いくつかのおやつカルパス的な小話が載ってます。
こういう日常、すき。
花フェスも終わり、一息つきたくなった私達はマイペースに楽曲製作をしつつ、各々で自由に過ごしていた。
私はまぁ、外の世界から呼び戻した琴を手入れして人前で弾いてみたり、気の向くままに幻想郷を散歩してみたり、門下のレミリアさんに手書きの免許皆伝の証をあげるという、何処から目線なんだよって言いたくなるようなことをしたり、自分のしたいことをマイペースに色々とやってたかな?
こういう自分のしたい事を実行に移す度、常に自分の中で感じていた事がある。宿変してからとにかく心に餘裕ができたと思うのだ。
前の私は、はしゃいだり騒ぎ立てたりはするもののどこか心の中の余裕がなくて、義姉や雷鼓姐に頼って日々を過ごしていたような気がする。しかし、このギターに憑いてからは、昔の私なら喜んで買っていたであろう喧嘩を酔っ払いとかに吹っ掛けられても落ち着いて対処出来るようになったし、他にも、コレは所謂オトナのよゆーってやつを手に入れたのでは? と思う機会が何度もあった。
……
今は外から鳶の鳴き声と通りを歩く人々の声が聞こえる休日の昼過ぎ。三番煎じにも関わらずなおも美味しいお茶を飲みながら義姉と二人で過ごす、なんともまぁ平和な時間である。
で、そんな自分の変化の話を義姉にすると、彼女も
「あら、あなたもそうだったの? 私も今同じ状態なのよ」
と言う。
まぁ、たしかに義姉さんは逆さ城の異変の頃みたいな荒々しい言葉遣いとか全く使わなくなったよね〜と私が言うと、
「だって、荒くれキャラは他に幾らでも居るじゃない。それに、荒くれで天然だとただのおバカさんになっちゃうと思うのよ」
とよく分からない返事が戻ってきた。
いや、ハッキリ言って義姉さんは幻想郷の中じゃわたし共々今もおバカ枠でしょ……? とは流石に本人の前でも他人の前でも言えないので、そっかーとだけ返事をした。というか、これも多分前までの私らなら包み隠さずに言ってそのまま弾幕勝負の流れだったと思う。
すると、私のスーパー付喪神ブレインによるキレッキレの回避行動によって機嫌を損ねずに済んだ義姉がこんな事を言う。
「やっぱり、外の世界に依存するあの呪法を使う場合、琴や琵琶には越えられない壁があったと思うのよ。勿論、その二つの楽器が悪い訳ではなくて、恐らく古くからある物ゆえの避けようのない零細化のせいだと思うわ。
あなたにも分かると思うけれど、この子達に乗り移った後から妖力も今までとは比にならないくらいに高まったし、それまでそこら辺のペンペン草くらいの存在感しか無かった私達の事を他人が認知してくれる機会も増えたでしょう?」
「まぁ、そうだね。にとりさんやたかねさんとか、妹紅さんにはたてさん、紅魔館のみんなとかね」
確かに、義姉の分析は的を得ている気がする。妖力もそうだ。
琴に憑いていた頃は、長い年月の間受け継がれてきた専門的な知識と共に大きい妖力がドカッと流れてくる時と、本当に小さい妖力が少しだけ重なって流れてくる程度だった。しかし、この楽器はそこそこの妖力が常に供給されるし、琴にも引けを取らない大きい妖力がコンスタントに流れ込んでくる事となるのだ。そのため近頃はもう慣れたが、初めの頃は思わず髪が逆立ちそうになるくらいの力を常に体感する事になり、その時の躁だよ! としか言いようのない状態から生まれた曲もそこそこにバンド内に存在している。
「そうよ。そして、そんなにも力を倍増させる原因となった妖器を従えているということは、紛れもなく私達自身も強くなった」
……ん?
なんか、見覚え、聞き覚えのある流れ。
「八橋、私思うのよ。今の最強の私達なら、道具の天下を狙えるって」
出た、こういう時のお決まりフレーズ・道具の天下! 前は同調して暴れちゃったけど、今日はそうはいかないんだから!慧音さんの頭突きを喰らうのはもう嫌だもん!
「雷鼓や小傘ちゃん、メディちゃんを呼びましょう。今こそ付喪神が決起する時よ!!!」
人里の大通りだと間違いなく騒ぎになるような気配をまとった義姉が、背後にドカーンと雷が落ちそうな雰囲気でお得意の即行ポーズを決める。
今日は歌舞伎系かぁ。
「……あのさ義姉さん、一人で盛りあがってるところ悪いんだけどさ」
「何かしら? 八橋」
「私たち、バンドで天下狙うじゃダメなの? 音楽で勝負するなら今いるファンだって着いてきてくれるし、まずそもそもの話だよ? 正直、付喪神達で決起したところですぐ博麗の巫女に鎮圧されるだけだよ〜……」
「……八橋」
「な、なに?」
うわ、もしかしてコレ怒られるやつかな……。
義姉さん、怒り始めると結構ネチネチしてるから嫌なんだよなぁ……。
「……ソレ、考えたこともなかったわ。たしかに、その方法なら無血で最強の存在になれるわよね」
ほら、やっぱり義姉さんおバカ枠じゃ〜ん……。
おわり
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義姉さんの野望が未然に防がれたあの日から数日後。私たちは久しぶりに本拠地である人里の集会所にて義姉妹による琵琶と琴の合奏会を開いた。
この催しでは終演後に来てくれたお客さんの方々と雑談したりもするのだが、私達義姉妹が初めてここで合奏会をやった頃から来てくれているお婆さんのおミツさんが話しかけてきてくれた。
「やっぱりお嬢ちゃん達の合奏は聴いてて心地がいいねぇ。久しぶりに聴けておばちゃん嬉しいわ」
「しばらく用事が立て込んでいたので……なかなかここでやれなくてすみませんでした!」
「良いのよ、良いのよ。
最近二人はばんど? ってやつを頑張ってるんでしょ?」
「えっ!?」
まさか私たちがバンドをやっていることを知られているなんて思いもしなかった。義姉が
「あらミツさん、何処でそれを?」
と質問すると、おミツさんは嬉々として話し始める。
「実は、この前私の孫が新聞を見せてくれたのよ。ねぇおばあちゃん! 私の好きなばんどが新聞に載ったんだよ! って言ってね。そうしたら見知ったお嬢さん二人が写ってたものだからびっくりしたの。私、去年にこの子達の合奏を集會所でよく見たわよ? って言ったら孫も驚いてたわ! オホホ」
「そうだったのね。世代を超えてご贔屓にして頂けるなんて付喪神冥利に盡きるわね、八橋」
「そうね、義姉さん!」
「今度時間があったらそのばんどでの演奏会も観に行こうかしら」
「えぇ!?
そのぅ……実は、私たちのバンドを見に来るお客さんは妖怪の方も多いので、おミツさんに怖い思いをして欲しくはないというか……その〜……」
「あら、八橋ちゃんは私が妖怪の事を怖いと思ってるでも言いたいのかしらぁ? それじゃあ、今こうして会話してて倒れないのは奇跡に近いんじゃあない? オホホホホ」
「……八橋、私も今の今まですっかり忘れてたのだけど、そういえば私たちって妖怪の枠組みよね」
「あまりに自然に受け入れてもらってるから今の間だけ自認が付喪神じゃなくて人間になってた……恥ずかしい!!!」
「オホホホホ」
「……っていうことが今日の集會所であったのよ〜。あの娘たち、特に八橋ちゃんの方はコロコロ表情が変わって可愛いわね〜」
「えっ!!!
……それってさ、本当に飛行者天国のあの二人なの!? ライブで見た時は二人ともほぼ表情変わらなかった記憶があるんだけど…………。おばあちゃん、今日観てきた二人って本当にあの二人なの?」
「その筈よ〜。この前お菊ちゃんが見せてきた新聞の話をしたら目を輝かせて喜んでたわ」
「えぇ〜!? おばあちゃん、今度その二人の合奏会あったら一緒に行かせてよ!」
「うふふ、良いわよ。その代わり、おばあちゃんもお菊ちゃんと一緒にお嬢さん達のばんどの演奏会に行ってみたいわ」
「行こ行こ〜! 絶対楽しいし、多分おばあちゃんが知らない二人の側面が観れるはずだよ!」
そうして二人は数ヶ月後、人里のそばに完成した紅魔座での飛行者天国・Blood Devil's Kissesのこけら落としツーマンライブを観にいき、それの感想を集会所の姉妹合奏会で本人達に伝えるという摩訶不思議な体験をすることとなった。
おわり
─────────────────────
夜、里から少し離れた場所……位置的には迷いの竹林に入るか入らないかといった所を散歩していた時に、私達のライブによく来てくれている妹紅さんがやっている焼き鳥屋の屋台を発見した。折角だし寄ってみようかなと思い暖簾をくぐると、そこにはこれまたライブの常連であるはたてさんがいた。
「お二人共、こんばんは!」
「おっ、八橋ちゃん! いらっしゃい」
「こんばんは八橋さん! 私の横座っていいよー!」
「それじゃあお言葉に甘えて、横失礼しますね〜!」
腰をかけるとその後すぐに妹紅さんがお冷とお通しの切り干し大根、今日のお品書きをくれた。
「それじゃあ、芋焼酎の水割りとせせり、ねぎま、ぼんじりでお願いします!」
「はいよぉー、ちょっと待っててな」
一旦注文が終わり、お酒を受け取ったので隣に座っていたはたてさんにここには良く来られるんです? と聞くと、赤らんだ顔をしたはたてさんが
「そうなの! 妹紅を花フェスで無理矢理花果子念報の特派員扱いして、次の日にリポート書かせたんだけどね、案外いい記事書くのよこの人!」
「おいやめろはたてちゃん! 恥ずかしいだろうが!」
「あれ、それもしかしたら私読んだかもしれないです。……まさか藤原特派員って妹紅さんだったんですか!?」
「アハハハ! 予想通りよ! だいたい、藤原なんて日の本での高貴な苗字、幻想郷の人里にいる人が持ってるわけないでしょ!」
「……うう」
明らかに炭の熱以外の要素で顔が真っ赤の妹紅さん。最初で会った時でこそ慧音さんといる怖い人って認識だったけど、接すれば接するほど人間味に溢れすぎているのが分かって、私この人大好き。
「あの記事、妹紅さんの音楽への愛がすごく伝わるいい記事でしたよ!」
「そ、そうか……照れるな、ありがとう八橋ちゃん。はい、せせりね」
「ありがとうございます! いただきますね!」
うわぁー、美味しい! この噛みごたえこそまさにせせりって感じ! タレの味も相まって最高に美味しい!
「あぁ〜美味しい!もう一本頼んじゃおうかなぁ〜」
「用意するから食べたければいくらでも頼んでくれ」
「ホントに美味しそうに食べるわねぇ〜。良かったね、妹紅!」
「当たり前だ、お客さんに不味いものなんて出せないからな」
「そういえばずっと気になってたんですけど、おふたりは前々から仲が良かったんですか?」
「いや、飛行者天国のライブでちょこちょこ顔合わせるからそこで仲良くなったんだよ。それまでは全くだな」
「そうね〜。他によくライブ来てる人だと魔理沙とかは前から面識あったんだけど、妹紅は完全にここで初めて繋がりが出来たわね」
「そうそう、今じゃその三人で勝手にファン倶楽部作って会誌作って応援してるしな」
「ああ、そういうのが存在してるってのは風のうわさで聞いてました! バンドに迷惑かからなければ全然ウェルカムですよ!」
「非公式だからこそ、のびのび応援出来てるって言うのもあるしねー。仕事に支障出ない程度にやるのがちょうどいいんだ」
「そうだな。
あっと、これはねぎまとぼんじり、せせりのおかわりな。おまちどおさま」
「ありがとうございます!
しかしそうなると、ここに魔理沙が居ないのはなんだか寂しいな〜……」
「そうなのよ、来る前に魔法の森の家に寄ったのに全く居る気配がしなくて! 一応博麗神社も見に行ったのだけど巫女共々留守にしていたわ」
「あらぁ〜。こんな何の変哲もない平和な日にこそ呑むのが楽しいのに!」
「そうよね! さすが八橋さん話がわかるわ!」
「まぁ、だからといって飲みすぎるのもダメだけどな。人里に住まいのある八橋ちゃんはともかく、はたてちゃんは山だろ? 侵入者扱いされるから送れないぞ」
「その時はまた妹紅の家に泊まるから良いわー!」
「ふざけんな! お前何当然かのようにウチに泊まろうとしてんだよ!」
「良いじゃないの! 花フェスの次の日だってレポートの原稿書くのに泊まったんだから!」
「それはそれ、これはこれだろ! それに今日はだな…」
そんな感じでワーキャー二人が騒いでいると、背後から足音が聞こえてきた。振り返るとそこには……
「やぁ妹紅、やってるか?」
「け、慧音!? 随分早く来たじゃないか」
「仕事が思いのほか早く片付いたからな。お二方、相席してもよろしいかな?」
「大丈夫ですよ!」「はーい」
慧音さん、登場である。
「おや、君は確か付喪神の九十九八橋か。最近元気そうじゃないか」
「へへへ、その節はご迷惑をおかけしてしまい……」
「前に会った時は見るからに乱調といった状態だったが、今は力が安定しているな」
「いや、ほんとにお陰様で目を覚ましました……」
「八橋さん、なにか前にあったの?」
「今の楽器に宿主を変える時の儀式でトランスしたらしくてな。姉妹で轟音を鳴らし始めて、それを聴いた鳥獣伎楽の二人が同調して歌い始めたりで人里がとんでもないことになったんだよ。で、最終的に慧音が姉妹に頭突きして事態を収めたんだ」
「あぁ〜、文の新聞に載ってたやつ! 去年の秋の出来事ね」
「懐かしいというか、恥ずかしい……」
「しかし前一度だけライブを観たが、確か君のバンドはその後のライブで多少聴きやすくした状態にした騒動と同じ曲をやっていたよな?」
「えっ?」
「ああ、そうですね。
はたてさん、『巡礼』のことですよ」
「衝撃! まさかそんな繋がりがあったなんて!!
そういえばあの異音騒ぎに関しても、たまたま里の近くにいた文しか気付かなかったから他の天狗達はしてやられた! って言ってたのよ!
このエピソードは私にも出し抜くチャンスが来たってことね……」
「まぁネタにはなるだろうけどさ……。そもそも、はたてちゃんの新聞は他のとは毛色が違いすぎるし、他の鴉天狗たちも出し抜かれたとは感じないんじゃないか?」
「……言われてみればそうとしか感じないわ!
くっそー! 文にしてやられたわね! 今日はもっと呑むわ! 妹紅、焼酎のロック頂戴!」
「だから飲みすぎるなっての。帰れなくなっても知らないぞ?」
「妹紅の家泊まるからいい!」「なっ!?」
「おい妹紅! いつの間に鴉天狗なんかを家にあげるようになったんだ! そういうのは良くないだろ! 情報漏洩的な観念から見てだ!」
「ちょっ、待て慧音! 誤解だ! はたてちゃんはただの友達だから!」
うわーっ! 慧音さんの姿がみるみるうちに変わってきた!!! メキメキ音を立てながら角が伸びてきてる! 怖い!!! しかもこれ、よく思い出してみれば私が頭突きされた時の姿じゃん!!!
ツッコミ不在の影響か、ワーハクタク化した慧音に妹紅が追い回されているところをはたてが爆笑しながらガラケーで乱写、八橋はかつてのトラウマを思い出したせいで少しも動けなくなるというカオス空間が一瞬にして出来上がった。結局、店仕舞いをして縄張りに帰る途中のミスティアが止めに入るまでは延々とこの光景が繰り返されることとなり、喧嘩中に勝手にボトルを開けていたはたてはこってり絞られた後に妹紅の家に泊まった。
おわり。
せせり大好き。
裏話的な活動報告もあげたのでお時間あればそちらの方も是非目を通していただけたら嬉しいです〜
お読み頂きありがとうございました。
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