異世界建国「哲学好きな僕が王様に成り上がった話」 作:アサシン・零
アスデガルド王国の王宮、執務室の窓から冷たい風が吹き込む。シグルド12世、50代の国王は、書類の山に埋もれていた。白髪交じりの髭、深い皺が刻まれた顔は、王国の重荷を物語っていた。壁には古びた肖像画――先王たちの威厳ある姿――が並ぶが、今の王宮は腐敗と対立に満ちていた。「我が子よ…なぜだ」シグルドは呟き、溜息をついた。長男で王太子のハラルドは、享楽に溺れ、貴族の利権争いに無関心だった。保守派は奴隷制度と重税を維持し、革新派は改革を叫ぶが、シグルドの声は届かない。「誰かが…この国を変えてくれる者が必要だ」彼はペンを握り、帝国からの重税要求の書簡に目を通した。だが、心はすでに折れかけていた。王宮の広間では、貴族たちが罵り合う。保守派の男爵が叫ぶ。「辺境の村など切り捨てろ! 税収が全てだ!」革新派の伯爵が反論する。「民を殺せば王国は滅ぶ!」中道派は黙り、事態を静観する。シグルドは執務室の扉を閉め、騒音を遮った。彼の目には、リーフ村の噂――「賢者」と呼ばれるよそ者が村を救った――が、かすかな希望として浮かんでいた。
リーフ村、朝の薄霧が川面を覆う。北の山岳から流れる大きな川は、尊が設置した水車を静かに回していた。だが、村の現実は厳しかった。青銅製の農具は錆び、武器は粗末で、村人の衣服はボロボロに擦り切れている。小麦の苗は芽吹いたが、収穫には数か月かかる。飢えと恐怖が、30人の女性と子供を蝕んでいた。今泉尊は、集会所で村人たちに語りかけた。「食料が足りない。森で野菜や果樹を採ろう。団結すれば、生き延びられる」彼の声は、京都の教室で嘲笑された記憶を呼び起こした。孤児として誰にも必要とされなかった自分。だが、ここでは違う。リナ(12歳、土魔法)、エリ(10歳、風魔法)、カイル(15歳、木材加工)が彼を信じていた。尊はマキャベリの『君主論』を思い出した。「君主は機会を逃さず、運命を掴む」。彼は村人の目を真っ直ぐ見つめ、哲学を口にした。「プラトンは言った。『正義とは、皆が互いを助け合うこと』。俺たちがアスナを救い、村を守る。それが正義だ」村人の表情に、わずかな希望が灯った。尊はリナ、エリ、カイル、そして十数人の女性と子供を連れ、西のフォレストエルフの森へ向かった。森は危険だった。焔の雫の斥候や帝国の強化雪狼が潜む可能性がある。だが、尊は情報部の知識で地形を分析。川沿いの浅い茂みを選び、野菜や果樹を探した。リナが土魔法で根菜を見つけ、エリが風魔法で木の実を落とす。カイルは木材を切り、運搬用の簡易な台車を作った。「これ…食べられる?」エリが赤い果実を手に、尊に尋ねる。尊は図書館で読んだ植物学を思い出し、「毒はない。食べて大丈夫」と答えた。村人たちは慎重に果実を分け合い、久しぶりに笑顔を見せた。だが、尊の心は重かった。アスナの拉致、帝国の紋章、焔の雫の背後にある陰謀――謎は深まるばかりだ。森の奥で、尊は奇妙な痕跡を見つけた。折れた矢、フォレストエルフのものだが、矢じりに帝国の刻印がある。「また…帝国か」尊は呟き、謎解きの糸口を掴んだ。焔の雫は、単なる盗賊ではない。保守派の貴族と繋がり、アスナを拉致した目的は政治的なはずだ。彼は『君主論』を思い出した。「敵を知り、味方を増やす」。フォレストエルフとの交易が、村の未来を左右する。
王都、アルデンベルク。石畳の街は、戦争の傷跡に覆われていた。数年前の帝国との戦で、孤児が溢れ、市場は閑散としている。経済は不況に沈み、貴族の利権争いが民を圧迫していた。アドルフ・ディスタリア侯爵、30代の王国騎士団長は、王都の城壁を見下ろす塔に立っていた。鋭い目、鍛えられた体躯、だがその顔は疲弊していた。「このままでは…王国は滅亡する」アドルフは呟き、剣の柄を握りしめた。ディスタリア家当主として、革新派の旗手として、彼は奴隷制度の廃止と民のための改革を訴えてきた。だが、王太子ハラルドの無能さが全てを台無しにしていた。享楽に溺れ、保守派に迎合する王太子に、アドルフは失望していた。「陛下も…同じ思いだろう」アドルフはシグルド12世の疲れた表情を思い出した。昨夜の会議で、国王はこう呟いた。「誰かが変革をもたらしてくれるだろう」。アドルフはリーフ村の噂を耳にしていた。辺境の村で、「賢者」と呼ばれるよそ者が、女性と子供だけで村を立て直している。革新派の同志として、彼は密かに期待を寄せていた。だが、王都の現実は厳しい。孤児たちは盗みや物乞いで生き延び、保守派貴族は奴隷市場を拡大。アドルフは騎士団を率い、治安維持に奔走するが、不況は止まらない。彼は決意した。「リーフ村の賢者に会うべきか…いや、まだだ。王都の腐敗を、まず正さねば」
リーフ村に戻る。尊と村人たちは、採取した野菜と果実を手に帰還した。粗末な集会所で、村人たちは久しぶりの食事を囲んだ。だが、尊の目は川の対岸に向けられていた。焔の雫の次の襲撃は、いつ来るか分からない。帝国の強化雪狼も、村を脅かす。「武器が…青銅では限界がある」尊は呟き、星鋼の交易を急ぐ必要を感じた。カイルが尊に近づいた。「尊、木材で市場の屋台は完成した。次は何だ?」尊は答えた。「フォレストエルフと交易だ。星鋼を手に入れ、武器と農具を強化する」彼は『君主論』を思い出した。「君主は味方を増やし、敵を欺く」。フォレストエルフとの交渉は、村の存亡を左右する。その夜、尊はリナに尋ねた。「アスナのこと、もっと教えてくれ」リナは目を伏せた。「内気な子だった。光魔法を使ってたけど…弱くて、誰も助けてくれなかった。私、彼女を守れなかった」尊はリナの肩に手を置き、言った。「今度は俺たちが守る。約束する」彼の心には、京都での孤独が重なった。いじめられ、必要とされなかった自分。アスナを救うことは、尊自身の救いでもあった。
王都、夜の闇が深まる。アドルフは騎士団の訓練場で剣を振るっていた。孤児の少年が、彼に近づき、パンを求めた。アドルフは少年にコートをかけ、呟いた。「この国は…変わらねばならぬ」リーフ村の賢者の噂が、彼の胸に希望の火を灯していた。リーフ村では、尊が川辺で星空を見上げていた。帝国の紋章、焔の雫の目的、アスナの拉致――謎はまだ深い。だが、彼はカントの言葉を思い出した。「人は目的そのものであり、手段ではない」。村を救い、アスナを救う。それが、尊の新たな目的だった。
異世界知識002「リーフ村」
リーフ村は今泉 尊が降り立った村、人口は約50人ほどだが男性などは兵役や町や王都の出稼ぎによって現在はほとんどいない。北に山岳があり、そこに大きな川が流れている。土地は痩せており、逆に周辺には森林地帯が多い。村の特産品は特になく、今泉 尊の現代知識とその知識欲の手腕が試される。
また領主が年別に重税を課すので不満がアスデガルド王国の中で一番、溜まっている。特に村長もおらず、生活が苦しい。アスデガルド王国のほぼ北西に存在し、帝国とほぼ隣接した状態の地である。