旧ドイツ帝国軍人、キヴォトスへ出征す   作:フルール・ド・ガリア

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中等部編
Gute Nacht,mein Freund.Guten Morgen, neue Welt!


*南部ドイツ某所*

焼ける石畳と硝煙立ち込める中、二人の男が民家に籠城戦をしていた。

ah Scheiße! die Kugeln reichen nicht!(クソっ!弾薬が足りねえ!)

Kugeln!? Hier sind welche!(弾薬か!?ここにあるぞ!)

近くの窓から狙撃をする友人、マックスにクリップに嵌め込んだ弾薬を投げ渡す。

窓の外を壁に開けた穴から伺うと、街路にはRote Front(赤色戦線)の蛆虫どもが蔓延っていた。

帝国が先の大戦で崩壊してからというもの、私含む旧帝国軍人、あいにく私は徴兵によってではなく、元々軍人だったものだが——は職を失った。

一部の将校や兵士はヴァイマル軍に斡旋されたし、私も開戦初期から生き残った兵士ということで軍の紹介が来たが…

Nein (いいや)」とだけ答えた。

 

理由は単純である。戦いたくないのである。

多くの人間は勘違いをしているが、私はカイザーに忠誠を誓っていたわけではないし、そこまで優秀な兵士ではなかった。運良く生き長らえ、西部の地獄を見てきた人間が軍に入ろうとは思わないだろう?

 

だが、それはそれで問題が発生した。職がない、という問題が。

そもそも私は頭があまり良くないし、ギムナジウムに入れるわけもなかったので実科学校に入学し留年を繰り返した身だ。

結果就職率が高い実科学校出身でありながら無職になるという失態を犯してしまった。

あの時の両親の顔は酷いものだった。私よりも、深い絶望に覆われたようなあの表情はいっときも忘れなかった。

 

私は南部の農村生まれであったから、しばらく農業の手伝いをしていたがそれは弟のフリッツにもできる話だ。

両親へこれ以上心配をかける必要もなかったし、私に残った数少ないプライドが無職という事実を認めるわけもなかったので、ダメ元でさまざまな仕事に就職希望を送る日々が続いた。

ことごとく失敗したが、一つだけ通った仕事があった。帝国軍だ。

——まあつまり、ダメ元で軍に送った書類が通り選抜試験に合格したから帝国軍に就職した、というだけだ。

 

ではなぜ今銃を握っているのか?

……新しくできたライヒはもはや国家としての体を成していないから、と言うのが正直の答えだ。

詳しく言うならば、極左と極右の乱闘騒ぎで農地が荒らされることに辟易したから、今こうやって戦後のライヒに乱立した反共義勇兵…「フライコーア」に参加し日銭を稼いでいるわけだ。

 

結果として今、ローゼンハイムの市街地に追い込まれているわけだが。

「ヨアヒム!ここはもうダメだ、撤退して…」

「ダメだ!もう後ろは防がれている!」

物思いに耽りながらも脱出経路を確認すべく建物の裏側を偵察したところ、もうこの民家は包囲されていることがわかった。

援軍の到着も見込めない。

 

私はどこで間違ったのだろうか?

フライコーアに入ったこと?

ヴァイマル軍の紹介を断ったこと?

…西部戦線で運が良かったこと?

もしかしたらもっと前に、すでに女神は私を見捨てていたのかもしれない。

「マックス、お前はどうする。我々は包囲下にあって、弾薬も枯渇しかけている。友軍はもういない。ここにいるのは私とお前だけだ。」

「ヨアヒム、それを俺に言わせる気か?アミアンで俺がどう戦ったかを忘れたとは言わせないぜ?」

「お前はそう言うやつだったな。私が馬鹿だった、10時方向から来るぞ」

「ヨアヒム、お前の頭がA7Vの足くらい悪いことはもうあの小隊では常識だったぞ?」

「それを言うならお前の無鉄砲さがフランスのショーシャと同等だったことも有名だぞ」

軽口を叩きながらMP18を持ち迎撃をしていると、部屋の外から階段を登る音が聞こえた。

「お前と話す機会がもう無くなるようだぞ、俺に言い残すことはあるか?」

「……次は平和な世で会おうか。元気でな」

私はそう言うと、赤色戦線の兵士が持つルガーを数発撃ち込まれ倒れ込んだ。

 

 

 

 

*???*

私が次に目を覚ました時、一番最初に目に入ったのは…変な模様が書き込まれた天井だった。

「…ここは天国か?それとも病院か?」

周りを見回すと、ここは部屋なようだ。周囲に人の気配はなく、安全地帯であることは瞬時に理解できた。

部屋というより寮というべきだろうか?風の噂で将校がこういった部屋に住んでいると聞いたことがあるが——に私は今いるようだ。家具が幾つかあって、裕福な家の一部屋なのだろう。

 

起き上がってベットから出ると、妙に視線が低いことに気がついた。

「一体ここは…?」

違和感。

声が妙に高い。まるで少女のような声だ。

ベットの上から周りを見渡した時に小さな鏡が机の上にあったのを覚えている。

椅子に乗り上げ鏡を見ると……

 

「はあ?」

目が赤く、ブロンドに近い色を持つ髪の毛の女の子が鏡に映っていた。

そして…「頭上に何かがある」ことにも気がついた。

寝癖か何かかと思っていたが、寝癖なんてものはなく、顔を左右に揺らしても何かが髪についていないのが確認できる。

頭の上を手で探ったが、何も触れなかったし当たった感触もなかった。

 

「一体なんだってんだ、あの民家で確実に心臓をあの時撃たれたはずだ。それに私は顔に裂傷があったはずだが…」

マックスと共にヴェルダンの戦場で傷を負った場所を見ても、傷跡はなく白い肌が顔をのぞかせるばかりだった。

 

視線を落とすと、女性用と思わしき寝巻きを着ていた。

…面倒なことになった。

「はぁ、とりあえず窓を開けるか…」

狙撃兵に警戒しつつカーテンを開け、窓の施錠を外し外の空気を吸う。

 

瞬間、私は普段つけていたホルスターに収められていた拳銃を触ろうとして、腰を触った。

「……」

嫌なものだ。シェルショックというべきか、本能というべきか。

窓を開け新鮮な空気を吸おうとした瞬間、『硝煙の匂い』がしたものだから、かつての癖で拳銃を構えかけた。

ここに銃があれば私はすぐさま臨戦体制になって窓の外に威嚇射撃をしていただろう。

 

閑話休題

窓の外を改めて見ると、かつてのライヒを思わせる、だが明らかに違う都市が広がっていた。

空まで届くであろう建物が遠くにあるのを私は見た。

 

「何回私はため息をつかなければいけないんだ?」

このどうしようもない気持ちは私が無職であった時を思い起こさせるから不快で仕方がない。

地図も銃もなく、ただ敵の要塞に突っ込めと言われる部隊もあったようだが…彼らはこのような気持ちだったのだろうか。

だとすれば同情する。

天国がこの街にもあるならば…

少なくとも、この街に蛆虫(共産主義者)どもは居ないだろう。最も、居て欲しくないところだが。

 

トントン。

 

…ドアをノックしている音が聞こえた。銃器がない今、できることは…格闘戦か。念の為戦闘準備をしてドアをゆっくり開ける。

するとそこには…

なんと言えばいいのだろうか。鉄の塊…いや、機械か?が居た。

妙な顔を貼り付け、スーツを着こなす機械が。

気味の悪いこと甚だしいが、少なくとも客人だろう。人であるかはさておいても、だ。

 

「所属は?」

「!?ヨアさん、明日は貴女の入学式でしょう?ゲヘナ学園中等部の入学式。準備は済んでいるのか確認に参りました。それに所属とは?」

奇妙な機械は混乱したように表情を変え、私にそう言うが、全く身に覚えがない。

それに…ヨア?私の名前は確かにヨアヒムだが、そう呼ばれたことはないぞ。

「ゲヘナ学園…?中等部…?私はすでにグランドシャーレは卒業しているし、実科学校も卒業しているぞ。そして…所属は?」

「大丈夫ですか?もしや変な夢でも見ましたか?私はアルノルト、ヨアさん…いえ、倉内家の執事ロボットでございます。」

倉内家?ロボット?知らない言葉ばかりだ。

そもそもあれは…私の人生はこのヨアとかいう少女の夢だったのだろうか?

だとするなら、この少女はとんでもない大罪を犯したか何かだな。

私の人生ほどの悪夢はないだろう。

 

「じゃあアルノルト…さん?私はちょっと記憶があやふやで色々忘れているみたいなんだ。他の人の記憶が入ったような感じがして。」

「なるほど…では、質問があれば答えましょう。まず、名前…は覚えていらしましたか?」

名前。おそらく「倉内 ヨア」と言うのがこの少女の名前なのだろうが…

「私の名前はヨアヒム・クラウゼ。バーデンの農村出身、元ドイツ帝国軍軍曹、反共義勇兵フライコーアに加盟している…はずだった」

「ふむ。ドイツ帝国?という名前も、フライコーアという組織も聞いたことがありませんな。バーデンの農村、と言うのもまたヨアさんとの出身とも乖離していますし…唯一の類似点といえば名前でしょうか。ではこちらから質問しても?」

 

とのような感じに、アルノルト執事との会話を通じてさまざまなことを知った。

この世界にライヒは存在せず、フランスにイギリス、ロシアが存在しないことも。

そしてこの世界は銃社会であり、必ず一人は銃を持っていて、住民は銃弾程度じゃ死なないと言うことも。

おそらく私も銃弾を耐えることができるだろう。だが…

「あまり銃弾は受けたくないな…」

前世?の死因が銃によるもので、尚且つ銃のせいで死んだ仲間を多く見てきた私としては銃弾は恐怖の対象でしかない。

結局、女神は私を救うことはしなかった。

大戦争でも、職でも、そしてフライコーアでも、今でさえも。

平和な世でマックスと会いたかったが、もはやそれも難しい。

…この世界から銃を廃絶したい。

 

その旨をアルノルト執事に話すと、ゲヘナ学園は最も銃が使われる学園であることが伝えられた。

 

なんてことだ。




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※何故執事はヨアヒムの話を信じたのか?→完全に信じては居ないが、あまりの勢いに押され「そういうこと」とした
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