『毒! 飲まずにはいられないッ!』   作:稲荷寿司

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・藤襲山 ②

 

「あ……ァ、あ……」

「おぃおぃ、もう動けねぇのかぁ? 日の出まで、まだまだ時間はたっぷりあるぜぇ?」

 

 『殴殺した』と言っても、基本的に鬼は不死身である。()()()()()、全身をバキバキのグチャグチャになるまで粉砕しても……鬼は、死ぬことができない。

 ──では、何故「鬼狩り」などという組織が存在できているのか。彼らはどうやって、鬼を殺すのか。

 

 答えは日光。

 正確には「日の光が染み込んだ刀」で頸を斬ることにより、鬼狩りは不死身の鬼を殺傷せしめるのだが……まぁ今回の場合、本当に日の出が来るまで相手を釘付けにしていては自分も死ぬし、少女の刀を借りるのもナシだ。……「刀」を使うくらいなら、俺はコイツと一緒に焼け死ぬ方を選ぶだろう。

 

 ここで重要になるのは、とにかく「真正の不死」ではないということ。

 

「ゅ……ゆる、して……。ころ、して。くれ……」

「──言ったな?」

 

 牙を剥き出しにして嗤い、そのまま大口を開け──俺は同族の頭蓋骨を、噛み砕いた。

 

『────』

 

 すると再生が停止し、周囲が静かになる。

 

「カカッ、クカカカカッッ!」

 

 これが、鬼を殺す第二の方法。即ち「捕食」である。

 俺達鬼は、血によって生かされている。始祖たるお方の、偉大なる力が──我々を、不死身の生物たらしめているのだ。

 だからこれは、単純な話。その根源を奪い取ることができれば、鬼の再生力は失われる。

 

 ──まぁ、俺にとっては相手の生死なぞオマケに過ぎないのだが。

 

「あァ、コレだよコレコレ──久々の感覚だぁ、やっぱりたまらないねェ、身体を蝕む()()は!!」

 

 この頃はどうも、藤の花や雑魚鬼の血液程度じゃ満足できない身体になっていたからなぁ……久方ぶりのご馳走にありつけて、俺的には大満足だ。

 ……が、

 

「…………!!」

「あ゛ー……そうだなァ、子供の前で見せるような光景(モン)じゃねェわなぁ。コレは」

 

 また失敗してしまった。人間だった頃は知らないが、少なくとも今はもう……ずっと一人で。子供の面倒なんて、しばらく見ていなかったから。少し油断すると、すぐツレの存在を忘れてしまう。

 

「悪ぃ悪ぃ。こっちの用事は済んだからよぉ。次はちゃぁんと、お前に向き合う番だぁ」

「──ヒッ」

「カカッ、そう怯えるなよなぁ……俺ぁ純血の人間に興味はねェからよぉ。拾ったからにはしっかりキッカリ、テメェの家まで送り返してやるからなぁ」

「──ゃ、やめ──……ぇ?」

 

 抱き上げられた少女は、初めこそ抵抗しようともがく様子を見せたが……俺が本当に「ただ運んでいるだけ」だと理解すると、困惑した様子で口を開いた。

 

「せ、赫貍(せきり)──さんは。どうして、私を……?」

「言わなかったかぁ? 俺ぁ基本的に、純血の人間にゃ興味がねェのよ。それが弱者なら、尚更なぁ」

「……あなたは、『強くなりたい』の……?」

「あァ。……それが『どうして』だったかまでは、思い出せねぇんだけどなぁ」

「……そう」

 

 それからしばらく、俺達は無言で歩いていた。

 再び少女が口を開いたのは、会場の外──藤の花が見えるようになった時である。

 

「……ありがとう、赫貍さん。ここまででいいよ。後はなんとか、自力で帰るから」

「その折れた両脚でかァ?」

「うん」

「腕だって両方折れてんのに、どうやって動くつもりなんだぁ? テメェはよぉ」

「…………死ぬほど頑張れば、なんとかなるよ。人間は」

「死ぬ時ぁ死ぬだろ。鬼ですら」

 

 そう言って俺は、狂い咲く藤の花道へ足を踏み入れた。

 

「……!」

「カカ。やっぱもう効かねぇなぁ。(クセ)ぇだけの(うっす)い毒じゃぁよぉ」

 

 とは言え、夜明けが近い。山を出たら、先を急ぐ必要があるだろう。

 

 ────まァ存外に「強い」娘である様子だし、少しばかりの負荷は問題ないと信じよう。

 

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