なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第84話:スタンバっていました

 ジェイルさんに案内されたのは、副隊長室と書かれた部屋。要はジェイルさんの執務室だった。

 

 ネグロさんの所に比べると少し散らかっているが、常に執務室に居るネグロさんとは違い、ジェイルさんは外に出ているので仕方ないのだろう。

 

 俺も出張から帰ってきたりすると、机の上に大量の書類が置かれていたものだ。

 

「此処では客として扱わせていただきます。お座り下さい」

 

 これまでの粗雑な対応ではなく、街で見るようなキリッとした対応に変わる。

 

 流石副隊長ともなると、対応をしっかりと変えられるのだな。

 

 そんなキリッとした状態でお茶を淹れてる様を見ていると、少し悲しくなる。

 

 トンとお茶を置かれ、とりあえず一口だけ口を付ける。

 

 その間にジェイルさんは向かいの席に座り、俺を見据える。

 

「体験入団の途中ですみませんが、今回呼んだのは第三訓練場での事件についてです」

 

 ……ああ、寝たせいですっかり忘れていた。

 

 そう言えば、一般人なら危うく死ぬ可能性があったんだったな。

 

「規約として体験入団中の怪我や事故については自己責任となっていますが、この件に関しましては全ての過失が騎士団側にあり、一歩間違えば取り返しのつかない事態となっていました。つきましては、サレンディアナ様には騎士団の規約に則り、補償したく思います。大変申し訳ありませんでした」

 

 スッと頭を下げられるが、どうしたものか……。

 

 これが初めてならば、多少慌てながらも気にしないで下さいと言って終わりだろう。

 

 だが、そうもいかないというか、こう言ったチャンスはモノにしなければならない。

 

 ギルドの時と同じく、今回の件も他言すれば騎士団の評判は、大きく落ちる事となるだろう。

 

 つまり、詫びるから黙っていてくれって事だ。

 

 搾れるだけ絞る取るのも有りだが、今回は所謂公共機関が相手となる。

 

 程よく恩を着せる事で、良い関係を築くのも有りだろう。

 

 何せ俺は、本来なら存在しない人間だからな。

 

 少しでも国家権力には、媚びを売っておきたい。

 

「怪我もありませんでしたし、そこまで気にしていただかなくても大丈夫です。ですが、騎士団としては何もしないわけにはいかないんですよね?」

「はい。先ずは騎士団の規約に当て嵌めまして、十万ダリアをお支払いします。また、サレンディアナ様から何かあるのでしたら、出来うる限りの便宜を図らせて頂きます」

 

 十万か……正直少ないが、怪我もしてないし妥当な所か。

 

 その分俺から何かあるなら、その提案を受け入れてくれるってことか。

 

 こんな時はミリーさんが居てくれると、色々と教えてくれるからありがたいのだが、結局夕飯の席には姿を現さなかった。

 

 一応依頼を受けてきているはずだが、もしかして裏で何かやってるのだろうか?

 

 まあミリーさんが普通じゃないのは今更だし、何をしてもらうか考えなければな。

 

 どれくらいの権限があるのか知らないが、何を頼んだらいいものか……。

 

 ああ、あれ位なら問題ないかな?

 

 例のマフィアっぽい奴の手下も言っていたし、俺やライラが居ない間に何かあっても困る。

 

 一応スフィーリアに色々とお願いする予定だが、確実性に欠ける。

 

 赤翼騎士団としてもそこまで負担になる事はないだろうし、悪くないだろう。

 

「そうですね……でしたら、一つお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「東地区にあるスラム周辺の、見回りをして頂く事は可能でしょうか?」

 

 当たり前と言えば当たり前だが、街中で見かける見回りの騎士だが、流石にスラム近くには来ないし、スラム内で見た事はない。

 

 なのでこれを機に、周辺でも良いので見回りをしてもらい、もしも廃教会で問題が起きた場合対処してもらおうって寸法だ。

 

 まあ俺たち自身が不法滞在している様なものだが、多分大丈夫だろう。

 

「…………問題ありませんが、そのような事で宜しいのですか?」

「はい。それと、東地区のスラムにある廃教会で生活をしているのですが、法的には何か問題はありますでしょうか?」

 

 一瞬だけ遠くを見る様な顔をするが、直ぐに真面目な顔に戻る。

 

 曰く付きであるあの廃教会の事を、やはり知っているのだろうか?

 

 ルシデルシアがやらかしてくれたおかげで今は何も問題ないが、それまでは魔法のある世界なのに解決できないヤバい廃教会だったらしいからな。

 

「スラムについては法に照らし合わせれば、グレーとなっています。一応犯罪行為さえしなければ、問題はありません」

「そうですか。いつかはあの辺り一帯を、普通に人の暮らせる場所にしようと思っていますが…………あの辺りの土地の管轄ってどうなっているのですか?」

「それは……うむ……空いている土地は、名目上は役所の管理下に置かれているが、スラムは一応その区を担当している騎士団預かりとなっている。しかし、あまり大きな声では言えないのだが、土地の権利書の大半は荒くれや裏組織が持ってしまっている。ホロウスティアが定める悪事を働いてくれれば何とかなるが、もしも土地を保有したいならば、スラムに居る組織へ話を通す事になるだろう」

 

 違法だと思っていたあの土地代は、実は違法ではなかったのか……。

 

 この事をライラに話せば、まさかの結果に驚きそうだな。

 

 しかしそうなると、通常よりも多くの金を払う事になりそうだな……。

 

「なるほど。教えて頂きありがとうございます」

「見回りの件は東地区の赤翼騎士団に話しておきます。今回の件は……」

「はい。他言無用ですね」

「…………助かります」

 

 運が悪かったが実害自体はないし、これで何か起きたとしても、騎士団がどうにか対処してくれるだろう。

 

「少し時間が掛かってしまいましたが、おそらくまだミーティングをしていると思いますので、第九会議室に行ってください」

「分かりました。お茶、ありがとうございました」

 

 最後に茶を飲み、一言礼を言ってから執務室を出る。

 

 ただ面倒な依頼だと思ったが、こんな所で臨時収入と後顧の憂いが取れるとは思わなかった。

 

 後は残りの三日間何も起きない事を祈るだけだな。

 

 

 

 

 

 

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 サレンが執務室から出ていくのを見届けたジェイルは、天を仰ぎながらソファーに深く座り込む。

 

「……ふぅ」

 

 問題なく謝罪を終えることが出来た事で気が緩み、ため息が自然と出る。

 

 話の内容は少し危ないものだったが、サレンの要求自体は問題ない。

 

 担当の地区が違っても、副隊長であるジェイルにはそれなりに伝手がある。

 

 これ以上ミリーに何か言われるくらいならば、伝手を消費した方がマシだろう。

 

「やっちゃったねー。やってしまったねー」

「――どこに居る?」

 

 今一番聞きたくない声が何処からともなく聞こえ、ジェイルは部屋中を見回す。

 

 サレンとの会話中に全く気配を感じず、今も声が聞こえるが、一体何所から聞こえるのか分からない。

 

「よっこいせ。折角忠告しておいたのに、関わっちゃうなんて運がないねー」

 

 執務机の下から這い出て来たミリーはやれやれと肩をすくめながら、不運なジェイルを憐れむ。

 

 ジェイルはこの北支部の責任者ではあるが、全てを自分でやらなくても良い。

 

 今回の件もジェイルが出るのではなく、ピリンに任せても何ら問題はなかった。

 

 ジェイルが出張った理由は今目の前で イラつく仕草をしているミリーに色々と言われたからだ。

 

「……いつの間にそこに居た?」

「それなりに前かな? 各隊長の部屋と班長の部屋を見た後だからね。しかし、正面戦闘ばかりだからって、気が抜け過ぎじゃない?」

 

 そもそもこんな所に人が入り込んでいるとは思えず、気を抜いていたジェイルも悪いかもしれないが、声が聞こえてから気を引き締めても、ミリーが隠れている場所を見つけることは出来なかった。

 

 先程まで一緒に居たサレンもミリーには気付かなかったが、実はルシデルシアはネズミであるミリーに気付いていたが、黙っていた方が面白いと思い、何も言わないでいた。

 

 因みにミリーも暇だからこんな所に居たのではなく、仕事の一環として北支部内をちょこまかと嗅ぎまわっていたからだ。

 

 夕飯に顔を出さなかったのも、ジェイルやピリンと言った役職持ちが、部屋を出て行っている内に探っていたからだ。

 

 そんな事をしていれば誰かに気付かれてしまいそうだが、そこは黒翼騎士団でも随一の騎士であるミリーならば問題ない。

 

 何とかめぼしい場所の調査を終え、小耳に挟んだ情報から面白い事が起きると睨み、こんな所で待っていたのだ。

 

「返す言葉もないが……嗅ぎまわっていたのは私用か? それとも……」

「ちゃんと仕事としてさ。君だって薄々気付いているんでしょう?」

「……まあな」

 

 ジェイルが胃を痛める羽目になっている、赤翼騎士団の不祥事。

 

 ミリーはこれを、人為的な物と睨んでいる。

 

 帝国の騎士団はどれも勤勉だと知られており、不祥事があったとしても直ぐに周知されて修正されている。

 

 だが今回の王国が絡んでいる事件では、不自然なほどに騎士団が動いていない。

 

 情報という面では緑翼騎士団も関係している可能性もあるが、そちらは別の人員が調べている。

 

 ギルドに発破を掛けた手前、騎士団に不祥事があった場合、間違いなく面倒な事となる。

 

 ミリーとしてはサレンを一人にしないため、仕方なくついて来ただけなのだが、折角だからとアランに仕事を押し付けられて今に至る。

 

「そっちで解決する? それとも、こっちが内々に処理しようか?」

 

 階級的にはジェイルの方が圧倒的に上だが、黒翼騎士団は特殊な立ち位置のため、他の騎士団の役職をまったく気にしていない。

 

 忖度する気が無いと言えばそれまでだが、ミリーにこき使われているカインも、強さで言えばそこらの副隊長より上だったりする。

 

 与えられている裁量が大きい分、それなりの態度を示さなければならない。

 

 まあミリーに限って言えば、なにも気にしていないだけであるが。

 

「出来ればこちらで片を付けたい。メンツというよりも、一帝国の騎士として、自分のケツは自分で拭いたい」

「ふーん」

 

 僅かに細められたミリーの目が、射貫くようにジェイルを見る。

 

 既にミリーは大方の情報を集め終わり、どうとでも料理出来る状態にいる。

 

 相手も証拠を残すような馬鹿ではないが、ミリーが相手では形無しである。

 

「それなら頑張りなよ。ただし、残り三日以内に如何にかしないと、大変な事になるかもよ?」

「胸に刻んでおく」

 

 ミリーとて事を大きくしたくないし、推定SSS級の魔物を単騎で倒せるサレンに、王国が起こしたこの事件に関わって欲しくない。

 

 しかし、如何に裁量があると言っても、全てを独断で行ってしまえば、いらぬ不和を招く事となる。

 

 だが、最悪の場合は独断で如何にかすれば良い。

 

 黒翼騎士団はあくまで影であり、裏役だ。

 

 ミリーはジェイルの横を通り抜け、サレンの後を追う。

 

 ジェイルが隠していた酒瓶を持って。

 

 

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