『……聞こえるか』
その言葉を発した瞬間、私の存在がわずかに輪郭を帯びたのを感じた。
長く漂っていた曖昧な影の中から、かすかに意識が戻ってくる。
だが、その輪郭はまだ脆く、不安定そのものだった。
(未登録の時間軸。見覚えのない構造コード。……そして──)
私の感知する何かが、少女の内側から発せられている。
それは“ソウル”の奔流に似ているが、まったく同じではない、未知のエネルギー。
目の前に立つ少女は、砂にまみれ、疲れきっていた。
けれど、その目には強い意志と、どこか儚げな輝きがあった。
『……奇妙だ。なぜ君はここに辿り着いた? この場所は迷い込めるところではないはずだ』
私の問いかけに、彼女はかすかに眉をひそめる。
「……わからない。歩いていて……扉があって、気づいたらここにいた」
『君の世界には、この扉は存在しないはずだ。』
「でも、あった……見えたし、触った、開けた、私の手で」
彼女の言葉は真実だった。
私の存在はその接触でほんの少しだけ安定した。
(彼女の内にある未知のエネルギー──君の力が、私を引き戻したのだ)
『君が触れた時、私は一瞬だけ形を保つことができた。曖昧で幽霊のようだった私に、君の力が干渉したのだ』
「……それで、さっき体から何か抜けたような感覚があったのね」
『ああ。君のエネルギーの一部が、私の存在を繋ぎ止めている』
一瞬の静寂。だが、その時間は長くは続かなかった。
『だが、安心するな。強制はしない。君の意思を尊重する。だが……このままでは君の命は持たない』
彼女の顔に不安が走る。
「命が持たない……って?」
『君の身体は限界に近く、精神も境界を越えかけている。このままでは……』
言葉を切り、私は彼女に提案を続けた。
『君を守り、導くためには、私を君の中に留まらせてほしい。共に歩み、力を分け合うことで、この危機を乗り越えられる』
私はゆっくりと手を差し出す。
『その手を差し出してくれ』
「……わかった。お願い」
と震える手を差し出しながら、彼女は小さく頷いた。
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ユメ視点
影の存在がゆっくりと手を差し出す。
その手は冷たく、しかしどこか優しさを感じさせる。
「……わかった。お願い」
胸の奥がざわつく。
怖い。だけど、拒否できない何かが私の心を突き動かす。
震える手を、そっと伸ばした。
指先が冷たい手のひらに触れた瞬間、全身を貫くような震えが走った。
まるで、自分の内側から何かが溢れ出し、同時に満たされていくような感覚。
砂嵐の中で疲弊していた体に、わずかながら力が戻ってくるのを感じた。
けれど、その力は自分だけのものではないことも、はっきりと分かった。
気がつけば、あの漆黒の空間は消え、再び乾いた風が頬を撫でていた。
「……戻ってる……?」
ユメが呟くと、その隣には確かな輪郭を持った存在──彼が立っていた。もう“影”ではなかった。意識も、姿も、確かにこの現実に存在していた。
『……改めて、自己紹介をしよう』
彼の声ははっきりと耳に届き、重く低く、しかし静謐さを宿していた。
『私はガスター。かつては研究者だった。今は君と共に歩む者だ』
ユメは戸惑いながらも胸に手を当て、小さく名乗った。
「私は……アビドス生徒会長の梔子ユメ。」
彼が片手を掲げると、緑色の光を帯びた白い手が空に浮かび、ゆっくりと広がってユメを包み込む。
「これは?」
『これは私の力の一部。君を守る結界のようなものだ』
光は温かく、傷ついた心と身体を優しく撫でた。
「……ありがとう」
ユメは感謝の声を漏らし、ふと彼を見上げる。
「ねえ、ガスター。どうしてそんなに私を助けてくれるの?」
少しの沈黙の後、ガスターは遠くの砂の波を見つめながら答えた。
「……私は、長い間曖昧な存在だった。誰にも認識されず、記録にも残らず、声も届かないまま漂っていた」
ユメは黙って聞いていた。
「君の力が、私を“ここに引き戻した”。そして私は……私自身を取り戻すために、君の助けを必要とした」
彼はユメの方へ向き直る。
「それが、私が君を助ける理由だ。生きて、歩んでもらわねば、私もまた……消えてしまう」
静かに、しかし確かに繋がった二人の運命。その始まりを告げる風が、砂の上を駆け抜けていった。
キャラを作るのむずすぎる…