なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第82話:寝て起きて出かける

「異世界……ねぇ」

 

 寮の部屋で一人と言うこともあり、つい独り言が漏れてしまった。

 

 廃教会の自室以外で寝るのは今回が初めてだが、如何に俺の部屋がみすぼらしく、ボロいのか実感させられる。

 

 寮の部屋は一昔前のホテルの一室といった風貌であり、異世界の癖にしっかりとしている。

 

 大体1DK位の広さがあるので、一人ならば窮屈に感じない。

 

 シャワーとトイレも完備されているので、個人的にはありがたい。

 

 ホロウスティアが他の都市とは違うらしいが、やはり文化レベルは大事だな。

 

 夕飯までは後二時間程あるし、一眠りするには丁度良い。

 

(時間になるか、何か問題が起きたら起こしてくれ)

 

『気が向いたらな』

 

 …………寝よ。

 

 

 

 

 

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『時間だ』

 

 ルシデルシアの声で目が覚める。

 

 美女の声で目が覚めるってのは、客観的に見ると羨ましいものかもしれないが、俺にとっては煩い目覚まし時計と変わらない。

 

 これがシラキリやライラならば心地よい目覚めとなっただろうに……。

 

(起こしてくれてどうも)

 

 時計を見ると、夕飯まで後三十分程となっており、余裕がある。

 

 ミシェルちゃんも部屋で休むと言っていたし、呼びに行くとするか。

 

 寝起きは大概怠いものだが、気分とは裏腹に身体は軽い。

 

 若い身体とは、本当に素晴らしいものだ。

 

 軽く顔だけ洗い、隣のミシェルちゃんの居る部屋のドアを叩く。

 

 すると、何かがぶつかる様な音がした後、中からミシェルちゃんの声が響いてきた。

 

 おそらく、ベッドから落ちて目が覚めたのだろう。

 

 間違いなく痛いだろう。

 

「お、お待たせしました。思いのほか疲れていたみたいで、危うく寝坊するところでした」

 

 待つこと数分。

 

 頭をぼさぼさにしたままのミシェルちゃんが姿を現した。

 

 正に寝起きと言った状態だが、少し早めに行動しておいて良かったな。

 

「時間はまだありますので、整えてきては如何ですか?」

「は、はいー。少し待っていて下さい!」

 

 何とも騒がしいと言うか、年相応の少女だな。

 

 ライラと一個違いの年齢だが、ライラは身の上の関係で大人びている。

 

 もしも普通に育っていたら、ミシェルちゃんみたいに活発な少女となったのだろうか?

 

「お待たせしました!」

 

 バーンとドアが開き、しっかりと身なりを整えたミシェルちゃんが飛び出してくる。

 

 騎士の寮なのでドアは頑丈だと思うが、もう少し丁寧に扱った方が良いと思う。

 

 とりあえず気を取り直して、飯だ飯。

 

「それでは行きましょうか」

「はい。夕飯もバイキングなんですかね?」

「どうでしょうか……個人的にはバイキングの方が良いですが、多分違う可能性は高いと思います」

「えっ?」

 

 これは個人的な考察なので間違っているかもしれないが、ヒントとしては最初に自己紹介をさせなかった事だろう。

 

 時間が無いからと省くのは正直おかしいと思うが、その後の事を考えると、理由が見えて来た。

 

 知り合い同士は仕方ないが、自己紹介をしなければ、お互いの力量を真っ白の状態で知ることが出来る。

 

 俺みたいに出所が怪しい人間も居れば、ミシェルちゃんみたいな良い所の嬢ちゃんもいる。

 

 持久走や重量上げ? では、身分がどうので敵対心とか持つこともなかっただろう。

 

 つまり現状では、少しだけ仲間意識が形成され始めていると考えられる。

   

 基礎訓練が終わった時の拍手が良い例だろう。

 

 あの時に嫌悪を顔に出している者は、誰も居なかった。

 

 まあ騎士団に来る人間で、精根が腐っている人間はいないだろうが、仲間意識ってのは馬鹿に出来ないものだ。

 

 会社の同期とかが分かりやすいかもな。

 

 飲み会とかの席で、入社式以外会った事がない同期でも、同期というだけで話してみようって気が起きたりする。 

 

 そのことを踏まえれば、夕飯の時は親睦を深めるために、個人的に食べるバイキングではなく、席を最初から用意されていると考えられる。

 

 予想ではあるが、外れてはいないと思う。

 

「どうしてかは、着くまで考えてみて下さい。私の予想では、用意された席へ座ることになると思います」

「うーん。考えてみます」

 

 これで外れていればかなり恥ずかしいが、その時はその時で謝ればいい。

 

 寮を出ると既に空は暗くなっているが、街灯があるので結構明るい。

 

 隣でうんうん唸るミシェルちゃんと、人気のない道を歩いていく。

 

 寮というだけあり、食堂のある建物より結構離れている。

 

 少し歩けば訓練場の近くとなるので、そこまでいけば問題が起きる可能性は減るだろう。

 

 ……まあ、その訓練場でアクシデントがあったわけだが、人気のない場所よりは良い。

 

 

 

 

 

 

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 流石に騎士団の敷地内なだけあり、何事もなく食堂まで来られた。

 

 これまでの事を考えれば、血だらけの人間が倒れていたり、空から剣が降ってきても可笑しくない。

 

 ほんの少しの道のりだったが、平和という物を実感できた気がする。

 

「わぁ……サレンさんの言った通りですね。どうして分かったんですか?」

「教えてあげますので、先ずは座りましょう。立ったままでは邪魔になりますからね」 

 

 食堂に入ると、案の定大きなテーブルがセットされており、席順が貼りだされていた。

 

 予定時刻まで後五分程なので、既にほとんどの席が埋まっている。

 

 騎士とミリーさん達冒険者は分けられており、体験入団者側で埋まっていないのは、五席だけだ。

 

 予想はしていたが、俺とミシェルちゃんの席は隣同士となっている。

 

 もしもミリーさんを介して知り合えなかった場合、ここで話し掛けろという事だったのだろう。 

 

 汚職というわけではないが、権力とは汚いものだな。

 

 権力があれば、多少の無茶を押し通すことが出来る。

 

 ついでに金があれば、不祥事だって揉み消せるだろう。

 

 俺もそう在りたいものだ。

 

 金と権力こそ、俺が求めるものだからな!

 

 よっこいせと言いそうになる所を、ぐっと我慢して椅子へ座る。

 

 テーブルの上には昼とは違い、多少彩りのある料理が沢山置かれている。

 

 見た目が俺の知っているものと似ていても、味が違うことがあるので、下手に手を出したくないんだよな……。

 

 不味いわけではないのだが、外国人に納豆を食べさせるのに似ているだろう。

 

 好き好んで食べようとは思わない。 

 

 飯の事はおいといて、ミシェルちゃんに教えてあげるとするか。

 

「私の予想ではありますが、三日目と四日目は外に出ての訓練となります。その時には、最低限互いの事を知っていなければ、大変だと思いませんか?」

「……なるほど。確かに体力が沢山ある人も居れば、少ない人も居ますからね」

「はい。そして、今ミシェルちゃんは誰がどれ位の身体能力かが最低限分かっていると思いますが、誰がどんな人かは分かりませんよね?」

「……はい」

「つまり、身分による色眼鏡無しで、他の方を見る事が出来ています。例えばですが、ここに王族の人が居たとしたら、ミシェルちゃんは萎縮したり、相応の態度を取らなければと考えてしまいませんか?」

 

 知らぬが仏と言う通り、知らなければ知らないなり良い事がある。

 

 ライラが公爵家の令嬢だと知らなかったようにな。

 

「そうだと思います」

 

 ふむふむとミシェルちゃんは頷いて、同意を示してくれる。

 

「本来なら時間を掛けてそう言った溝を無くしていくと思うのですが、あくまでこれは体験入団ですからね。多少しこりが出来てしまったとしても、お互いを知っておかなければ、明後日の訓練が大変になってしまうでしょう」

 

 疑似的ではあるが、隊として動く事になると思うので、流石に当日に名前を知るのは遅すぎる。

 

 まあ此処に居るのはミシェルちゃんを含め、騎士を目指している人達だから仲違い何てしないと思うが…………少し不安になって来たな。

 

「集まって……一人いないが、時間なので始めるとしよう」

 

 ミシェルちゃんと話している内に時間となったのか、ジェイルさんが渋い顔をしながら立ち上がった。

 

 来ていないのはミリーさんだけみたいだが、一体どうしたのだろうか?

 

 あの人に限って、事件に巻き込まれた何て事はないだろうし、寝ているか、酒を飲むために外出でもしているのだろうか?

 

「先ずは一日よく頑張った。基礎とは何をするにおいても大事なものだ。帰っても怠らないようにな。さて、食べながらで良いので、端から順番に自己紹介をして貰おうと思う。先ずは食べるとしようか」

 

 音頭を取っていたジェイルさんから許可が出たので、全員が料理や飲み物に手を伸ばす。

 

 そして、自己紹介が始まった。

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