なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第71話:読み合い。探り合い

 食事を取るのは、シラキリの午後の都合を考慮して、冒険者ギルド内にある食堂だ。

 

 食堂ではお馴染みのオムライスや、唐揚げ定食などがある。

 

 注文方法は無駄にハイテクで食券方式になっており、蝋か何かで作られた食品サンプルも展示されている。

 

 これまで通り、見た目と名前が一致しない物も多々有るが、実物を見られるので味の予想も出来る。

 

 シラキリが物珍しそうにすると思ったが、どうやら既に何度も使用していると教えてくれた。

 

 冒険者ギルドで勉強すると言って出かける事があったので、考えてみればごもっともだ。

 

 メニューが色々とあり迷いどころだが、折角なので見た目的に唐揚げ定食だと思われるのを食べる事にした。

 

 因みにシラキリはサンドイッチプレートで、ミリーさんはラーメン的な物である。

 

 アーサーは異世界らしいよく分らん物を食べていた。

 

 唐揚げ定食もどきの味はやはり、俺の知っている馴染み深い味とは程遠く、ご飯はひな鳥の巣で食べた雑穀米より微妙だが、値段的に安いので仕方ない。

 

 うーむ。教会を建て替える際は、料理にも注力したくなってきたな。

 

 一時の海外旅行とかならば、違った味の料理も楽しめるだろうが、もうこの世界から帰れないと分かっている以上、あまり生活面で妥協したくない。

 

 あまり気は進まないが、自分で料理を学ぶのも手かもしれないな。

 

「いやー食べた食べた。それじゃあ良いかな?」

「はい」

 

 軽く雑談しながら食べ終え、シラキリはまた勉強へと戻った。

 

 さてさて、お願いとは一体何なのだろうか?

 

「実はギルドから個人依頼が入ってね。ちょっと珍しい依頼だったから、一人だと心配でさ」

「珍しいですか?」

「うん。何でも騎士団の一つが若者を対象に体験入団を実施するみたいなんだけど、外に行く関係でレンジャー職を数名募集しているみたいでね。その依頼を受けるように言われちゃったんだ」

 

 丁度俺がネグロさんから、お願いされていた件か。

 

 話を聞いた感じ偶然と感じるが、あまりにも都合がよすぎる。

 

 これまでの事を考えると、やはり俺を見張っていると考えるのが妥当か。

 

 心当たりが多すぎるせいでどうしてと疑問に思う事もないが、ミリーさんは一体何者なんだろうか?

 

 ギルドの諜報員なのか? それともこの都市の治安維持隊とかなのか?

 

 はたまた裏組織なんて事も考えられるが、流石にそれはないか。

 

 それならばシラキリのために推薦書を用意してくれないだろうし、これ程まですり寄ってくることも無いだろう。

 

「その依頼で、どうして私の力が必要に?」

「サレンちゃんは知らないと思うけど、最近宗教関係はドタバタしてるし、ちょっと隣国ともいざこざが有って、何が起こるか分からないでしょう? 神官職の知り合いなんてサレンちゃん位しかいないからさ。もしもの場合に備えてってわけ」

 

 宗教と言えば、仮登録や本登録しに役所へ行った時、何故か宗教課の所に人が多く居たな。

 

 手続きをしている俺をじっと見てくる視線を感じたが、あれは単に物珍しさからではなく、何か裏があったのか?

 

 隣国については、この前受けた依頼の関係だろうな。

 

 ミリーさんの言い分に筋は通っているし、疑う場所はない。

 

 そう言えば、ネグロからの依頼について話していいのだろうか?

 

 …………まあ口止めもされていなかったし、別に良いか。

 

「その件なのですが、実はネグロさんから依頼を受けていまして、体験入団する側で参加予定なんです」

「……あー、そう言えばミシェルちゃんも参加するのか。本当に過保護だねー」

 

 さも偶然を装うが、ここまでは予定調和なのだろう。

 

 仮に俺が参加予定で無かったとしても、これまでの事を考えれば、ミリーさんのお願いを断るのは難しい。

 

 なるほど、シラキリの件も俺に恩を売っていると考えれば合点が出来る。

 

 現地で確認すればいいが、おそらくミシェルちゃんとミリーさんは知り合いの筈だ。

 

「なので、参加はしますが常に一緒にとはいかないと思います」

「いいよいいよ。その場にサレンちゃんが居るってだけで安心できるからね。あっ、もしかしてだけど、一人で参加するの?」

「年齢制限に引っ掛からないのが私だけなので、その予定です」

「つかぬことをお聞きしますが、私がミリーさんと一緒に行く事は可能でしょうか?」

 

 珍しく、アーサーが自発的に質問してきた。

 

 今の話からだと、ミリーさんと共に依頼を受ける様な話だったので、俺の代わりにアーサーが行く事も可能な気がする。

 

「残念ながら無理だねー。神官職ならねじ込めるけど、受けるにしても最低Cランクからだから、アーサーくんは残念ながら無理だよ」

 

 両腕を交差させてバッテンを作ったミリーさんは、「ついでに人員は埋まってるから、どう足掻いても無理だけどねー」っと追加した。

 

 依頼内容を考えれば、仕方ないことだろうが、裏を読むならば話は変わる。

 

 俺の周りから人を無くし、一対一になりたい。

 

 そう捉えることも出来る。

 

 先程パーティーでペインレスディメンションアーマーを倒したと話したが、俺の力の一端を見たことがあるミリーさんは、信じていないだろう。

 

 ミリーさんがどこの所属だか分からないが、俺側からミリーさんに手を出すことは不可能だ。

 

 俺がしたくないのもあるが、間違いなくこの都市には居られなくなってしまうだろう。

 

 下手なことも言えないし、俺ができることと言えば、無害な事をアピールする位だ。

 

 ……自分の事しか考えていなかったが、わりと不穏な事を言っていたな。

 

「まあサレンちゃんが居るなら安心だね。ダンジョンも危険だけど、外も何があるか分からないからね」

「私も知り合いが居るのでしたら、安心出来ますね。先程宗教のゴタゴタと言ってましたが、何か起きているのですか?」

「ああ、サレンちゃんは記憶が無いから、何も知らないのか。ちょっとややこしくて長い話だけと、聞く?」

「お願いします」

 

 宗教関係となれば、俺も無関係ではいられない可能性がある。

 

 知っておいて損はないだろう…………と思っていたが、思いの外重くて聞きたくない話だった。

 

 ホロウスティアのある大陸には、帝国を含めて大きな国が十個と、小さな国がそこそこの数ある。

 

 その中で今回問題となるのは、三つの国である。

 

 アレスティアル教国。

 マーズディアズ教国。

 サタニエル教国。

 

 運悪くであるが、三国のトップがほほぼ同時期に入れ替わる事となった。

 

 トップが変われば、宗教によって一本化されている国でも、変化が起こる。

 

 一番分かりやすい例えは、過激派と穏健派だろう。

 

 神が実在しているとしても、実際に国を動かすのは人だ。

 

 自分達の宗教こそ優れていると、言いたくなっても仕方ない事だろう。

 

 とは言っても、表立って戦争をする程理性が吹き飛んでいるわけではない。

 

 戦争となれば、人命が失われてしまう。

 

 神にとって、人の想いこそが力になる。

 

 人が馬鹿な真似をしようとしても、間違いなく神が止めるだろう。

 

 ルシデルシアが言っていた、暗躍している神を除いての話だがな。

 

 そんな代替わりした三国は戦争の代わりに、このホロウスティアでとある事を始めた。

 

 そう――代理戦争だ。

 

 直接やり合うのではなく、ホロウスティアでの信徒の数や、傘下に置いている宗教の数で争っている。

 

 ホロウスティアが選ばれたのは、三国の宗教が共存している場所が、ここにしかないからだ。

 

 役所の宗教課内にあれだけ人が居た理由を、嫌でも察することが出来る。

 

 これは、その内声を掛けられるかもしれないな。

 

 話している時のミリーさんは、心底くだらなさそうにしていたが、関係ない人にとっては本当にどうでもいい話だ。

 

 逆に関係者にとっては、本当に迷惑極まりない。

 

 いや、そもそもホロウスティア内に、関係者以外なんて存在しないだろう。

 

 オーレンの件や、ミリーさんが会議室で顔をしかめた理由。

 

 ネグロさんの依頼が俺に回って来たのも、関係している。

 

 ついでに俺がギルドで懺悔室を使えたのも、ギルドが信用できる宗教が減ったからだと思う。

 

 空いた枠に収まった形だろう。

 

 もしかしたら、すんなりと信徒が集まったのも関係しているかもな。

 

 エルガスさんが宗教で悩んでいたように、信仰していた宗教を抜けた人も多いはずだ。

 

 歯車が噛み合うように、あれもこれもと思い浮かぶが…………嫌な予感しかしない。

 

「そんなわけで、いつもごたごたしているホロウスティアは更にごたごたどたばたしてるってわけ」

「なるほど……あまり良い状態ではないみたいですね」 

「そうだね。個人的には体験入団なんてやってないで、取り締まってほしい位だよ。まあ、都市の条例上無理だろうけどね」

 

 この都市は重犯罪以外に対しては、とても寛容。悪く言えば、腰が重い。

 

 実験……何が起きて、その結果が何をもたらすのか。

 

 実験都市の名の通りこの宗教間の争いも、一種の実験として処理されているのだろう。

 

 本登録が終わったので大々的に動こうかと思ったが、落ち着くまで息を潜めるのも有りかもしれないな。

 

「あの……サレンさん」 

 

 …………話へ割り込むように聞こえた声は、少し前までは会いたいと思っていたが、ミリーさんの話を聞いて、会いたくなくなった人物のものだった。

 

「これはスフィーリアさん。どうかなさいましたか?」

 

 オーレンのパーティーメンバーであり、俺と同じく神官である少女。

 

 その表情は暗いものであり、たまたま居たから声を掛けて来たとは思えない。

 

 今度はどんな厄介ごとだ?

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