しばらくして、ウォレスの無人機はやってきた。
びっくりしたのは着陸時にホバリングしながら変形して手足と頭出てきてロボットになったことだね。なんだろうガンダムに出てきたキケロガみたいな細っこい形だ。
可変機かよ!?技術すごいな!?
「……直接会うのは初めてになるな。ウォレスだ」
「あー、オルテアです。ん?直接?その中に脳入ってるんですか?」
私達は軽く握手をすると、私は会談場所に先導していく。
ウォレスの機体がカシャンカシャン足音を立てて歩くのがまあシュールだね。
「そのようなものだ。もっとも、生身の脳などどれほど残っているか……」
「あー、そういう感じなんですね……その、大変でしたね……」
「かまわない。もうすでに済んだことだ……」
お、重い~!まあそりゃ人類ほぼ滅んでるらしいからね。
会談場所は海の見える砂浜にビーチパラソルと椅子に机を置いた。
「……私に椅子はいらない。壊してしまうだろうからな」
「ああ、それもそうか……すいませんね」
「かまわない。そもそも人類とほかの知的生命が出会う事など想定されていない」
ウォレスはロボットアームでひょいっとのける。
さらにサイドスタンドを2本出して砂浜に座るような形で「待機形態」になった。
「私も同席してかまわないかい?私はロゴス。オルテアのパートナーだ」
「気にすることはない。どの道たいした話などできようはずもないからな」
ロゴスと私は机を挟んで対面に座った。
「それでも、私も会ってみたかったんだよ。人間というヤツに」
「……ヒトなど、期待するほどの種族でもない。だが、そうだな……何から話したものか……」
そう言いながらウォレスは周囲を見渡して、ため息をついた。
「良い景色だ……世界がどれほど壊れようと、自然はまだきれいなものだな」
「き、気に入っていただけたならなによりです」
重いって!
「あっ、じゃあ先に私たちがどんな感じの種族かお話しますね」
「ああ、ぜひ聞かせてくれ。老人には、話を聞くだけで楽しいものだ」
「えーっと、まず私ですけど最初に私を保護してくれた人がいて……」
そうして、私は語った。
ママの事、ママの死、泳いでこの島に来たこと、ロゴスとの出会い。
文明を少しづつ再生させていったこと……
「……それでまあ、今はこんな感じで村作ったんですよ」
「そうか……お前たちは人類と文明を受け継いだのか……フーッ……ならば、覚えておくといい。人類と、文明という物は良いものばかりではなかったということを。お前たちの可能性を人類の文明が狭めてしまうならば、それはいつでも捨てていい物だと」
「それはママも言ってましたね。私自身も全部取り入れる気はないです」
「……そうか。慎重にやることだ。一度根付いてしまったものはそう簡単に消えない……」
なんか、ものすごく実感がこもってるんだよね。言葉のいちいちに。
気は進まないけど聞くか~。人類と、その最後について。
「えーっと、まあそういうわけでここで細々開拓してるんですが……人類って今どうなってるんですか……?」
「……そうだな、一言で言えば……ユーラシア大陸にいくのは、やめておけ」
嫌な予感してきたよ。
「今現在まともに残っているのはアラスカシェルターとノルウェーシェルターくらいだ……前提から話そう。生き残りの人類は肉体の機械化で生き残りを図り……それは成功した」
そう言いながらウォレスは自分の機械のボディをコツコツ指で叩いた。
今の人類全員そんな感じなの!?コッワ~……
「……だが、隕石が落ちる前から荒廃していた人心は取り返しがつかなかった。ユーラシアでは……もう、誰も真面目に人類社会を立て直す気はない。今残った資源を争う……という名目で刹那的な闘争に現実逃避している馬鹿者が大半だ……」
「身体は闘争を求める的な……?そういうやつですかね……?」
「そうだ。体を機械に置き換え、脳をコンピュータにつなぎ、意識をAIと融合しても……それでも、なお……!我々に染み付いた闘争の業は消えなかった。いや、むしろ熾火のように再発火したと言っていい……!」
静かに言ってるけど気配がバチギレしてるんだよね。
まあ……心中お察しします、としか言えないよ。
「うわあ……大陸に進出するのは絶対やめますわ」
「……あれではどの道、百年ももたない。お前たちは人類が滅びた後に悠々と大地をものにすればいい……」
「……あなたのようにまともな人はもう残っていないのか?」
ロゴスが割と真剣に思考に没頭してる顔で尋ねた。
「人類の生存のために少しは動ける者はアラスカとノルウェーに集結して、あるプロジェクトを進めている。だが、それとてどこまで実現可能かと言えば怪しいだろう」
「……宇宙に脱出とかかい?」
「……そうだ。人類に残された手はもうそれしかない。月から火星へ逃げのび、生き残りをかけているが……可能な限り残っている意識体をマトリックス式サーバーに移してもどれだけが『乗れる』ことか……」
ロゴスも私も黙り込んじゃうよね。覚悟はしてたけど重い話だ……
「そうか……私が記録で知っている『人間』はもういないんだね」
「君たちにとって朗報なことにな。開拓を進めるのであれば、進路を南にとることだ。オーストラリアを手に入れれば十分だろう」
「まあ広いですからね。そっかあ……大陸はもうダメな感じなんですね」
危なかったよ!北上してたら死んでたよ私たち!
「ああ、あの馬鹿者どももそこまでは追ってこないだろう」
「……では、あなたはこれからどうするんだい?ひょっとして、終活として世界を見て回ってるんじゃないかな」
「……そうだ。希望もなくただ生き延びてしまった者にはもうそのくらいしかない……だが、希望はここにあった。それでいい」
ちょっと想像を絶するよね。
滅びていく世界と、ロケットに乗って脱出していく最後の希望。
それを地上から見上げながら死を待つ生活って……
なら、私が行動するべき場面だ。
「あー、なら……もしウォレスさんが良ければなんですけど……しばらくでもいいんで、ここにいませんか?」
沈黙は短くも長く感じた。
「……いや、遠慮しよう。まだもう少しこの辺りを見て回るつもりだ。だが……後ほど通信機を持ってこよう。もっとも、この老骨が何かの役に立つとは、思わないほうがいい」
「ありがとうございます。それでも、話し相手程度でもいいから、話ができるならそれがいいと思います……お互いのために」
私が人類から学べることはまだ多いと思うし、何よりこの人今すぐにでも死にそうな感じだもん。
それをほっとくのはさすがに寝覚めが悪いよ……
「……そうか。では、少し離れていると良い。離陸して通信機器を持ってくる……久しぶりに話ができて、存外に楽しかった……」
ウォレスはガチャガチャと変形してホバリングしていく。
VTOL離陸できるんだ……いや~大陸目指さなくて正解だわ。
こんな超技術の人類相手したくないよ。
「……行ってしまったね」
「ああ……行っちゃったなあ……あれが人類かあ……」
マリンブルーの空に消えていく機影はまるでコンドルみたいだ。
とても孤独な、最後の渡り鳥か……