旧ドイツ帝国軍人、キヴォトスへ出征す   作:フルール・ド・ガリア

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Krieg im Esszimmer(食堂戦争)

*倉内家 屋内射撃場*

地下の武器庫から道なりに進んで一階に上がり、そのまま流れるように中庭の射撃場に向かった。

宮殿としか言いようのない私の家だが、バロック様式の建築物が城塞のように中庭の屋内射撃場を囲っているのはなんともシュルレアリスムを感じさせる。

まあ、宮殿に機械仕掛けの人形が奉仕者として雇われている時点で何を今更、という話だが——

 

そんな射撃場の見た目は不思議なことに見たことのない家具が置かれていた。妙なL字の板、そしてテレビと言ったか、それが的の数メートル上に吊らされていた。

 

「まさかテレビを撃ち抜くわけじゃないですよね?」

「ええ、その下の人型に縁取られたものをお撃ちください。しかし実弾は決して使わないようにだけお願いします。使うのはこの…」

そう言い執事は弾薬箱を取り出した。

妙に小綺麗な、貴族趣味が細密なまでに練り込まれた弾薬箱を射撃台の下から取り出し、この…FG42?に装填を開始した。

「チョーク弾ですか」

「いいえ、これは特殊な弾頭でして殺傷能力もインクもありません」

着弾地点にあるセンサーが反応し上のモニターに命中箇所が大きく表示されるのです、とも続けていったが…なるほどこれは画期的だ。チョーク弾は落とすのが面倒で使うのが憚れる点が多かったし、実弾は出費の点からもってのほかだった。

このような訓練所があったのなら、確かに我々は勝利を——いや、仮定などもってのほかだ。それは参謀本部にでも任せておけばいい。

油断と恐れは敗北を生み、それが私のいた小隊が徹底的に英仏に駆逐された最たる理由なのだから。

 

執事からFG42を受け取り、射撃体制を取る。

機銃のマガジンがそのままついているような銃器ゆえにGewとは違う重さを感じる。

風速、湿度…それは今、ほとんど考えなくて良いだろう。風は屋内であるからして当然あるわけもなく、湿度も平時と変わらない。上につけられたアイアンサイトを覗き込むと、確かに紙とも木材とも違う、宙に浮く幻影、執事が言うには「ホログラム」が見えた。

 

引き金に指を通した。

 

 

息を止めろ。

 

 

震えを殺せ。

 

 

ああ、これだ。

 

 

この刹那が私が愛した感覚だった。

 

 

気づくと引き金を引いても銃は物言わぬ杖に成り果てた。

そしてテレビの結果を見るに…

 

4割致命的命中、1割四肢着弾、残りが命中ならず。

 

まずまずと言ったところだろうか?初めて使う銃器にしてはうまく扱えた方だと自負できる。

気づくと、右頬に痛みを感じた。新兵時代、教官に殴られた時を思い出した。おそらくは銃の反動で——ここまで頬を殴られるとは思っていなかったが——決して言い訳の類ではないことをここに言いたい。ああ、決してだ。

 

「お見事です、ヨアさま」

「…執事。素晴らしい銃ですね。ここまでの連射能力を持ちながらここまで軽量化された銃は初めて拝見しました」

「ええ、その銃は世界で初めての自動小銃でしたから。空挺部隊、飛行機から降下して戦闘を行う部隊ですね。彼らのために設計されたわけですから軽いのは当然と言えましょう」

 

空挺部隊、初めて聞く名前だった。

私が死んだ後のライヒはどうなっただろうか、空から舞い降りる軍隊を保有していたのだろうか?

また性懲りも無く戦争でも行ったのだろうか、それとも西欧の——主にフランスとベルギーの強い隷属の本平和を享受していたのだろうか?

結局あの地獄を経てもなお戦争の準備を行ったのか、それともこの世界だけの部隊なのかもはや確認の術はない。

願わくは、後者であって欲しいものだが。

 

「ところで執事。この銃とGew98、本当に貰っても?」

「ええ、あれらは全てヨアさまのためにあてがわれたものでございますから。他にもお気に召された銃があればご自由にここをお使いください」

「なるほど…では今はこの二丁で充分です。しばらくここで練習しても?」

「構いませんが、ご夕食の時間の前にはお戻りくださいませ」

わかりましたと伝え、この銃の練習を続ける。

しばらく撃ってから気づいたことなのだが…

 

「弾が出続ける…自動状態とトリガーを引いた分だけ出る…いわば半自動状態の切り替えができるのか…なんとも恐ろしいものだな」

半自動状態での射撃精度はかなり、いや今までにない高精度を叩き出した。

狙撃銃としての運用も考えられるが…あまりにマズルフラッシュの主張が激しすぎる。それはGewの出番だな。

そうこうしているともう日が暮れ始めたようで、高窓からは緋色の色が覗き込んでいた。

見計らったかのようなタイミングで弾は全て消費してしまったようだ。

まさか、な。

 

食事を終わらせた後、部屋に戻る途中で執事に声をかけられた。てっきり後片付けに不始末があったのかと思ったがそうではないようで、銃に名前をつけてあげて欲しい、と彼は言った。

銃に名前をつけるという意味がわからなかったが、説明によると

「これからしばらく、もしかしたら一生使う相棒に名前をつけることで愛着が湧くのですよ。友人を手荒にはしないでしょう?」

とのことだった。

名前か。

私がかつて居たバイエルン王立第一師団には銃に名前をつける変人が居たが、なるほど彼はこういう気持ちで…いや彼の場合はただの変態なだけな気がしないでもないが——名をつけていたのだろう。

 

私にとって、Gew98は戦友だった。

いついかなる時でもアレはそばにあったし、常に苦難を乗り越えてきた。

では、Kamerad(戦友)とでも名付けるか?というと違うものがある。

確かに戦友だったが、もっと上の……そうだ、私にとっての名誉だった。

この銃を使って戦い抜いたことを内心誇りに思っていた。今まで受けた勲章よりも、ずっとずっと。

 

Ehre…そういえば、これは儀仗用にも使われていたと聴いた。

私にそれだけの価値があるとは思えないが、こう名付けよう。

 

Ehrengarde(名誉の護衛)と。

 

ではFG42はどうであろうか。私にとって初対面の銃、だが気に入った銃。

新しい銃…neue…Gewehr?(新しい…銃?)いや、直球すぎるし何かが違う…

……思えばこれは神の恵みだったのではないだろうか?

新しい世界に新しい銃。

入隊時のあの感覚、責任と誓い。

あの感覚を思い出させてくれたこれは恩寵に違いない。

いや、そうであるべきだ。

Neue Eid(新しい誓い)、そう名付けよう。

 

*ゲヘナ学園中等部 食堂*

名をつけた銃、Neue Eidを意気揚々と持っていったところ…

 

「おい、そこの!……ああ、お前だ、ブロンド野郎だ!」

「は、はあ。何のようでしょうか?」

「いやあ、今あいにく金がなくてさ。代わりに買ってくんね?」

下卑た笑みを浮かべながら「私もないんだよねー」と続けて言う先輩たち。

不快で仕方がない。

「そうですか。お気の毒に。無論後に代金は払ってくれるんですよね?」

「はぁ?私たちは先輩、お前は後輩。わかるだろ?」

「それにアンタ、噂によれば金持ちらしいじゃん?いいじゃんちょっとくらいさぁ?」

「お金持ちだとか、貧民だとかそれ以前に貴方達には払う気はありません。貴方達に残った選択肢は開き直って後輩から金をせび続けて恥を晒すか大人しく引くかです」

「生意気じゃん。痛い目見ないとわからないみたいだね!」

彼女はすぐさまショットガンを打ち込んできた。なんて非人道的な兵器を使うんだ、私は害獣でもなんでもないんだぞ!

いや、そんなことを言う暇なんてない。避けれなかった。胸に散弾がほぼ命中した。

…………何故生きているんだ?

「せびるだけの口と引き金を引くのだけは速いようで…」

ともかくやられっぱなしには居られない。

Neue Eidをバックから展開して軽く弾幕を貼りながらバックステップで距離を取る。

ショットガンに近接戦なんて無謀だ、それをして何人死んだのを見たと!

少し距離を取ったがまだ彼女らの間合いだ。ショットガン一名、ライフル一名、見たことのない銃…おそらく短機関銃一名!

不利で仕方がないがこうなったら…

「胡椒借ります!」

勢いよく踏み込み接近し思いっきり目や鼻に胡椒を軽く振りかけた。

「いってぇ!お前何を…痛え…」

「貴方には言われたく、ないですね!」

怯んだ隙にショットガンを叩き下ろし超至近距離でフルオートを叩き込む。

モーゼル弾って当たったら肉抉られるくらいの威力あるのに耐えるとは、やはりこの世界は恐ろしい。いや耐えてくれないとここが地獄になるから耐えて安堵した気持ちが強いけども。

「な、何しやがったおめえ!」

「引き下がった方がいいと思いますよ。胡椒を網膜で味わいたいなら別ですけど、ねっ!」

近くにあったフォークを相手の腕に向かって場げつける。

神経が緩んで銃を落とした隙に銃へセミオートで一撃叩き込む。

「で、どうしますか?」

「お、覚えていろ、絶対に復讐してやる!」

 

「あのー…」

「はい?」

「…食堂、直してくださいね?」

周りを見ると酷く散らかった——もとより散らかっていた気がするが、見るに耐えない食堂が確かにあった。

「…はい」

 

 

結局ご飯食べ損ねたし。最悪。




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