最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
「大変ですよ! 助けてあげないと!」
「まぁまぁ待て待て」
機械的な翼の生えたワニ──飛行型ダウトロデンに襲われている二人組の探索者を見て、ナツカはすぐに助けに入ろうとする。……が、俺はそれをあえて制止した。
振り返ったナツカが、訝し気な目線でこちらのことを見返す。
「どうしてですよ? めちゃくちゃ困ってそうですよ、あの二人」
「そりゃあな。もしも此処がゲームに出て来る
此処ではやられても『門』の外に転移するだけだし、そもそもダウトロデンを始めとしたこの迷宮の
向こうもそれを織り込んでいた場合、チャレンジに突然外野が首を突っ込んで台無しにされたと思うかもしれない。それに……、
「見てみろ」
そう言って、俺は少女達の周辺を指差す。
小さいのでよく見えないが……彼女達の周辺では、撮影ドローンが飛行していた。
彼女達は撮影中なのである。首から若葉マークを下げているから配信中ではないだろうが……。
「撮影してるっぽいぞ、あの二人。つまり、ああいう苦戦もコンテンツってこと。ナツカがダウトロデンにボコボコにされてる時に知らないダイバーが首突っ込んでダウトロデンを退治したら、撮れ高もあったもんじゃないだろ?」
「ナツカさんはそんなことよりもさっさとクロに助けてほしかったと思ってますよ」
「甘えんな」
撮れ高の方が優先に決まってるだろ!
「というわけで、今助けに入るのはむしろ迷惑になる可能性もある。様子見が安定択だな」
「安定たく?」
「無難な選択ってこと」
そっか……。安定択って一般用語じゃないんだ。
ランクマしてると結構頻繁に使うから忘れていた。
そんな感じで適当な問答をしつつ、二人の少女の奮闘の邪魔にならないよう遠巻きに見守る。
どうやら、白髪の少女の方は黒い大剣を、紫髪の少女の方は弓を扱うようだ。遠近をカバーし合う、コンビチャンネル前提の武装設定だな……。
こうした武装は、『門』を潜って肉体を異界物質で変換する際に本人の意志で設定できるわけだが──
なお、黒い剣を選択する人は意外とかなりいる。何せ、世界一有名な探索者である『とある少年』の持っていた武器が黒い剣だからな。あの白髪の少女が持っているのは『とある少年』が持っていたそれよりも大きいものだが、そういうバリエーションも込みでよくある。
ちなみに、かく言う俺は武装を使わない主義である。
──などと考えていると、ふと、白い長髪の方の少女と目が合った。
快活そうな印象の少女は、俺達の姿を認めると大きく口を開けて、
「あ……ああーっ!! すみませーん!! 助けてくださーい!! アイテム取られちゃって!! このままだと持ち逃げされるーっ!!」
と叫んだ。
…………アイテム?
「あっ、クロ。アレですよ。飛んでるダウトロデンの口に引っかかってます」
ナツカに指差されて空中にいる飛行型ダウトロデンの一体に視線を向けてみると……ダウトロデンの一体の口に緑色の宝石があしらわれたネックレスが引っかかっていた。
アレは……確か、ダウトロデンを倒した時に内部機構から稀に発見される装飾品だったか。ありふれているのでそこまで高値にはならないが、一応レアアイテムなので初心者ならば嬉しい思い出だろう。
……………………そりゃあ、取られたくはないわな。
「ナツカ、助けてやれよ」
「え? クロはやらないんです?」
「俺は黒子だぞ。サポートはしてやるから」
もちろん投稿前に相手の許可は取るが、一応撮影用ドローンは回しておく。
こういうイレギュラーな場面も、デビュー前の活動にはいい話題性になるだろう。
「仕方ないですね。プロダイバーのナツカさんのいいところ、見せてあげますよ」
そう言って、ナツカは両手のベアークローを構える。
普段がポンコツなので忘れがちだが、一応ナツカは両腕にベアークローを装備したけっこうな接近戦タイプなのである。……が、両手を使う戦闘スタイルって、『
「後塵を拝すがいいですよ!」
勇ましく声を上げながら、ナツカは飛行型ダウトロデンに向かって躍りかかる。
しかし、敵は機械製の飛行ワニである。衝撃を与える攻撃は有用だが、斬撃が主体のベアークローは分が悪い。そこをどう解決していくか、だが……。
あっ、ベアークローを飛行型ダウトロデンの翼に引っかけた。そうか。斬撃ではなく、あくまでリーチの長いマジックハンドのように使うならばいいのか。飛行ってけっこう繊細なバランスで成り立っているから、ちょっとそれを崩してやれば簡単に墜落してくれるしな。
現に、ベアークローを引っかけられた飛行型ダウトロデンは墜落して……あっ、アレネックレス持ちだったな。
「敵将、討ち取ったりぃ!!」
そう言って、ナツカはネックレスを掴み取って天高く掲げる。
……
そもそも、探索者は姿を変換する過程で武器を自由にデザインできるわけだからな。
「ほら、大切なものなんですよね?」
ナツカはそう言って、白髪の少女にネックレスを手渡す。
うむ、あの程度ならナツカでもどうにかなると思ったので任せたが、良い感じに一人で何とかできたようだ。ただ……、
「おいナツカ! 落としただけじゃ飛行型のダウトロデンは倒せないぞ! ちゃんと頭部に衝撃を加えないと──」
「あっ!? 足に!? あばばばばばばびゃびゃびゃびゃ!?!?!?」
「噛みつかれて電流地獄だぞ……って言おうと思ったんだが、遅かったか」
まぁ、格好いいところも撮れた上で撮れ高ポイントも撮れたのだ。十分な戦果だろう。あとはこっちの方で仕上げておいてやるとするか。
俺は撮影ドローンを停止させて、飛行型ダウトロデンの方へと向かっていく。群れまであと五メートルといったところで手を地面に当て、ザ!! と、地面を大雑把に撫でる。
「こういうのはな、まず高所を取るもんだ」
直後。
俺が撫でたところが淡く光り、そこから勢いよく井桁型に組み上げられた丸太が伸びていく。──『キャンプファイヤー』だ。
元々、焚火は『可燃物』と『照明』を満たすものとしてマークしていたが、焚火が『可燃物』と『照明』を満たせるならば、そのカテゴリに存在するものもまた同じく『可燃物』と『照明』を満たすことができる。
そして井桁型に組み上げられた丸太──キャンプファイヤーの上に立てば、飛行型ダウトロデンを相手する上で一番厄介な『高所を相手に取られている』という点はチャラにできる。
「で、叩き落とす!!」
続いて、俺は発現したキャンプファイヤーの上から跳躍し、飛行型ダウトロデンの上に着地する。
衝撃で落ちる前に機体を撫でて八方にステンレス製のガーデントーチを伸ばし、周辺の機体も撃墜。落下しながら発現したガーデントーチを拳で弾いてさらに撃墜する。
今の一連の流れで空中にいた全機を撃墜したのを確認しながら──そして着地。
「う、うわ……今のなに……?」
「……レベルが違いすぎるわね」
大体の飛行型ダウトロデンは墜落の衝撃で破壊されているようだが、万が一ということもある。飛行型ダウトロデンに激突して回転しながら落ちてきたガーデントーチをノールックで手に取ると、全機の頭を叩いてトドメを刺していく。
「ったく。詰めが甘いんだよ、ナツカは。ちゃんと最後まで処理しろ」
「無茶言わないでほしいですよ。というか、クロさっきナツカさんがやられるの分かっててギリギリまで黙って見てましたよね……?」
「だってその方が撮れ高的にもいいだろ。許可ないと投稿できないけどさ」
恨み言をぼやくナツカはスルーして俺は二人組の少女に視線を向ける。
ともかく、思い出の品になるだろうし、ちゃんと渡せてよかった。これを最優先で確保したナツカはお手柄だったな。俺だったらまず敵を全滅させるところから動いていただろうし。
「あー、大丈夫でしたか?」
「は、はい! ありがとうございます! やられるのはいいけど、持ち物は返って来ないので……助かりました!!」
「……ありがとうございます」
白髪の少女は、返って来たネックレスを大事そうに胸に抱きながら答えてくれた。
大丈夫そうでよかった。紫髪の少女も、大人しそうだけど感じが良い子だ。……まぁ、俺はこういう交流はちょっと……なので後はナツカに任せるが……。
ナツカの後ろに下がると、ナツカは調子に乗った様子で口を開く。
「まぁ、このくらいは当然ですよ。強者の義務、おぶれす・のぶりーじゅというヤツですね」
「ノブレス・オブリージュな」
「そうとも言いますよ」
そうとしか言わねえよ。
「ナツカさんはプロダイバーのナツカさんです。こっちは相棒のクロ」
「相棒でもないが……」
「え!? プロ!? ってことは企業勢!? あれ、でも若葉ネックレス……え!?」
「ほら、混乱しちまってるじゃねえか!」
俺は慌てて割って入り、
「自称なんで……。普通にダイバー準備中のヤツです。そういうキャラだと思ってもらえれば」
「キャラとはなんですかキャラとは。ナツカさんの言う『プロ』とは本質をですね……」
「うるせえ黙ってろ」
べし、と頭を手で抑えつけて黙らせる。
白髪の少女は苦笑していた。くそう、絶対変な人だと思われたぞ。…………いや、それはもう今更か。
「あはは……。わたしはフラン。秋篠フランって名前で活動してます! こっちは──」
「
二人の少女もまた、ナツカに応じて名乗ってくる。
ちなみに、活動名で苗字がある例も意外と多い。というかむしろ、現代では苗字がない方が少数派だ。
俺やナツカは名前のみだが、
今の時代に苗字がないのは、Kaleidoさんのように変わったネーミングの探索者くらいだ。いや、Kaleidoさんも被りを気にする必要がない古参勢かもしれないが。
「フランさんにレインさんですね。よろしくお願いします! 見たところ、同じダイバー準備中のようですし、敬語なんていいですよ! もっとも、ナツカさんのこれは癖なので変わりませんが」
「あ、そう? 分かった! 準備中同士よろしくね、ナツカちゃん、クロちゃん!」
「まったく、この子はすぐに距離を縮めるんだから……。……二人とも、気になるところがあったら遠慮なく言ってね?」
お、おお……。早速仲良くなってる……。
しかも、この子はちょっと大人しそうだなと思っていた柘榴坂さんですら自然と距離を詰めて来た……。この子、物静かなだけでおそらくリアルでは全然陽キャ寄りの人だな……。
「クロは照れ屋なので、反応が薄くても気にしないでいいですよ。バトル馬鹿なので」
「そうなんだ。さっきのとか、凄かったもんねー!」
「ふふん。まぁそれほどでもありますが」
「……何でお前が照れてんだよ」
俺が照れるところだろ、そこは。いや、実際に俺も今照れているのだが……。
……あ、そうだ。忘れないうちに業務連絡をしておかないと。
「二人がよければ、さっきの動画、旋風に上げてもいいっすか? 無理なら全然いいんで」
「全然いいよー! レインもいいよね?」
「ええ、もちろんよ」
よかった。快諾してもらえた。
自分達が弱ってる場面なんか投稿されたくない! ってことも全然あると思ったし、半分くらいダメ元のつもりだったが……。……まぁ、抵抗とか追い詰められ方も可愛い感じだったしな。あれはあれで人気出るか。
「その代わり、わたし達の方でも撮影してたから、そっちを投稿してもいい?」
「もちろん! 全然いいですよ! ナツカさんの勇姿をどんどん広めて行ってくださいな」
「あはは……。まぁそこは任せて」
お前はペンダント回収した後は電流食らってただけだが……。
「そうだ! 旋風やってるんなら、アカウントもあるよね? 教えてくれる? フォローするから!」
……おっ。
来たぞ、デビュー準備中の探索者同士の交流! こういうところでデビュー準備中の仲間を作ることで、デビュー時期の近いダイバー仲間を作っておくのが大事なのだ(解説サイトの受け売り)。デビュー時期が近いと『同期』と言って一種のグループみたいになったりするらしいからな。コンビチャンネルでそれがあるのかは分からないが。
「ええ! いいですよ。ナツカさんのアカウントはこれです。ちなみにクロのアカウントはフォロワー欄から見れますよ」
「あっおい」
俺は裏方なんだから人脈を広げる必要はないんだが……。
だが、あれよあれよという間に秋篠さんと柘榴坂さんにフォローされてしまった。こうなるとフォローを返さないというのも感じが悪いので、仕方がなくフォローを返すことに。
「この後なんだけど……どうしよっか、レイン。流石にこれ以上は今のわたし達じゃ厳しそうだよねぇ……」
「……そうね。またネックレスを取られたら困るし……。……今日は一旦戻りましょうか」
とかなんとかやっていると、二人はもう帰るらしかった。
話がまとまったのか、秋篠さんと柘榴坂さんはこちらの方に向き直って、
「そういうわけで、私達はこれでおいとますることにしたわ。今日は本当にありがとう。攻略頑張ってね」
「ナツカちゃんクロちゃん、今度予定合わせて一緒に遊ぼうねー!」
そう言って、二人はカメラドローンを回して道の縁に立つ。
そして──
「いくよレイン! 一緒に飛ぶからね! せーの……せーのっ……せー……」
「さっさと飛びなさいよ」
あっ、柘榴坂さんが秋篠さんの背中を押した。
「うわあああああああああああああんレインの人でなしいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「……じゃ、二人とも、またいずれ」
最後に俺達に呼びかけて、レインさんもブラックホール目掛けて飛び降りた。
二人の少女の姿は、遥か下方の黒い穴に吸い込まれ──そして消えてしまった。
……これが、『ブラホチャレンジ』である。
「……面白い子達だったな。あの子達は人気出るだろ」
「ふふん。ナツカさんも同期として張り合いが出て来ましたよ」
おっ、良い感じにやる気になって来たじゃないか。
それじゃあ、俺も協力してやるとするか……。
「それじゃ、今日は最奥まで行くからな。ダメそうになったらフォローしてやるから安心しろ」
「できればダメそうになる前に助けてほしいんですけど」
「それはダメ」
──結局、その後ナツカは数多の電流攻撃を受けながらも、なんとか最奥まで到達し、
所要時間三時間。まぁまぁ、といったところである。
◆ ◆ ◆
その後。
俺達は『
ダイバー準備中のタグをつけて投稿していたからか、新人ダイバー発掘が趣味のオタクたちを経由してけっこうな人に見てもらえている。流石は人類に最も身近なエンタメだ。
「クロ、これどうなんですか?」
画面ドローンを指差しながら、ナツカは首を傾げる。
ナツカにはその辺の拡散度合いの相場が良く分からないのだろう。とはいえ、俺もダイバー準備中の探索者の動画がどれくらい拡散していればいい方かは分からないのだが……。……共有数八九回。けっこう良い方なんじゃないか?
俺の普段の配信告知が共有数平均八〇〇回越えくらいなので、まだデビューすらしていないにしてはかなりの快挙だと思う。他に見える動画は共有数二〇回とかばっかりだしな。
「うん、いいんじゃないか。コメントもけっこう好意的なのがついてるだろ」
「『草』とか『声出してワロタ』とかばっかりですけど」
「それはうん……」
でも好意的だからいいじゃん。
「それに、他にもけっこう拡散されてる動画がありますよ。ほら、これなんか共有数一〇〇〇回……まだ伸びてますし」
「あん? あー……
刻崎クロノといえば、『企業勢』の中でもランクマの活動に比重を置いているダイバーだっけか。俺も一度当たったことがある。ボッコボコにしたら厄介ファンに粘着されたのだが、別にいいのに
その人がコメントつきで共有しているから、ファンの人が見て拡散してるっていう訳か。なるほどね。
えーと、どれどれ……。
刻崎クロノ@3rdシングル発売!
『えー、この人ヤバすぎです。俺でもこんなの無理。神業でしょ』
おー、べた褒めされてる。
引用されてる投稿は…………あ、これ秋篠さんのアカウントじゃん!? すっご……。秋篠さん、一気にバズっておられる……。やっぱあの子達はすぐ人気になるポテンシャルがあると思ったんだよなー。
「秋篠さん達が引用で紹介されてたんだな。ナツカ、運良かったじゃん。あの人たちはこれから有名になるぞ」
「……いや、クロ、これ……」
呑気に言っている俺に対して、ナツカは渋い顏をしながら、秋篠さんの投稿を詳細表示する。
秋篠フラン@ダイバー準備中
『凄い人に助けてもらっちゃった!!見て見て!!』
…………あ?
再生された動画は、秋篠さんが操っていた撮影ドローンからの視点だ。
上空から襲い来る飛行型ダウトロデン達。足首を噛まれて立ったまましびれているナツカ(おもしろい)。そして遠巻きから駆けて来る、黒尽くめで長身の女……。
女は地面に触れたかと思うと、下からキャンプファイヤーを出して跳躍。流れるような滑らかさで飛行型ダウトロデン達を叩き落とし、さらに油断なくトドメまで刺していた。
この間、二秒。動画はその後平然とした表情の黒い女の首に下げられた若葉マークのネックレスを映して終了していた。
『誰だこの男?』
『いやどう見ても女だろ、背高いけど』
『ダイバー準備中ってレベルじゃねえ』
『動きが完全にランクマ勢で草』
『ランクマ勢だけどこんな子見たことないぞ』
『逸材か──!!』
『キララちゃんとどっちが強いこれ?』
『対立煽りやめろ荒らし』
『通報しました』
『横で痺れてる子が面白すぎる』
『レインがアカウントのリンク貼ってるぞ』
……そうか。
俺は自分が映らないように細心の注意を払っていたが、秋篠さんや柘榴坂さんからしたらそんなことは知ったこっちゃないわけで。
純粋に自分達を助けてくれた人のことを映していたから、それを自分達視点として上げたと……。…………も、盲点だった……。
………………………………。
「クロ、凄いことになっちゃってませんか? これ」
「いやまぁ、ほんの一日くらいだって……。すぐに静かになるからこんなの……」
大手企業所属のダイバーが拡散したせいか、元の投稿の共有数もどんどん増えている。
こ、これは……。
…………ど、どうしよ、これ……。
バズっちゃった。(タイトル回収)