最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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13:新たな試み/旋風は徐々に渦巻き

「いやぁ、来ましたよ。『日双工業の丘』」

 

 

 草原を踏みしめ、ナツカは意気揚々と言う。

 草原──というのは、表面上(テクスチャ)の話だ。踏みしめる大地には青々とした短い草が生い茂っている。草の生い茂った原だから草原。ただそれだけのことである。

 どういう意味かというと──

 

 

「下手こいて落ちたりするなよ」

 

「ばかにしないでほしいですね。ナツカさんはダイバーのプロですよ」

 

 

 ──横スクロールアクションゲームというジャンルのゲームがある。

 その名の通り、横にスクロールするステージを進んでゴールを目指すタイプのアクションゲームだ。

 アレを()()()()()()()()()()光景はどうなっているか。そんな想像をした人は、けっこういると思う。俺も子供(ガキ)の頃考えたことがあるしな。

 目の前から敵が来るのに、右や左に避けずジャンプでしか躱せない理不尽。それは何故なのか、というような疑問──。

 

 この迷宮は、そんな疑問の答えを形にして、さらに発展させたような地形だった。

 

 俺達の目の前には『細長い道』がひたすら先まで伸び、その上に空中に浮かんだ足場が幾つもある。それだけでなく、離れたところに視線を移してみると、横スクロールゲームで言うコースにあたる『細長い道』が此処の他にも複数点在していた。

 その上下にはどこまでも続く青空が広がっており、遥か下方には真っ黒いブラックホールのようなものが浮かんでいる。もちろん、アレはこの迷宮の『ギミック』である。落ちれば、あのブラックホールに吸い込まれていくという訳だ。

 このように外見上は『草原』だが、その構造を見れば草原とは似ても似つかない。それが、この迷宮の特質である。

 

 此処は『日双工業の丘』。

 日双工業という企業の嘱託探索者によって平定された異界迷宮(ダンジョン)である。

 平常異界深度(フロアレベル):4。迷獣(モンスター)の脅威度は低いが、どこからともなく際限なく湧き続けるがゆえの数値だ。

 この迷宮は、アスレチックのような地形とほどよく弱いモンスターがそれなりに大量に湧くこと、『細長い道(コース)』が複数あるので同時に多人数が探索できることなどから、平定されて以来、探索者……特にダイバーに根強い人気を誇っていた。探索メインの新人ダイバーはみな一回は此処で配信することから、別名『登竜門』と呼ばれるほどだ。

 とはいえ、新人しかいないかというとそうではなく、中には此処の探索を専門にやるDTA──ダンジョン・タイム・アタックのこと──勢もいる。

 色々な層のダイバーが集まるこの迷宮は、ダイバー準備中のナツカにとって自分の顔を売るのにうってつけというわけである。

 

 そして俺達は、先週の日曜にナツカの家で決めた『俺が撮影に回ることでナツカを際立たせる』活動方針でデビュー準備を行う為、此処にやってきたのだった。

 

 

「じゃ、まず挨拶用の撮影すんぞー」

 

 

 そう言って、俺は撮影ドローンを起動する。

 ふわりと浮かび上がったドローンは、俺ではなくナツカのことをカメラに捉える。

 

 

「えー、こほん。皆さんこんばんは、はじめまして。プロアスレチッククライマーのナツカです」

 

「初耳の肩書が来たな……」

 

「ほら、クロも挨拶して」

 

「俺は黒子なんだよ!」

 

 

 挨拶したらこの前までと変わらないだろうが!

 今回から、俺は裏方に回ってナツカの方を撮影するの。まぁデビュー配信の時にKaleidoさんの記事とギャップを生まない為に、程よく茶々は入れるが。

 

 

「まったく照れ屋なんだから……。さて、今日は皆さんご存知『日双工業の丘』を探索していきますよ」

 

「大丈夫か? この迷宮、出没する迷獣(モンスター)そのものの厄介さよりも、アスレチックコースを進む難易度の方が大変って聞くが」

 

「誰に言ってるんですか。ナツカさんは子どもの頃はジャングルジムの主として名を馳せた女ですよ。こんなアスレチックコース程度ちょちょいのちょいです。ノーミスクリア確定ですよ」

 

「調子に乗って落ちるとみた」

 

 

 適当に茶々を入れつつ、俺はカメラの画角を調整し、ナツカの背後にブラックホールのギミックが映るようにする。

 

 

「一応、あのブラックホールは『ギミック』だから落ちても入口に戻されるだけで済むが……」

 

 

 ブラックホールというと、吸い込まれたらもう死ぬしかないように思えるんだがな。

 だが、異界迷宮(ダンジョン)の現象が直感に反する結果を齎すなんてことは日常茶飯事だ。というか、あの距離にブラックホールが本当にあったら今頃全部吸い込まれて終わりだし。

 俺は画角をナツカに戻して、

 

 

「その手のゲームと違って、この迷宮に中間セーブはない。一度も落ちないでゴールまで行かないと駄目だからな」

 

 

 ちなみに、入口へのワープポータルのようなものもないので、ゴールに到達しても入口まで逆走するかブラックホールに落ちるかしかない。大半の利用者はブラックホールに落ちる方を選ぶので、この迷宮では『ブラックホールチャレンジ』、通称『ブラホチャレンジ』という落下の芸術点を競う遊びもあったりする。

 実は、今回俺がこの迷宮を選択したのも、この『ブラホチャレンジ』目当てである。ナツカならまず間違いなく途中で落ちまくるからな。()()()()『ブラホチャレンジ』でナツカのポンコツさをおもしろおかしく撮影し、それによってナツカの印象を強めようという作戦だ。

 

 

「そのくらい分かってますよ。まぁプロジャングルジマーのナツカさんの勇姿を見ておいてください」

 

「肩書変わってんぞ」

 

 

 そもそもジャングルジムとアスレチックでは求められる技能も違うだろ……。

 という心のツッコミを背負ったまま、ナツカはステージを進んでいく。

 

 俺はその後ろ姿を眺めながら、画面ドローンを操作して今撮影した動画をナツカのアカウントで投稿する。

 ダイバー準備中の探索者は、建前上デビュー配信まではTeller-Visionでの配信は行わない。短尺の動画をTeller-Visionや旋風に投稿するのが主流だ。旋風と連携している独自の配信サービス──『コガラシ』も、あまり利用はされない。

 とはいえ、開闢から一〇年も経てばそういう界隈の最適行動も変化していくわけで、ダイバー準備中の探索者はこうやって短尺の動画をほぼリアルタイムかつ無編集でSNSに投稿する『疑似配信』をすることも増えているそうだ(ナツカのサポートをするのにあたって調べた)。

 どうも『配信』という行為が一種の資格と化しているような気がして危うい感じもしなくもない風潮だが……別に俺は業界の未来を憂う志士でもなんでもないしな。乗れるフォーマットがあるなら乗っかるまでである。

 

 片手で画面ドローンを操作して撮影を再開すると、ちょうどコースが本格化した頃のようだった。

 ナツカが進んでいるコースは、『日双工業の丘』の中でも一番簡単なものの一つだ。緩い坂道を下った先で一旦足場が途切れ、空中に浮かぶ移動する足場が三個続き、その先にまた長い道が続く……という構成だ。

 草原なので坂道を下ったあとの踏ん張りが効きづらく滑り落ちそうという地味な罠があったり、そのせいで移動足場へ飛ぶ時のタイミングが取りづらかったりと地味な落下ポイントこそあるものの、足場の移動速度は遅いので、何ならダッシュで走り切ったりもできる。

 有名ダイバーは事も無げに走って渡り切る方が多いというこの難所、ナツカはニヤリと笑みを浮かべ──

 

 

「さぁ! 行きますよ! たぁぁーっ! あっ、ぁっ、ぁぁああぁぁぁああぁぁぁ~~…………」

 

 

 移動足場に飛び乗るタイミングで足を滑らせ、そのまま一直線にブラックホールに吸い込まれていった。

 あまりにも予想通り過ぎるだろ…………。

 

 

「皆さん、多分このあともこれが続きます」

 

 

 視聴者に向けて呟きながら、動画を一旦切り投稿する。

 

 で、待つこと数分。

 

 

「最初のチャレンジの感想はどうだった? プロアスレチッククライマー」

 

「ま、まぁ、なかなか骨があったんじゃないでしょうか……」

 

 

 さいでっか。

 

 

「あそこは直前の草原の下り坂のせいで踏み込みがしづらいんだよ。だから普通の足場のノリで踏み切ろうとすると足を滑らせてそのまま真っ逆さまだ」

 

「なんでそれを事前に言わないんですか? 不親切ですよ」

 

「プロとはいったい……」

 

 

 大見得切ったのはお前だろ。

 ナツカは俺がカメラを回しだすのを見ながら、

 

 

「まぁでも、これで理解(わか)りました。この迷宮は攻略したも同然ですね。あっ、これはナツカさんの決め台詞ですよ」

 

「ほーん、大きく出たな。ちなみにまだクリア進捗率は五%も行ってないぞ」

 

「甘いですよクロ。真のプロは未来を見据えるものなのです。現状がたとえ進捗五%でも未来の可能性は無限大なのだから進捗無限大%ですよ」

 

「相当遠くの未来まで見えてやがるようだな……」

 

 

 適当なことを言い合いながら、ナツカは先へと進んでいく。

 先程は無様に落下したところも無事飛び越える……が。

 

 

「うわっ、この足場意外と動くのが早いですよ!?」

 

 

 飛び乗った移動足場の速度に気を取られ、ナツカはしゃがみこんでその場で立ち往生してしまう。

 ちなみに、移動足場の移動方向は進行方向に対して垂直なので、そのまま跳躍すると移動足場の慣性のせいで微妙に跳躍の方向がズレてしまう。なので慣性に引っ張られないように一気に駆け抜けてしまうのが実は一番簡単なのだが……。

 これは……落ちたかな。

 俺は落下しないように注意しながらコースの端まで歩み寄り、

 

 

「早く飛ばないと絵面が地味だぞ」

 

「分かってますよ! これは伏線です。今から芸術点高いところ見せますから」

 

 

 そう言って、ナツカはスッと右手を構える。そこに握られていたのは……草原を構成している草? さっきしゃがみこんだ時に掴んだのか? ……『合成』? いやでも、何の為に……。

 

 突然の行動に首を傾げて様子を見守っていると、ナツカはおもむろにそれを足元に落とし──

 

 

「『匠の愉快な名人芸(フルリフォーム)』、起爆!!」

 

「ばっ」

 

 

 ドッゴォォオオオオオン!!!! と。

 ナツカの足元で、盛大に草が爆裂した。

 

 その様子を間近で眺めていた俺は爆風で思わずひっくり返り、転倒する。うおっ……! あぶね、踏ん張りがきかなくなったから滑る……!

 俺は咄嗟のところで地面に指をめり込ませ、落下を回避した。まったくいきなり変なことをしだすな……。至近距離で爆風を食らったのに少しもダメージがないから、おそらく爆風のみの設定で『合成』した爆弾なのだろうが……。

 しかし、これを足元で食らったナツカは──

 

 と視線を上に向けてみると、ナツカは爆風で吹っ飛ばされ──移動足場の向こう側まで移動していた。けっこう奇跡的に。

 ……いや、奇跡的って訳でもないのか。『匠の愉快な名人芸(フルリフォーム)』の爆発設定はかなり精密に調整できるからな。爆風の方向とかも自由自在だし、下手に自分の足で跳躍するよりも正確に移動方向を設定できる可能性すらあるのか。

 だが……、

 

 

「どうです? 流石はナツカさんでしょう」

 

「その体勢どうにかしたほうがいいと思うぞ」

 

 

 天高くケツを突き出した状態でドヤられても、絵的な面白さしか発生しないからな。

 よっ、とっ、ほっ……。

 移動足場を飛び越えて合流した俺を見て、ナツカはいそいそと立ち上がる。

 

 

「このように、ナツカさんの探索技能(スキル)匠の愉快な名人芸(フルリフォーム)』なら設定を精密に調整した爆弾を『合成』することができるのです。これは初見さんの為の全ダイバーが見習うべき自然な能力解説ですね」

 

「自爆移動は果たして最初に見せるべき能力運用なのか……?」

 

 

 いや、普通にアリだとは思うが。でもかなり煮詰まった部類の応用だよな。三種類目くらいに披露すべきものな気もする。

 

 

「さて、次に進んでいきますよ。次は……と、敵のお出ましですか」

 

 

 コースの先に視線を向けたところで、機械的なデザインの小型ワニ達がワラワラと現れる。この迷宮に出没する迷獣(モンスター)だ。名前は『ダウトロデン』。

 このワニは接近すると強い力で噛み付いてくるのだが、噛む力は強いわりに口を開ける力は弱いという弱点がある。なので、上からの攻撃にとても弱い。

 上からジャンプして踏みつけて倒せば簡単に倒せるということで、ジャンプを誘発させる迷宮の仕掛けの一部のようにもなっているのだった。

 

 

「ダウトロデンですね。まぁナツカさんの敵ではありませんよ」

 

「そいつ噛み付いたら電撃を流してくるから気を付けるんだぞ」

 

 

 そして、電流でしびれて動けなくなったダイバーをそのままコースの外へとポイッチョするという生態の迷獣(モンスター)なのである。

 俺の忠告に対し、ナツカは余裕綽々といった感じで、

 

 

「ふふん、迷宮ビギナーならいざ知らず、ナツカさんほどの実力者がそんなマヌケな目に遭うと思いますか?」

 

 

 などと、調子こいていたのだが。

 数秒後。

 

 

「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!?」

 

 

 ダウトロデンを踏みつける際にカッコつけて高くジャンプしたナツカは、そのまま着地地点をミスってダウトロデンのすぐ横に落下し、落下の隙を突いて足首を噛まれていた。

 足首を起点に流れる電流をモロに浴びて、ナツカはその場に倒れてのたうちまわっていた。おもろ。

 

 

「ちょ、これしびれっ、クロっ、クローっ! ヘルプ! ヘルプ!」

 

「俺は黒子だからさ……」

 

「言ってる場合ですかーっ!? これ乙りますから! 内側からじっくり焼かれてウェルダンになって乙っちゃいますから!」

 

「安心しろよ。そのままコースの外に投げ出されるだけだ」

 

「人でなし! 相棒が電流に焼かれて何とも思わないんですか!? っていうかちょっと半笑いなのはなんなんですか!? 外道! 鬼! 悪魔! 黒子! あぁぁぁぁひきずられるぅぅぅぅぅ」

 

「しっかたねえなあ……」

 

 

 このまま落ちる姿を撮影してもよいのだが、まぁもう十分撮れ高は手に入った。一旦撮影を止めて、ナツカに噛みついているダウトロデンを踏みつけて機能停止させてやる。

 ナツカはすっと立ち上がると、

 

 

「……まったく、卑劣な罠でしたね。ナツカさんはクロを守るために仕方がなくあえて罠にはまったわけですが……」

 

「どこに罠があったよ」

 

 

 一〇〇%お前の慢心しか存在しなかっただろうが。鮮やかにも程がある慢心だったよ。

 俺が今撮った動画を旋風に投稿していると、

 

 

「でも、何とか進めましたね。そろそろ折り返しといったところでしょうか」

 

「今進捗一〇%くらいだな」

 

「嘘……でしょう……」

 

 

 愕然とするナツカ。普通に、DTA勢なら三秒で此処まで来るぞ。俺でも三秒で行けると思う。

 俺がカメラを再度回すと、ナツカはこほんと咳払いをした。

 

 

「さて、気を取り直して次に進みますよ」

 

「ナツカ、メンタル強いなぁ」

 

 

 俺だったら、ナツカくらい苦戦していたらもうちょいめげそうなもんだが、ナツカはそんな様子おくびにも出さない。というか、何だかんだ迷宮で沼っても楽しそうなんだよな。なので安心して俺も茶々を入れられる訳だが。

 

 軽く走りながら、ナツカはコースを進んでいく。

 異界迷宮(ダンジョン)での肉体は、現実のそれよりも圧倒的に頑丈で強靭だ。なので運動能力もまた、当たり前の人間の上限など軽々超えていく。此処までは分かりやすい障害もなく、一・五メートルくらいの高さにある空中ブロックも簡単にジャンプで飛び越えながら、ナツカはコースを進んでいった。

 確か、この後は飛行タイプのダウトロデンがいる地帯のはずだったが……と、そんなナツカを追いながら次の難関について思いを巡らせていると。

 

 

「きゃああああああああ!?」

 

「う……! こいつら、飛んでるから踏みつけづらい……!」

 

 

 白髪の長髪に、紫髪の短髪。

 二人組のダイバー準備中と思しき少女が、飛行タイプのダウトロデンに襲われていた。




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