九十九弁々思い立つ。   作:聖徳王の笏

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深夜テンションで書いた処女作です。


九十九弁々思い立つ。

 

 

秋の神が葉を紅く塗り始めたある日の朝、同居している義姉が突如としてこんな事を口走った。

 

 

「八橋、無縁塚に行くわよ」

 

 

無縁塚とは、本来外の世界より幻想郷へと迷い込んでしまった不運な人間たちが葬られる場所であり、また、理由は分からないが様々なガラクタが外界から流れ着く場所としても知られている。

私にとっては、香霖堂の店主や寺の鼠妖怪のようなコレクター気質のある者達が良く訪れている場所…くらいの認識の場所である。

 

 

義姉が気まぐれなことは同じ屋根の下で暮らす身として理解しているものの、何ゆえ彼女が態々無縁塚へと行きたいのか私は分からなかったため、

 

 

「義姉さん、一体急にどうしたのよ?」

 

 

と、ため息混じりに聞くことしか出来なかった。

すると義姉は

 

 

「私達の新しい依代を探さないかしら」

 

 

なんて末恐ろしい事をケロッとした表情で言い放ち、こう続けた。

 

 

「私達って、琵琶と琴の付喪神でしょう?だけど正直に言って琵琶と琴って今の流行りに乗り遅れてる気がするのよ。八橋も前の憑依異変の時のプリズムリバーWithHの演奏を見たでしょ?あの演奏は心にくるものがあったわ…。

で、話を戻すけど、雷鼓だってもとは和太鼓だったのをドラムセットに依代を変えて活動の場を拡げているんだし、私達も弦楽器なら他のものでも何とかなるんじゃないかしら」

 

 

え?そんなこと思ってたの?

いや、確かにプリズムリバーWithHみたいな華やかさは私たちにはないけどさ。人里でたまに披露してる義姉さんの平家物語の弾き語りは結構評判良いんだよ?

いつかの異変の時じゃないんだからさ、そんなノリだけで行動してアイデンティティ捨てるようなことしちゃうの自重した方がいいんじゃない?

 

 

「いやでもさ義姉さん、もう少しだけ粘ってみない?里のお爺さんお婆さんとかよく褒めてくれるじゃん…」

 

 

と反論してみたものの、私の想いを全く読み取ることもなく、義姉は背負子を背負って既に出掛ける準備を終わらせていた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、待ってよ義姉さん」

 

 

「…」

 

 

『八橋がいいなら私だけで行く!!』と言いきる義姉が心配になり私も着いてきてしまったが、果たしてそうタイミング良く依代になるような状態のいい楽器が落ちてるものだろうか?

…正直今の状態の義姉だとジャンク品そのものとしか言いようのない物でも満足してしまいそうで怖い。

ここはひとつ、義妹として義姉の気まぐれに手を貸すべきだと思い、ひとつ提案してみることにした。

 

 

「ねぇ、私たちは普段無縁塚なんて行かないでしょう?一度香霖堂に寄って店主さんに話を聞いてみない?あの人なら行き慣れてるだろうし、何か手がかりになるようなことを知ってるかも」

 

 

「それもそうね。行ってみましょうか」

 

 

義姉はすんなりと私の提案を受け入れたため、私たちは1度香霖堂へとたち寄ることにした。

 

 

 

「ここがあの男の店ね…」

 

「いや義姉さん前に影狼さんに誘われて来たことあるじゃない」

 

 

そんなやり取りをしつつ、扉を開けて店に入る。

中に入ると店主である森近霖之助さんが椅子に座りながら今朝の朝刊を読んでいるところだった。

 

 

「おはようございます」

 

 

「…? おや、珍しい人が来たものだね。いらっしゃい」

 

 

「朝早くからすみません。無縁塚のことについてたずねたいのですが…」

 

 

「無縁塚?なんだってそんなところに用があるんだい?」

 

 

「実は…かくかくしかじか」

 

 

「成程、理由はよくわかったよ。ちなみにだけど、拾い物を容れてる蔵に古い弦楽器が何本かあったと記憶してるけど依代を探すならそれも見ていくかい?」

 

 

「義姉さんどうする?」

 

 

「そうね、せっかくだからご好意に甘えさせてもらいましょう。」

 

 

 

 

 

霖之助さんの好意で蔵の中を見せてもらうことになったけど、扉を開けた瞬間、溜まりに溜まった大量の埃が私たちに牙を向いた。

 

「…」

 

 

「ゲホゲホッ、すごい埃ね…」

 

 

「まぁ普段そこまで手入れしてる訳じゃないからね。許しておくれよ」

 

ちなみに義姉は扉を開ける前からハンカチで口を抑えてた。そういう所ちゃっかりしてる。

 

 

 

がらくたの坩堝と化した蔵を三人で物色していると、胴体部分が横から見た鬱金香の花のような形をしていて、表裏は黒い塗装、側面は白い塗装が施されている、弦の張られていない奇抜な見た目の弦楽器を発見した。

 

 

「これとかはどうだい?」

 

 

「なんというか、すごく個性的な形をしているわね…。ただちょっと棹の状態が気になるかも」

 

 

「これだとかなり大胆なイメチェンになるわね。張られてないとはいえ、弦も4本だろうし候補に入れようかしら」

 

「私は好きだぜ、こういうの」

 

 

やっぱり義姉さんその場のノリで決めようとしてるじゃない…って、ん…?義姉さんとは違う声が…!?

 

 

「なんだ魔理沙か、今大事なお客の対応中だから邪魔しないでくれよ?」

 

 

「こーりんは私を手がかかるガキンチョとでも思ってんのか…? よっ、久しぶりだな付喪神姉妹。何探してるんだ?」

 

 

「霧雨魔理沙!ビックリしたじゃない!ってそうそう、実は…」

 

 

キミは手がかからなかったことがないだろう…と横でボヤく霖之助さんを聞き流しつつ、蔵漁りに夢中になっている義姉さんの代わりに私が事情を説明すると、魔理沙は目を輝かせて

 

 

「なんだよそれ!面白そうじゃないか。私も探すの手伝うぜ!ちょうど暇を持て余してたところだったんだ」

 

 

とか言い出した。

 

 

「なら、3人で無縁塚に行ってくるのはどうだい?魔理沙ならたまに品物探しを手伝わせてるから地理も心配ないだろう?」

 

と霖之助さんが提案してくれたため、私達は協力してくれた霖之助さんにお礼を言い無縁塚へと向かった。

 

 

3人で再思の道を進んでいると、案内人の魔理沙が質問してきた。

 

 

「なぁ、なんで弁々はまた急に依代を変えようなんて思ったんだ?正直、お前ら姉妹はこのままでも全然問題ないと私は思うんだが」

 

 

魔理沙に至極真っ当な理由でツッコまれ、私は沈黙という名の肯定をした。が…

 

「…変化が欲しいと思ったのよ。

プリズムリバー楽団は色んな新しいことに挑戦して人々の注目を集めてるのに、私達はかつての持ち主がやってたことの焼き直ししかしてない。創作が命である音楽をやる身として、本来持ってる創造性を活かせてないんじゃないかって思ったのよ。

自分達の能力が宝の持ち腐れになるのは嫌。だから私は変化を求めるの。」

 

 

「ふーん…まァ私はそこら辺よく分からんけどさ、異変起こすような次元の変化じゃなければ試してみる価値はあると思うぜ」

 

なんか納得しちゃってるし…

 

「その通りよ魔理沙、八橋もそう思うわよね」

 

 

「いや私はべつに…」

 

 

「何よまだウダウダしてるの?アナタの依代だって探さないとね」

 

 

なんで私まで変えることになってんのよ…。

私だけじゃない?このビックウェーブに乗遅れたのって、なんかモヤモヤする。

 

ぺちゃくちゃ雑談をしているうちに、周りの景色や雰囲気が変わり始めてきた。

 

「そろそろ無縁塚だ。何が起きるか分からないから気を引き締めていけよ」

 

と案内役の魔理沙から注意されたのでその指示に従うことにする。

 

 

 

 

「そんなわけで、私たちは今無縁塚に居ます」

 

 

「誰に言ってんだ?弁々」

 

「いつもの事だから魔理沙は気にしないで…」

 

「お前も色々と大変だな」

 

 

「早く探すわよ、二人とも」

 

 

「「はいはい、わかりましたよ」」

 

 

こうして私たちの依代探しin 無縁塚は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙ー!何か見つかったー!?」

 

 

「いいや、全然だ!!八橋はどうだ!?」

 

 

「私もダメー!! 義姉さん!!一度三人で合流しない!?」

 

 

(腕でマルを作る弁々)

 

 

 

 

「いやー、参ったな。例年この季節にはお前達が探してるモノが流れてきやすいんだがな…。全くそれらしいものは見つからないぜ」

 

 

「私もキーボードは見つけたけど…重いからそのままにしてきちゃった」

 

 

明らかに今必要じゃない、握ると奇怪な大声を出すニワタリ神の人形を手に持った魔理沙を横目に見つつ、私も成果の報告をする。

 

 

「弁々はどうだ?何か見つかったか?」

 

「えぇ、見つかったわ。理想の依代が」

「マジかよ!見つけてたなら早く言ってくれよ。今日はもうダメかと思ってたぜ!」

 

 

完全に見つからないムードからの、義姉さんによる突然のカミングアウト。その食い気味な勢いのせいで、魔理沙が手に持ってる人形みたいな顔をしてたので私は噴き出してしまった。

 

 

「ところでその依代候補は今何処に?」

 

 

「あっちよ。ついてきてちょうだい」

 

 

件の場所へと向かう義姉さんの早い足取りに置いていかれないように二人で追いかける。

 

 

「弁々のやつ、こころなしか嬉しそうじゃないか?」

 

 

「朝から張り切ってたもの、自分の求める物が見つかったとなれば喜ぶのも当たり前じゃない?」

 

 

「それもそうだな、話してると置いていかれるし急ごうぜ」

 

 

「だね」

 

 

そんな会話を魔理沙としつつ、私達は義姉の後を急いだ。

 

 

 

 

 

しばらく義姉の後を追いかけると、そこには2本の長さの異なる棹が墓標に立て掛けられていた。

そして義姉は大きい方の棹を手に取り、私の元へとやってくる。

 

 

「八橋、これが私の新しい依代よ!かつての持ち主達の想いも詰まってて付喪神としての宿主変更に最適だわ!」

 

そう言って依代を見せてきた義姉は何処か憑き物が取れたような雰囲気を醸し出していた。

まぁ、私達は憑く側なんだけどね。

 

「あ、そういえば貴方のも見つけたのよ。こっちに来て」

 

 

あのもうひとつの方かな?と思いつつ、義姉が勝手に見繕った依代候補を見てみる。

その棹は妙に可愛らしい見た目をしていて、胴体の部分がなにかの生き物のような形をしていた。

 

 

「コレは…獏か…?これだと八橋よりもドレミーの方が似合いそうだぜ」

 

 

魔理沙が率直な感想を漏らす。

正直、コレに憑くならさっき自分で見つけたキーボードについたほうが良いなと思ってしまう。

二人で思案していると、思っていたような反応が得られなかったからか、義姉の顔が曇り始めた。

 

 

「ごめん義姉さん。この楽器は些か可愛すぎる」

 

 

「そう言われるかもって薄々感じてたわ」

 

 

「要らないなら私が持ち帰るぜ」

 

 

結局、このBAKU-3(仮称)は魔理沙のものとなり、義姉はちょっと落ち込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

あの後手荷物が多くなりそうな予感がした私達は一度香霖堂へと戻ってくることにした。

 

 

「おかえり、成果はあったかい?」

 

 

「お陰様で…義姉さん、霖之助さんに見せてあげたら?」

 

 

私がそう提案すると、義姉さんは頷いて背負子から楽器を取り出して霖之助さんへと手渡す。すると霖之助さんは瞬時に何かを理解したかのような素振りを見せた後に、

 

 

「ふむ……これはジャズベースってやつだね。合奏での低音域を担う弦楽器…ということみたいだ」

 

と私たちにも分かるように教えてくれた。

 

 

「ジャズってあれか?マミゾウが『やっぱりモンクじゃのう…』とか言いながら聴いてるやつか?」

 

 

「そこまでは僕は知らないけど、この楽器なら柔軟性あるプレイが可能みたいだよ」

 

 

「ふーん……じゃあさじゃあさ、私が持ってきたやつも見てくれよ!こーりんなら使い方も分かるだろ?」

 

 

「お安い御用さ。えっとどれどれ…、これは外の世界に居る象を模したZO-3っていう名前のギターらしい。電池を使えば胴体部分の内蔵アンプから音が出せるらしいが電池が無いから幻想郷だと使えないかもね」

 

 

「なんだよ!獏でもないし音も出ないなんてショックだぜ。とりあえずにとりの所にでも持っていってみるか…じゃ、行ってくる!」

 

 

「はいはい、気を付けるんだぞ」

 

 

あっ、飛んで行った。行動派の魔法使いに休憩は必要ないらしい。

2人のまるで年の離れた兄妹のようなやり取りを見てボーッとしていたら、霖之助さんに声をかけられた。

 

 

「ところで八橋さんは何か取ってきたりはしなかったのかな?」

 

 

私かぁ…私ね…。

正直いって私は義姉さえ満足できればいいやと思って何も取ってきていなかった。それにキーボードを一人で抱えるのも大変かなとかひよってしまったというのもある。

 

 

「いやぁ…実は何も持って帰ってないんですよね〜。私は別にいいかなぁって思っちゃって」

 

 

「そうか…それならかつて大量に流れ着いた大正琴がまだ残ってるけど持ち帰るかい?」

 

 

「わーお…それは大丈夫。お気持ちだけもらいます」

 

体良く在庫処分しようとしたのか善意の提案なのかは分からないが、そんなに貰っても困るだけである。

 

 

 

 

人里にある自宅への帰り道にて、義姉は一言も喋ろうとしなかった。いつもであれば些細なことですぐ舞い上がってしまうあの義姉が、だ。演奏はいいのに…とか、何処か抜けてると言われがちな我ら九十九姉妹にはあまりにも似合わない沈黙。

正直言ってなんでこんなことになってるのかが私にはさっぱり分からない。

 

もしかして…一人でテンション上がって私の事巻き込んだけど、私が大したリアクションしなかったから落ち込んでんのかな…。

それとも、下克上の異変の後に一蓮托生を誓ったのに私だけ同じタイミングで宿主変しなかったことに怒ってんのかな…。

思い立ったら吉日がモットーのわたしら2人の足並みがズレたから?

 

色々なことを考えていると、うわ、私なんて姉不幸なんだろうかとネガティブ思考が渦巻いてくる。あーダメダメ、今の私、貧乏神とタメ張れるくらいネガティブパワーに充ちてる。戦わないけど。

そんな変なことを考えてるうちに、愛しの我が家へと到着していたようだ。

 

 

「…八橋、鍵」

 

 

「あ、うん。ごめん」

 

 

 

 

 

 

夕食の時間となり、向き合って箸を進めていると、

 

 

「ねぇ、八橋」

 

 

と義姉が話しかけてきた。

 

 

「どうしたの?味付け薄すぎた?だとしたらごめんね…」

 

 

「違う。今日の帰り道からずっと1つだけ考えてたことがあるの。」

 

「うん…」

 

来たッ…!何を考えてた?あの帰る時間に何を思ってたの義姉さん!

 

「私、依代をじゃずべぇす?ってのに変えたじゃない?だからさ…」

 

 

 

一瞬の沈黙。 ごくりっ…と私が唾を飲む音だけが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャズべんべんって、名乗ってもいいかしら」

「ゼッタイヤダ。」




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