メティスは大きくなるにつれ、いろいろと才覚を現し始めた。
「ヒヨドリ草はいまいちね。オレンジカラシは効果がありそうだわ。引き続き観察しましょう」
「いいね、これでどんどん薬草の効能がはっきりしてきた」
ロゴスとメティスは図書館のテラスで「実験」を行っていた。
生肉を放置して、各種スパイスをふりかけたやつと比較して殺菌効果を調べる……とかだ。
「どう?いいの見つかった?」
「ええ、母様。いくつか有効そうなスパイスは見つかったわ。食べてみる?」
「おー、これか。どれどれ」
メティスはいくつかの乾燥させたスパイスを皿に入れて渡してくる。
私は試しに一つ、青白い柿みたいなやつをかじってみる。
「おっ、辛いね。このスッとする感じはあれだなあ。ショウガに似てるかも……こっちのオレンジ色のトウガラシみたいなのは……ああこれトウガラシだわ。変異したけどまだ残ってたんだな。これも殺菌防腐効果あったの?」
「ええ、肉を長持ちさせるくらいにはね」
メティスの指さす先にはいくつもの並べられた生肉。
確かにスパイスをかけた物は腐るのが遅いようだ。
「オルテア、この子はすごいよ。知識の実践……「実験」に関してはもう私よりずっと手際がいい」
「そうか~!将来が楽しみって言うか、もう即戦力だな~」
私がわしゃわしゃ頭をなでると、メティスはあんまり表情に変化はないけど口元が微笑む。
情緒がないわけじゃないんだよな。淡白なだけで。
「そう、ならあの話をしてもいいかしらロゴス母様」
「そうだね、十分に根拠があると私も思う」
「おっ、なんだ?言ってみ?」
メティスは机の上に置いてあった双眼鏡を私に差し出す。
「あのあっちの黄色い森の辺り……母様がクソデカヤシガニと名付けた巨大甲殻類がいたわよね?」
「あ~いるね~。これをどうすんの?食うとうまいけど」
「少しづつ酪農してみてはどうかしら?あのカニ、たぶん脱皮したあとの皮も食べられるはずだし、甲羅からにじみ出る粘液は共生藻類の栄養になって最終的には子を育てるミルクの代わりになっているわ。繁殖させれば、毎日それなりの飲料が得られるはず」
理路整然と言うじゃん……私は双眼鏡から目を離し、真剣に話を聞くことにした。
「実際食べられるかとか、味とかはもうクリアした感じ?」
「ええ、この間テクノクラートの……ベティだったかしら?あの人に頼んで取ってきてもらって、テミスに毒見してもらったわ。味もわるくなかったわ」
ベティか。リアの腹心的な奴だな。
タッパもあってそのうえしっかりしてる。
リーダーの柄なんだけどむしろリアを支えてるからな。人もできてる。
あいつが協力してるならまあ安心だ。
「いいね、じゃあ残りは餌の問題とどう飼育するかだな……」
「餌については草ならなんでもいいみたい。食べられるかどうかもわからない雑草とか、そこまで重要じゃない草木を与えれば十分にペイできるはずだわ」
「どう飼うかとかもプランある感じだね」
「ええ。農地から離れた所に水場を与えて半野性の放牧にするわ。アレが嫌がる忌避剤も見当がついてるの。3,4匹から始めてみたいわ。いいかしら?」
ん~。自信ありげだな。特に否定する理由ないんだよね。
「しいていえばあぶなくない?草食とはいえ野生動物だぞ。暴れないかだけ心配かな」
「でも、母様たちはアレをしょっちゅう狩っているでしょう?鎮圧できるはずよ。大人といっしょにやるわ。危ない事はしない」
「ん~!!わかった!やってみよう!ただ、お前に責任取れとは言わないけど、お前が言い出した事だってのは忘れるなよ?」
「ええ、何かあったらそれは私がやったことだわ。良いことも、悪いことも」
「わかってるならヨシ!」
本当に良くできた子なんだよ。聡明だよね。
ただ賢すぎてどこかで躓かないか心配だよママは。
まあ、それも含めて生き物を飼うのはいい教育になるだろ。
■
そういうわけで牧畜がはじまった。
水場に小さ目の個体を3匹連れてきてまず飼ってみる。
アレッ!?案外大人しいし、餌もそこまで手間かかんないぞ?
最初の内は柵とか作って壊されてたりしたけど、メティスがあっというまに対応策かんがえてうまくやってるわ……
そんなことやってたらフリージアがまたやってきた。
今度は走り烏にリアカー引かせてる!すごくない?
リアカーには袋入りの塩と壺に塩漬けた魚だ。
「おっ、母様!また新しくなってるな!姫がやったのか?」
「まあね、良くできた子だよ。あのクソデカヤシガニ飼えるみたいだよ」
「そうかそうか!やっぱり姫は生き物が好きだな!そんな姫にプレゼントがあるぞ!」
「新しい生き物をとってきてくれたの?フリージア姉さま」
「これだ!なんか懐いたから飼ってみた!」
フリージアが荷台にうにょん、と腕を伸ばして何やら毛むくじゃらの生き物を抱えあげる。なんだこれ。
「なにこれ。ヨークシャーテリアに似てるな。目が6つだし触覚生えてるけど」
「いいえお母さま。これは蜘蛛の一種だと思うわ。それはたぶん前足が進化したもの。残りの足は中の足が退化して四脚になってるけど、関節のつき方がクモ類に近いわ」
「蜘蛛なのこれ!?は~、言われてみればだな……」
犬と思ったらデカい蜘蛛なので私はちょっと引いてるが、ロゴスが先にそっと撫でてみている。
「いや、案外人懐っこいよこいつは。そこまで嫌悪感はないかな。猟犬代わりに役立つのかい?」
「ああ!案外忠誠心が高くてな!猛獣が来たら威嚇したり、集団で狩りをしたり、意外とかわいいやつだ!よければもらってくれ!」
「お、おう。ありがとうな……」
「もう少しで二回目の産卵をするから次はつがいで持ってくるぞ!農業にはいいだろう」
「いや~ありがとうな……そうだ、こっちからもスパイスとかできたから持ってって」
「うむ!いつもありがとうな母様!」
「こっちこそだよ」
そういうわけで仲間が増えたよ。
よくわからない犬っぽい蜘蛛とかウシみたいにデカいヤシガニとかが酪農に加わった。
犬蜘蛛を飼う時はいろいろフリージアからメティスが注意点を聞いてた。
まあ、共食いとかしないらしいし、犬っぽいものがいれば心の保養になるよな。