異世界建国「哲学好きな僕が王様に成り上がった話」 作:アサシン・零
リーフ村の夕暮れ、川のせせらぎが静かに響く。集会所の粗末な木のテーブルで、今泉尊(17歳)はビョルン・スタルフェルト侯爵(40代半ば)と向き合っていた。尊の腕の傷は癒えつつあったが、青銅製の片手剣を握る手には、悪魔の森での戦闘の記憶が残っていた。アスナ(元公爵の娘)は隅で縮こまり、微弱な光魔法が彼女の手から漏れる。村人たちのボロボロの衣服と青銅の農具が、村の貧困を物語っていた。尊はビョルンの鋭い目に耐え、問うた。「なぜ…私のような者が養子に?」彼の声には、京都で孤児として虐められた過去の影があった。ビョルンは革の長コートを整え、静かに答えた。「陛下、シグルド12世は政治に疲れている。王国の腐敗、貴族の利権争い、帝国との戦争…そして、王太子ハラルドの悪評だ」
尊は目を細めた。「ハラルドの…悪評?」ビョルンは頷き、続けた。「享楽に溺れ、民を顧みない。セレノア・ディスタリアを暴行した噂もある。有能な者を養子に迎え、王国を変える。それが陛下の望みだ。そして…その提案をしたのは私だ」彼の目は尊を貫いた。「お前は孤児だろう?」尊は息を呑んだ。「どうして…それを?」京都の教室、アンドリュー、西野航、金子愛子の嘲笑が脳裏をよぎる。ビョルンは黙り、哲学的に答えた。「お前の目だ。誰にも必要とされなかった者の目だ。だが、それは運命だ。お前はここで、必要とされる存在になる」尊の胸に、温かい痛みが走った。孤児の孤独が、初めて希望に変わりつつあった。
ビョルンは続ける。「明日、王宮で養子縁組の式典を行う。この世界での新しい名前を考えろ」尊はとっさに、かつてプレイしたゲームの主人公を思い出した。「イグニス…イグニスでいい」ビョルンは微笑んだ。「炎の名か。良い選択だ。イグニス、明日がお前の新たな始まりだ」尊――いや、イグニスは、暗い気持ちがわずかに明るくなるのを感じた。京都での絶望が、遠い記憶に変わりつつあった。
翌日、アルデンベルクの王宮。石造りの広間は、貴族たちのざわめきで満たされていた。絢爛なシャンデリアの下、シグルド12世(50代、白髪交じりの髭)が玉座に座る。隣には王国騎士団長、アドルフ・ディスタリア侯爵(30代、革新派)。彼は帝国との戦場で一時的な勝利を収め、部下に後を任せて王宮に戻っていた。鋭い目が、イグニスを観察する。式典の中央、イグニスはビョルンに導かれ、シグルドの前に立った。保守派の貴族――ゲラルト・シーグリス男爵(26歳)とエリス・カーマイン(35歳、闇魔法使い)――が冷ややかな視線を投げる。革新派の貴族は期待を、中道派は無関心を隠さない。ハラルド(王太子、20代後半)は玉座の脇で拳を握り、憤りを抑えていた。
シグルドが重い声で言った。「今泉尊、否、イグニスよ。ここにサインを」彼が差し出した羊皮紙には、養子縁組の契約が記されていた。イグニスはペンを握り、京都での孤独を思い出した。虐められ、図書館で自殺を模索した自分。だが、今、村人たちが彼を必要としている。ペンが紙を滑り、サインが完成した。ハラルドが叫んだ。「父上! このよそ者が王太子に相応しいと? 私がいる!」シグルドは冷たく答えた。「ハラルド、くどい。お前の無能は王国を滅ぼす」広間に沈黙が落ちた。ゲラルトとエリスが目配せし、暗殺計画を胸に秘める。アドルフは静かに頷き、イグニスに歩み寄った。「お前が…リーフ村の賢者だな。王国を救え」
式典後、イグニスはシグルドの執務室を訪ねた。疲れ切った国王は、書類の山に埋もれていた。「陛下…私は孤児です。なぜ私を?」イグニスは率直に問うた。シグルドは笑い、言った。「そうか。孤児か。なら、なおさらだ。民の苦しみを、お前は知っている。ハラルドにはそれがない」彼は続ける。「リーフ村を王国の要にしろ。それがお前の使命だ」シグルドは布告を読み上げた。「ハラルドを廃嫡し、イグニスを王太子とする」貴族たちのざわめきが広間を満たす。ハラルドは顔を歪め、退出した。ゲラルトとエリスが彼を追い、暗殺の計画を加速させた。アドルフとビョルンはイグニスに近づき、言った。「王太子イグニス、リーフ村を頼む。帝国との戦争は、私が戦う」イグニスは頷き、王宮を後にした。
リーフ村に戻ったイグニスは、村人たちに報告した。「私は…王太子になった。だが、この村が私の戦場だ。リーフ村を、希望の地にする」カイル(15歳)、リナ(12歳)、エリ(10歳)、マリア、アスナが集まり、驚きと信頼の目で彼を見た。アスナは呟いた。「イグニス…すごい名前。私、役に立たないけど…」彼女の光魔法は、微弱な輝きを放つだけだった。イグニスは微笑み、答えた。「君がいる。それが力だ」彼はカントの言葉を思い出した。「人は目的そのものであり、手段ではない」。村人たちに計画を伝えた。「バイコーンを捕まえ、農作業を効率化する。フォレストエルフと交易し、星鋼で武器と農具を強化する。日本の家を参考に、住居を建てる」カイルが木材加工を、リナが土魔法で農地を、エリが風魔法で偵察を続けた。
だが、イグニスの心には重圧があった。焔の雫のセラが言った「帝国の鍵」。帝国の紋章、魔物研究の謎。ハラルドの廃嫡と保守派の反発。そして、戦争の影。マキャベリの『君主論』が浮かぶ。「君主は敵を知り、味方を増やす」。フォレストエルフ、ウェアウルフとの交渉が急務だった。
王都アルデンベルク、夜の闇が深まる。ハラルドは隠れ家で、ゲラルトとエリスと密談していた。「父上を…消す。イグニスもだ」ゲラルトが微笑む。「毒は準備済み。戦争の混乱を利用しましょう」エリスが闇魔法を帯びた手を握り、言った。「リーフ村の賢者…彼の知識は脅威です。早めに潰すべき」一方、セレノア・ディスタリアは父アドルフに手紙を書き、リーフ村の賢者に希望を託した。彼女の頬の傷は癒えず、だが目は決意に燃えていた。「イグニス…王国を変えて」彼女は馬車を用意し、密かに王都を離れた。リーフ村では、イグニスが川辺で星空を見上げた。新しい名前、新しい使命。京都の絶望は遠く、だが、帝国の戦争と王都の陰謀が迫る。彼は剣を握り、呟いた。「リーフ村を守る。それが私の正義だ」
異世界知識007「養子と改名」
現実世界でも外国人が帰化する際に名前を変えることがある。日本人でも役所に行けば名前や名字を変えられる。
今回の今泉 尊の場合もそう。しかも王家では尚更である。日本の天皇家は養子をとっても後継者にすることは法制度の観点から難しい。しかし、異世界ならそれが可能なのである。しかも今泉 尊の場合はアドルフとビョルンがいるから助かっている印象がある。
普通は暗殺されそうなものだが果たしてハラルドの暗殺任務はうまくいくのか?
ちなみにハラルドも黒髪。アスナの髪は橙色。リナの髪は紺青色でカイルは青色。今泉 尊も黒髪なので実の兄弟と言われてもそんな遜色ない形なのだ。
原作者の私が言うのもなんだが基本的にこれからイグニスは狙われやすいと言っても過言ではない展開になりそうだ............。