『毒! 飲まずにはいられないッ!』 作:稲荷寿司
大仰に、一歩。玄関から外へ踏み出でる。
「──ケケ。律儀なこってぇ……背中は狙わなくてイイのかぃ? ご老人」
「……そのような真似をするくらいなら、寝ている間に頸を
「カカッ。違いねぇ……。なら俺も、相応の『礼』ってヤツを返さなきゃぁならねぇなぁ?」
二歩。三歩。小屋から距離を取っていき──ある程度距離を取ったところで、血鬼術を発動する。
「術式展開。地獄門・羅刹」
「────」
(害意の臭いがしない。これは……?)
「誓ってやるぜぇ? 俺ぁなぁ、『約束』を守ると決めてるからよぉ……耳かっぽじってよぉく聞けぇ。
──自戒をここに。この俺、『
「…………」
ここまでして、ようやく老人は少女の側を離れた。……動きに迷いがない。『宣誓』が本物だと察しているのか。おそろしく感覚が鋭い老人だ……。
「──鬼殺隊、元水柱。鱗滝左近次」
「カカ。野良鬼、ただの赫貍だ」
抜刀前に名乗りをあげるたぁ、本当に律儀なヤツだぜぇ……。俺が「名前」を媒介にする血鬼術の使い手だったらどうしてたんだぁ……? つーか実際、目の前で「使って」みせたばっかりなんだがなぁ……。
「バカなヤツだぜぇ」
「貴様の術が名前を媒介にするのは理解した。──その上で、問題ないと判断している」
「……カカ。まぁ、アンタ相手にそんな真似──勿体なくってできねぇからなぁ!!」
やるなら当然真っ向勝負。武人として、この男の「技」を観てみたい……!
──姿勢を低くして、まずは脚技でいく。
■■・脚式
水の呼吸 捌ノ型 滝壷・
「……ッ!!」
素晴らしい。老いを感じさせない、この反応。この膂力……!! 出鼻を挫かれたとはいえ、鬼である俺が
「……!」
(なんという硬度。脚でこれなら、頸は
「──カァァッ!」
「クッ……!」
少し本気で力を込めて、刀ごと老人を蹴り飛ばす。次は体勢を立て直される前に──
■■・拳式
水の呼吸 参ノ型 流流舞い
「ハハッ、まさかその体勢から避けられるとはなぁ!」
「…………」
(腕は比較的、脆い。
「──それに、斬撃まで貰っちまったぁ! 鬼じゃなけりゃぁ、既に負けてたなぁ!
(
水の呼吸 拾ノ型──
「あぁ、
■■・拳式
「……ッ!」
(足場を崩された。まだ回転数を稼げていない段階で……!)
「──焦ったなぁ⁉︎」
■■・脚式
生生流転・ねじれ
「クッハ、これも斬り返すかぁ! 本当に凄いなぁ、左近次ぃ!!」
初めて戦った鬼狩り──あの金髪も強かったが、左近次はそれ以上だ。ヤツほどの速度や怪力こそ無いものの、技量が段違いに高い上安定している。決定打には欠けている様子だが、それでも。こちらの方が余程恐ろしい。
「──最高だぁアンタ! 敬意を表するッ! 武闘家としてなら、俺はもう完敗だぁ──だがッ、忘れちゃいねぇよなぁ!? 赫貍としての俺には、
「……!」
(来るッッ、ヤツの〝血鬼術〟が──)
「『地獄の門よ。鏡と成りて、我が前に立つ者の罪を映せ』」
術式展開
──瞬間、左近次の天狗面が砕け散る。
そして、脳裏に響く無数の『声』
『鱗滝さん』『鱗滝さん』『鱗滝さん!』
少年の。少女の。活発な声。静かな声。喜びの声。悲しみの声。
「……そうかァ。アンタぁ、本気で
真菰から、『話』を聞いたのだろうか。それとも元から、薄々察していたのだろうか。……彼の弟子を付け狙う、異形のクズがいたことを。
「『代償』は……目の焦点が合ってねぇなぁ。
「…………」
「……ヤメだぁ。興が削がれた……アンタぁ娘と一緒に、静かな暮らしをしてりゃぁいいさ……」
「待て。儂はまだ戦えるぞ……!」
「そりゃぁ、そうだろうなぁ。アンタにとっちゃ、目はそこまで重要じゃねぇ……この『記憶』からして、
「…………」
「追いたいならぁ、追ってくりゃぁイイ。追いつかれたらぁ、俺ぁアンタにゃ勝てねぇさ……。
だがよぉ、その間に
──走り去っていく俺を、左近次は追おうとはしなかった。
*
明治コソコソ噂話
このあと赫貍は真菰に一言、『じゃぁなぁ。親父を大切にしろよぉ』とだけ言い残し去っていったらしいぞ。
真菰はそのあと帰ってきた左近次の姿を見て、『鱗滝さんが素顔になってる!?』とびっくり仰天したそうな。
*
明治噂話2
鱗滝さんは結局、赫貍を
??『〝言わぬが花〟なことってあると思うし、私が代わりに。……彼は毒呑みの鬼を追わなかった。それが答えなんじゃないかな。──ね、鱗滝さん?』