透き通る世界に降りた幽霊   作:カトン

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三話.誤解

 

 

──ガスター視点──

 

信号を放ってから、三十分が経過していた。

砂丘の中腹に佇むガスターは、変わらぬ姿勢で空を仰ぎ、ただ静かに待っていた。

 

傍らでは、ユメが浅い呼吸を繰り返して眠っている。

魂の光はまだ彼女の体を包み、冷たい朝の空気から守っていた。

 

「……“あの子は、私を探してる”」

 

ユメがそう言ったとき、何かが決まった気がした。

だから彼は歩を止め、この地に留まった。運命を、ただ信じるために。

 

ふいに、風が変わった。

 

遠く、砂丘の稜線にひとつの影。

疾走する少女の姿が、風に乗って近づいてくる。

 

(……来たか)

 

顔は判然としないが、その身体の傾き、動き、そして——手に握られている筒状の物体。

 

見覚えがある。

 

(あれは……)

 

記憶が、観測者として過去を覗いていた頃へと引き戻される。

カウボーイハットをかぶった、陽に焼けた肌の人間。

笑いながら、あの道具を乱暴に扱っていた。

 

「……ピストル……!」

 

刹那、少女の瞳がこちらを捉え、銃口が向けられた。

その目には怒りと焦り、そして恐怖が混ざっていた。

 

「離れろッ!!」

 

かすれた叫びが砂漠に響く。

瞬間、引き金が引かれる音と共に——

 

ズドン!

 

轟音とともに反動が腕に伝わる。視界が震え、砂塵が舞い上がる。

 

ガスターは即座に、ユメを包んでいた緑の手を自身の前方へと移動させる。

緑色の粒子が凝集し、空間に淡い光を帯びた透明な壁が展開される。

 

弾丸が接触した瞬間、緑の波紋がパルスのように拡がり、放射状に透明な光の筋が走った。

 

(力場は正常に機能している……あれが“現実の武器”でも、届かない)

 

だが、彼女の攻撃が「勘違い」から来たものだとは、すぐに察せられた。

 

「……誤解だ」

 

静かに、けれど明確な声で告げたその時、背後で微かな動きがあった。

 

──ホシノ視点──

 

(間に合った……ユメ先輩!)

 

目が霞む中、それでもはっきりと見えた。

倒れている彼女の姿。そして、そのすぐそばに立つ影。

 

あの“契約”を持ちかけてきたあいつの面影が重なる。

 

(まさか、ユメ先輩を……人質に!?)

 

「離れろッ!!」

 

その声は掠れ、割れていた。

引き金に指をかける。思考するよりも早く、体が勝手に動いていた。

 

ズドン!

 

銃声。反動。砂の煙。

 

(……当たった?)

 

だが煙の中、砕けていないシルエットと、淡い緑の光。

まるで水面に波紋が広がるように、見えない壁が弾丸を弾いていた。

 

 

 

──ガスター視点──

 

壁に弾丸が当たった瞬間、緑色の波紋が静かに揺れた。

着弾点から光の粒子が放射状に走り、空間に浸透するように消えていく。

 

「.......誤解だ」

と発言したその直後だった。

 

「……う、ぁ……っ……」

 

背後でユメの声が聞こえ、振り向くと

 

ユメがまぶたを震わせながら、わずかに身じろぎした。

唇が動くが、声にならない。

ひどく乾いた喉は、音を出すことすら拒むようだった。

 

かすれた息だけが喉を焼くように漏れ、言葉にならない声が空気をかいた。

 

「……ホ……シ、ノ……ちゃん……」

 

それでも、ユメは絞り出すように名を呼んだ。

声にならない声は、風にすぐかき消されてしまう。

だが、その目はしっかりとホシノを捉えていた。

 

「……や……やめ、て……ホ...シノ...ちゃん.....」

 

言葉の途中で咳き込み、膝がふらつく。

それでも前へ出る。足取りは覚束ないが、彼女の意志は揺らがない。

 

そして、ホシノの前に立ちはだかるように両腕を広げ——

 

「……この、ひと……てきじゃ……な……い……

わたしを、たすけ……て……くれたの……」

 

そう言った次の瞬間、ユメの身体がぐらりと揺れ、力が抜けるように前のめりに倒れ込んだ。

 

「ユメ先輩っ!?」

 

ホシノは慌てて駆け寄り、地面に崩れ落ちたユメの体を抱き起こす。

その顔はひどく熱を帯び、唇は乾ききっていた。

 

そのとき——

 

「……ここに長く留まるべきではない」

 

低く落ち着いた声が前からした

さきほど防壁を展開していた“彼”が、ゆっくりと近づいてきていた。

 

ホシノの肩が一瞬びくりと揺れる。だが、敵意は感じなかった。

彼の瞳はただ、ユメの状態を見据えていた。

 

「このままでは彼女の容態が悪化する。近くに日陰がある場所は無いか?あるのなら、そこへ……」

 

ガスターは少し間をおいて、こう続けた。

 

「……運ぶのを、手伝わせてほしい」

 

ホシノは逡巡しながらも、うなずいた。

今は敵も味方もない。

大切なのは、ユメを——彼女の命を救うことだった。

 

声を震わせながら、ホシノは何度も名を呼んだ。

彼女の中で、安堵と後悔がない交ぜになった涙がこぼれ落ちていく。

 

 

 




やっべぇ…どうやってホシノのエミュ作ればいいんだ…(ホシノの一年生の時は立ち絵を見てもピストルを持っているところを確認できなかった….この作品では持っていたということで….)
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