梔子ユメとガスターが邂逅してから数時間が経過していた。
ユメは疲労と不安でうつらうつらしていたため、ガスターがおんぶして移動していた。
砂漠の冷たい夜風が肌を刺す中、彼の温かな魂の光に包まれながら、彼女はかすかに呼吸を整えていた。
「ねえ、ガスターさん……なんで浮いてるの?」
「重力の影響を受ける必要がない。私の構造は——」
「……それって幽霊ってこと?」
「……そう、かもしれないな」
「それなら、透けるの?」
「試してみるか?」
「やだよ。こわいもん」
ユメはそう言いながら、肩に預けていた頭をコトンと傾けた。
呼吸は深く、静かに寝息へと変わっていく。
砂漠の夜は冷たい。だが彼女の体は、魂の光が包み込み、温もりを保っていた。
――子供というのは、無防備で、重たくて、そして温かい。
ガスターの視線がふと、肩の上から落ちる足へと向かう。
「……パピルスも、こんなふうに……」
遠い記憶の中、無邪気な笑い声が耳の奥をかすめた。
その頃の彼はまだ、肉体を持ち、「家族」という概念に手を伸ばせていた。
そして――
ユメの寝息の中に、かすかに言葉が紛れていた。
「……ホシノ……ごめんね……わたし、怒らせちゃって……」
ガスターは歩を止める。
「ホシノ……」
低く繰り返した名は、彼にとっては初めて聞く存在の名前だった。
しばらくして、ユメがゆっくりと目を覚ます。
眠気にぼやけた目をこすりながら、ふと気づいたようにつぶやいた。
「……あの子、たぶん……私のこと探してる……ずっと……」
その声はかすかに震えていた。でも、迷ってはいなかった。
ガスターは、空を仰いだ。
「……ふむ」
そして、その瞬間――緑の手が、まばゆい光を放った。
光は周囲に穏やかに拡がり、まるで感情そのものが光へと変換されたように世界を包む。
それは「ここにいる」という存在の叫びではなく、
「君に見つけてほしい」という優しさの灯火だった。
……
砂丘の向こう。
地図をにらんでいたホシノがふと立ち止まる。
「……今の……」
胸の奥がほんのり温かくなった。
気のせいかと思ったが、視界の果て、地平線のあたりがうっすらと光っていたような気がする。
「ユメ先輩……?」
確信はない。けれど、それでも足は迷わず動いた。
ホシノは風の向きを読み、歩き出す――ユメの元へ。
……
緑の光が静かに消え、再び砂の世界に朝の色が戻ってきた。
ユメは驚いたような表情で、肩越しに問いかけた。
「……どうしたの、いきなり……?」
ガスターは、少しだけ目線を横に向ける。
「……君が言ったろう」
「“その子は、探してる”と」
ユメが小さくうなずく。
「ならば、信号を送るべきだと思ってね」
それは、まるで当たり前のような口調だった。
「……あの手……あなたの?」
ガスターはすこし間を置いて答える。
「かつては、そうだった。“失った”と思っていたが……」
「今また、戻ってきつつあるのかもしれない」
ユメは、背中のぬくもりを感じながら、そっと目を細めた。
(そっか……この人も、誰かを待ってたのかもしれない)
少女と男の静かな時間に、朝日が差し込む。