前回の後編的なものです。
この姉妹、嵐を呼ぶな?
「その理由は私が説明します!」
『!?』
「あら、八橋。どうしてここに?」
「義姉さんの機材がひとりでに飛んで行ったのが怖かったから、来客の対応したあとスグにソレを追ったのよ!」
「あら、ごめんなさい」
「レミリアさん、弾くにあたって教本とかは読みましたか?」
「読んだわ。これよ」
そう言って彼女が取りだしたのは、バンジョーの教本。聞けば十六夜さんが鈴奈庵で借りてきたんだそうだ。するとソレを見た八橋は急にテンションのギアをあげる。
「やっぱり!!! そうとしか考えられなかった! この前行った時に無くなってたもん!」
「えぇ!? そんなのよく気づくわね!?」
「だって、その教本とスティールパンの教本、ギロの教本はこの幻想郷にある限り、鈴奈庵では一生貸出されないであろう呪いの三冊だったんですよ。その内の一冊が無くなっていたので、かなり困惑したんです!」
「酷い言い草ね! 牧歌的なのが好きなやつ*1だっているかもしれないじゃない!」
やっぱり私達義姉妹と相性がいい気がするわ、この子。多分八橋も同じこと考えている筈。
そんなことを考えているうちに、いいですか、その親指に填めるのではなくて、これを使うんです! と言って八橋がカバンに入ったケースから取り出したのは1枚のピック。
「ちょっと借りますね! お二人も着いてきて下さいよ!」
そう言ってギターを受け取ると、八橋は完全に自分の世界に突入しながらイントロを弾き始めた。Aメロに入る前にピックスクラッチを決める余裕すら持ってて、なんなの今日のこの子は。
「八橋! こんな曲初めて聞いたわ! どこで知ったの?」
「外の世界のギタリスト達の記憶から流れてくるんだよ! このギターを持ったらコレを弾けってね!」
ポカーンと口を開けながら八橋の事を見つめるレミリアちゃん。今までバンジョーの弾き方しか知らなかったのにこんなの見せられたら脳が化学反応起こしてしまうんじゃないかしら。
そんなレミリアちゃんの横にたった十六夜さん……いや、咲夜さんも思わず顰め面。私達、また退治されるとかないわよね。
……
「八橋、もういいわ」
「……あ、もう大丈夫!?」
「そこの二人の顔みて何も思わないならまだ弾いていいわ」
「───あっ、止めます」
八橋が慌ててボリュームを絞ると、レミリアちゃんが近寄ってくる。
もしかして天誅タイム来ちゃうかしら、これ。
「痛いのだけは勘弁を!」
「……かっ、かっこよかった……」「え?」
「……ねぇ八橋、私にギターを教えてくれない? もちろん報酬は払うわ」
「えっ、ええ!? 私が、レミリアさんに?」
「えぇ、そうよ。だって私、ピアノは弾けるけどこれについてはからっきしだもの」
レミリアちゃんからの唐突なお願いに驚いた八橋が私の傍にすすっとよってきて、耳元で相談してくる。
「……どうしよう、義姉さん。嬉しいけど私にそんなの務まるかな」
「出来るわよ、多分。なんとかなるわ」
「ほんと楽観的なんだから義姉さんは……お願いされる私の身にもなってよ」
「大丈夫よ。レミリアちゃんはいい子だし、咲夜さんも優しい方よ」
「そっかー……よし」
そう言って八橋はレミリアちゃんに向き合い、面と向かってやりますと宣言した。それを聞いたレミリアちゃんは腕を組みながらうんうん、これも運命の通りね! とご満悦の表情。
これは一体、どういう事なの? と思いながら見ていると、咲夜さんが色々と解説してくれる。どうやら、レミリアちゃんには運命を操る程度の能力というものが備わっており、彼女の中で余裕がある限りその辺の事はちょちょいのちょいらしいのだ。ただ本人の余裕が無くなると、ただでさえ細分化されている運命を弄るのに手間取るため、勝負の際などになにかイレギュラーが起きると普通に負けるらしい。なんか、可愛いわね。
確かに、それくらいのバランスじゃないと今頃幻想郷は赤い霧で満たされてるわよね。
報酬の話をされペコペコする八橋をみてこういう時に、あの吸血鬼に教えを請われた! って調子に乗らないのが謙虚な彼女らしいわね〜と思った。
私? 私なら多分調子に乗って怒られると思うわ。なんで自分でわかってるのにそれするの? って? そういう性分だからよ。諦めなさい。
「あっ、義姉さんが宇宙と交信する時の顔してる」
「宇宙!? 月に知り合いでもいるのかしら?」
「いや、いませんけど……。てか、かぐや姫のお話じゃないんだし、月に生き物なんているんですか?」
「「……」」
え、何? なんで黙るの? と困惑する八橋に対して、優しいお義姉ちゃんである私が教えてあげる。
「あら、八橋。永遠亭の永琳先生や輝夜さんは元月人よ? なんなら輝夜さんはかぐや姫そのものだしね」
「え゛っ! し、知らなかった……」
「幻想郷に住んでてそれを知らないことってあるのね」
「私たちあまり体壊さないから向こうと関わる機会がないのよ」
(バカは風邪をひかないって思われてたらどうしよう……)
(バカは風邪をひかないってやつなのかしら……)
……
「そういえばレミリアちゃん。来た時に言っていたバンドを組むってのはどうするのかしら?」
「そうよ! 私としたことがすっかり忘れてたわ。この紅魔館の住民たちでバンドを組みたいの」
「ですがお嬢様、私含め楽器経験のある者はほぼおりませんよ。記憶の限りだと、昔美鈴が二胡を弾けると言っていたくらいしか……」
「美鈴にはドラム叩かせたいのよねぇ」
「なんですかその拘りは……」
「……二胡なんて渋いわね。八橋」
「そうね、かっこいいわね。義姉さん……じゃなくてそうだ、もしベース担当になる人がいたら義姉さんも教えてあげなよ!」
「私が?」
「えぇ? 知ってる人ならまだしも、知らない人になったら私怖くて教えられないわ」
「なら咲夜、貴方がベースを弾くのはどうかしら」
「えっ……私がですか?」
「そうよ。アナタならドラム候補の美鈴と一番仲がいいわけだし、適役じゃない」
「なっ、仲がいい!? ……ゴホン、お嬢様のご命令とあらばそれに従います」
「決定ね。ベースはあの時一緒に買った黒白のを使えば良いわ」
「あっ、あのベース! 義姉さんが香霖堂の蔵で見つけたヤツだよ!」
「たかだか数ヶ月前とはいえ、懐かしいわね。巡り巡ってこんな所でまた再会することになるなんて」
「咲夜さん、絶対似合うよ!」
「そうね、似合うと思うわ」
「そ、そう? 2人がそんなに言うなら満更でもないわね……」
「私が育てます。見てなさい八橋」
「こっちだってレミリアさんを最強のギタリストに……ってあれ、だとしたらさ、誰が歌うの?」
『…………』
沈黙に包まれる部屋。その静寂を破ったのは、先程私が雑に開けて怒られた扉からだった。バンッと音をたて開いた扉の先にいたのは、レミリアちゃんにそっくりな女の子。
「私の出番なんじゃない?お姉様!」
「フラン!? どうしてここに?」
「なんか普段聞かない音が沢山聞こえてきたから来てみたんだよ!」
「新手登場ってヤツね」
「そうね、義姉さん」
フランと呼ばれたその子は天真爛漫に振る舞い続けている。姉に対するフランクな話し方とは裏腹に、ちょっと背筋が伸びるような、そんな気配が漂っているけれど。
「あら? 貴方たち……もしかしてお客様?」
「えっ、ええ……」
「私はフランドール・スカーレット! レミリアお姉様の妹よ。フランって呼んでね!」
「私は九十九弁々よ。こっちは義妹の八橋。2人とも楽器の付喪神よ」
「へぇ〜……ねぇねぇ、私がボーカルやっても大丈夫かな?」
「アナタの歌を聴いたことがないから分からないけど、破壊的な音痴じゃなければ大丈夫だと思いますよ!」
ピクリ……ととがった耳が動き、ふーん……という一言の後、フランちゃんはピッとスペルカードを取り出す。
『禁忌「フォーオブアカインド」』
いきなり弾幕ごっこ!? と身構えつつ目を開けると、4人に分身したフランちゃんがいた。
そして、本体であろう一人が合図を出すと、他の三人が頷き、
「フランちゃーん」
「「フランちゃーん」」
「「「フランちゃーん」」」
「「「「フランちゃーん」」」」
『フランちゃーん』
と、綺麗なコーラスワークを見せてくれたので、私は拍手する。横で八橋がコレやるだけな割には前振りがちょっと怖かったよ!? と突っ込んだのに対してフランちゃん達はというと、
『そっちの方が面白くない?』
「笑えないよ!」
あっ、やっぱり四人全員同じ意見なのね。
……
紅魔館バンドは、ボーカルがフランちゃん、ギターがレミリアちゃん、ベースが咲夜さん、キーボードがパチュリーさん、ドラムが美鈴さんという割り振りで決定したようだ。
メンバーが集められてアナウンスされた時、パチュリーさんは
「図書館に1冊くらいはリッ〇ーミュージックの教本がある筈だわ」
と言って去っていき、美鈴さんは
「絶対背中側に銅鑼置かせたかっただけですよね!?」
と泣き顔になっていたので、きっとそうだと思うわ。と便乗しておいた。
……
目的を果たしたしそろそろ帰るわと伝えると、レミリアちゃんと咲夜さんがエントランスまで見送ってくれた。
「二人とも、今日はありがとう。二人の力がなければここまで順調に進まなかったわ」
「こちらこそ。友人が増えて楽しかったわ」
「まぁ私は途中から乱入しただけだけどね〜」
「約束の練習日になったらまた宜しく頼むわね」
「私からもよろしくお願いします」
と二人が行ってきたので、私たちは綺麗なサムズアップを見せて紅魔館を出た。
「義姉さん、この後の予定は?」
「まだ時間はあるし、当初の目的の続きをするわ。八橋は?」
「私は雷鼓姐に美鈴さんの練習相手になって貰えるか聞いてこなきゃかなぁ」
「分かったわ。……あっ、不味いわ八橋。ベースを紅魔館に忘れたわ」 「えぇ!?」
「いや、でも大丈夫よ。念じれば家に帰ってくるハズだわ」
「大丈夫かなぁ……」
レミリアの部屋にて
「バンドでボーカルやれるなんて嬉しい! 大好きな美鈴とも一緒だしね!」
「そ、そうですね。フラン様……」
(私に出来るのかなぁ……)
「あら、二人とも。まだここにいたのね」
「お姉様! 美鈴もやる気だし皆で頑張ろうね!」
「えっ!あっはい!」
「ふふっ、そうね」
そんな会話をしていると、突如として弁々の持ってきた機材がカタカタと震え出す。
「お二人共、下がってください!」
「な、何!?」 「あ〜……」
「美鈴、扉を開けて貰ってもいい? バルコニーのも扉もよ」
「……? わかりました」
美鈴が警戒しつつ扉を開けていくと、ルートを見つけた機材たちがふわふわと飛び始め、やがてバルコニーから外へと出てそのままゆっくりと空を漂っていった。バルコニーの扉を開けたことで、外からの外気がありのままの状態ではいってくる。
「うっ、寒い!」「もういいわ、閉めましょう!」
「は、はい! わかりました!」
「お姉様、アレは?」
「多分、此処を出てから道具を忘れた事に気付いて、家に帰るよう命令したんじゃないかしら……。アレ、怖いから今度からはちゃんと持ち帰って欲しいわ」
……
あの後、八橋と別れて中有の道で弾き語っていたら休暇中の閻魔様と出くわし、
「貴女のバンドの楽曲*2! あの曲は一体なんなんですか!!! 閻魔に対して不敬極まりないですよ!」
とガミガミ怒られたり、帰りに通った太陽の畑ではありえないくらいの気配を放つ風見幽香さんに見つかり、殺される! とビビっていた所、『ねぇ、貴女って最近話題のバンドのメンバーよね? 私貴女のバンド好きなのよ』と言われてそのまま自宅に招かれ、偶に里で見かける人形遣いのアリスさんと一緒にお茶させてもらったりした。
実は夏のサンフラワーフェスに出たくて活動してるんですという話を彼女に聞かせると、
「へぇ、そう言ってくれたミュージシャンは貴女が初めてだわ」
と嬉しそうな返事が返ってきた。
そんなやり取りを横で見ていたアリスさんに、
「幽香、アナタそういう顔出来るなら普段からそうすればいいのに」
と言われ、幽香さんは馬鹿、それじゃ弱い奴らに舐められるでしょう? と言っていた。
帰った後にひょっとしたら私、もしかして最強の妖怪の一人に認められてるのかしら? と八橋に聞くと、よく五体満足で戻れたね!? と仰天していた。
……
「義姉さん、今日は外に飲みに行かない?」
「また急ね。どうして?」
「義姉さんと別れた後の帰り道、家の前の通りで眼鏡のお姉さんが話しかけてきたのよ。
ひとつ隣の通りに鯢呑亭ってあるでしょ? 夜の此処は楽しいぞってその人に言われてさ。どう? 行ってみない?」
「あらそうなの。折角教えて貰ったなら行ってみましょうか」
二人で家を出て店を目指すと、確かに周りの店が店じまいする中、暖簾をかけている呑み屋があった。
こんな時間に営業するなんて中々ね。と言いながら私たちは中に入ると
「いらっしゃいませー! 蚕喰鯢呑亭へようこそ!」
「こんばんはー、二人なんですけど」
「九十九八橋さんですね! お待ちしておりました!」
『え?』
「八橋アナタ、予約してたの?」
「いやいや、してないよ! 初耳なんだけど!」
と言った感じで、何故か予約済みのような扱いを受けており、何これ? と困惑していたところ眼鏡を掛けた女性がちょいちょいと手招きしているのが見えた。
とりあえず行ってみると彼女が話しかけてきた。
「やぁやぁ諸君、妹の方は夕方ぶりじゃな?」
「あれ、あの時話しかけてきた人は着物姿で髪が長かったような……」
「───そのおぬしに話しかけた人とやらはこんな姿じゃったかな?」
そう言ってドロンと煙をたてると確かに夕方に話しかけてきたあの女性がいた。女性はニヤニヤと笑いながら
「お主らは化かしがいがあって面白いのう。儂は化け狸の二ッ岩マミゾウ。この姿は人里で紛れるための姿じゃ」
「おお〜! そうだったのね!」
そんな調子でぽんぽんと変化を行うマミゾウさんに二人で拍手していると、カウンター席のほうからちっちゃい人がやってきた。
「おうおう、マミゾウが珍しく舞い上がってるから気になってきてみたら、横に居るのはいつかの嬢ちゃんたちじゃないかぁ〜?」
「ぎえええ! す、萃香さん……! あの、その節はどうもご迷惑をおかけ致しました!!!」
「そんな怯えなくたっていいだろ? 人に忘れられた存在だった以上、他の人ならざる者にも忘れられてたってだけだからなァ〜」
「ひいいいいい」
八橋、めっちゃトラウマになってるわね。まぁ、それもそうか。ちっちゃい癖に大口叩くからって二人で舐めてかかったら鬼で、弾幕勝負で手も足も出ない程にやられたんだから。
「姉ちゃんの方も元気そうじゃあないか、アッハッハッハッハッ!」
「えぇ、お陰様でね」
「お前ら、なんか新しい取り組みしてるよな? 私も聴いたんだが、あれは良いな! 正直騒霊達の曲の何倍も好きだぞ!」
「ははぁー! 恐悦至極にございますー!」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。でも、プリズムリバー楽団もいい曲揃いよ」
「……お主半月ほど前に雷鼓にも同じこと言っておったぞ。言っておくがヤツはプリズムリバー姉妹ともやっておるからな。お主にそう言われて大層気まずそうな顔をしておったわい」
ああ、可哀想な雷鼓。
そのあとに伊吹瓢の餌食になったのね。
「あの、先に注文しても大丈夫かしら?」
「おう! 好きなもん食えよ!」
放心状態の八橋は置いといて、とりあえず年越し蕎麦、ワカサギの唐揚げ、枝豆、どて煮、熱燗2人分を頼んだ。
「今の時期はワカサギの旬ですから美味しいですよ〜!」
「美宵〜、私にも熱燗くれー」
「はーい!」
少し待つと頼んだお酒と枝豆がやってくる。
「それじゃあ〜、うーんなんだ? そうだな……お前ら姉妹との再会を祝ってかんぱーい!」
『カンパーイ!』
萃香さんの締まりのない音頭で唐突な忘年会もどきがスタートした。……萃香さんがよそに気を散らしてるあいだに水も貰わないとね。
……
しばらく飲んでたべてやいのやいのやっていると、
「あっ、おいかせーん! こっち来なよー!」
「ハァ、しょうがないわね……」
朝の甘味処で隣に座っていたあの人が現れた。
「あっ、貴女は朝の!」「あら、おやつの人」
「変な呼び方するのはやめてください!!」
「なんだー? オマエら知り合いか?」
「いや……」「朝甘味処で琵琶を弾き語りした時に隣に座ってたのよ、この方」
「アレは、出られなかったというか、なんというか……」
「仙人サマも甘味処なんて行くんだねぇ〜」
「ッ……」
「まァ、呑もうや。お前さんはコレでいいだろう」
そう言って美宵さんが持ってきた空の升に伊吹瓢で注ぎ始める。
あんなの飲んで大丈夫なのかしら……。
……
八橋が潰れ、マミゾウさんが賭場で有り金を全て溶かした者の顔を見に行った頃。
まるで計算していたかのように華扇さんの頬がほんのり赤くなり始めたタイミングで、それを確認した萃香さんが華扇さん来店時の話題を掘り返してきた。
「なぁ、弁々。お前が甘味処でやった演目はなんだったんだ?」
「羅生門よ。歌舞伎とかでもやられる演目ね」
「……ほぉーう? 詳しく聴きたいなぁ〜?」
「……え? ちょっと! 萃香アナタ止めなさい!」
「渡辺綱に腕を斬られた茨木童子がそれを取り戻そうとする話ね」
「おいおい、綱なんて懐かしい名前じゃないか。なぁ華扇?」
ニヤニヤが止まらない萃香さんとは対照的に、焦りからか冷や汗をかく華扇さん。この二人にも三天狗的な腐れ縁があるわね。付喪神最強ブレインで素早く分析完了したわ。
「弁々、お前は前に妹と一緒に私に弾幕勝負を挑んだよな?」「えぇ、そうね」
「そして、お前達は負けた。この私、酒呑童子にな」「えぇ、確かに負け…、!? まさか」
「そうだ! コイツは私の「はいはい、そこまでにしましょうね」
仁王立ちで何かを言おうとした萃香さんは突如開かれた空間のスキマへと消え、残されたのは朝の甘味処コンビのみ。暫くの沈黙の後、華扇さんが重い口を開く。
「……あの」
「……今日は忘年会よ。ここで起きた事は呑んで全て忘れましょう」
「そうですね……そうしましょう!」
そう言うと、なんと華扇さんは萃香さんの置き土産である伊吹瓢に口をつけ、信じられないほどにがぶ飲みし始めたので、私も私で最強の付喪神として負けてられないわ! とそれを奪い、グビグビ飲んで対抗することした。
暫くすると、また空間のスキマが開き、ボロ雑巾のようになった萃香さんが降ってきた。
「グエッ! 痛ってぇ! 紫のヤツ、冬眠中じゃないのか……」
こうして、そんな調子で私たち二人はベロンベロンになるまで呑み続け、やがて全てが可笑しくなってしまい、近くの人の声が変だというだけで二人でゲラゲラと笑い続けている間に年を越した。
会計を済ませ、潰れた義妹を背負って家へと連れて帰り、私は死んだように眠った。後日、昨日あったことが思い出せないくらいの二日酔いに襲われ、やられたわね…と思いながら目が覚めたと同時に、義妹から新年明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!と言われたことで、私の長い冒険の1日は幕を閉じ、新たな年の始まりを肌に感じるのであった。
ありがとうございました。
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