『毒! 飲まずにはいられないッ!』   作:稲荷寿司

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vs鱗滝左近次②

 

 大仰に、一歩。玄関から外へ踏み出でる。

 

「──ケケ。律儀なこってぇ……背中は狙わなくてイイのかぃ? ご老人」

「……そのような真似をするくらいなら、寝ている間に頸を()ねている」

「カカッ。違いねぇ……。なら俺も、相応の『礼』ってヤツを返さなきゃぁならねぇなぁ?」

 

 二歩。三歩。小屋から距離を取っていき──ある程度距離を取ったところで、血鬼術を発動する。

 

「術式展開。地獄門・羅刹」

 

「────」

(害意の臭いがしない。これは……?)

 

「誓ってやるぜぇ? 俺ぁなぁ、『約束』を守ると決めてるからよぉ……耳かっぽじってよぉく聞けぇ。

 ──自戒をここに。この俺、『()()()()()()()()()()()()()()()』と宣誓する。安心して表ぇ出なぁ」

 

「…………」

 

 ここまでして、ようやく老人は少女の側を離れた。……動きに迷いがない。『宣誓』が本物だと察しているのか。おそろしく感覚が鋭い老人だ……。

 

「──鬼殺隊、元水柱。鱗滝左近次」

「カカ。野良鬼、ただの赫貍だ」

 

 抜刀前に名乗りをあげるたぁ、本当に律儀なヤツだぜぇ……。俺が「名前」を媒介にする血鬼術の使い手だったらどうしてたんだぁ……? つーか実際、目の前で「使って」みせたばっかりなんだがなぁ……。

 

「バカなヤツだぜぇ」

「貴様の術が名前を媒介にするのは理解した。──その上で、問題ないと判断している」

「……カカ。まぁ、アンタ相手にそんな真似──勿体なくってできねぇからなぁ!!」

 

 やるなら当然真っ向勝負。武人として、この男の「技」を観てみたい……!

 

 ──姿勢を低くして、まずは脚技でいく。

 

  ■■・脚式 飛遊星千輪(ひゆうせいせんりん)──

  水の呼吸 捌ノ型 滝壷・()

 

「……ッ!!」

 

 素晴らしい。老いを感じさせない、この反応。この膂力……!! 出鼻を挫かれたとはいえ、鬼である俺が()()()()()()になっているッ!

 

「……!」

(なんという硬度。脚でこれなら、頸は拾ノ型(生生流転)でなければ斬れんか……!)

 

「──カァァッ!」

「クッ……!」

 

 少し本気で力を込めて、刀ごと老人を蹴り飛ばす。次は体勢を立て直される前に──

 

  ■■・拳式 鬼芯八重芯(きしんやえしん)

  水の呼吸 参ノ型 流流舞い

 

「ハハッ、まさかその体勢から避けられるとはなぁ!」

「…………」

(腕は比較的、脆い。()()()──)

 

「──それに、斬撃まで貰っちまったぁ! 鬼じゃなけりゃぁ、既に負けてたなぁ! ()()()()()()()()なぁぁ!!」

 

()()()()()()()()か? 跳ばされた腕は、生やすのではなく回収して接着するか……)

 

  水の呼吸 拾ノ型──

 

「あぁ、()()はちとマズそうだなぁ!?」

 

  ■■・拳式 万葉閃柳(まんようせんやなぎ)・砕

 

「……ッ!」

(足場を崩された。まだ回転数を稼げていない段階で……!)

「──焦ったなぁ⁉︎」

 

  ■■・脚式 流閃群光(りゅうせんぐんこう)

  生生流転・ねじれ

 

「クッハ、これも斬り返すかぁ! 本当に凄いなぁ、左近次ぃ!!」

 

 初めて戦った鬼狩り──あの金髪も強かったが、左近次はそれ以上だ。ヤツほどの速度や怪力こそ無いものの、技量が段違いに高い上安定している。決定打には欠けている様子だが、それでも。こちらの方が余程恐ろしい。

 

「──最高だぁアンタ! 敬意を表するッ! 武闘家としてなら、俺はもう完敗だぁ──だがッ、忘れちゃいねぇよなぁ!? 赫貍としての俺には、()()()()()()()()()()()っつぅことをよぉ!!」

 

「……!」

(来るッッ、ヤツの〝血鬼術〟が──)

 

 

「『地獄の門よ。鏡と成りて、我が前に立つ者の罪を映せ』」

 

 

  術式展開 照魔鏡(しょうまきょう)浄玻璃(じょうはり)

 

 

 ──瞬間、左近次の天狗面が砕け散る。

 そして、脳裏に響く無数の『声』

 

 

『鱗滝さん』『鱗滝さん』『鱗滝さん!』

 

 

 少年の。少女の。活発な声。静かな声。喜びの声。悲しみの声。

 

「……そうかァ。アンタぁ、本気で()()()だと思ってたんだなぁ……」

 

 真菰から、『話』を聞いたのだろうか。それとも元から、薄々察していたのだろうか。……彼の弟子を付け狙う、異形のクズがいたことを。

 

「『代償』は……目の焦点が合ってねぇなぁ。()()()()()()()()()ってところかぁ?」

「…………」

「……ヤメだぁ。興が削がれた……アンタぁ娘と一緒に、静かな暮らしをしてりゃぁいいさ……」

「待て。儂はまだ戦えるぞ……!」

「そりゃぁ、そうだろうなぁ。アンタにとっちゃ、目はそこまで重要じゃねぇ……この『記憶』からして、()だなぁ?」

「…………」

「追いたいならぁ、追ってくりゃぁイイ。追いつかれたらぁ、俺ぁアンタにゃ勝てねぇさ……。

 だがよぉ、その間に()()()()()()()()()()()()しれないんだぜぇ……? それでもイイってんならぁ、好きにしなぁ……」

 

 

 ──走り去っていく俺を、左近次は追おうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 このあと赫貍は真菰に一言、『じゃぁなぁ。親父を大切にしろよぉ』とだけ言い残し去っていったらしいぞ。

 

 真菰はそのあと帰ってきた左近次の姿を見て、『鱗滝さんが素顔になってる!?』とびっくり仰天したそうな。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治噂話2

 

 鱗滝さんは結局、赫貍を()()()だと結論付けたの?

 

??『〝言わぬが花〟なことってあると思うし、私が代わりに。……彼は毒呑みの鬼を追わなかった。それが答えなんじゃないかな。──ね、鱗滝さん?』

 

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