なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第77話:持久走

「食べ終わったら第一訓練所へ移動し、着替えておくように。また、冒険者の方は任意での参加で大丈夫です」

 

 食べ始めてしばらくすると、ジェイルさんが午後について話す。

 

 それと、やはりフードを取ってから此方を気にする視線が増えた。

 

 訓練と聞いてミシェルちゃんは目に見えてやる気を出し、山盛りの料理をパクパクと食べ進める。

 

 俺とミリーさんの料理の量はそこまで変わらないが、ミシェルちゃんは若いだけあってかなりの量をよそってきた。

 

 しかも苦もなく食べるのだ。

 

 ミリーさんが気にしていないので、これが普通なのだろう。

 

 完食したミシェルちゃんは食った食ったと言わんばかりに腹をさすり、満足そうにする。

 

「よし! それじゃあ行きましょうか!」

 

 ああ、これが若さと言うものか。

 

 この身体だから良いが、食べて直ぐに動くのは、歳を取る度に難しくなっていく。

 

「はい。行きましょう」

「二人とも頑張ってねー」

 

 そんな見送るような事をミリーさんも言うが、あくまで参加が任意なだけで、ミリーさんも訓練場に行かなければならない。

 

「ミリーさんも行くんですよ! ほら立って!」

 

 十五歳の少女に世話される、二十一歳女性。

 

 シュールだなー。

 

 ミシェルちゃんが食べていた料理の量が量だったのと、飯を食べた事で脱力したミリーさんを運ぶのに手間取り、移動を始めるのが遅れて最後となってしまう。

 

 第一訓練場に着くと既に着替えを終えて待っている人もいるので、間違いなく遅れてしまっている。

 

「女性の方はそちらの更衣室を使って下さい。服は更衣室内にあるので、サイズが合うのを着て下さい」

「分かりました」

 

 着くと同時にジグザムさんが声を掛けてくれたので、ミリーさんをほっぽりだして、ミシェルちゃんと一緒に更衣室へ入る。

 

 入って直ぐの所にインナーや靴だけではなく、鉄鎧や剣など一式が準備されていた。

 

 先ずは基礎訓練という事で鉄鎧まで着て、剣を持つ必要はない。

 

 だがこんな物を着て運動しなければならないことを考えると、億劫になってしまう。

 

「うわ……やっぱりすっご」

 

 着替えていると、ミシェルちゃんが俺の身体を見てぼそっと呟く。

 

 自慢どころか悲しい事であるのだが、俺の身体はボンキュッボンであり、出るところは出ている、メリハリのある体型だ。

 

 肌も赤子と同じ玉の肌になっている。

 

 まあ実際に赤子みたいなもんだがな…………体が作り替えられているわけだし。

 

 しかしミリーさんが言っていた通り、本当にむっつりスケベみたいだな。

 

 俺の身体を何度も見てくるせいで、着替える手が止まっている。

 

「ミシェルちゃん。早く着替えた方が良いですよ?」

「は、はい!」

 

 ちょこっと叱ると、いそいそと着替えの手を早めたので、その間に軽く身体を動かしてみる。

 

 鉄の鎧なだけあって少し窮屈だが、そこまで重さを感じない。

 

 国所属な騎士団なだけあって、良い物を用意しているのだろう。

 

 流石である。

 

『現実逃避している所すまぬが、単純にサレンの筋力が高いだけだからな?』

 

(人が折角異世界スゲーしているのに、水を差すな)

 

 調整できるようになったとはいえ、俺の筋力は数十だか数百キロあるハンマーを木の棒のように振り回すことが出来る。

 

 この程度の鉄の鎧なら、布の服と大差ない。

 

「これ……結構重いですね」

 

 着替え終わったミシェルちゃんがそんな言葉を漏らすが、聞かなかったことにする。

 

 更衣室を出る前に髪の結び目を確認し、角の断面が見えていないか触って確認しておく。

 

「それじゃあ出ましょうか。待たせているかもしれませんからね」

「はい! ……すっごい似合ってる…………」

 

 ガチャリと扉を開け、第一訓練場に出ると、既に全員集まっている。

 

「む。これで全員……ゴホン! 全員集まったな! これより基礎訓練を始める!」

 

 俺達に気付いたジェイルさんがチラリと見るが、一度言葉を詰まらせてから大声で号令を出す。

 

 自然と姿勢を正したくなるような雰囲気だ。

 

 今更になって帰りたくなってきたが、金のために仕方ない。

 

「先ずは白線が引かれている外側を走ってもらう。まさかいないと思うが、体力に自信がない奴はいないな?」

 

 煽るようにジェイルさんは言うが、此処に集まっているのは、曲りなりにも騎士の卵だ。

 

 日ごろから鍛錬をしているのだろうし、体力がないわけが無い。

 

「大丈夫なようだな。ルールとして、魔力での強化と、他者への妨害は一切禁止だ。また、今回は持久走とし、最後の一人になるまで走ってもらう。体力が尽きた者は、早々に走るのを止めて外に出るように」

 

 結構長い間は走れそうだが、重い鉄の鎧を着て更に敵愾心を煽るような事を言えば、ただ走るのではなくて一番前で走ろうと頑張るはずだ。

 

 隣に居るミシェルちゃんも、凄くやる気を出している。

 

 冒険者の三人は端によっており、何やら話しているようだが、何やら紙幣の様なものが、見えた気がする。

 

 勘だが、誰が最後まで走れるか賭けでもしているのだろう。

 

「それでは位置について……走れ!」

 

 号令と共に全員走り出し、誰もが負けじと速度を上げていく。

 

 ガチャガチャと煩いので、俺はなるべく後ろの方に下がる。

 

 さて、どれ位走ったものか……。

 

 そう言えば、この身体の性能を試すことを、これまでしてこなかったな。

 

 筋力や体力の限界は、今の所一度も無い。

 

 いや、ペインレスディメンションアーマーとの戦いで筋力の限界はあったな。

 

 あの時は全力だった。

 

 とりあえず走れるだけは走り、脱落する数を見て判断しよう。

 

 十分程走っていると、遂に最初の脱落者が出た。

 

 顔面から汗をダラダラと流し、いつの間にか用意されていた飲み物を飲みながら休んでいる。

 

 更に二十分が経ち、二十人中十人が地面へと倒れ込む。

 

 ミシェルちゃんも既に限界と言った感じだが、何とか粘っている。

 

 他の面々も汗を流し、腕を振るのも辛そうにしている。

 

 そんな中、俺は涼しい顔をして走っている……というか全く疲れていない。

 

 正直一人目が脱落した時点で俺もギブアップしようと思ったのだが、いかんせん汗一つ流さない状態で疲れたのでもう無理なんて言っても、信用されないだろう。

 

 せめて少しでもと思いながら走るが、全く疲れない。

 

 ダンジョンでも精神的な疲れはあっても、肉体的な疲れはほとんどなかった。

 

 まあ、あの時は基本的に歩いているだけだったが、まさかここまで体力があるとは……。

 

 疲れるくらいのペースで走るのも手だが、それはそれで目立ってしまう。

 

 かと言って、こんな状態でギブアップしても目立ってしまう。

 

 もうこのまま最後まで走っていたほうがい良いのではないだろうか?

 

 チラリと視線をミリーさんに向けると、爆笑しているミリーさんと、嘘だろ? って顔をしている冒険者の二人が見えた。

 

 ……はぁ。

 

「ミシェルちゃん。辛いのでしたら、止めといた方が良いですよ? まだ次もあるでしょうから」

「はぁ……はぁ……でも……お父さんに……認め……させる……には……」

「倒れて何も出来なくなっては、元も子もないですよ」

「――はい…………あれ?」

 

 今にも倒れそうだったミシェルちゃんを説得し、走るのも止めさせるも、首をかしげながら俺を見てきたように見えた。

 

 何が言いたいのかは分かるが、俺はまだ走っているので、ミシェルちゃんが話し掛けることは出来ない。

 

 それから更に十分後……。

 

「そこまで! 残ったのはサレンディアナか……しかし……いや……ゴホン。よく最後まで残れた! こちらに来て休め!」

「分かりました」

 

 結局最後まで残る事以外の道が無くなり、驚愕の視線を受けながら水を受け取る。

 

 疲労がほとんどないとはいえ、運動後の水は美味しい。

 

「騎士は基本的に身体強化をして戦うが、基礎体力を鍛えるのを怠ってはいけない。魔力無効化結界を知っている者はいるか?」

 

 数人が手を上げるが、魔力無効化結界とはまたヤバそうな匂いがする代物だな。

 

「戦争などではあまり使われることは無いが、盗賊との戦いで、此方の数が多く、敵が少人数の場合などは使われることがある。何故か分かるか?」

「……被害を押さえるためですか?」

 

 最初に脱落した男が自信なさげに答えるが、ジェイルは大きく頷いてみせる。

 

「そうだ。窮鼠猫を噛むと言うように、魔法で自爆をする盗賊も中にはいる。しかし、魔力さえ封じてしまえば、一般人に毛が生えた程度だ。完全武装している騎士ならば、楽に捕らえることも出来るが、魔法が使えないのはこちらも同じだ。だから、基礎体力は大事になってくる」

 

 そう言えば、ライラも朝はランニングや筋トレをしていたな。

 

 ダンジョンでの戦いを見た限りだと、いくら身体を魔法で強化しても限度があるように思えた。

 

 結局動かすのは、自分の身体なのだから、鍛えるのは間違っていないのだろう。

 

「赤翼騎士団は戦争には出ないが、盗賊退治や護衛などで野宿することもある。それに、街中では基本的に魔法の使用は禁止されている。なので、素の状態の身体を鍛えるのも重要なのだ」

 

 話を聞いていた一同は納得したように頷き、流石だなーといった雰囲気を出す。

 

 何事も基礎が大事と言うのには、俺も共感が持てる。

 

 仕事で言えば、挨拶が基礎に当たるだろう。

 

 たかが挨拶かもしれないが、挨拶を怠れば会社での人間関係が、ギクシャクすることになる。

 

 後は客先とかでも、率先して挨拶したりすると、好印象を与えやすい。

 

「次だが、体力の次は筋力だ。女性は多少不利になるが、騎士団に入団すれば男も女もない。器具を用意するので、少しの間待っていろ」

 

 数人の騎士が訓練場の端にあるよくわからない器具を運んできて、テキパキとセットする。

 

 バーベル的な物と、変な器具がついた剣の二つだが、ケーブルが端から伸びており、機械に繋がれている。

 

「これは最近開発された、重さを自由に変えられる訓練器具だ。俺が見本を見せよう」

 

 ジェイルさんは騎士に、バーベルの重さを1キロにするように命令を出す。

 

 その後に片手で軽々とバーベルを持ち上げて見せた。

 

「この通り今は軽いが……50キロにしろ」

「了解です」

 

 見た目では分からないが、ジェイルさんの腕の筋肉が膨らんだので、重くなっているのだろう。

 

 そのままジェイルさんがバーベルを地面に落とすと、重い音が響く。

 

「この通り、見た目は変わらないが最大1トンまで重くすることが出来る」

 

 剣の方も同じらしく、バーベルは持ち上げて静かに下ろせれば良いが、剣は重くした状態で最低でも五回振らなければならない。 

  

 瞬発的な筋力よりも、耐久面を見るために、そうしているのだろう。

 

「一番重いのを持ち上げられた者には、後で褒美をやろう。さあ、誰からやる?」

「んじゃあ私が」

 

 ひょっこりと手が上がり、全員が声の主を見る。

 

 手を上げたのは、なんとミリーさんだった。

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