旧ドイツ帝国軍人、キヴォトスへ出征す 作:フルール・ド・ガリア
*ゲヘナ学園 中等部教室*
入学式から一週間程度経ってから、部活動の勧誘が行われるようになった。
…私の知っている勧誘活動とはまるで別物だったが。
例えば温泉開発部とかいう団体の勧誘だが、彼女らは学園の敷地内を突然爆破、採掘を始め出したのだ。
何故道端を爆破しだすのか問いただしてみたところ…
「そこに温泉があるかもしれないからだ!」
と曇りなき眼で返された。
——もう倒れそうになった。
当時私はその勧誘を見ていなかったため、突然の爆音に、一瞬あの地獄を思い出したものだ。心臓に悪い。
そもそも
「ああまた温泉開発部がなんかやってるよ」
爆音の発生地に向かう途中、そう話していたのを小耳に挟んだ。
つまり生徒はこれを日常としていて、尚且つ大事ではないと判断しているわけだが…
充分彼女らは西部戦線でもやっていけると思う。あの音を聞いて平然としていられる精神力を持っている兵士はなかなかいないはずだった。
大の大人でさえ爆音に恐れ泣き叫ぶものだっているのに、十代前半の少女らは平然としている。
この世界の生徒は皆等しくイカれているのだろうか、とも思ったが意外なことにそうではない生徒もいたようだった…配給所。いや、給食部と言ったか——の食品は皆生徒自身が調理していると聞いた。
入学初日に迫撃砲を冗談で打ち込んでくるような学校の配給品なんざ恐ろしくて食べようとは思えなかったが、意を決して食堂に向かい注文をすると…
至極真っ当な料理が出てきた。
私の目がおかしくなったとか、一週間のうちに適合したとかいうことも考えたが味わってみるとそんな考えは消し飛んだ。
軍で食べたどんな料理よりも、あの缶詰よりも旨かったのだから。
暇になった頃合いを見て部員に話を聞くと、ゲヘナ給食部は人数が少なく料理の質が下がってしまっているらしい。
あれで質が下がっているのなら、私が今まで食べてきたものは下等も下等、イギリス料理に認定されるだろう。
彼女らは私が新入生であると気づくと勧誘してきたが、生憎私は料理のスキルも何もないのだ。
前世ではほとんど母か弟が料理をしていたし、軍に入ってからは料理なんてする暇もなかったものだし、そもそも興味もないからだ。
初めて…ユリを除いて初めて見た常識人の彼女らには悪いが、考慮しておきますとだけ伝えその場を去った。
ところで、私はそもそも部活に入るつもりもないのに何故勧誘を見ているのか?というところだが…
恥ずかしながら単に迷子になっているからである。本当に学園内が広くてわかりづらいことこの上ない。
結果として勧誘を見て回っているだけで、実際の所学園探検…に近しいものを個人でやっているだけなのだ。
まあ、迷子に関して言えば行くあて土地勘もなく学園徘徊を始めた私のせいでもあるのだが。
そして……
「今私はどこにいるんだ…?」
本格的に迷子になってしまった。どこだここ。
適当にふらついていたら変に威圧感のある建物にやってきてしまったようだ。
もしこれが警察の類なら話を聞けたのだろうが圧が警察のそれではない。憲兵なのだ。
私は前世の戦場で特に悪いこともしていなかったから憲兵を怖がる理由もないのだが…
………おや、風紀委員会?
ああ、どうりで憲兵のような雰囲気なわけだ。
地図に風紀委員会の本部の場所が書いてあったはずだから、これをこう見れば…
「おい!そこの、何をしている!」
「私は倉内ヨア、今現在進行経路を外れ地図による確認をしているところであります!」
「はぁ?」
しまった、悪い癖だ。大声で、しかも上官みたいな言い方をしてくるものだからこっちも変な言い方をしてしまったではないか。
風紀委員会のおかっぱ少女は明らかに不審者を見る目で此方を見ている。これはまずい、しょっぴかれる。
「すいません、迷子になっちゃってて…さっきのは気にしないでください…」
「あ、ああ…迷子か。声の張りがいいものだから先輩かと思ったぞ。どこに行きたいんだ?」
「えーっと、特に行きたい場所とかはなくて…部活の勧誘を見て回っていたらこっちに来ちゃったんです」
「そうか…とりあえず校庭のところまで案内しよう」
…これはいいチャンスかもしれない。風紀委員の少女に質問してみるか。
「あの、部活とか委員会で…なんて言えばいいんでしょう、まともなところってありますか?温泉開発部とかそういうのじゃなくて…」
「ん?ああ……なるほど、お前さては優等生な方だな?ゲヘナにまともな部活とか委員会はないぞ。風紀委員会と給食部、救急医学部がマシな方かもな。てか加入は強制じゃないんだから自由にやればいいじゃないか。こっちの仕事を増やさないなら、な」
救急医学部か。名前から察するにいわゆる衛生兵だとか医者に近い活動をしているのだろうが…医学の知識は持ち合わせていない。
結局、フリーで自由軍団を作るしかないのか?風紀委員会に入ってもよいが、政府軍か…
あまりいい印象は持てないし、貴族が軍隊に、というのは一般兵の士気にも関わるだろう。
「ほら、校庭に着いたぞ。迷子になるなよ!」
色々考えているうちにもう案内が終わったようだ。「ありがとうございました」と告げて今日は下校することにする。もう放課後だし、ずっと残っていても暇だからな。
*倉内家 ヨアの私室*
「ふーむ…」
自由軍団の設立はいいのだが、これを立ち上げたところで誰かが入るだろうか?
入ったとして、危険組織に認定されて風紀委員会と交戦しないだろうか…
…これ、考えうる中で一番の悪手を取ったのではないだろうか。
風紀委員会に擦り寄るなら立ち上げた意味がないし、加入生が誰も居なければそれは軍団ではなくただのイタい個人になってしまう。
…まあ、いっか。なんとかなるだろう。
考えなんて無くてもなんとかなる、それは前世の就職時に経験している。
……思い出したくない記憶でしかないが!
そう言えば、皆銃を持っていたが…私って銃を持っているのだろうか。
部屋を漁ってみよう。
もしこの体が借り物なら非常にまずい行動をしているが…許して欲しい。
「ここは衣服、ここは…ああ、下着…でこっちは文房具か。拳銃はなさそうだな。」
学習机とその近くのクローゼットを軽く漁ったが銃らしきものは見当たらなかった。
銃を立てかけるガンラックもないし、もしや銃を持っていない?
執事なら何か——まて、執事はどこに居るんだ?
この世界に来てから今日に至るまで、執事はずっと私の部屋に来ていた。だが、私は彼の部屋を知らない。
屋敷は広いから虱潰しにやるわけにもいかない。
「はぁ、とりあえず部屋の外であった人に聞けばいいか。」
*倉内家 廊下*
「あの、アルノルト執事はどこに居るでしょうか?………わからない…わかりました、ありがとうございます」
………
数人に聞いて回ったが、誰も執事の場所も部屋も知らなかった。
一体何者なんだ彼は。
——ああいや、あそこに居た。
無駄に長い廊下を歩き回って食堂に向かうと、アルノルト執事が窓から夜景を眺めていた。
「アルノルト執事」
「おや、ヨアさまですか。如何しましたか?」
「私の銃はどこにあるか知っていますか?部屋を探しましたがなかったので…」
「それならついてきてください。地下に武器庫があります、そこにあるでしょう」
地下室に武器庫……ここはどれだけの資産を持って、どれだけの権威がある家なのだろうか。
…もしや大公国に比する財を持つ家なのだろうか。
*倉内家 地下室*
執事に案内された武器庫は酷く薄暗かった。地下だから当然のことだが、カビの匂いが酷く、蜘蛛の巣が天井に張っている。
「ヨアさまには多少酷な環境でしょうが、少々堪えてくださいませ」
「あ、はい…」
毒性がないだけマシな空気としか言いようのない空気を吸いながらドアを開けると、様々な武器が立てかけられてあった。
おお、Gewehr98じゃないか。前世での相棒もある。そしてその
見たことのない銃器が大半だ。さて、私の武器は…
「ヨアさま、どうぞご選びください。貴女の欲するものであればご自由に」
「え?私の銃は無いんですか?」
「ええ。ヨアさまは銃器を持とうとしませんでした。外にでることも少なく銃を持つ必要もありませんでしたから。中等部の入学記念として銃を贈呈する予定でしたが…」
…これ私のせいなのか。
なら好都合だ、好きな銃と言ったらこれしか無い。
「ならこれを」
目の前にあったGew98をすぐに取り、簡易的な点検をする。
やはりこいつは手に馴染む。リロードも…うん、あっちのと変わらないどころかこちらの方がやりやすい。職人が作ったとしか言いようのない滑りと光沢、気に入った。この世界でもよろしく頼むぞ…Gew98。
「……なるほど、ちなみに何故それを?」
「相棒に理由は必要でしょうか?」
「それはたしかに。他に銃は使いませんので?」
正直知らない銃器は扱いたくないが、ボルトアクションだけでは戦いづらい時もあるだろう。
なら使うべきは……MP18か、それともルガーP08か。
ん?なんだこれは…
「アルノルト執事、これは一体?」
「ああ、それは…確かFG42と言いましたかな。自動小銃です」
自動小銃?初めて聞く種類だ。
「試し撃ちしても?」
「ええ、一階に射撃場があります」
…また移動するのか。まあいいだろう。
それに……
「Gewの試射もしたかったところだし、ちょうどいいか」
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