九十九弁々思い立つ。   作:聖徳王の笏

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⚠️九十九姉妹は全く出てきません⚠️

旧約酒場のサントラを聴いてた時に浮かんだ2話目の前日譚?的小話です。
ちょっと残酷な描写があるので苦手な方はご注意ください。


閑話 バー・オールドサンダー

 

「やはり、秋といえば食欲の秋だな。この季節になると百姓たちへの感謝の気持ちでいっぱいだ」

 

 

「それもそうだけどさ屠自古ちゃん、やっぱり秋は芸術の秋だよ。毎年恒例の人里フェスティバルで浴びる歓声ほど嬉しいものは無いよね。」

 

 

「やはり雷鼓さんはそう来ますよね。だとしたら私は運動の秋でしょうか。総領娘様が各地で起こした問題の謝罪で幻想郷中を巡らなくてはならないので。」

 

…………。

 

「「いや、別にそこで空気読まなくていいんだけど(だが)」」

 

 

 

 

 

 

 

「「「乾杯!」」」

 

 

 

ここは呑み処 古雷《ふるいかずち》。名前に古と入っているが、かなり最近になって人里に出来た飲み屋である。

 

そんな古雷に集いしビリッとくる雰囲気を醸し出す常連グループ。

構成メンバーは、永江衣玖、蘇我屠自古、堀川雷鼓の3人である。

 

竜宮の遣い、古代の亡霊、付喪神。

普通に過ごしていればあまりにも接点がなさそうなこの3人は、まるで紅魔館のドアノブでときたま起きる静電気のようにある日バチッと惹かれ合い、それぞれの都合の合う日にこうして3人で酒を飲み交わし、身の回りに起きた事などの情報交換をしているのだ。

 

 

 

 

「でさァ、友達の付喪神が急に依代を替えてさ。しかも自分からベースを選んだみたいでアタシビックリしちゃったよ」

 

 

「それを選ぶ事で何か不味いことでもあるんですか?」

 

 

「いいや別に?でもアタシが知ってる分には、あまり花形の楽器じゃないんだよね。まァ元が琵琶の付喪神だし、一歩引いてるくらいの位置が好きなのかな」

 

 

「私はそのべぇす?とやらは姿形すらも分からないが、依代を変える事で何か影響が出たりしないのか?」

 

 

「外の世界だと琵琶より格段に演奏される機会が多いはずだから、アタシが教えた呪法を今も使っていれば妖力が伸びてると思うわよ?

強くなれるのは人ならざる者にとっては嬉しい事よね」

 

 

「はぁ、太子様に懐いてるあの面霊気といい、付喪神というのはイマイチよく分からんな」

 

 

「まァ、神とはいえ妖怪に近いしねアタシら…。ところで、屠自古ちゃんのところのみんなは元気?」

 

 

「太子様達のことか?太子様と青娥殿と芳香は普段通りだが、布都のやつがな…」

 

 

「あぁ、布都さんですか。今回は何をなされたんですか?」

 

 

「酔いも回ってきたし話してもいいか、実は…」

 

 

 

 

 

 

あれは一週間前の頃だ。

いつもの修行を終えて神霊廟で夕餉を囲んでいた時に、急にアイツが

 

 

「太子様!我は狩りがしとうございます!」

 

 

とか言い始めたんだ。

私は太子様に迷惑をおかけするなと言ったのだが…

 

 

「狩りですか。そういえば、久しく行っていないですね。妖怪の山の方々に話をつけて開催しましょうか」

 

「にくー!」

 

とまさかの太子様まで乗り気になってしまったのだ。

亡霊の身である私がお前ら道教の不殺生の戒律はどうしたとか突っ込める訳もなく、あの邪仙すらも太子様を持て囃し始めたのでもういいか…と諦めたんだ。

 

「古き時代を生きたお貴族サマ達ならではって話だね。それで?」

 

 

 

 

ああ、それでかつて我々が起こした異変の際に知り合った山の巫女を経由して、神々や妖怪達に特別な許可を頂いたのだ。

 

 

「さすが神子様。そこら辺の交渉は熟れていますね」

 

 

それで狩りの前日に、大物を仕留め損なった際に余裕を持って追うためにも3日間狩りを行ってよい。という旨の書状が天狗の棟梁と守谷神社の八坂様の連名で届いたんだよ。

はっきり言って大昔に物部氏が行った時のような大規模な催しでもないのに3日も使うのか…?という疑念が湧いたものの、布都のやつが心底楽しみそうだったので、水を差すのも悪いと思って特に何も言わなかったんだ。

 

それで当日、陣幕を張ったあとに太子様達が狩人達を連れて獲物を探しに行ったので、そのあいだに私は栗の実や山菜などを採ったりしてたんだ。

 

「わァ、屠自古ちゃんから良妻賢母の香りがしてきた」

 

「やめてあげてくださいよ。柄にもないこと言われて屠自古さんの顔が山の紅葉のように真っ赤です」

 

 

やめてくれお前ら…。

で、 青娥と芳香と私の3人でしばらく待っていたら

 

「屠自古!これを見よ!我が仕留めたのだ」

 

と言いながら布都が勇壮な角を持つ牡鹿を捕ってきたんだ。

コイツは抜けてるところはあるが、確かに昔から弓の扱いに長けていたし、実際この牡鹿の首の傷を見る限り一撃で仕留めたんだろうよ。

ただ、少数で動いていた布都達に対して多くを引き連れた太子様の帰りが遅いことだけが気がかりではあったが。

 

その後、『うさぎ一羽しか捕れませんでした…。徳が高いのも考えものですね…』と落ち込みながら太子様が戻ってきた。夕御飯は栗ご飯と蘇、太子様の捕られた兎に川で採れた魚を膾にして頂いたよ。ちなみに、布都の鹿は青娥殿が『なにゆえわたくしがこんな汚らわしい事を…』と文句を言いつつも、目にも止まらぬ早さで解体してくれた為、芳香に食わせたり乾かして干物にすることにした。

 

 

そして問題が起きたのが2日目だ。

陣幕の横の川で景色を楽しんでいると哨戒中の白狼天狗が慌てた様子で飛んでやってきたんだ。

曰く、狩りに出られているお二方には先に伝えたが、尋常ではない強さの熊が山にいる。恐らく妖怪化しているので陣幕に居られる皆様も注意されたし。との事だった。

 

狩りに出ている2人は尸解仙だし実力もあるから死ぬ心配は無いだろう…。とはいえ、もし何かが起きたら…と考えると不安で仕方なかったんだ。

 

その後、暫くすると太子様が戻られた。

が、連れているお付きの者の数が減っていたんだ。

太子様は

 

 

「万全の体制で襲撃に備えました。それでも異様な雰囲気が漂うその瞬間に同行者2人がそれぞれ別のタイミングで攫われてしまいました…。無念でなりません。

奴は神出鬼没で、妖怪らしい知能ももっているようだ。恐らく山の神はその存在を知っていた上で我々への狩りの許可を出したのでしょう。」

 

 

と、落ち込んだ表情でご自身の見解を述べられていた。

 

 

クソ、我等は当て馬にされたか…と思ったその時、猟犬の吠える声が聴こえたあと、身の毛もよだつような雄叫びが山にこだました。

 

 

「太子様、無理に動かれてはかえって危険です。ここで布都の帰りを待ちましょう」

 

 

「その通りだな、屠自古。そうすることにしよう。いやはや、これは困ったものだ…」

 

 

そう言って暫くの間待っていると今度は布都について行った者達が戻ってきた。

彼曰く、物部様が殿となり化け熊を引き受けており、彼女に同行した者は誰一人欠けることなく、たった今陣へと帰還することが出来た…との事だった。

 

 

 

 

 

 

皆が陣で帰りを待っていると、服の片袖が引き裂かれた状態でアイツが戻ってきた。

 

「飯」

 

と一言だけ言ったアイツに対してお付きの者が夕御飯を渡しながら礼を言い、戦いの結果を聞くと

 

 

「まだ終わっていない。だが傷は負わせた。明日、我が必ず奴を倒す」

 

と言い放ち、それを聞いた太子様がふんふん、流石は布都ですね。と誇らしげにしていた。

コイツの向こう見ずともとれる豪胆な性格はほんと、遠い昔に亡くなられた兄上殿にそっくりなんだ。

 

 

「へぇ、布都様にはお兄様がおられたのですね」

 

 

「そうだ。ちなみに私の父と布都の兄上はとにかく仲が悪くてな。大君の葬儀で喧嘩を始めた時はなにか神罰が下るのではないかと恐ろしくて見ていられなかったさ」

 

 

 

 

話を戻そう。

3日目、この狩りもいよいよ最後の日だ。

 

 

ここまで来るともはや嗜みとしての狩りよりも、妖怪退治としての狩りとなってしまい、陣の中は異様な高揚感に包まれていた。

そんな中渦中の存在の一人であるアイツは狩装束ではなく、森の中では目立ちやすい普段通りの白い装束を身にまとっていた。そして一言

 

 

「あやつは天皇大帝より遣わされ、我に課された試練である。それ故に皆の手助けは必要ない」

 

 

と言い、弓と矢、そして夢殿大祀廟で副葬品として埋められたアイツの家に伝わる宝刀を腰に差し森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「布都が心配ですか、屠自古」

 

 

 

「えぇ、まぁ」

 

 

「彼女なら大丈夫ですよ。必ず戻ります」

 

 

 

「それなら良いのですが…」

 

 

 

と太子様と会話をしつつ、私はアイツの帰りを願ってた。

 

 

 

 

 

 

 

簡潔に結果を言うと、アイツは帰ってきた。

左肩が脱臼しており、自慢の白い装束は返り血なのか自分の血なのかも分からないくらいに血に濡れた満身創痍の状態だったが、化け熊の首級を持って我等の元へと帰ってきたのだ。

さらにこれは後に青娥殿の診断で判明したが、熊に突き飛ばされたときに鳩尾の辺りを引っ掻かれ、爪による裂傷に加えあばら骨も折っていたらしい。

 

 

「戻ったぞ、皆の者」

 

 

帰りを待ち望んでいた参加者、噂を聞き付けた妖怪連中など全員が喜びの歓声をあげる中、仙人として一皮むけたであろう布都の姿が私でも信じられないくらい格好良く見えた。

 

それで、肝心の熊の胴体は退治の確認をしに行った白狼天狗、付きの狩人などの数人で協力して運んできたのを見たが、山のような巨躯の持ち主で肝が冷えたよ。

 

 

 

 

 

 

「んで、そんなこんながあったから奴は今療養という名の幽閉中だ。見舞いは必要ないぞ。なにせアイツは人が来ると嬉しくなってキーキー騒ぐからな」

 

 

「そっかー、本人の視点からも聴きたくなる話だからザンネン。しかしまぁ、古の英雄ってホントにそういうノリで妖怪退治しちゃうんだねェ…。話を聞いてたら頭の先からビビっときたよ」

 

 

「目撃者がそこそこ多いだけにこの話は里で人気になりそうですね。本人も知らぬ間に」

 

 

「勘弁してくれよ…。そんなことになったらまた私が調子に乗ったアイツの相手をしなくちゃならんだろう」

 

 

((絶対満更でもないやつだ(ですね)…))

 

 

 

 

 

 

その後、案の定当時現場に居合わせた者達から漏れた布都の化け熊退治の話は人里にて大層受け、それを描いた絵巻きなども売られるなど、雷鼓と衣玖の二人の予想通りの結果となった。完治した後、人里でそれを目の当たりにした布都が手を叩いて喜んだことはもはや言うまでもない。

 

 

 

 

呑み処 古雷《ふるいかずち》。

この店の名前の由来は、かつてとある問題を起こした古風な少女に対して雷を落とした亡霊少女の姿を偶然後の店主が目撃した事が由来だとか、そうでは無いとか…。





「総領娘様へのいいお土産話が聞けて楽しかったです。それではまた機会が会う時に」

「そう言ってくれると嬉しいよ。それじゃあまたな」


「二人ともじゃあね〜ッ!………あっ、そういえばここから弁々ン家ってスグそこじゃん。最近付喪ネットワークであの子話題になってるし、ちょっと顔だしてみようかな」
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