異世界建国「哲学好きな僕が王様に成り上がった話」 作:アサシン・零
アルデンベルクの王宮、朝の光が石造りの広間を薄く照らす。イグニス(17歳、王太子)は、粗末な木のテーブルで朝食を取っていた。干した魚と硬いパン、僅かな野菜――王国の貧困を映す食事だった。だが、彼は料理人に微笑み、言った。「ありがとう。美味いよ」料理人、老いた女性は涙を浮かべ、呟いた。「王国内で食料がもっとあれば…良いものを出せるのに」イグニスは箸を置き、京都の記憶を思い出した。学校の栄養学――「赤・黄・緑」の三色バランス。肉や魚、穀物、野菜を揃えることで健康を保つ。「この国でも…できるはずだ」彼は決意し、宰相ルシウス(52歳、革新派)を探した。ビョルン・スタルフェルト侯爵(40代半ば)に案内され、王宮の書庫へ向かった。
ルシウスは、緑の目と緑がかった白髪交じりの髪を揺らし、書庫の扉を開けた。「イグニス、解決策はここにある。調べよう」埃っぽい書架、革表紙の古書が並ぶ。イグニスは京都の図書館を思い出した。虐められ、孤児として逃げ込んだ場所。だが、今、彼は王太子だ。書庫に通い、農業、経済、建築の本を読み漁った。シグルド12世(50代)は書庫を訪れ、微笑んだ。「お前は本が好きだな。良いことだ」書庫の隅で、イグニスは壁の肖像画に目を留めた。優しげな女性の顔。シグルドが静かに言った。「私の妻だ。お前の養母、セリーナ。もう亡くなっているが…彼女も民を愛した」イグニスの胸に、温かい痛みが走った。孤児だった自分に、初めて「家族」の名が与えられた。彼は呟いた。「…養母の分まで、王国を守ります」
書庫で、ルシウスとビョルンは食料問題の解決策を議論した。イグニスは提案した。「リーフ村でトマトとキュウリを植えた。バイコーンの畜産も始める。王国全体で、農地改良と交易を進めれば、食料は増える」ルシウスは頷き、言った。「革新派の私も、同じ考えだ。だが、保守派とハラルドが…邪魔だ」イグニスはマキャベリの『君主論』を思い出した。「君主は敵を知り、味方を増やす」。王国の腐敗を正すには、時間がいる。
リーフ村に戻ったイグニスは、村人たちを集めた。鉄と銅の採掘場で、カイル(15歳、青銅製大剣)とリナ(12歳、青銅製片手斧)が石を運び、鍛冶屋が瓦を製作。1階建ての家が数軒、2階建ての家も1軒完成した。集会所は石と木材で改築され、市場の屋台が並ぶ。悪魔の森の古い館は修理され、イグニスが領主として使うことにした。アスナと同棲を始め、彼女の内気な目は少しだけ和らいだ。「ここ…私の家になるの?」アスナが呟き、光魔法で部屋を照らす。微弱な光は役に立たないが、イグニスは微笑んだ。「君と一緒なら、立派な家になる」彼はカントの言葉を思い出した。「人は目的そのものであり、手段ではない」。アスナは頬を赤らめ、目を伏せた。
バイコーン8頭は、丘陵地帯の柵で囲われた。気性が荒かったが、エリ(10歳、風魔法)の風魔法で落ち着かせ、畜産が始まった。「繁殖には時間がかかるけど…農作業が楽になるよ」エリが笑う。小麦の収穫も始まり、村人たちは久しぶりに満腹の食事を囲んだ。だが、イグニスは気づいていた。リーフ村は帝国の国境線に近い。石と木材で壁を築き、見張り台を設置した。その日、馬車の音が響いた。セレノア・ディスタリア(アドルフの娘)が到着した。頬の傷――ハラルドの暴行の跡――が痛々しい。彼女はイグニスに頭を下げた。「王太子イグニス…王国を変えると聞き、来た。私も…ここで暮らしたい」イグニスは驚き、だが頷いた。「ようこそ、セレノア。この村は、希望の地になる」
王都アルデンベルク、夜の隠れ家。廃嫡されたハラルドは、保守派の貴族たちと密談していた。ゲラルト・シーグリス男爵(26歳)とエリス・カーマイン(35歳、闇魔法使い)が脇に控え、新たな仲間――オーラズ・ハヴリンドバイド男爵(30代、「狂犬」)が大剣を手に笑う。「殿下、戦争の混乱を利用し、王位を奪いましょう。イグニスは…私が潰す」ハラルドは知略を巡らせ、言った。「暗殺は小休止だ。まず、保守派をまとめ、力を増す。オーラズ、お前の戦場での名声は頼りになる」エリスが冷たく付け加えた。「リーフ村は帝国の国境線に近い。そこを叩けば、イグニスは終わる」ハラルドは頷き、野心を燃やした。「王太子の座は私のものだ」
リーフ村、夜。イグニスは館の窓から星空を見上げ、セレノアに話しかけた。「なぜ…村に?」彼女は静かに答えた。「父は戦場にいる。私は…ハラルドの暴行を逃れたかった。そして、貴方の噂を聞いた。リーフ村は希望だ」イグニスは彼女の頬の傷に目を留め、怒りを抑えた。「君も、この村を守る力になる」イグニスはプラトンの言葉を思い出した。「正義とは、皆が互いを助け合うこと」。焔の雫、帝国の魔物研究、ハラルドの陰謀――敵は多い。だが、村の壁、見張り台、バイコーンの柵、小麦の収穫が、彼に希望を与えた。『君主論』が浮かぶ。「敵を知り、味方を増やす」。フォレストエルフとの交易、ウェアウルフとの交渉が、次の試練だった。