透き通る世界に降りた幽霊   作:カトン

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二話.緑色の信号

梔子ユメとガスターが邂逅してから数時間が経過していた。

 

ユメは疲労と不安でうつらうつらしていたため、ガスターがおんぶして移動していた。

砂漠の冷たい夜風が肌を刺す中、彼の温かな魂の光に包まれながら、彼女はかすかに呼吸を整えていた。

 

「ねえ、ガスターさん……なんで浮いてるの?」

 

「重力の影響を受ける必要がない。私の構造は——」

 

「……それって幽霊ってこと?」

 

「……そう、かもしれないな」

 

「それなら、透けるの?」

 

「試してみるか?」

 

「やだよ。こわいもん」

 

ユメはそう言いながら、肩に預けていた頭をコトンと傾けた。

呼吸は深く、静かに寝息へと変わっていく。

 

砂漠の夜は冷たい。だが彼女の体は、魂の光が包み込み、温もりを保っていた。

 

――子供というのは、無防備で、重たくて、そして温かい。

 

ガスターの視線がふと、肩の上から落ちる足へと向かう。

 

「……パピルスも、こんなふうに……」

 

遠い記憶の中、無邪気な笑い声が耳の奥をかすめた。

その頃の彼はまだ、肉体を持ち、「家族」という概念に手を伸ばせていた。

 

そして――

 

ユメの寝息の中に、かすかに言葉が紛れていた。

 

「……ホシノ……ごめんね……わたし、怒らせちゃって……」

 

ガスターは歩を止める。

 

「ホシノ……」

 

低く繰り返した名は、彼にとっては初めて聞く存在の名前だった。

 

しばらくして、ユメがゆっくりと目を覚ます。

眠気にぼやけた目をこすりながら、ふと気づいたようにつぶやいた。

 

「……あの子、たぶん……私のこと探してる……ずっと……」

 

その声はかすかに震えていた。でも、迷ってはいなかった。

 

ガスターは、空を仰いだ。

 

「……ふむ」

 

そして、その瞬間――緑の手が、まばゆい光を放った。

 

光は周囲に穏やかに拡がり、まるで感情そのものが光へと変換されたように世界を包む。

それは「ここにいる」という存在の叫びではなく、

「君に見つけてほしい」という優しさの灯火だった。

 

……

 

砂丘の向こう。

地図をにらんでいたホシノがふと立ち止まる。

 

「……今の……」

 

胸の奥がほんのり温かくなった。

気のせいかと思ったが、視界の果て、地平線のあたりがうっすらと光っていたような気がする。

 

「ユメ先輩……?」

 

確信はない。けれど、それでも足は迷わず動いた。

ホシノは風の向きを読み、歩き出す――ユメの元へ。

 

……

 

緑の光が静かに消え、再び砂の世界に朝の色が戻ってきた。

 

ユメは驚いたような表情で、肩越しに問いかけた。

 

「……どうしたの、いきなり……?」

 

ガスターは、少しだけ目線を横に向ける。

 

「……君が言ったろう」

「“その子は、探してる”と」

 

ユメが小さくうなずく。

 

「ならば、信号を送るべきだと思ってね」

 

それは、まるで当たり前のような口調だった。

 

「……あの手……あなたの?」

 

ガスターはすこし間を置いて答える。

 

「かつては、そうだった。“失った”と思っていたが……」

「今また、戻ってきつつあるのかもしれない」

 

ユメは、背中のぬくもりを感じながら、そっと目を細めた。

 

(そっか……この人も、誰かを待ってたのかもしれない)

 

少女と男の静かな時間に、朝日が差し込む。

 

 

 

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