九十九弁々思い立つ。   作:聖徳王の笏

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1話の裏話的なのを活動報告に載せてます。お時間あればそちらも是非。


魔力の風かもしれない

 

 

義姉が気まぐれで依代を琵琶からベースに替えてからもうすぐ1週間が経つ。

 

はじめは、各弦の調律すら分からず、その上音を出すためにアンプ?という未知なる箱を通して電気を必要とする…という新たな相棒の特性に戸惑い、義姉は手持ちの琵琶用の罰を使って実音だけを鳴らしていた。

 

そんな中、あの日の探索以来新型弦楽器の初心者仲間と化して、義姉と強い絆で結ばれていた白黒魔法使い・霧雨魔理沙による情報提供により、玄武の沢に住む河童達がアンプを作れるということが発覚した。

 

それを聴いた義姉は

 

 

『今まで稼いだヘソクリの使い時ね』

 

 

という、我が家の家計簿が心配になる一言を残し、香霖堂の蔵の整理をした時のお礼で貰ったハードケースにベースをしまい、それを持って一人玄武の沢へと向かってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……義姉さん、大丈夫かな。河童にカモにされて大金支払ったりしてないかな…。というかあんな沢に木製の楽器なんて持って行って大丈夫なのかな…」

 

 

そんな事を独りごちっていると、家の玄関の開き戸をノックする音が聴こえた。

 

 

 

「はーい、今行きまーす!どちら様でしょうか〜?」

 

 

 

「やっほ〜、八橋。元気してる?」

 

「雷鼓姐ぇ!どうしてここに?」

 

 

「さっきまで仲のいい友達二人と近くの呑み屋で呑んでたんだよね。

で、その会がお開きになったからそこら辺をほっつき歩いてた時に、二人の家が近いことを思い出したんだ。

だからついでに顔見せようかなって思ってさ」

 

 

「なるほどねぇ〜。あっ、良かったら上がって!」

 

 

「いいのかい?それじゃあ遠慮なく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ…、雷鼓姐ってこんなキャラだったっけ?

 

 

せっかく珍しい組み合わせの二人だし、アタシもまだ飲み足りないからサシ飲みしよう!ってなった所までは良かった…。問題はその後だ。さっきから雷鼓姐は延々と義姉の事を褒めるマシーンと化している。

 

 

でも、雷鼓姐がこうなった原因を私は解っている。

 

 

 

どうやら、雷鼓姐は私がつまみとかその他諸々を用意している間に、前に義姉と二人で調子に乗って鬼に喧嘩を売った際、その度胸を買われて貰ったお酒をガブ飲みしたようなのだ。

 

私達義姉妹としては、もう二度と鬼へと喧嘩を売らない誓いをたてた証として、それを忘れぬように居間の箪笥の横に箱ごとそのままにして置いていたのだが、流石は数多の打楽器奏者の想いを継いだ付喪神。私がツマミを持ってきた頃には全く気にもとめずに箱を開けてラッパ飲みしていたのだ。

そして、ここから暴虐無尽、褒め上戸の雷雲による無差別落雷口撃タイムが幕を開けた。

 

 

 

「イヤァ〜、弁々もやるよねェ。まさか宿変をこうも簡単にやり遂げるなんてさァ…。あの異変後に姉妹で揃って呪法を教えて!!!ってアタシに泣きついてきたのがもはや懐かしいよ」

 

 

義姉が褒められることは嬉しい。でも、泣きついた片割れとしてはその話をほじくり返されると普通に恥ずかしいからやめて欲しい。

そんな私の思いは露知らず、雷鼓姐のビートに乗った追撃は止まらない。

 

「そういえばサァ、弁々はああなったけどサ。八橋はお琴のままでいるの?アタシはてっきり、姉妹揃ってイメチェンみたいな感じでするのかと思ってたけど」

 

 

うっ…、今の自分にとってどんな弾幕よりも痛い質問がきた。

 

様々な想いを受けてきた道具が自我を持つ状態である付喪神にとって、自身のルーツとも言える本体は生きる上で必須だと私は考えていた。

 

しかしそんな中、突拍子のない発想と行動で宿変を成功させた義姉を間近で目撃してしまったことで、え、こんな簡単に乗り換えちゃって大丈夫なの?と、今まで私が抱いてきたポリシーに疑問を生じさせてしまった。

 

その疑問を晴らす為、まず義姉が今後の生活でどうなるかを見て、そこから宿主を変更するかを考えたいと言うと、雷鼓姐はカラカラと笑ったあと、

 

 

「まァ、八橋がそのままを望むなら別に無理して変えなくてもいいとは思うよ」

 

 

と言ったあと、ツマミの豆をつまみつつ例の酒をまた呑み始めた。

いや、それに口付けるのはもうやめといた方がいいんじゃ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウーン、ロックだねぇ。実にロックしてるヨ弁々は…」

 

「ウン、ソウダネ…」

 

雷鼓姐、酔いすぎでしょ!!!

もう…何回目なのよ、この言葉。

いくら私が恐れ知らずの九十九姉妹の片割れとはいえ、流石に疲れてきたわ…。

きっと雷鼓姐が宿ってるドラムセットを叩いた数多の人達が似たような事を奏者の先輩とかに言われたに違いないわ。宿りに宿った想いほど怖いものはないもんね!

 

ああ、きっとコレは異変よ。

魔理沙にいえば退治してくれるかしら。

頼まないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう追い出そうかしら…。そうするしかないわね。

そうよ、ワタシは泣く子も黙る九十九姉妹の義妹、九十九八橋!いくら命の恩人でも容赦しないんだから!!!

 

 

先程の会話で心に生じたモヤモヤを晴らす意味合いも込めて、いびきと妙なリズムの歯ぎしりが凄い雷鼓姐へフンガーッ!と突撃しようとしたその時

 

 

「ただいま八橋。今帰ったわ…ん?靴が…」

 

 

義姉が帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷鼓姐を追い出そうとしたらもう少し休ませてあげましょうと義姉が言うのでしばらく放置していたら、雷鼓姐がムクリと起き上がりそろそろ帰ると言い出した。

 

 

 

「いやはや、2人には迷惑かけちゃったね」

 

 

「いいのよ別に。私、最強のロックンローラーだから」

 

 

「おっ、弁々も言うようになったね。ソレじゃあ二人とも、アタシは帰るね」

 

 

「帰りの道中気を付けてね」

 

「おうよぅ〜八橋、また今度飲もうね」

 

 

そう言って雷鼓姐は手をヒラヒラ振りながら家を出ていった。

 

いやどこでロックンローラーなんて言葉覚えてきたのかな、義姉さん。そもそも雷鼓姐の相手してたのほぼ私だけだし!

 

 

雷鼓姐は義姉さんの言葉に感心してたけどね、言っておくけど自分の楽器を調律する時に『4弦がホ、3弦がイ、2弦が高い二、1弦が高いトの音よね…』とかボソボソ言って、琵琶用の撥で音鳴らして確認してるベーシストなんて義姉さんだけなんだから。と心の中だけで思っておく。

因みにだけども、後日香霖堂に行った際にこの話を魔理沙と、彼女と一緒に来店していた宇佐見菫子さんに話したら、二人はあのニワタリ人形もびっくりするレベルの大声でゲラゲラと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで姉さん、河童のところに行ってたはずだけど、朝言ってたアンプとやらはどうなったの?」

 

 

「ああ、あれね。最初彼女たちに質問した時にへそくりでも足りないような法外の金額を請求されたの」

 

 

アッ!こっちはこっちでヤバいかも。

雷神襲来前に私が危惧してたことが実際に玄武の沢で起きたかもしれない。

 

 

「だけど」

 

 

んん…?

 

「魔理沙から聞いた話と違うし、流石にそれはおかしいわよって言ったら、文句を言うなら弾幕勝負だ!アンタが勝ったら言い値でやってやってもいい、負けたらアタシらはやらん!って向こうが言い始めたの」

 

 

「えぇ…。ソレ、今の宿変したばかりの姉さんだとかなり不利じゃない?どうせ負けないと踏んでその提案をしたんだろうね。河童って狡いところあるなぁ」

 

 

「まぁ聴いて。ソレで私も最強の自負がある以上負けられないから弾幕勝負を始めたら、今までが馬鹿馬鹿しく感じるくらい成長を感じたの。で、気が付いたらまとめ役含めて河童連中を倒してたのよ」

 

 

はぁ………ハァッッッ!?

そこらの一般河童ならまだしも、オカシラの河童を倒したって言ったわよね。この藤色頭。

 

 

「で、勝負で決着をつけた以上は向こうに言うこと聞かせないと!と思って、魔理沙が造らせたものから私のベースに必要なモノを足し算引き算したアンプを作らせることにしたわ。あと外でもアンプを繋げて演奏しやすくするために、陽の光ですぐ電力を貯められる運搬しやすい電源箱も貰ったわ」

「それに帰りに物陰に潜んでた小傘ちゃんに無理言って、この子用の撥も作ってもらうことになったわ。これが設計図の写しよ。彼女から聞いたけど、魔理沙も小銭くらいの大きさの撥を作ってもらうみたい」

 

あっこの義姉、間違いなく新型弦楽器の沼に両足ハマってるわよ。あとついでに魔理沙も。

 

楽器を持ってから一週間しか経ってない新米奏者が自身の為だけに造られたアンプを持ってるなんて前代未聞すぎるもん!

恐ろしや、新米奏者のべんまりコンビ!

そして求められたものをちゃっちゃと創れる河童や小傘ちゃんにも脱帽だわ。

まぁ私は帽子被らないし、なんなら小傘ちゃんは普通に頭抱えてそうだけど。

 

 

 

 

「……ていうかさ、義姉さん」

 

 

 

「どうしたの八橋」

 

 

 

「琵琶…ちゃんと手入れしてるんだね」

 

 

そう、この会話をしている間も義姉はかつての相棒であった琵琶の手入れを行っていた。

 

 

 

「? そりゃあ、そうよ。私という存在を形成する上での大事な存在だもの。これがない世界に私はいれるとは思わないわ」

 

 

「ちなみにさ…、義姉さんの琵琶は義姉さんの相棒が変わった事に対して何か考えてたりするの?」

 

 

「うーん…、あんまり怒ったりとかは無いみたいよ?やっぱり私が直感で行動したってことはこの子にも前々から思うところがあったんでしょうね。」

 

 

「ふーん…」

 

 

ああ、わかった…。

義姉が覚醒した理由が。

 

琵琶とベース。

義姉という存在の大元と、その義姉に見出されたこのふたつの妖機は互いに反発し合う水と油のようなものとばかりである、そう私は想像していた。

 

けれど、それは違かった。

それこそ乗り換えた次の日、義姉は

 

『完全に宿変した!魔力の風を感じる…。幻想郷の夜明けよ!道具の天下が始まるわ!』

 

とかまた訳の分からないことを言っていたので、絶対異変だけは起こさないでねーとだけ返事した記憶があるが、愛憎入り交じった様々な想いが形となり生まれる付喪神と、それを生み出した依代は一蓮托生の関係。

結局の所、義姉と琵琶は関係を断ち切った訳ではなく、その繋がりが前提として残ってる上で新たにベースとの縁を求めた事で、意図せず力の増幅に繋がったんだと思う。

まぁ演奏者の端くれならプリズムリバー姉妹のルナサさんみたいに色々できた方が良いよね、やっぱり。あの人弦楽器なら何でもこなせちゃうし。

 

あぁ、真面目に考察するなんて私には似合わないよ。けど、こうやってイキイキしてる義姉を目の当たりにするとちょっと羨ましくなるよね。

私も依代、増やそうかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ八橋、いま私の事羨んだわね?良いのよ、義妹に羨まれて嬉しくないお義姉ちゃんなんて居ないんだから」

 

普段鈍感なくせしてなんでそれだけ分かるのよ。

 

でも、義姉の言う『変化』を私が迎える時も案外近いかもしれないわね。




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