起きたら評価8以上になっててオラおでれぇたぞ
ライブに出る時のみ味わえるあの高揚感、堪らないよね。
そんなお話です。
「八橋、ばんど?を組むわよ」
朝ごはんを食べている時、義姉が突如としてバンドを組みたいと言い始めた。
恐らくこの前、晩秋の恒例行事である人里フェスティバルに出ていたプリズムリバーwithHを見た事で感化されたのだろう。
「また急だね、義姉さん」
「あんな素晴らしい演奏を見せつけられたら楽器の付喪神としての名が廃るわ。それに、私達もへす?に出たいと思わない?」
「フェスね、義姉さん」
うーん、確かに言われて見るとわたし達だってあの舞台にたつだけの資格はあるんじゃないかって気がしてくる。
「でもさ、義姉さん。義姉さんは里の集会所でおじいちゃんおばあちゃんに平家物語を聴かせるくらいしか活動してないじゃない。その状態だと向こうとの差は雲泥の差よ?」
「そうね。あと私は出店で昼飲みしてる人相手への弾き語りもしてるわ」
ゴメン、忘れてた。
それじゃあメンバー探すかぁ〜。
…
「で、アタシの出番ってわけ」
みんなの予想通り、私が声を掛けたのは雷鼓姐である。
「そりゃあ、竿物要員が二人揃ってるんだから、あと一人声かけるとしたら百パーセント雷鼓姐だよねぇ」
「これ、黄金三人衆よね。三人揃えば勝利の方程式だわ」
義姉さんの言う通り!
上物、低音、打楽器。
大抵の曲はこの組み合わせで何とかなるのであーる。例えるならそうね、しょうゆさけみりんみたいなものよ!お好みで調味料を追加するのもいいわね。
「でさ、アタシから弁々に一つ聞きたいんだけど、このバンドはどう活動していきたいわけ?」
「そうね、今の私の中での目標は風見農園協賛・夏のサンフラワーフェスティバルに出たいわ。だからそこに呼んでもらえるくらいには注目を集める為に地道にライブ活動をしたいわね。」
雷鼓姐と会う前に、名前間違えたら農場長にダルマにされるよって言ったお陰か知らないけど、義姉さんは一度も噛まずにフェス名言えててちょっとツボ。
「ふーん。で、ライブでやる曲はどういう系統が良いとかあるの?」
「よく聞いてくれたわね、雷鼓。ズバリ、それは…」
「脱魂ロックよ!」
「ハァ?」
…
「つまり、呪法の儀式でトランス状態になった時の演奏が心地よすぎて、もはやソレじゃないと満足できなくなった、と。
ていうか…さ、あの騒ぎの主犯ってキミらだったの!?
アタシあの時ちょうど夜雀庵で呑んでたんだよね!そしたら店主とバイトがいきなり揃って歌い始めたからホントにビックリしたよ」
「モロに被害被ってるわね、義姉さん」
「そうね」
「いや、私自身になんかあった訳じゃないからソレは良かったんだけどさ、最初ルナサが暴れてるのかと思ってちょっと心配してたんだよ。あの子の能力でアレをやられたら一生人里出禁になっちゃうしね…。
そうかああいう感じかァ、普段演るのと全く違う系統だから楽しそうだね!やります!」
やったやった!
コレで仮に雷鼓姐が首を横に振ってたら、わたし達義姉妹は棒を扱う人達に片っ端から声を掛ける不審者事案となっていたはずなので、ここでメンバーが決まるのは大きいわ!
「運も最強の内。だよね義姉さん」
「そうよ、それが九十九流の教訓よ」
「そんな流派初めて聞いたなぁ」
そんなこんなで、我々付喪神バンド(仮)は天邪鬼の立案する作戦よりも中身がスカスカなロックをやる為に大きな一歩を踏み出したのであった。
…
「八橋、このリフとか妖怪連中にウケそうじゃない?」
「サビ以外の部分は同じリフをずっと聞かせて、リフとリフの間にブレイクを入れることで間を多くするのね。
…まさか義姉さんにリフ作りの才能があるなんて」
「ねぇ弁々、アナタほんとは津軽三味線の付喪神だったりとかしない?」
「そんな訳ないでしょう。私はれっきとした琵琶の付喪神よ。」
どうやらうちの義姉はニロ抜き音階のスペシャリストらしい。現に今練習してる曲の殆どは義姉さんが元のアイデアを出してる。
ギター担当の私よりも躍動的なリフ作れるなんてどういうことなの?
「八橋、色々思うところはあるかもだけど貴女は貴女の道を征きなさいね」
口だけの自称最強付喪神キャラが取り柄だったはずなのに、演奏フォームといい、妖力といい、強キャラの雰囲気が隠せなくなってきてますよ、お義姉さん。
私は魔理沙が弾いてるのを見たりしたからか、弾いてる時にわりかしちょこまかと動いちゃうんだけど(フロントマンらしさってやつなのかな)、それに対してこの藤色天女は弾く時点でもうオーラが違うのだ。
正座した時の琵琶の抱え方をそのままベースに流用したような持ち方で棒立ち、浄瑠璃のような語りを自分で入れなくて良くなった為、いっつも涼しい顔してウネウネ動くベースラインを弾いてる。
左手の動く様はまるで妖怪みたい。
私達前二人の噛み合ってない感じと飄々と後ろでドラムを叩く雷鼓姐のアンバランスな感じが面白いわね。と、一度練習を覗きに来たスキマ妖怪に言われた時は『ぁあ、そうですか…』と正直乾いた笑いしか出なかった。
…
「ねェ、演奏の依頼が入ったよ。時間は夜6時半から。場所は香霖堂前の広場でノルマは6枚らしいけど、どう?」
「やるわ」
うわ、ついに来たよ演奏依頼。
しかも絶対依頼してくれたの霖之助さんじゃん!
昔私達を異変に参加させる原因になった約一名を除いて、知り合い達がいい人しかいなくてわたし泣きそう。
「ハイ!ここで一つ、皆様には問題があります」
「なに?雷鼓」
「私たちには一つだけ足りないものがあります。なんでしょーか?」
え?そんなのってある?演奏は普通にみんな本業なだけあって上手いし、方向性もしっかりしてるよ?
うーむ…
「分かったわ」 「はい、弁々選手」
「バンドの名前よ」 「ごめいと〜う」
普通に忘れてた…。
私候補浮かばないけどどうしよう…。
「こういうのってどう名付けるものなのかしら。雷鼓、なんか例とかある?」
「そうだなァ〜、これは例で極端な名前にするから真に受けないで欲しいんだけど、『堀川雷鼓とライトニングビーツ』みたいな感じ?」
「成程そういうこと。最強の脳で完全に理解したわ」
なんか聞いてて心配になる物言いなのよね〜。
そんな事を考えていると義姉は自分の鞄の中から自由帳を取り出し、滑らかな手つきで何かを記入していく。
「出来たわ、複数作ったから一番いいやつを選んで頂戴」
「おっ、どれどれ〜?」
…
候補その一、ザ 沙羅双ズ
平家物語の有名な一文の中に出てくる沙羅双樹とかけたのね。
「前借りた外界の合奏譜に何ページかザで始まってズで終わる名前が載ってたのよ。なんか良さそうだったからそれの真似をしてみたわ」
「なんか1発目から意外といいの出してきててウケる、弁々のことだからもっと頓珍漢なのが来ると思ったよアタシ」
ページをめくって候補その二、飛行者天国
「これはただ響きが良かったからってだけで考えたわ。たかがなんとなく、されどなんとなくよ」
「わたしなら飛行者単体でもいい気がするなぁ。でもこれが一番コンセプト含めて好きかも」
「アタシは一発目の方が好きだなぁ」
「次が最後よ」
そしてさらにページをめくると、今までのとはテイストがだいぶ変わった名前が登場した。
「………地獄百三十六ヶ所巡礼…?何?コレは」
「妖怪ウケが良さそうな名前で考えたら浮かんだわ。ほら、最近地獄連中絡みの異変もあったじゃない?だからタイムリーなネタで面白いかなって思ったの」
ああ、そう…。
この名前だと長すぎて覚えて貰えないんじゃない?いや、インパクトもあるし案外…。
「実にサイケデリックだよねぇ、プログレッシブだよねェ」
この名前を出してからなんか義姉がギラギラし始めたし、雷鼓姐もなんかよく分からない事言ってるよ…。
…
さてバンド名はどうなったかというと、見事に三人全員が別のものを選んだ。雷鼓姐が一つ目、わたしが二つ目、義姉が三つ目だ。
「困ったわね、これじゃあバンド名が付喪神バンド(仮)なままになっちゃうわ」
「どうする?コレじゃずっと決まらんよね」
どうすればいいかな…。
くじ引きとかになるのかな?
そう私が考えていると意思が通じあったのか、義姉がこう言った。
「クジ引きで決めましょう。昔クジで将軍様を決めたってお話があったでしょう?それに倣うのよ」
「ナニソレ、アタシ知らない」
「わたしだって知らないよ、いつの時代の話だろ?」
ボソボソと小声で話す私らを他所に義姉は自由帳の使っていないページを小さくちぎり、そこに番号を1~3まで割り振っていく。そして何処かから小さい壺を持ってくると、クジを小さく折り曲げて中へと入れた。
「準備が出来たわ。八橋、貴女が引きなさい」
なんでこの人はそこで私に回してくるのさー!
責任重大じゃないのよ!
「わたしで良いの?引いちゃうからね?本当の本当に引いちゃうからね!!!」
「そういうのはいいからさァ、早く引いてよー」
ハイ。
九十九八橋
覚悟、決めちゃいます!
…
クジの結果は2番、このバンドの名前は私の推していた『飛行者天国』になった。
正直、どれもあの義姉が考えたとは思えないくらいにはイイ名前だったとは思う。
だってさ、正直九十九弁々と愉快な仲間たちみたいなのが来ると思ってたもん。雷鼓姐もそう言ってたし。
「じゃあ、この名前で返事出していいかな?」
「大丈夫よ。頼めるかしら?」
「任された!」
こうして我々のバンド・飛行者天国のデビューライブが決まり、各々はやる気に燃えるのであった。
…
そしてついにその日はやってくる。
リハーサルのために夕方4時半過ぎくらいに香霖堂へ到着し、オファーをくれた霖之助さんと音響担当の河城にとりさんに挨拶をする。
ちなみに対バン相手は前に騒ぎを起こした時に巻き込んだらしい鳥獣伎楽の二人と、あまりよく知らない弾き語り系をやってる里の人が二組で、自己紹介の後にお互い頑張りましょうねとか他愛のない話をした。
私達の出番は1番初め。後の出演者目当ての人とかにも聴いてもらえる可能性がある、絶好のポジションである。
この初陣、相手にとって不足なし!
セットリストの逆リハーサルも終わり、仮設で建てられた楽屋テントの中で、来たる本番に向けわたし達は各自精神統一を図っていた。
因みに、初ライブということでメンバー三人で片っ端から知り合いに対して声を掛けたため、有難いことにノルマは気にしなくても良さそうだ。
ひょっとしたら私らが一番お客さん呼んでいるのでは?八橋は訝しんだ。
目を閉じていると、段々と外が賑やかになっていくのがわかる。いくら楽器として数多の舞台を経験した身であれど、緊張感で身が震えるのは仕方の無いことだろう。
そう思っていると、スタッフの一人があと5分で始まるとアナウンスをくれる。
水を飲んだり髪型を直したりした後、私達はステージへとあがった。
私達義姉妹は新たな相棒である妖器達に力を流し込む。魔法の弦をそれぞれが張った後、妖力で生成した縄でアンプとの紐付けを行い、楽器のチューニングを行う。未知なる力を目の当たりにした人間のお客さんたちはその時点でおお…と言葉を漏らしていた。
調律のついでにステージ上からお客さんを見てみると、行けたら行くという返事が返ってきて期待してなかったものの、本当に来てくれてる人達も見えたので後でお礼を言うことにしよう。
ただし前科者の私達を見張る為か、大きなイヤーマフを着けた稗田阿求さんと慧音さん、そしてその隣にいる紅いモンペを着た人が最前列から鋭い眼光を飛ばしてきているのは無視することにする。
準備は整った。
黒眼鏡を掛けた二人と目配せをしたあとに私は息を吸いただ一言だけ言うのだ。
『こんばんは。飛行者天国です』
と。
…
このバンドでの初めてのライブ、正直に言って大成功だった。
最後に演奏した『地獄百三十六ヶ所巡礼』
そう、あのバンド名候補であった名前が冠された楽曲である。
このまま没にするなんて勿体ない…勿体なくない?と雷鼓姐が何度も言う為、いっそそれなら曲名にしちゃおうよ!といった流れで流用されたのだ。
義姉曰く『ビビッときた』という、6/4拍子と5/4拍子を交互に行き交う渾身のリフに、かつて姉妹で無茶をした時の鬼の威圧感を思い出しながら私が詩を書いたこの曲は、雷鼓姐曰くプログレッシブなロックそのもの。
1つ前に演奏した浮遊感のある曲で貯めに貯めた余韻の後、この曲で一気に力を解放することで、三人で弾いているとは思えない厚みのある内容となっている。
私の妖力で音色を歪みに歪ませた轟音のギターソロ、義姉による守谷の白蛇のようにうねるベースライン、雷鼓姐の『何でもリズムに乗らせる程度の能力』も相まって聴く人を釘付けにするビート。三人の持ち味が歯車のようにガチリとハマったこの曲は、どうやら好き嫌いはわかれたものの、聴いていた人達には確かな印象を残したようだ。
…
出番を終えて仕事道具をしまった後、次の出演者を見る為に客席側へと行くとまず近寄ってきたのは魔理沙だった。
「三人ともおつかれ!滅っ茶苦茶カッコよかったぞ!!!特に最後のやつ!アレはなんというか、ヤバいな。まさか初陣のバンドの演奏でここまで心に来る曲を聴けるとは思わなかったぜ…」
と興奮した様子で捲したてる。
「ありがとう魔理沙。そう言って貰えると励みになるわ!」
「また次のライブが決まったら声掛けてくれよな!今度は友達二人にも聴かせたいからさ!」
そう言って魔理沙は客の立見席へと戻って行った。
「褒められたわね、八橋」
「そうね、義姉さん」
そう言っていると、まさかの人物が目の前に現れた。
その人物とは最前列で鋭い眼光を飛ばしていたあのモンペの人だ。この人の身体から溢れ出る妖力の強さに怖気付いてしまい、私達義姉妹は一歩後退りする。が、一人怖気付くことなく雷鼓姐が、
「妹紅!来てくれたのね!」
と言ったことでアレ、もしかして雷鼓姐の知り合い?となりわたし達も警戒を解くことになった。
…
「なんだぁ、慧音さん達と一緒に来てたから完全に公安関係の人かと思ったよ。私は九十九八橋、こっちは義姉の弁々です。よろしくお願いしますね」
「ああ、宜しく。私は藤原妹紅だ。
私はプリズムリバー楽団が好きでよくライブを観に行くからさ、その関係で雷鼓ちゃんとも仲がいいんだよ」
「ところで雷鼓ちゃん、あの最後に演奏してた曲ってどっかで聞き覚えがあるんだが…、あの時飲んでた時の騒音と似ていなかったか?」
「うん、そうだよー。実はあれ弾いてたのこの二人だから。弁々曰くビビッときたらしくて、アレをちゃんとした曲にしたんだよ」
「だから最後慧音達二人の顔が曇ってたのか…合点がいったよ」
「……しかし、何だかお前達の血気迫る演奏を聴いていたらさ、激情のなかでどこか懐かしい気持ちが浮かんできたんだ。
それで、かつて私が幼少の頃を過ごした大和の都の景色や思い出を思い出したんだ。まぁあの時は色々嫌なことはあったが、それだけじゃあない。楽しかったこととかの思い出もな」
「疫病や政情不安、輝夜とかの様々な脅威のある時代を見て育った私が、今の平和そのものな幻想郷で過去を見つめ直せる貴重な時間だった。
雷鼓ちゃん、誘ってくれてありがとう」
そうぽつぽつと感想を零す妹紅さんからは確かな温もりが感じられた。
…
私、自我が芽生えてからの自分の演奏にこんなしっかりと感想言って貰えたのなんて初めてかもしれない。
いつもなんて集会所のおじいちゃんおばあちゃんに
「お嬢ちゃんたちはこんな所で腐らずにやってて偉いねぇ」
としか言われたことないもん。
いや、それはもちろん嬉しいよ?
けどさ、その人たちから見た私たちって結局のところ祖父母と孫みたいな関係であって、
『魂震わされて危うく召されるところだったわい!』
みたいな感想は言ってこないんだよね。
そして今日のライブよ。
いや〜、私達、やれるな?かなり。
結局、終始浮ついた気持ちのまま他の出演者達の演奏を観届けることとなった。
その後、精算時のギャラという言葉に義姉妹で酔いしれなるなどしつつ、我々三人は終了後の打ち上げで泥酔するまで飲んでしまったせいで皆自宅に帰るのが困難となり、香霖堂の床で雑魚寝する事となってしまったことはここだけの話。
ありがとうございました。
うちの弁々はパフェって言えないと思う。
評価、お気に入り登録、ここすきなどお待ちしております。