『毒! 飲まずにはいられないッ!』 作:稲荷寿司
「──いやぁ、助かったぜぇ鱗滝サン!
「…………うむ」
カカカ。天狗面で表情は見えねェが、『つい、招き入れてしまったな……』『どうした、ものか……』という空気が全身からビンビン出ていやがる。──油断の無い、強者の気配と共に。
「……
「あァ、そうだなぁ」
「真菰を。娘を生還させてくれたこと……親代わりとして、先ずは礼を言おう。感謝する」
そう言って老人は、深く頭を下げた。……ふむ。この目が蒼い少女は、
「……だが儂は、鬼殺隊の剣士でもある。鬼を、人を喰う存在を……野放しには、できない」
「だろうなァ」
「──まッ、待って鱗滝さん! 赫貍さんは、人を食べない鬼なの!」
「あァ? いや、
「──え?」
「いや、そんなに驚くことかぁ?
「そ、それは……」
「…………
「構わないぜぇ、その条件でよぉ」
そうして俺は、何とも言えない表情で義父を睨む少女を尻目に寝転んで──
「──……?
「……それがどうしたの」
「……真菰。そう怒るな」
「怒るよ。……だって、赫貍さんは……私を、助けてくれたのに」
「…………真菰。儂の鼻が
「……うん」
「儂には、臭いで
「…………うん」
「──だが確かに、他の鬼とは違うのも事実らしい」
「……?」
「普通の鬼には、本来『眠る』という機能が無い。不死身である彼らは、肉体が休息を必要としていないからだ」
「──でも、赫貍さんは今『眠っている』」
「あぁ。……それに、臭いそのものも奇妙だ」
「それは、どんな風に?」
「矛盾しているようだが、
「???」
「……通常、鬼の強さは人を喰った数に比例する」
「うん」
「そして鬼は、人を喰らった数に応じて悪臭を放つようになる」
「……? うん」
「だが、赫貍は……悪臭を発していないにも関わらず、強い鬼特有の空気を帯びている」
「……?? それって、どういうことなの?」
「……わからない。長年隊士として、鬼と戦ってきたが……このような臭気を発する鬼とは、一度も出遭ったことがない」
「……じゃあ、斬らない?」
「……あぁ。その一点に於いては、約束しよう」
──明かりが灯る、独特な音。
「ん……もう夜かぁ」
「……あぁ」
「案ずるなよなぁ、約束ぁ守るからよぉ──世話になったぜぇ」
「──待て」
「? どうしたよぉ」
「……今までに喰った、人間の数を……お前は、言うことができるか?」
「あァ……? あ゛ー……成りたてで最初に喰った同族が一匹。んでそのあとは、すぐに山送りにされたから……ひぃ、ふぅ、みぃ──」
「……もういい。質問の仕方を変える。──お前は今までに、
「あ゛ぁ……? なんだってんだぁ? さっきからよぉ、ワケのわからねぇ質問ばかりしやがって──返答次第じゃ、今この場で叩き斬るってぇのかぃ?」
「──鱗滝さん?」
「…………」
「キヒヒ。真菰だったかぁ? 育ての親を、そんな眼で見てやるなよなぁ。そいつぁ何も、嘘ぁ言ってねぇんだぜぇ?」
「……どういうこと?」
「そいつぁ初めから、
「……鱗滝さん?」
「…………」
「ねぇ、ウソでしょ? 何か言ってよ……!」
「クケッ。イイぜぇ?
「……貴様が
*
明治コソコソ噂話
赫貍を捕えた鬼狩りは、『酔っ払いのクセにやたら強い金髪の剣士』だったらしいぞ。
ただし終盤は油断を突いて刀をぶっ飛ばし、殴り合いの泥試合になっていたらしいぞ!!
……え? そんなヤツが藤の山送りで済んだ理由?
知らねぇなぁ。本人に聞いてくれやぁそんなこたぁよぉ……。