『毒! 飲まずにはいられないッ!』 作:稲荷寿司
──これはきっと、奇跡に奇跡が重なった日の出来事。
鬼を救いたい。鬼と仲良くしたい。……誰もが忌避する、そんな願いが……当たり前のように砕け散り、
空を裂いて、大地を割って、轟音と共に
「おィおィ、懐かしい気配に釣られて来てみれば……一体全体、どういうつもりだぁ? テメェよぉ……この花柄ぁ
「ん……今日は珍しい子とよく出会う日だねぇ。女の子の柱二人に加えて、
「あァ? ただの『毒呑み』ってぇんなら確かに俺のことだが──いつどこで、俺が誰から
毒呑みと呼ばれた鬼が、両手を地につける。獣のような姿勢は、強い敵意の表明だった。膨れ上がる鬼気に、錯覚ではなく上昇する外気温。──血鬼術。
「術式展開。地獄門・
「──また効果が変わった。やっぱり相手によって、違う能力が発動する血鬼術なのかな?」
「質問に答えてほしいんならよぉ、先に俺の質問に答えろよなぁ氷鬼ィ……!」
言葉と共に、毒呑みさんはジリジリと位置取りを変えていく。ちょうど、私と真菰ちゃんを庇うような形に。……氷の鬼、童磨と名乗っていた彼は、それを意に介していない。ただ「それもそうか」と頷いて、回答するのみ。
「具体的な時期と場所はわからないけど、キミは確かに
「…………あァ、『逃れ者』ってぇのがそういう意味ならぁ……確かに俺ぁ、『逃れ者』だわぁなァ……」
「じゃあ次は、俺の質問に答えてくれるかな?」
「無論、じゃなきゃぁ公平とはいかねぇからなぁ……。
──正解だぁ。俺の血鬼術、『地獄門』は
「公平かぁ。真面目なんだね、キミは」
(──きっと、それが能力の全てじゃないんだろうけど)
「真面目だぜぇ? 俺ぁなぁ……」
(当然、これが能力の全貌ってワケじゃぁねぇけどよォ)
「じゃあ、退いてもらえる?」
「何が『じゃあ』なのかわからねぇなぁ……」
「だってキミ、別に
そっちの花柄──水柱の女の子は、惜しいけど見逃すよ。そうすれば、俺達が戦う理由は無い筈だろう?」
「『戦う理由』だぁ? それなら
──俺が下弦で、アンタは上弦。入れ替わりの血戦を申し込めばなぁぁ……!」
「は? いやいや、何を言ってるんだいキミは。俺は確かに上弦だけど、キミは数字を」
発言が、不自然に打ち切られる。私からは背しか見えないが、彼の様子から察するに──
「……驚いた。こう見えて、俺は仲間想いだからさ……
キミ、一体いつから下弦の壱に? もしかして、
「ウブメぇ?」
「キミを養子にしようと誘っていた子だよ。俺が知る限りでは、キミの前任に当たる鬼は彼女の筈だ」
「……なるほどなぁ。『全員記憶していた』ってェのも、あながちウソじゃぁねぇらしい……正解だぁ」
(──となると、数字被りは発生してないことになる。毒呑み殿が下弦になったのは、
「ハハ、困ったな。これはいよいよ本格的に、キミと戦うことは避けた方が賢明そうだ」
「逃がすと思うかぁ?」
毒呑みさんが、すかさず炎の
「あやや」
(驚いたな。ただの突貫で、御子が何もできずに溶かされていく……。単純な火力は言うに及ばず、一体一体の生成速度と機動力が尋常じゃないね。このままだと、いずれ
「まぁ、それならそれで。やりようはあるんだけどさ」
(──だって俺は、『上弦』だからね)
血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩
「──なァッ……!?」
(マズイ、コレは。『克服』が、どう考えても)
(
「ッ……!」
巨大な氷像が、手刀を振り下ろす。──その前に、毒呑みさんは動いていた。
「はい、さよなら〜」
「〜〜〜〜!!!!」
これぞ正に『鬼の形相』と言うべき表情で、毒呑みさんは撤退していた。──私と、真菰ちゃんを抱えて。
「次ァ殺すッッ!!!」
「あはは。楽しみにしてるよ〜」
──氷の鬼は、私達を追わなかった。
*
明治コソコソ噂話
二人を抱えて逃走中の赫貍さん
「……しっかしテメェはぁ、いつ見てもボロボロだなぁ。真菰よぉ」
「えへへ……また、助けられちゃった……。赫貍さんに」
「ケッ。……左近次は息災かぁ? 間違ってもおめぇ、絶対に──親より先にゃぁ、死ぬんじゃねぇぞぉ?」
「……うん」
「…………」
(あれ、私の存在忘れられてる?)
尚、落ち着くまで一度も話しかけられなかった模様。
*
噂話2
無限城にて
「──童磨。私が何故、貴様を呼んだか……分かるか?」
「釘を刺すため、でしょうか」
「そうだ。──アレは太陽を『克服』する可能性がある。時が来るまで、奴との戦闘は一切禁ずる」
「……仰せの通りに」
(俺はそれで構わないけど──
琵琶の音が鳴り、空間が転移する。
「
言葉とは裏腹に、童磨は空虚な笑みを浮かべていた。
「──まぁ、なるようになるか」
未だ『熱』を知らない彼は、ただ。ただ、虚空を見据えて嗤うのだ。