アーサーからもたらされた情報は、後でルシデルシアに確認するとして、スフィーリアの方は心配しなくても良さそうだな。
それと、後で王国以外の地理も調べておくとしよう。
地図は無いが、商人や冒険者に話を聞く事により、それなりに分かる事もある。
「勇者ですか」
「はい。あくまで噂ですが、信憑性は高いと思います」
「教えて頂きありがとうございます。気に留めておこうと思います」
後はシラキリが帰ってくれば……と思っていると、何かが背中にしがみついてきて、ピョコンと白い耳が前に飛び出てくる。
「お帰りなさい。シラキリ」
「……グス」
ほんの数日だけだったのだが、思いの外寂しがらせてしまったようだな。
これは一緒に寝ることをねだられそうだ。
「これから皆さんで夕飯を食べに行こうと思いますが、シラキリは大丈夫ですか?」
「行きます……」
子泣きシラキリと化し、アーサーが苦笑している。
「二人とも戻ってきたか。折角だ。帰ってきたら我から話がある」
シラキリとアーサーを出迎えていると、掃除用具を片付けてきたライラが戻って来た。
話と言うのは、王国の事だろう。
準備を終えたと言っていたので、実際に何をするのか言うのだろう。
「分かりました。それでは食べに行くとしましょう」
久々に四人で……シラキリを背負い、三人で歩く。
俺が居ない間もスフィーリアは頑張っていたらしく、そこそこの喜捨と信者を集めていたらしい。
喜捨はスフィーリアが持っているので、後で払いに来るとアーサーが教えてくれた。
シラキリの方は…………うん。相変わらずと言うか、凄いと言うか何があったら、こんなとんでもない子供が出来上がるのだろうか?
勉強の方は問題なく、ついでに社会勉強も今している。
おまけに戦闘能力は上がる一方だし、少々甘えん坊だが、将来は大物になるだろう。
まあこの様子では、当分俺から離れる事は無いだろうし、アーサー共々護衛として頑張ってほしい。
世間話をしながら大通りに出て、例のミリーさんおすすめの酒場に向かう。
店名を覚えようと思うのだが、行く度に色々な騒動が起こり、気付けば酒瓶片手に帰宅している。
まあ店名なんて知らなくても問題ないし、あそこならも少し芸を披露すれば、ただ酒が飲める。
飲む量を減らせば問題ないが、満足できる量の酒を飲もうとすると、とんでもない代金となる。
ぼったくりバーじゃないのに、ぼったくりバーを越える料金となるだろう。
それと、何故かあそこは信者が多いので、料理は注文しなくても分けてもらえたり、無料になったりする。
とても懐に優しい店だ。
特にどの店に行くと告げていないのだが、店が近づいてくると、ライラが少し冷ややかな目で俺を見てきた。
この後話があると言っていたので、今日はそんなに飲む気は無いのだ。
だからそんな目で見ないでくれ。
1
「いっらしゃいませー。氷の女王様御一行ご来店でーす」
ツッコミを入れたくなるような出迎えをされ、ほぼ指定席となっているテーブルに案内される。
「最近来てませんでしたけど、何処かお出かけになっていたんですか?」
挨拶ついでにレッドドライをポンと置かれ、祈りを捧げてから一口飲む。
相変わらずガツンとくる味だ。
「少し野暮用がありまして。ここは相変わらずですね」
店内は賑わっており……騒がしく……うん。非常に煩い。
主に俺を呼ぶ声が。
「はい。おかげさまで毎日忙しいと店長が嬉しい悲鳴を上げてます。これも全て氷の女王のおかげです。あっ、本日のお代は此方で持つので、じゃんじゃん食べてください!」
とうとう店公認で無料となったか。
ひな鳥の巣共々とても助かる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。それではごゆっくりどうぞー」
駆けつけ一杯を飲み干し、メニューを見て料理を注文する。
ついでにお代わりを頼むと、ライラがじっとりとした視線を向けてくる。
「これくらいでは酔わないので、安心してください」
「それは分かっているが……そう言えば、例の娘はどうだったのだ?」
「とても元気のある娘さんでしたよ。体験入団が終わった後も、騎士を目指すと奮起していました」
今頃ネグロさんと話し合いをしていると思うが、一応ネグロさんはミシェルちゃんの意思を尊重すると言っていた。
喧嘩はしていないと思うが…………まあ明日ネグロさんに会えば分かるだろう。
「ああ。ギルドで思い出したのですが、在庫として持っていた聖書は全て売れてしまったので、また追加をお願いします」
ほうほう。ありがたいことに全て売れたか。
スフィーリアが売った分は教会の資金とはならないが、売れれば喜捨をして貰える可能性が増える。
要は宣伝費みたいなものだ。
「分かりました。後でお願いしておきます」
「ありがとうございます」
「お待ちどうさまでーす」
会話の区切りが良い所で、料理が届く。
少し前に塩分多めの食事を摂ったので、夕飯は軽い物を頼んだ。
因みにアルコールは別なので気にしない。
ほら、適度なアルコールは身体に良いって、誰かが言っていたし。
また食事の途中、店長が寄ってきて今日は演奏しないのかと遠回しに聞いて来たが、用事があるので また今度と断っておいた。
一度演奏を始めれば、深夜か朝までコースとなってしまう。
これ以上ライラの好感度を下げるのは悪いので、きっぱりと言っておいた。
周りの会話に耳を傾けながらも、ライラやシラキリと会話しながら飯を食べる。
聞こえてくるのは殆どどうでもいい内容だが、噂ってのは馬鹿に出来ない。
何より、前に比べて宗教関係の話が増えている。
聞こえる内容を総合的に判断すると、教国から結構の数の神官が流れてきているみたいだ。
そして、若干煙たがられている……と。
一応この世界の教会は病院の役目も補っているのだが、錬金術で作られたポーションが高性能なのもあり、ちょっとした怪我程度では利用されることはない。
まあその事は置いといて、どうやら教会に用があって訪れた者に対して、少しだけ強引に勧誘しているみたいだ。
利権の関係もあり、教会でしかできない事。扱っていない物がある。
面倒だからといって行かないなんてことも出来ず、教会側も法に触れないようにしているので、騎士もやんわりとしか注意できないらしい。
それもあり、此処では何故か俺の株が上がっている。
少し前にイノセンス教へ入れって脅したような気がするが、流石氷の女王様は違うなー的な事を話している。
俺の事についての噂話は置いといて、王国や教国の内部の話は聞こえてこない。
あくまでも、ホロウスティア内での出来事だけだ。
つまり、これまで俺が巻き込まれてきた事件は表沙汰になっていないようだ。
アーサーが言っていた勇者の噂話位聞こえてくると思ったが、それらしい話は聞こえない。
三杯のレッドドライを飲み干し、店長が俺用にと取っておいてくれた酒を追加で飲む。
シラキリは機嫌良さそうに耳を揺らしながら、ジュースを飲み、ライラは徐々に目を細めながらワインを煽る。
アーサーは苦笑しながら何かの干物を噛む。
何とも平和な時間だな。
このまま飲み続けたいが、もうそろそろ帰るとしよう。
「そろそろ帰るとしましょう。沢山食べましたしね」
「はい!」
「……そうだな」
ライラさん? 出来れば俺の所にあるジョッキをそんなに見ないでくれるかな?
これでもちゃんとセーブしてるんですよ?
2
ただ飯とただ酒で楽しい夕飯を済ませた後、暗くなったホロウスティアを歩いて帰る。
スラムに入るまでは明るいが、 スラムに入ると街灯が無くなり真っ暗となる。
日が完全に沈めば、俺一人で帰るのは至難の業だろう。
剣に奇跡を付与すればランタン代わりになるかもしれないが、あまり目立つのは良くないだろう。
目立つと言えば、結構長く住んでいるが、スラムであのマフィアの方々以外見ていないんだよな。
「そう言えば、此処では他に人を見ないのですが、知っていますか?」
「最近はこの周辺でも割りとうろついているぞ? シスターサレンが見掛けないのは……」
ライラが言葉を濁すが、最後にボソッと「見た目のせいだろうな」と呟いた。
普通スラムと言ったら女性ってだけで襲ってくる様な奴らがたむろしているものではないだろうか?
若しくは、これでもシスターなので、怪我を治して欲しいとか、恵みを分けてくれーとかあるのではないか?
「そうですか。教会から大通りまで繋げる時の話し合いをしなければと思っているのですが、ままならないものですね」
「あのアランとか言う、ごろつきの頭領にでも話せば大丈夫だろう。少し前に会ったが、話自体は出来る相手だったからな」
準備するとは言っていたが、あんなマフィアな連中にも会いに行ってたのか。
まあライラならば大丈夫だとは思うが、ああ言った連中はやる時はやるからな。
近すぎず遠すぎずの関係が良いだろう。
「分かりました。それと、此処を離れる時には、一度話をしておかないとですね」
「それは我がやっておいた。離れている間は、教会に人が入らないように封鎖しておけとな」
流石ライラだ。
先回りして色々とやってくれるのは、本当に助かる。
何気なく頭を撫でると、少しむっとするものの、抵抗せずに撫でられ続ける。
そうするとシラキリが冷めた目をし始めるので、反対の手で撫でておく。
…………一体俺は何をやっているのだろうか?
なんとか母性的なものが顔を出す前に正気に戻り、前を見る。
もう