『毒! 飲まずにはいられないッ!』   作:稲荷寿司

6 / 7
vs 上弦の■『■■』(初邂逅)

 

 ──これはきっと、奇跡に奇跡が重なった日の出来事。

 

 鬼を救いたい。鬼と仲良くしたい。……誰もが忌避する、そんな願いが……当たり前のように砕け散り、()()()()()()()()()日の出来事。

 

 空を裂いて、大地を割って、轟音と共に()()は現れた。

 

「おィおィ、懐かしい気配に釣られて来てみれば……一体全体、どういうつもりだぁ? テメェよぉ……この花柄ぁ()()()()なんだよなぁ。コイツに歯型ぁ付けるってんなら──殺すぜ?」

「ん……今日は珍しい子とよく出会う日だねぇ。女の子の柱二人に加えて、()()()の毒呑み殿まで現れるとは……」

「あァ? ただの『毒呑み』ってぇんなら確かに俺のことだが──いつどこで、俺が誰から()()()って?

 

 毒呑みと呼ばれた鬼が、両手を地につける。獣のような姿勢は、強い敵意の表明だった。膨れ上がる鬼気に、錯覚ではなく上昇する外気温。──血鬼術。

 

「術式展開。地獄門・羅刹(らせつ)

「──また効果が変わった。やっぱり相手によって、違う能力が発動する血鬼術なのかな?」

「質問に答えてほしいんならよぉ、先に俺の質問に答えろよなぁ氷鬼ィ……!」

 

 言葉と共に、毒呑みさんはジリジリと位置取りを変えていく。ちょうど、私と真菰ちゃんを庇うような形に。……氷の鬼、童磨と名乗っていた彼は、それを意に介していない。ただ「それもそうか」と頷いて、回答するのみ。

 

「具体的な時期と場所はわからないけど、キミは確かに(のが)れているぜ? あのお方の呪いから」

「…………あァ、『逃れ者』ってぇのがそういう意味ならぁ……確かに俺ぁ、『逃れ者』だわぁなァ……」

「じゃあ次は、俺の質問に答えてくれるかな?」

「無論、じゃなきゃぁ公平とはいかねぇからなぁ……。

 ──正解だぁ。俺の血鬼術、『地獄門』は()()の力よぉ……。対峙した脅威によって能力が変わるのぁ、至極当然の結果だなぁぁ……」

 

「公平かぁ。真面目なんだね、キミは」

(──きっと、それが能力の全てじゃないんだろうけど)

「真面目だぜぇ? 俺ぁなぁ……」

(当然、これが能力の全貌ってワケじゃぁねぇけどよォ)

 

「じゃあ、退いてもらえる?」

「何が『じゃあ』なのかわからねぇなぁ……」

「だってキミ、別に()()()()()()()()()()だろ。呪いが外れちゃったのは、血鬼術の誤作動ってところかな? 

 そっちの花柄──水柱の女の子は、惜しいけど見逃すよ。そうすれば、俺達が戦う理由は無い筈だろう?」

「『戦う理由』だぁ? それなら()()()()ぜぇ?

 ──俺が下弦で、アンタは上弦。入れ替わりの血戦を申し込めばなぁぁ……!」

「は? いやいや、何を言ってるんだいキミは。俺は確かに上弦だけど、キミは数字を」

 

 発言が、不自然に打ち切られる。私からは背しか見えないが、彼の様子から察するに──

 

「……驚いた。こう見えて、俺は仲間想いだからさ……()()()()()筈なんだよ。俺が上弦になってからは、十二鬼月の面々全員を。

 キミ、一体いつから下弦の壱に? もしかして、姑獲鳥(うぶめ)ちゃんを倒した直後?」

「ウブメぇ?」

「キミを養子にしようと誘っていた子だよ。俺が知る限りでは、キミの前任に当たる鬼は彼女の筈だ」

「……なるほどなぁ。『全員記憶していた』ってェのも、あながちウソじゃぁねぇらしい……正解だぁ」

 

(──となると、数字被りは発生してないことになる。毒呑み殿が下弦になったのは、()()()()()()()()で確定か……)

 

「ハハ、困ったな。これはいよいよ本格的に、キミと戦うことは避けた方が賢明そうだ」

「逃がすと思うかぁ?」

 

 毒呑みさんが、すかさず炎の(カラス)を召喚する。対し氷の鬼は、周囲に人形を召喚するが──

 

「あやや」

(驚いたな。ただの突貫で、御子が何もできずに溶かされていく……。単純な火力は言うに及ばず、一体一体の生成速度と機動力が尋常じゃないね。このままだと、いずれ()()()()()()かな)

 

「まぁ、それならそれで。やりようはあるんだけどさ」

(──だって俺は、『上弦』だからね)

 

 

  血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩

 

 

「──なァッ……!?」

(マズイ、コレは。『克服』が、どう考えても)

()()()()()()だろう?)

 

「ッ……!」

 

 巨大な氷像が、手刀を振り下ろす。──その前に、毒呑みさんは動いていた。

 

「はい、さよなら〜」

「〜〜〜〜!!!!」

 

 これぞ正に『鬼の形相』と言うべき表情で、毒呑みさんは撤退していた。──私と、真菰ちゃんを抱えて。

 

「次ァ殺すッッ!!!」

「あはは。楽しみにしてるよ〜」

 

 

 ──氷の鬼は、私達を追わなかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 二人を抱えて逃走中の赫貍さん

 

「……しっかしテメェはぁ、いつ見てもボロボロだなぁ。真菰よぉ」

「えへへ……また、助けられちゃった……。赫貍さんに」

「ケッ。……左近次は息災かぁ? 間違ってもおめぇ、絶対に──親より先にゃぁ、死ぬんじゃねぇぞぉ?」

「……うん」

 

「…………」

(あれ、私の存在忘れられてる?)

 

 尚、落ち着くまで一度も話しかけられなかった模様。

 

 

 

 *

 

 

 

 噂話2

 無限城にて

 

 

「──童磨。私が何故、貴様を呼んだか……分かるか?」

「釘を刺すため、でしょうか」

「そうだ。──アレは太陽を『克服』する可能性がある。時が来るまで、奴との戦闘は一切禁ずる」

「……仰せの通りに」

 

(俺はそれで構わないけど──()と当たった時どうなるか、だなぁ。これは)

 

 琵琶の音が鳴り、空間が転移する。

 

 

()()の俺でも限り限りだったんだ……肆以下じゃ勝てないだろうし、上二人は逆の意味で心配だし」

 

 

 言葉とは裏腹に、童磨は空虚な笑みを浮かべていた。

 

「──まぁ、なるようになるか」

 

 未だ『熱』を知らない彼は、ただ。ただ、虚空を見据えて嗤うのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。