異世界建国「哲学好きな僕が王様に成り上がった話」   作:アサシン・零

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第1章
第1話「異邦人の目覚め」


京都の片隅、冷たいコンクリートの校舎に囲まれた図書館は、薄暗い蛍光灯の下で静寂に包まれていた。今泉尊(17歳)は、埃っぽい書架の奥に身を潜め、指先で古い本の背表紙をなぞっていた。彼の目は赤く腫れ、制服の袖には擦り切れた痕があった。孤児として施設で育ち、クラスメイトの嘲笑といじめに耐え続けた尊にとって、この図書館は最後の逃げ場だった。だが、逃げ場はもはや希望ではなく、終わりを模索する場所になっていた。「どうやって…楽に終われるか…」尊は呟き、ネットで調べた自殺方法を思い返しながら、適当な本を手に取った。古びた革表紙、題名は擦れて読めない。ページを開くと、奇妙な紋様が浮かび上がり、青白い光が彼を包んだ。「何…?」次の瞬間、意識が途切れた。

 

目を開けると、尊は冷たい土の上に倒れていた。風が頬を撫で、遠くで川のせせらぎが聞こえる。空は灰色に曇り、目の前には粗末な木造の小屋が点在していた。リーフ村――後に彼がそう呼ぶ場所だった。人口わずか30人、女性と子供だけが暮らすこの村は、痩せた農地と北の山岳から流れる大きな川に囲まれていた。だが、村は死にかけていた。畑は干からび、柵は半壊し、村人の目は恐怖と絶望に曇っていた。「あなた、誰…?」震える声が響いた。尊が振り返ると、10歳ほどの少女が、ぼろ布のような服をまとって立っていた。彼女の後ろには、怯えた目をした女性たちが集まっていた。尊は言葉を探したが、喉が詰まった。クラスメイトの嘲笑が脳裏をよぎり、口を開く勇気が萎えた。「私は…今泉尊。どこだ、ここは?」ようやく絞り出した言葉に、少女は目を細めた。「アスデガルドの辺境、リーフ村。よそ者は珍しい…怪しいわ」彼女の声には、恐怖と疑念が混じっていた。尊は気づいた。彼女たちが恐れるのは、盗賊、魔物、そして王国の騎士爵だ。村人の話を聞くうち、尊は状況を把握した。リーフ村は西の帝国の辺境にあり、男性は兵役や出稼ぎで不在。残された女性と子供は、帝国の重税、焔の雫という盗賊団、強化されたアイスウルフの襲撃に怯えていた。さらに、数か月前、「アスナ」という少女が焔の雫に連れ去られたという。彼女の母は病気で死に、村人は「よそ者」だった彼女を気の毒がるだけだった。尊の胸に、奇妙な感情が芽生えた。いじめられ、孤児として誰にも必要とされなかった自分と、アスナの境遇が重なった。「助けたい…いや、助けられるかもしれない」彼は呟き、図書館で培った知識を思い出した。歴史、経済、科学、そして哲学――マキャベリの『君主論』の一節が浮かぶ。「君主は恐れられつつ愛されねばならぬ」。だが、尊は恐れられるよりも、信頼を選びたかった。

 

村の中心、粗末な集会所で、尊は女性と子供たちに囲まれた。彼らの目は懐疑的だった。「よそ者が何をできるの?」年配の女性、マリアが鋭く問う。尊は深呼吸し、哲学の言葉を借りた。「プラトンは言った。『正義とは、皆が互いを助け合うこと』。この村を救うには、皆の力が必要だ。私に…少し時間をくれ」尊は村の問題を分析した。痩せた農地は、川の水を活用していない。柵は弱く、魔物の襲撃に耐えられない。彼は知識を総動員し、計画を立てた。まず、川に簡易な水車を設置し、土魔法を使う少女、リナ(12歳)に農地改良を指導。彼女の土魔法は弱いが、尊の灌漑知識で効率化できた。次に、風魔法が使える少女、エリ(10歳)に弓の訓練をさせ、山岳の石材で柵を強化。尊自身は魔法を使えないが、理論で村人を導いた。数日後、農地に水が流れ、小麦の苗が芽吹き始めた。村人の目はわずかに輝きを取り戻した。だが、平和は長く続かなかった。夜、川の対岸に松明の光が揺れた。焔の雫の斥候、フォレストエルフの弓使いだ。彼女の弓には風魔法が宿り、矢は正確に村の柵を狙った。「来るぞ!」尊は叫び、村人を集めた。尊は情報部の経験を活かし、斥候の動きを予測。彼女が川を渡る前に、川の流れを利用した氷魔法の堰をリナに指示。斥候の足元を凍らせ、動きを封じた。さらに、エリの風魔法で矢をそらし、尊が設計した火魔法の罠(村の薪に油を仕込む)を起動。斥候は撤退したが、尊は彼女の落とした短剣に刻まれた紋章を見つけた。西の帝国の騎士爵の印だ。「盗賊が…帝国と繋がっている?」尊は呟き、謎の糸口を掴んだ。

 

戦いの後、集会所で村人が尊を取り囲んだ。「あなた、賢者ね」とリナが呟く。尊は首を振った。「ただの…知識好きだよ。でも、この村を救いたい。アスナを救いたい」彼はアスナの境遇に自分の過去を重ねていた。いじめられ、孤児として見捨てられた自分。彼女もまた、誰かに必要とされたいはずだ。マリアが口を開いた。「アスナは…内気な子だった。光魔法が使えたけど、役に立たなかった。いつも一人で川辺にいたよ」尊は頷き、決意を固めた。「彼女を連れ戻す。それが村の希望になる」彼は『君主論』を思い出した。「君主は機会を逃さず、運命を掴む」。この村は、彼にとって新たな始まりだった。尊は村人に提案した。「川の水運で交易を始めよう。北の山岳から星鋼が手に入る。フォレストエルフと交渉すれば、村は豊かになる」村人は半信半疑だったが、リナとエリが賛同した。「尊の言う通りなら…やってみる価値はある」とマリアも頷く。尊は初めて、誰かに必要とされる感覚を味わった。

 

夜、尊は川辺で一人、星空を見上げた。京都の図書館で死を考えていた自分が、今、異世界で生きる意味を見つけようとしている。哲学者カントの言葉が浮かぶ。「人は目的そのものであり、手段ではない」。アスナを救い、村を救うことは、尊自身の救いでもあった。彼は短剣の紋章を握りしめ、焔の雫の背後に潜む帝国の影を思った。「謎はまだ深い…だが、解いてみせる」リーフ村に、希望の芽が生まれていた。だが、帝国の魔物、盗賊の脅威、そしてアスナを巡る陰謀が、尊を待ち受けていた。

 

 

 




異世界知識001「アスデガルド王国」

アスデガルド王国は今泉 尊(いまいずみ たける)が降り立った場所、リーフ村が所属している国の名前。西の帝国と隣接しており、大規模な戦争が起きている。爵位としては男爵、伯爵、侯爵、公爵などがある。封建制度の残る中世社会の王国で奴隷制度が存在する。今現在、今泉 尊が滞在しているリーフ村は王国と帝国のほぼ北西の国境線に位置し、どちらとしても辺境の地である。
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