、流石に公爵家の騎士団を動かすことも出来ず、歯噛みしている。

 

 王家はコネリーに対し、剣を譲渡してくれるならば、婚姻しても良いと秘密裏に契約を結んでいる。

 

 剣がなければ契約は破棄となり、コネリーの野望も潰える事となる。

 

 イライラを隠そうともせずに執務室まで歩き、メイドにワインを持ってこさせた。

  

「遅い! 早く注げ!」

「も、申し訳ありません」

 

 ワインを持ってきたメイドを怒鳴り付け、一気にワインを呷る。

 

(糞! どうして上手くいかない! 俺は公爵なんだぞ!)

 

 メイドを追い出したコネリーは、机の上に置かれている書類や手紙に目をやり、名前で仕分けしていく。

 

 ほとんど内容も見ずに動かしていたコネリーの手が、一枚の手紙を見て止まった。

 

 手紙の差出人は、ライラルディア・フェイナス・グローアイアス。

 

 コネリーが受け取るはずだった剣を強奪した、悪魔の子。

 

 怒りで振るえる手で手紙の封を切り、中身を取り出す。

 

「ふ。ふふふ。馬鹿な奴だ自ら剣を携えてやってくるか。おい! 誰か! 誰か居らぬか!」

 

 手紙を読んだコネリーは、不気味な笑みを浮かべながら、部屋を出ていった。 

 

 手紙に書かれていたのは、ライラからの殺人予告だった。

 

 しかも堂々と殺しに行くので、領から逃げるなと書いてあった。

 

 だが、これだけならばコネリーは憤慨して手紙を破り捨てていただろう。

 

 ライラはわざわざ何時頃戻るかを、手紙に書いておいたのだ。

 

 手紙の通りならば、コネリーが欲している剣をライラから奪った後、婚姻式に向かっても間に合う位だ。

 

 ライラさえ殺せれば、全て上手くいく。

 

 手紙を読んだコネリーはそう思ってしまった。

 

 そして領内でならば、コネリーは幾らでも手が打てる。

 

 グローアイアス公爵騎士団約一万名。

 

 その全てをコネリーは集結させようとしていた。

  

 この行為が、自分の首を絞めているとも思わずに。

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