異世界建国「哲学好きな僕が王様に成り上がった話」 作:アサシン・零
リーフ村への帰路、悪魔の森の獣道を進む今泉尊(17歳)は、青銅製の片手剣を手に、傷の痛みを堪えていた。カイル(15歳、青銅製大剣)とリナ(12歳、青銅製片手斧)がアスナを支え、疲れ切った一行は川のせせらぎを頼りに歩みを進めた。アスナの内気な目は、尊に感謝を伝えず、ただ地面を見つめていた。森の木々が揺れる中、尊の脳裏に京都の図書館が浮かんだ。虐められ、孤児として孤独だった日々。だが、図書館で読んだ畜産の本が、突然記憶に蘇った。「家畜…村の食料問題を解決できるかもしれない」彼はリナに尋ねた。「この世界に、家畜化できる魔物はいるか?」
リナは少し考え、答えた。「バイコーン…馬みたいな魔物なら、昔、村で飼われてたって聞いた。力強いけど、気性が荒いよ」尊は頷いた。「捕まえられれば、農作業や運搬に使える。試してみよう」彼はマキャベリの『君主論』を思い出した。「君主は機会を逃さず、運命を掴む」。村の課題を解決するには、すべての可能性を模索する必要があった。村に到着すると、村人たちがアスナの帰還を静かに迎えた。だが、喜びは短かった。リーフ村は依然として貧困に喘いでいた。青銅製の農具は錆び、武器は脆く、村人の衣服はボロボロ。小麦の苗は芽吹いたが、収穫には時間がかかる。小さな小屋は風雨を防ぐにも不十分だった。尊は村人たちに宣言した。「アスナを救った。だが、村を救うにはまだ足りない。食料と住居を整えよう」
尊はリナ、カイル、エリ(10歳、風魔法)、そして数人の女性を連れ、村近くの森へ向かった。西のフォレストエルフの領域に近い森は、危険だが資源も豊富だった。尊の植物学の知識が活きた。トマトやキュウリに似た野菜を見つけ、種を乾燥させて植える計画を立てた。「これで食料を増やせる」と尊は呟き、村人たちに種の保存法を教えた。だが、尊の視線は村の小屋に注がれた。粗末な木と藁の住居は、京都の家とは比べ物にならない。彼は日本の家間取り図を思い出した。効率的な空間設計、木材と石の組み合わせ。カイルに指示した。「もっと木材を加工しよう。日本の家を参考に、丈夫な住居を作る」カイルは頷き、青銅の斧で木材を切り始めた。だが、尊は気づいていた。青銅の道具では耐久性が足りない。北の山岳の星鋼が必要だ。
王都アルデンベルク、王宮の奥深く。絢爛な装飾の部屋で、王太子ハラルド(20代後半)が苛立ちを爆発させていた。金髪の髪、傲慢な目。婚約者のセレノア・ディスタリア、革新派アドルフ侯爵の娘が、彼の前に跪いていた。「お前、父の改革を支持する気か?」ハラルドの声は鋭く、手がセレノアの頬を叩いた。彼女は顔を押さえ、唇を噛んだが、反抗の目は消えなかった。セレノアは父アドルフと同じく革新派の信念を持ち、奴隷制度の廃止を望んでいた。だが、ハラルドは保守派に迎合し、王国の腐敗を維持していた。部屋の外で、保守派の貴族二人が待っていた。ゲラルト・シーグリス男爵(26歳、狡猾な策士)とエリス・カーマイン(35歳、冷徹な魔導士)。ハラルドは二人を招き入れ、密談を始めた。「父上は…邪魔だ」ハラルドは声を低くした。「シグルド12世が生きている限り、王国は変わらん。帝国との戦争も、父の弱腰が原因だ」ゲラルトが微笑んだ。「殿下、暗殺の準備はできています。毒を盛れば、跡目は貴方です」エリスが付け加えた。「私の闇魔法で、痕跡は残りません。だが、リーフ村の賢者の噂…放っておけませんよ」ハラルドは拳を握り、唸った。「そのよそ者も、潰す」
リーフ村、昼下がり。尊の傷は村の女性、マリアが手当てした。青銅の武器で戦った傷は深く、尊は自分の無力さを痛感していた。だが、その時、村に馬車の音が響いた。村人たちがざわめく中、シグルド12世の使者が現れた。「今泉尊、王の呼び出しだ」尊は驚きつつ、使者に従った。馬車で数時間、王宮の執務室に通された尊は、シグルド12世と対面した。疲れ切った国王の目は、希望と絶望が交錯していた。「リーフ村の賢者…お前が尊か」シグルドは静かに語った。「我が子は無能だ。だが、お前の噂を聞いた。村を救い、アスナ殿を救った。お前を…養子に迎えたい」
尊は言葉を失った。孤児として誰にも必要とされなかった自分。京都での虐め、図書館での絶望が脳裏をよぎる。だが、彼は答えた。「…私は、ただのよそ者です。なぜ?」シグルドは微笑んだ。「お前の知識と正義。この国を変える力だ。だが、条件がある。リーフ村を王国の要にしろ。それが任務だ」尊は断れなかった。シグルドの目に、京都で見た教師の目――期待と重圧――が重なった。「…承知しました」彼は頭を下げた。シグルドは馬車に乗り、王都へ帰った。尊は村に戻り、村人たちに告げた。「王から任務を受けた。リーフ村を、希望の地にする」
村の集会所、アスナは隅で縮こまっていた。彼女の光魔法は、微弱な輝きを放つだけだった。「私…役に立たない」尊は彼女に近づき、言った。「君がここにいる。それが希望だ」彼はカントの言葉を思い出した。「人は目的そのものであり、手段ではない」。アスナの目は、わずかに揺れた。尊は村人たちに新たな計画を伝えた。「バイコーンを捕まえ、農作業を効率化する。星鋼を手に入れ、武器と農具を強化する。日本の家を参考に、住居を建てる」カイルは頷き、リナは土魔法で農地を整えた。だが、尊の心には不安が残った。焔の雫のセラ、帝国の紋章、魔物研究の謎。そして、王都での戦争と暗殺の企て――リーフ村は、大きな嵐に巻き込まれようとしていた。
尊は川辺で星空を見上げ、マキャベリの『君主論』を思い出した。「君主は敵を知り、味方を増やす」。フォレストエルフとの交易、ウェアウルフとの交渉、そして帝国との戦争。彼は剣を握り、呟いた。「アスナを守り、村を守る。それが俺の正義だ」
異世界知識004「シグルド12世」
アスデガルド王国の28代目国王。アスデガルド王国を長年、統治続けてきた偉大な王。現在は享楽やすぐに手を出してしまうハラルドを王太子(子)に持つ。実は57歳と日本人にとっては若い年齢の人物だが疲労や貴族の利権争いへのストレスが原因か、ほぼ黒髪と白髪の交じった髪の毛と髭を持つ。尊を養子(王子)にするぐらい困っており、王としては残念な人物。