旧ドイツ帝国軍人、キヴォトスへ出征す   作:フルール・ド・ガリア

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Angriff(襲撃)

*ゲヘナ学園郊外 臨時基地*

 

私たちは今、戦場にいる。

理由は知らないが、突然の襲撃を受けて私たちは防衛行動を余儀なくされた。

本来、フライコーアに私以外のまともな戦力は居なかったし、いるわけもなかった。

彼女らが戦えるならば、こんな郊外の吹き溜まりによってはこないし、そこで虐められもしなかっただろう。

 

眼前には銃弾が空を切る音と爆発音が次々と鳴り響き、風に運ばれた砂埃が景色を薄く塗り替えていく。通信機は特有の小さな振動を立て、向こうから捻り出すような声が届いた。「たくさん人が来ます」と、それは震えるように伝わってきた。

 

「兵数はどの程度だ、目測でいい」

 

数秒の沈黙の後、彼女は返した。

 

「風紀委員会が大体クラス一つ分くらいの人数です……あ、40人前後だと思います…」

「そうか。アミはそこから離れて私のほうへ。くれぐれも赤い缶に近づかないようにな」

「は、はひぃ…」

 

遠くを見ると、確かに20と数名の影が見えた。…だとすれば、おそらく包囲に回ったのが10名程度か。

 

アミは私がここで初めて会った人で、そして一番最初に手を差し伸ばした人でもあった。

薄い青の髪、薄黄色の目。腰元のバッチには中等部の2年と記される。

——正確には、私が自ら助け出したというわけではないのだが。

しかし、それは私が彼女を見捨てる理由にはなりえなかったし、それをする気にもならなかった。

 

「ヨアさん、ただいま戻りました…」

「よくやった、あとは任せてくれ。伏せていろ……」

 

道路に横たわる空き缶を目掛けてモーゼルを叩き込み、小気味いい音を響かせた。

すると、風紀委員会は警戒の度合いを高め、こちらににじり寄ってくる。

ヘルメットを銃先に被せ、狙撃を誘発させようとするが、その手口はすでに知っている。1916年の前線はこんなものではなかった。彼女らに、鎮圧のためだけの小手先の技術だけでは遠く及ばないような相手がいると思い知らせてやろう。

 

ついに眼前の敵はキルゾーンに入り込んだ。

 

「Feuer.」

 

赤い缶……爆薬や酸化性の個体や液体を入れ込んだ缶に着弾が集中すると、数秒もせず缶はひどく燃え上がり、風紀委員会の面々に強い衝撃とダメージを与えた。

息をつく隙など与えない。FG42の連射が黒鉛を掻き分け、アミのMG08の弾幕が風紀委員会の残存兵に次々と着弾し、火花が次々に弾け、短い悲鳴が少し聞こえた。

そして私はこう直感した。彼女らの戦意を打ち砕くことに成功した、と

 

「アミ、気分は大丈夫か。…いや、アミだけじゃない。他にも気分が悪くなった人は居ないか?居るなら名乗り上げろ。責める気はない」

 

久しぶりの焼けつく匂いと消炎、そして髪が焼けたのか死臭に近い悪臭を感じながら私は問うが、彼女らは木々のように黙り動かない。

 

「……後で報告しても構わない。まずは…」

 

後ろを向くと、風紀委員が武器を投げ捨て両手をあげているのが見えた。

 

「いや…」

 

嫌な予感がした私は落ちているルガーP08を拾い、隊長と思わしき人の腰に拳銃を放つと、ベルトが外れた。

 

ベルトには丸いつまみ、金属の輪、短く垂れ下がった安全リングの影。あの腰周りがただの装飾でないことは、一目で分かった。手榴弾が、無造作にも――いや、計画的に――束ねられていたのだから。

 

周りもそれに気づいたのか、空気が一瞬で凍りついた。

ピンは抜かれていない。しかし、いつ誘爆するかは想定もつかない。

 

「っ…動くな」

 

拳銃を向けながら、できる限りの声で脅しつける。

憲兵の経験はない。しかし、捕囚を管理したことは数回ある。

 

「そこから両手をあげたまま数歩下がれ。周りのお前らもだ。ナイフ、弾薬の類は側溝に投げ捨てろ」

 

素直に隊長含む彼女らは指示に従い、全ての武具類を側溝に投げ捨てた。

金属とコンクリートがぶつかる音が重なり、服とタイルが擦れる音が聞こえる。

彼女らが完全に下がり、手を挙げ続けていることを確認すると

私は件のベルトにつけられた手榴弾のピンを抜き、そしてすぐにベルトごと側溝に投げ入れた。

爆風はコンクリートに阻まれ、破片は全てその中で炸裂し、誰も傷つけなかった。

 

「はぁ。負傷者は?…風紀委員会のも居たら名乗り上げろ。できる限りにはなるが、治療くらいはしてやる」

 

風紀委員会のいくつかが名乗りを挙げ、彼女らの隊長はそれを止めようとして、やめたようだった。

 

「お前が隊長だな。何の容疑が私たちにかかっていた?答えろ」

「守秘義務があるんでな。答えられん」

「そうか。まあ良い。交渉術なんて私は知ったこっちゃないからな」

 

私はその場を離れて、臨時基地の中のテントに入る。

パイプをつぎはぎで作ったベットと、少しの椅子とポーカーがあるテントには、元救急医学部の「希神スクレ」が座っていた。

「スクレ、あいつらの治療はできるか?足りないものとかは?」

「足りないもの?そんなの全てだよ。何もかもが足りない。止血剤、消毒液、ガーゼ…とかね。包帯で巻いてみるくらいしかできないと思うよ。もうちょっと平和な戦いとかできないの?」

「平和な戦いがあるなら聞いてみたいところだが。包帯で巻くだけは巻いておけ。後で取り寄せる」

「取り寄せる、ねぇ…」

 

足を組み直して、スクレは笑うような顔から睨むような目を向けてこうも言った。

 

「そんだけの大金、どこから湧いてでたのやら」

 

私は何も答えずに、テントを去った。

 




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