『毒! 飲まずにはいられないッ!』 作:稲荷寿司
──いつからだろうか。全てがうまくいかなくなったのは。
妻が、病気に罹って。病状が、一向に……良くならなくて。
心が荒れてしまったことを、妻のせいにするつもりはないけれど。……それでも、確かに……それは、原因の一つであって。…………こんなことを考える、自分自身が嫌になって。
浴びるように酒を飲んだ、ある日のこと。
『──ゲヒッ、ガヒャハヒャヒッ!!!』
『…………は?』
俺は、信じられない
『イイねぇイイねぇ! 最ッ高だぜこの
『……な、にを……しているんだ……? お前は……』
ソレは確かに、「鬼」と呼称するべき生物だった。鬼舞辻の血によって強化され、狂化した──人を襲う「獣」の名。
──その、筈なのに。
『アァ……? なんだぁアンタ……誰だか知らねぇけどよぉ、見てわからねェのかァ?』
その鬼は、
この店の店主だろうか? 腕から血を流し、腰が抜けているのか震えて動けなくなっている者がいるにも関わらず──その人には目もくれず、「薬」と書かれた商品を……ソイツはかっ喰らっていた。鬼は、人以外を喰えない筈なのに。
『
あー、すまねぇなぁ金髪のぉ。俺もなんだか、自分がどうして
鬼と化した人間が正気を失い、妄言を吐き散らす。それは珍しいことじゃない。
故に俺は、容赦なく──その頸に、刃を振るった。
そう。
『ガッ──ァアアアア!? テッ、テメェ……!!』
だが
俺が刀を片腕で握っていたことを加味しても、
ソレの頸は、純粋に硬かった。刃が途中まで食い込みはしたものの、完全に断ち切ることができなかったのだ。
『なんだぁ、その踏み込みは……!? 人間業じゃぁねぇ──何モンだぁ!?』
その鬼は鬼殺隊を、全集中の呼吸を知らない様子だった。鬼狩りと戦った経験が無かったのだ。まさか「
『──エンバシラ? なんだぁ? そいつぁ……警察じゃぁねぇのかぃ? アンタぁ……』
嘘を言う理由も無かったので、俺は正直に『鬼殺隊は政府非公認組織である』こと、『それでも鬼は殺す必要がある』ことを伝えた。
すると鬼は、神妙な表情になり……
『なるほどなぁ……理屈はわかった。俺が鬼で、人を喰う存在で、だから人であるアンタらが、鬼を斬る──その言い分は、理解した。
──でぇ? その手に持ってるモンは鬼殺に必要な代物なのかぃ?』
『…………いや』
その日俺は、酩酊寸前になるまで飲んでいたせいか……誤って、酒を持ったまま任務に向かってしまっていた。
『……お前、ちとソレ置いて座れやぁ』
『お、おう』
言うや否や、鬼自身が座り込んだこと。何より発言に敵意が無かったことで、つい指示に従ってしまう。
『さっきの技から察するに……〝炎柱〟ってなぁ、相当強い剣士のことなんだろぉ?』
『……そう、だな』
『結構な鍛錬を積んだハズだぁ……普段っから酒に溺れてるような奴じゃぁ、こうはいかねぇ』
『…………何が言いたい』
『わからねぇかぁ? ……
『……聞いてどうする』
『アンタの酔いを、覚ますのさぁ』
『……ワケがわからん。お前にとって、それが何の得になる?』
『得ならあるぜぇ? より強くなった、お前と戦うことができる。
──ってぇより、へべれけ野郎に頸を切られるなんざ屈辱でしかねぇだろうがよぉ』
その言葉に、武人としての己は納得して。……大人しく、自分の近状を話すことにした。
『…………それで、話は終わりかぁ?』
『……あぁ』
『呆れたなぁ。思ってたより、情けねぇ奴だったんだなぁ……オメェよぉ』
『……返す言葉もない』
『…………おめぇたぶん、鬼狩り向いてないぜぇ?』
『──何?』
それは、聞き捨てならない言葉だった。代々受け継がれてきた家業を、これ以外の生き方を知らない己に対し──『向いていない』と、その鬼は言ったのだ。
『あー、俺が思うに……世の中にゃぁ、二種類の人間がいる。〝守るモンがねェとダメな奴〟と、〝何もかも捨てた方が強い奴〟……
アンタぁ鬼狩りなんざ辞めて、嫁の側に居てやった方が良いんじゃねぇかぁ?
『戯言を……!!』
怒りのあまりに、俺は刀を抜いていて。
『
『
…………この後に起こったことは、あまり思い出したくない。
鬼は思いの外強く、しぶとく致命傷を避け続けたばかりか……俺が吐き気で呼吸が乱れ気味だったことを見抜いていたのか、
こうなると本来、鬼殺隊はほぼ『負けた』も同然なのだが……俺が拳で応戦すると、鬼はもう体力が尽きていたらしく……眠るように、気絶してしまった。
『…………』
この日を境に、俺は前線を退いた。……俺は、その鬼の頸を斬らなかった。
負けを認めたワケじゃない。鬼狩りは続けるつもりだ。……ただ、妻が生きている内は……その側で、家族を支えることにした。
あぁ。俺は『勝った』とも思えなかったし、ヤツの言葉が一理あるとも思ってしまったのだ。
それからの俺は、穏やかな日々を過ごしている。
*
明治コソコソ噂話
一方その頃、赫貍さんは。
「──かァ〜〜! 藤の毒単品じゃあ効かなくなったがぁ、釣ったフグの刺身と一緒に食うと痺れるねぇ〜〜!!!」
『…………』
(真顔で視界共有を切断する無惨様の図)
※:鬼は『主食』人間であって、人間しか喰えないワケではない。原作21巻最後の噂話(187話:戦国コソコソ噂話②)にて、逃れ者になった後の珠世さんが、動物(と人の亡骸)を食べて命を繋いでいたという記述がある。
ただし同時に『人間の食事は吐き戻す』という設定も存在するため、今作ではこれを「人間の食事=火を通した肉・調味料・農作物」として扱うこととしています。つまりお刺身及び非加熱ジビエ(調味料ナシ)なら鬼でも
ちなみに赫貍さんの好物は、
1:あのお方の血(猛毒)
2:強い鬼の血肉(激毒)
3:お刺身(毒あり)の藤の花添え(毒)
4:襲ってきた同族を返り討ちにした後啜る血肉(勝利の美毒酒)
番外:純血の人間。(力ぁつけんなら『肉より魚』ってぇのは昔っから決まってんのさぁ)
嫌い:稀血(ズルしてるみたいでなんかイヤ)(ズルならズルでも刀の方がまだマシ)(ただし状況次第なら喰うかも?)