プロローグ〜灰色の扉〜
夢を見ていたような気がする。
柔らかい光に包まれて、何も怖くなかった。
温かくて、静かで、何かに守られている気がした。
でも、その夢はもう思い出せない。
目を覚ましたとき、そこには“音”しかなかった。
砂が唸るような音を立てて吹きすさぶ。
どこまでも続く砂漠の中、梔子ユメは足を引きずるように歩いていた。
どこまでも、どこまでも──地平線すら霞んで見えない。
目を開けるたびに視界は乾いた粒子に霞む。何時間歩いているのかも、どこから来てどこへ向かっていたのかも、すでに曖昧だった。
喉は渇き、脚は棒のように重い。
皮膚は乾ききってひび割れ、唇もかすかに血を滲ませていた。
胸の奥にぽっかりと穴が空いたような虚無感が、思考の足を止めていた、まるで、自分という存在さえも失われつつあるような、そんな感覚。
ふと、目の前に何かが現れた。
それは…“扉”だった。
こんな場所に、建物などあるはずがない、なのに、その扉は確かに存在していた。無機質な灰色の鉄扉。どこにも繋がっていない、ぽつんと佇むそれは、異物だった。
──ダメだ、近づいちゃ。
頭ではそう警告しているのに、足は勝手に前へ進む。胸の奥がチリ、と疼いた。
乾いた手がドアノブへと伸びる。思考が追いつく前に、冷たい金属が掌に触れ、くるりと回る音がした。
「……?」
軋むような音とともに開いたその扉の向こうには──何もなかった。
いや、正確には「ソレ」がいた。
漆黒のローブ。
姿ははっきりしない。
顔も、形も、声も。
すべてが影のようで、そこにあるのに目に映らない、そんな存在だった。
得体の知れない“それ”は何かを言った。
が、それは“文字”で届いた。
視界の隅に浮かぶ、意味不明な記号、文字化けのような、奇妙な“声”。
『▯▯▯▯…▯▯▯▯▯?』
──言葉が、わからない。
だが、なぜだろう。その音の中に、どこか懐かしさのような、胸の奥を震わせる響きがあった。
思わず、一歩踏み出していた。怖いのに、体が勝手に動く。
そして──手を、伸ばす。
スッ…
まるで体の奥底から何かが抜け出していくような、不快とも心地よいとも言えない奇妙な感覚がユメを襲った。
「……え?」
次の瞬間、ソレの輪郭がかすかに明瞭になり、闇の奥から“言葉”が生まれた。
『……聞こえるか』
砂の音も、風の怒声も、その時だけ止んだ気がした。
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頭の中に浮かんだ設定を書いてるので長く続かないかもです…