「プロデューサーに、話がある」
「なんでしょうか」
「プロデューサーにとって、とても大切な話だから、心して聞いて、ね」
「……はい」
事務所として利用する教室で、俺と広さんは向かい合う。彼女の表情は真剣なものだ。俺も、何かしら深刻な話が始まるのかもしれないと考えて、身構える。
「これを見てほしい」
広さんはスマホを差し出した。
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
画面に映っていたのは、俺の黒歴史――かつて俺が出演した恋愛リアリティーショー『映画みたいな恋をした』のワンシーンだった。
「すごい、プロデューサー、この世の終わりみたいな顔してる」
「ど、どうして、これをっ……!」
「佑芽から『恋愛番組に広ちゃんのプロデューサーさんに似てる人でてきた!』って連絡がきた。内容はまだ見てない」
俺は広さんのスマホを奪取しようと手を伸ばしたが、彼女はすっと腕を引いた。
「語るに落ちた、ね。これ、やっぱりプロデューサーなんだ」
「ぐっ……!!!!!」
あの番組は、俺の人生史上最大の汚点だ。当時の俺は自分がモテモテ陽キャイケメンであると勘違いをしており、しかも不慣れな恋愛番組の雰囲気に当てられ、イタすぎる振る舞いを連発してしまった。
まずい、最悪だ。絶対に知られてはいけない人に知られてしまった。
「広さん、やめてください。お願いします」
「ふふっ、だめ」
「そんなっ……!!!!!」
広さんはネズミをいたぶる猫のような、獰悪な嗜虐に満ちた笑みを浮かべる。
そして、無情にも動画の再生ボタンが押された。白日の下に晒される――俺が陽キャギャルに告白して玉砕するシーン。
『俺のものになれよ』
『え、なに、キモッ。ムリなんだけど』
「あ、振られちゃった、ね」
「うぁああああああああああああああああッ!」
「プロデューサーにも、おらおら系の時代があったんだね」
「あああああああああああああああああああッ!」
羞恥の炎が噴き出す。顔が燃えるように熱い。俺は頭を掻き毟りながら、机に顔を突っ伏した。
しかし、悲劇は終わらない。画面の中の俺は愚かにも、別の美女にアプローチを掛ける。
『俺にとって△△さんは、昼に輝くヴィーナスのような存在なんです』
『ごめん、何言ってるか分からない』
「今度は工夫したけど失敗してる、ね」
「あああああああああああああああああああッ!」
「ふふっ、ポエミーで素敵だと思うよ」
「バカにしてますよね……!?」
「わたしには詩情がないから、ちょっとよく分からなかったけど」
「もう笑ってるじゃないですか……!!!」
羞恥に悶える俺の姿が面白いのか、広さんは愉しそうな笑顔を浮かべている。
さらに、三人目の女性に対する告白シーンでは――。
『や、ごめん。顔がタイプじゃない』
「わ、ばっさり……プロデューサーかわいそう」
「そう思うならもう視聴をやめてください!」
「プロデューサーの痴態を見るの、楽しい。最後まで見る」
「もう許してください……!」
広さんは本当に視聴をやめてくれない。俺は過去の俺のイタすぎる言動に耐えきれず、羞恥のあまり床に倒れ伏し、のたうち回った。
そして――番組は終了した。俺は痙攣するように、ピクピクと震えることしかできない。
瀕死だった。俺の名誉は傷付けられ、取り返しのつかない傷を精神に負った。
広さんがイスから立ち上がり、倒れ伏す俺を見下ろす。
「プロデューサー、ぜんぜんモテないね」
「ぐふっ……!!!」
担当アイドルに、とどめを刺される。残酷な事実を、シンプルな一言で突きつけられ、呼吸ができなくなる。致命傷だった。
「どうして、こんな番組に出たの?」
「若気の至りでした……深く後悔しています……」
「わたしも恋愛リアリティーショー、出てみようかな」
「ッ……!」
瞬間的に――不快感が込み上げる。頭の中に浮かぶ、嫌なイメージ。オシャレで垢抜けて気の利くイケメンに口説かれる、広さんの姿。
「……やめてください」
「ふふっ、険しい顔してる。もしかして、やきもち?」
「っ……」
図星だった。普段なら、憎まれ口で返したり、適当に話を逸らしたりするが、今日は羞恥心のブレーキがぶっ壊れてしまっていた。
「……はい。広さんを、誰にも渡したくありません」
「……!」
広さんは目を見開く。その頬は、ほんのり桜色に紅潮している。
「おおっ……プロデューサーがデレた」
「……広さん、普段から『好き』と言っているのに、自分が言われるのは驚くんですね」
「キチク目レイケツ科プロデューサー属のデレは珍しいことで知られている」
「動物の生態みたいに言わないでください」
「ざんねんないきもの辞典にも載ってた」
「誰がざんねんないきものですか」
「ね、プロデューサー、立ってよ」
俺は言われるがまま立ち上がる。広さんと、正面から向かい合う。素直に気持ちを伝えた直後なので、気恥ずかしい。
「プロデューサーがこの番組に出てたこと、他に知ってる人はいる?」
「誰にも教えていません。この学園で知っているのは、あなたと花海佑芽さんだけでしょう」
「他のプロデューサー科のみなさんにも、見せてあげたい」
「俺を社会的に殺す気ですか?????」
もしバレれば、ここまで築き上げてきた俺のキャリアは地の底に沈む。後ろ指を指されて笑われるに違いない。
「……あなたは知りすぎた」
「え」
「広さん、俺の名誉のため、一緒に死にましょう」
広さんは頬を赤く染め、どこか愉しそうに、恍惚とした笑みを浮かべる。
「ふふっ、やけになって心中要求されてる……わたし、命の危機……」
俺は広さんを強引に抱き寄せた。
取り返しのつかないことをしている感覚がある。俺は今、自らの手で地獄へと繋がる扉を開こうとしているのかもしれない。
「俺と一緒に死ぬか、俺と一緒に生きるか、好きな方を選んでください」
「……鬼畜プロデューサー」
「なんとでも言ってください」
「そういうところが、好き」
「……答えは?」
「うん、いいよ。わたし、プロデューサーと一緒に生きる」
広さんが背伸びをして、俺の耳元に薄い唇を寄せる。
「もう、逃げられない、ね……?」