最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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17:ハイボルテージ/雲の切れ間から

「迷宮省の仕事……?」

 

 

 思わずオウム返ししてしまう俺に、心春さんは静かに頷く。

 腰に差した黒剣に手を当てながら、

 

 

「ああ。具体的に言うなら、異界迷宮(ダンジョン)攻略の最前線だね。今も残る『未平定迷宮』の攻略。……これを怠れば『異界氾濫(オーバーフロー)』が起こりかねない。重要な仕事だよ」

 

「……そんな……。……キララ、対人戦(ランクマ)専門だし……」

 

「ふっ、良く言うよ」

 

 

 思わず言い返した俺の言葉に、心春さんは軽く笑った。

 

 

「対迷獣(モンスター)も対探索者も、セオリーは変わらない。未知の能力を持つ相手に対して『やられず、やる』を徹底するだけだ。そしてその点において、キララくんはこれ以上ない水準を誇っている。──妹との探索で、きみもそれについての自覚はあるんじゃないか?」

 

「………………、」

 

 

 ……確かに、滅多に探索をしない割には動けているな──と思ったことはある。ただ、それはナツカのレベルに合わせているからだと思っていたし……。まさか、最前線で通用するなんて思っても見なかったというか……買い被りすぎじゃないか?

 いまいち心春さんの言葉を信じきれない俺に、心春さんはすっと視線を横合いに向けて、

 

 

「精神的成熟後に異界開闢(グランドローンチ)が発生し、異界迷宮(ダンジョン)を異物として受容した『第一世代』」

 

 

 人差し指を立て、

 

 

「少年期に異界開闢(グランドローンチ)が発生し、趣味の舞台として異界迷宮(ダンジョン)に適応した『第二世代』」

 

 

 中指を立て、

 

 

「幼少期に異界開闢(グランドローンチ)が発生し、探索者に憧れ異界迷宮(ダンジョン)と共に成長した『第三世代』」

 

 

 薬指を立て、

 

 

「物心つく前に異界開闢(グランドローンチ)が発生し、異界迷宮(ダンジョン)が当たり前の存在となる『第四世代』」

 

 

 小指を立てる。

 

 …………?

 突然何かしらの用語を並べられて、話に追いつけない俺を引き上げるように、心春さんは続ける。

 

 

「迷宮省にて設定されている、大衆における異界迷宮(ダンジョン)の受容形態だ。現在人口の過半は『第一世代』だが、やがては『第四世代』が大半になっていく。この世代間ギャップを埋めるのも、私達の仕事というわけだね」

 

「………………、」

 

「キララくん。きみはこの区分で言えば『第三世代』だな」

 

「……確かにそうなるけど……それが?」

 

 

 心春さんが何を言いたいのか分からない。

 迷宮省の仕事の内容を説明しようとしているんだろうか? 普通に興味深い内容ではあるが……。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………!!」

 

 

 そこまで心春さんに言われて、俺は脳内に電流が走った感覚がした。

 

 その言葉は。

 俺には……いや、俺と同じように『とある少年』が世界を救った姿を目撃したかつての子供(ガキ)には効きすぎる言葉だろう。

 俺の眼の色が変わったのを見て取った心春さんは、ゆっくりと、しかし確かな口調で続ける。

 

 

「『とある少年』は、今も世界の為に戦っているよ。日本の迷宮省に所属してな」

 

 

 …………嘘だろ!?

 いや……考えてみれば当然なのか。世界を救う大偉業を成し遂げた英雄だ。どこかしらの公的機関に所属するのは、むしろ成し遂げた功績から見れば当然の話。

 『とある少年』が日本で活動しているっていうのは驚きだが……それにしたって、最初に現れた場所から彼が日本人であるという考察は元々あったしな。

 

 

「きみならば、遠からず『とある少年』に迫り……いや、超えることだろう。どうだ。かつて憧れた夢に……そしておそらくどこかのタイミングで手放してしまった輝きに、今なら手が届くと言っているんだ」

 

 

 そう言って、心春さんは手を差し出す。

 この手を掴めば、俺をその世界に連れて行ってくれると言わんばかりに。

 

 

「すぐに迷宮省に入省しろとは言わない。大学進学は考えているかい? 考えているなら、大学卒業まで待つとも。それまでは、Kaleidoくんと同じように嘱託探索者として協力してもらう。もちろん、今の配信活動も基本的には制限はしない。Kaleidoくんも記者業を続けているだろう?」

 

 

 『とにかく人手が少ないからね。副業だのといった制限はされていないんだ』と心春さんは語る。

 ただ、俺はどうにも踏ん切りがつかず……。

 答えあぐねている俺の心理をどう捉えたのか、心春さんは差し出した手を引っ込める。

 

 

「……きみは、かつての私に似ている。強すぎる力を持て余し、現状に満たされなさを感じて……でも現状を気に入ってもいて。そのモラトリアムの狭間で揺れ動いているようだ。……私の場合、選択は否応なしだった。だが、後の世代にはきちんと納得のいく形で選択の機会を提示したい」

 

「………………、」

 

 

 ゆっくりと。

 無言の俺に道を指し示すように、心春さんは腰に携えた黒剣を引き抜いた。

 

 

「答えがまとまらないなら、まずは身体を動かしてみたらどうかな。私がきみを招く予定の『世界』を、体感させてやる。舞台はそうだな……このビルの屋上に限定しておこうか」

 

 

 瞬間。

 心春さんの身に纏う装束が、がらりと変化する。

 パンツスーツから、冒険者が纏う運動性の高い黒衣の装束へと。それは、かつてテレビで見た『とある少年』のそれにも似ていて──。

 

 

「エキシビションだ。胸を貸してやろう────当代最強(キララくん)

 

 

 直後。

 俺の身体は、速やかに行動を開始していた。

 

 ──心春さんが剣を振り上げている。互いの間合いは即座に剣の届く間合いじゃない。此処からどう踏み切ったところで距離は遠いだろう。……探索技能(スキル)絡みか。

 

 瞬時に、『移動』系による、直線移動での射程誤認か瞬間移動での背撃を想定。即断した俺は、その場に屈み地面に手を触れる。

 そのまま後ろに向かって足を蹴上げると、ちょうどそのタイミングで背後に瞬間移動した心春さんが剣を振り下ろしたところだった。

 俺の蹴りは、心春さんが剣を振り下ろしきる前にその手にぶつかり、攻撃を中断させる。

 

 

「…………初見殺しのつもりだったんだがね。ドンピシャか」

 

「それで終わってたらどうするつもりだったの?」

 

「それならそれで、これがこの先の世界だというワクワクをね……」

 

 

 それ胸を貸すって言わねーだろ。

 

 一瞬遅れて、数本の街灯が盾のように俺の背後──つまりさっきまで俺が向いていた方向──に乱立した。

 心春さんの探索技能(スキル)がシンプルな移動補助だった場合はこの街灯がカウンターになり、剣の振りに応じて何かを飛ばす能力だった場合は盾にしていたという寸法である。が、心春さんの探索技能(スキル)は瞬間移動で間違いないらしい。 

 心春さんは数メートルほど後ろに飛び退いて、俺と距離を取る。

 

 

「『救世の壱(ファースト)』。射程二〇メートル以内の好きな場所に転移する探索技能(スキル)だよ。発動には攻撃動作をとる必要があるがね」

 

「…………キララのこと、ナメてるのかな? それとも煽ってる? 自分から情報の優位を投げ捨てるとか、キララ、ちょっとピキっちゃうかも☆」

 

「どうせ言わずともすぐに把握するだろう? それに、今の説明で私の神髄を理解したとは思わないことだ」

 

 

 そう言って、心春さんは片手で剣を振るい構える。……軽々振るなあ! その剣けっこうリーチあるっぽいけど!

 …………それに、心春さんの言っていることくらいは俺も分かっている。シンプルに考えて、普通に剣を用いた戦闘をやっている最中に瞬間移動の能力を使われるだけでも相当厄介だ。

 こっちは当たり前の戦闘に加えて、いつ瞬間移動が使われるかも警戒し続けなくてはいけない。瞬間移動を使うと読んで外した場合でも致命的なのだから、相当神経をすり減らすことになる。

 それを回避する為には……、

 

 

「まずは環境の構築かなっと」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 手に、軍用ライトを発現。

 長さは精々サバイバルナイフ程度だが、剣と真正面から打ち合うことのできる得物だ。それを見て、心春さんが次の転移の為に剣を振りかぶる。

 だが、『救世の壱(ファースト)』には欠点がある(いや、欠点と呼べるほどの欠点でもないかもしれないが……)。それは、発動までに①態勢を整え、②攻撃動作をするという二工程の予備動作が発生する点だ。それに比べれば、俺の行動──。

 

 『ライトのスイッチをONにする』という一工程の方が、遥かに速い。

 

 カッッ!!!! と。

 眩い光が、心春さんの顔面を覆う。

 

 

「っ!?!?」

 

 

 直後、心春さんは殆ど反射のような勢いで短く剣を振るい、同時に転移した。攻撃動作といっても、当たることを想定していない短い振りでも発動すんのか。……説明を全部真に受けてたら虚を突かれているところだったな。策士め。

 ……頭上二〇メートル。潰された目が回復するまで空で時間を稼ぐ算段か。まぁいい。

 俺は用済みになった軍用ライトを空中の心春さん目掛けて投擲しつつ、低い姿勢で屋上を駆け巡る。

 流石に空中で心春さんも軍用ライトの投擲に備えていたらしく、両腕をクロスし両足を丸めて胴体と頭部を防御しており、易々とガードしたが──

 

 

「──『手作りの絢爛(カジュアルトーチ)』、時間差発動☆」

 

 

 既に、軍用ライトの底面には触れてある。

 軍用ライトの底面はおよそ直径五センチ程度なので、面積的に街灯を生やすことはできないが……室内用の三脚式スタンドライトならば、五センチ程度の面積からでも生やすことは可能!

 

 命中して空中で回転していた軍用ライトの底面から、飛び出すように三脚式のスタンドライトが折りたたまれた状態で伸びる。

 スタンドライトは軍用ライトを防御したことで構えが緩んだ心春さんの脇腹へと直撃した。形状的なダメージはないが、『手作りの絢爛(カジュアルトーチ)』の発現パワーとスピードはそれだけでも攻撃たりうる。

 心春さんの口から、うめき声が漏れた。

 

 

「ぐう……ッ!? 時間差で『照明器具』を発現したのかッ!?」

 

 

 ワンテンポ遅れて、心春さんが剣を短く振るう。

 再び二〇メートル上方へと移動し、数メートル落下したあたりで視界が戻ったようだ。……普通直撃すれば一分くらいは目がくらむ威力なんだが、流石は探索者の身体というべきか。

 だが、こちらの方も準備は整っている。

 

 

「針の筵へようこそ☆」

 

 

 『手作りの絢爛(カジュアルトーチ)』、時間差発動。

 先程屋上を駆け回っていた時に、屋上全体にまんべんなく手で触れておいた。その領域全てから、先端が鋭く尖ったデザインの街灯を大量に発現させる。

 普通に落下すれば、串刺しで終わり。上手いこと躱そうとしてもまず体のどこかしらが街灯に引っかかって身動きが取れなくなるし、仮に無事に降り立ったとしても乱立した街灯が邪魔で攻撃動作も取りづらく瞬間移動先も見繕いにくい。

 加えて俺自身は発現した張本人なので、乱立した街灯の隙間をきちんと把握している。小柄な(キララ)の肉体ならばその間を縫うように移動し、一方的に攻撃を叩き込むことも可能だ!!

 

 

「確かに神髄は見通せないけど────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 街灯の隙間を縫いながら、俺は心春さんの落下地点近くへと移動する。

 普通に考えれば、再び瞬間移動で街灯の筵を回避するのが正道だ。だが、その道は袋小路。空中に留まり続ければ、移動に攻撃動作を必要とする『救世の壱(ファースト)』ではいずれじり貧になる。

 となると……()()()()この環境が自分にのみ有利と考えている相手の思惑を上回ることを考える。具体的には、上空から一瞬で街灯の配置を把握し、完璧に着地を決めた上で、相手と同じように街灯の隙間を縫って移動して、この街灯の筵の中で油断している相手の鼻っ柱を叩くが。

 だが、この筵を解除するのも俺の自由……環境を利用するしかない心春さんと、環境を作り替えられる俺。その優位を生かしてこのまま畳みかける!!

 

 心春さんが、当然のように街灯の筵を回避して無事に屋上に着地する。俺はその体勢から、すぐさま攻撃の死角を読み取り──、

 

 

「残念だが、抜き放つ隙は与えてもらったよ。()()()()

 

 

 と。

 そこで俺は、強烈な悪寒をおぼえた。まるで一秒後には死ぬと確信した小動物のように──理屈ではなく、本能で進行方向を捻じ曲げ、右側の街灯を一気に解除しながら空いたスペースへがむしゃらに飛び退いた。

 

 音が切り裂かれた。

 ──そう錯覚するほどの斬撃が、先ほどまで俺がいた場所を通り過ぎていた。

 いや──斬撃じゃない! 剣を振るいながらの心春さんの突進で、街灯がまとめて切り裂かれたんだ! 凄まじい勢いのせいで心春さんそのものが斬撃と化したかのように思えただけで!!

 だが──こんな攻撃威力はありえない! いくら探索者の膂力でも、頑丈なステンレス製の街灯をこんなにあっさりと叩き斬れるはずがない!

 なら探索技能(スキル)の応用? そもそも探索技能(スキル)が違うだろ!? となれば異界物質製の武器の効果!? …………いや、考えるべきところはそこじゃない! 能力が二つ! 今はそう考えればいい!

 

 思考を切り替えた俺は、地面に手を突いてハンドスプリングの要領で体勢を立て直そうとして、

 

 

「あっ、」

 

 

 そこで、己の左足が切断されていたことに気付いた。

 

 

「これは飛車取りかな?」

 

 

 街灯一本隔てた先で、心春さんが剣を構えたのが見えた。

 ……突進するまでもなく、剣の射程内。俺は、左足が切り落とされたことに気付くのが遅れたせいで体勢がまだ整っておらず──、

 

 

 ……ちっ。まぁ仕方ないか。

 

 『手作りの絢爛(カジュアルトーチ)』。

 左足の断面を素早く撫で、そこから街灯を生やすことでその反動で跳躍。

 続く斬撃を回避する。もちろん、跳躍に邪魔な街灯は適宜解除することで行動の自由を確保するのも忘れない。

 

 

「…………おかしいな。『手作りの絢爛(カジュアルトーチ)』は生体からは生やせないという情報だった気がするが」

 

「情報が古いよ。誰かさんがにくったらしい『屁理屈』を捏ねてくれたおかげで、キララちゃんってば密かに触発されてたのだ☆」

 

 

 ナツカにやれることならば、俺だってやってやるさ。

 

 俺は屈みこんだまま、街灯の伸長を脚の長さほどで停止させる。

 街灯で作った義足の調子を確かめつつ、

 

 

「……ほんとは隠し札にして、これをトドメに使うつもりだったんだけど。まさか緊急回避で使わされちゃうとは……。参っちゃうね。実力でここまで追い詰められたのはいつぶりかなぁ」

 

 

 街灯を無視して斬撃を繰り出せるとなると、むしろ街灯の筵はこちらの動きを制限するだけ。

 よって、屋上に生やした街灯たちは丸ごと解除しておく。……軍用ライトでとったアドバンテージが丸ごと消されちまったな。やっぱりそう一筋縄ではいかないか。

 

 

「っていうか、その斬撃なに? 明らかに瞬間移動とは違う能力じゃない? 異界物質製の武器とかズルだよー」

 

「心外だな。異界物質製の武器なんて使わないさ。これもまた、私の探索技能(スキル)。『今の説明で私の神髄を理解したとは思わないことだ』と、そう言ったろう?」

 

 

 言って、心春さんは剣を構える。

 ……クソ。硬度無視の斬撃と瞬間移動、剣を構えるたびに二択を迫られている。嫌なじり貧だな……。このままだとどこかで防ぎきれなくなる。その前にこの戦闘の構造自体を再構築しないと。

 俺は地面に手を突き、さっとひと撫でしてから立ち上がる。

 

 心春さんは剣を構えたまま、

 

 

風貌切替(スイッチ)は知っているはずだ。探索者の見た目を切り替える技術だよ。()()()()()使()()()()()()()()()()()。アレを受け入れているのであれば──何故こうは考えない? ()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 

 

 …………ってことは、まさか。

 

 

技能切替(スライド)。これも、迷宮省の攻略最前線では当たり前の様に使われている技術さ。能力名は『救世の弐(セカンド)』と言うが──どうだい? 世界が広がった感じがするだろう?」

 

 

 ……『移動』の応用!?

 おそらく、剣が触れたものの、剣の軌道に重なる部分のみを自動で瞬間移動させる能力! それで実質的に硬度を無視した斬撃を繰り出せたのか……!

 

 

「プレゼンのつもり? 残念だけど、キララの美学に反しちゃうかも!」

 

「それは残念だ!」

 

 

 心春さんが、剣を振り下ろす。

 俺はそれに対し、自分を中心としてキャンプファイヤーを発現することで防御とする。心春さんの次の攻撃が『救世の壱(ファースト)』と読んでの行動だったが──正味、『救世の弐(セカンド)』が来ても問題はなかった。何故なら。

 

 

「うぐ……っ!? これは、燃えている!?」

 

 

 背後から、心春さんの呻き声が聞こえてくる。やはり『救世の壱(ファースト)』だったようだ。

 『手作りの絢爛(カジュアルトーチ)』はあくまで『照明』に類する能力。キャンプファイヤーもまた照明として発現している以上──当然、点灯即ち発火した状態での発現だって可能なのだ。

 もちろん、そんなことをすれば中心にいる俺も焼かれることになるが──

 

 

()()()()? 心春さんは優しいから……中心にいるキララのことを一瞬考えちゃったでしょ」

 

 

 その隙が、命取りになる。

 

 即座にキャンプファイヤーを解除。そして()()()使()()()()()()()()()()()

 そのまま、キャンプファイヤーの煙がまだ残っている状態で、背後で隙を見せていた心春さんに飛び掛かる!

 

 

「ッ、『救世の壱(ファースト)』────」

 

 

 しかしこれは、短く足元を斬り払う動きで発動された心春さんの能力で難なく回避される。

 そしてキャンプファイヤーが解除された以上、俺を守るものはなく──

 

 

「な、」

 

 

 改めて俺の背後に回り込んだことで、心春さんはキャンプファイヤーの残り火の隙間から俺の姿の全貌を見た。

 飛び掛かった俺の左足には──()()、街灯の義足はない。

 

 先程街灯による跳躍を見せていたから、心春さんはまず街灯による跳躍を疑ったことだろう。だが、探索者の運動能力はすさまじい。探索技能(スキル)によるブーストがなくとも、この間合いならば素の身体能力だけで脅威となる速度は出せるのだ。

 そして、出し惜しんでいた街灯は──此処で使う。

 

 

「飛車取りとか言ってたね。じゃあキララは──王手☆」

 

 

 左足から、再び街灯が伸びる。グラスファイバー製の、現代的なデザインの代物。

 しかし今度は跳躍目的じゃない。俺の後ろに回り込んだ心春さん──その頭蓋を撃ち抜く軌道だ。

 

 

「──っ!!!!」

 

 

 しかし。

 

 完璧なタイミングで繰り出したにも拘らず──心春さんは、その一撃を間一髪首を揺らすことで回避する。

 神がかった回避だった。渾身の一撃をこんな形で躱されてしまったら、もう負けに納得してしまうだろうというくらいに。

 

 

「悪いな、逆王手だ……!」

 

「…………詰み、かな」

 

 

 俺は、穏やかに笑みを浮かべた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 剣を振り下ろすというタイミング──そこで、心春さんの背後から大量の水があふれ出て来る。

 大量の水は心春さんの背中を押し──そしてそのバランスを完全に崩壊させた。

 

 

「さっきの攻撃は、心春さんの頭を打ち抜くためのものじゃない。直前にキャンプファイヤーの中で分解解除した軍用ライトの照明部品を『射出』する為のものだったんだよ」

 

 

 街灯の義足による跳躍は、回避という意味ももちろんあったが──戦闘の序盤で発現したまま放置していた軍用ライトを回収する為のものでもあった。

 キャンプファイヤーを発現したのも、防御のためというよりはその中で済ませておいた準備を心春さんに直前まで目視できないようにするため。そして、残った煙によって視界を誤魔化し、軍用ライトの部品を咄嗟に目視できなくするためだ。

 そして、射出したライトが向かう先には──俺がさっき座っていた、貯水槽がある。

 高速で射出された軍用ライトは貯水槽の外壁をやすやすと突き破り、あふれ出た水が心春さんの背中を押してバランスを崩させたというわけだ。そして。

 

 

「『手作りの絢爛(カジュアルトーチ)』ッ!!」

 

 

 右足で地面を蹴って勢いづけた後、腰全体を捻る様にして、五メートルほどまで伸長させたグラスファイバー街灯の義足を屋上に突き立てて立つ。

 そして手に発現するは──キャンプ用のポータブル電源つき照明。これを、水で押し流されて倒れている状態の心春さんに投げつける。当然、このまま行けば待っているのは電源からの漏電による感電だ!

 

 ──この時点で、心春さんは二択を突きつけられている。

 一つ目は、『救世の壱(ファースト)』を使い空中に移動する方法。

 二つ目は、『救世の弐(セカンド)』を使いポータブル電源つき照明を切り裂く方法。

 二つ目を選んだ場合、電源からの漏電で水浸しの心春さんは感電して敗北する。

 つまり()()()()()()()()一つ目を選ぶほかないのだが──今度は俺が高度を確保している。この高さならば、心春さんが二〇メートル以内のどこに転移しようと、次の移動までに追撃をしかけて確実に倒せる。

 だから、心春さんが選ぶのは──

 

 

「『救世の弐(セカンド)』…………!!」

 

 

 ……だよな。

 この状況、感電を回避しつつこっちに攻撃を届かせるなら、『救世の弐(セカンド)』を発動してポータブル電源つき照明を()()()にしつつ剣を投擲、そのまま俺に攻撃する──という攻防一体の手一択だ。

 それが読めている、()()

 

 

「────えいっ☆」

 

 

 俺はその場で空中前転し、踵落としの要領でグラスファイバー街灯を振り回して黒剣を──より正確には黒剣が突き刺さったポータブル電源つき照明を迎え撃つ。

 

 ──グラスファイバー製の街灯は、主に発電所などの電力施設や通信施設で使用されるほど絶縁性が高い。

 破壊され漏電している状態のポータブル電源付き照明に触れたとしても、電灯伝いに俺に感電する心配はない。そういう狙いもあってのチョイスである。

 

 『救世の弐(セカンド)』が発動している状態の黒剣を防御する方法は、確かに存在しない。しかし、『救世の弐(セカンド)』の発動範囲はあくまで刃の範囲のみ(でなければ黒剣は完全にポータブル電源付き照明を貫通して防御にならない)。

 であれば、ポータブル電源付き照明を叩き落すだけで、黒剣もまた叩き落せるというわけだ。

 

 

 そして。

 

 

「────がァァあああああああああああああ!?!?!?」

 

 

 串刺しの上に叩き落されたポータブル電源つき照明が、破壊と共に内部の電流を撒き散らし。

 水を浴びた状態の心春さんが、紫電に襲われた。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 流石に乙るまで電流を浴びせてしまうと、合流まで大変になってしまうので『照明器具』はすぐに解除したのだが。

 

 

「いやぁ、参った参った。五分五分とは思っていたがまさか此処で超えてくるとはねぇ!」

 

 

 そう言って、心春さんは清々しそうに笑っていた。

 負けたというのにあんまり悔しそうじゃない。なんというか、こっちは死力を尽くしたのになんか余裕な感じがあるのが釈然としないな。

 

 

「なんだか、負けた割に余裕そうだけど。もしかして舐めプした?」

 

「……ん? ああ、悪いね。私は競技者じゃないからな……。負けた悔しさより、後進がこれほど頼もしいことに対する喜びの方が大きいんだ」

 

「そんなものなの? ちゃんと悔しがってくれないとキララ勝った気しないなー」

 

「きみもまぁまぁ性格悪いね」

 

 

 歴戦迷宮(ランクマッチ)は性格の悪い陰キャが勝つようにできてるもんで。

 

 

「で、どうかな」

 

 

 ただ、心はいつの間にかすっきりと晴れ渡っていた。

 迷宮は相変わらずの曇天だが、久々に死力を尽くして全力全開で暴れたことで、なんとなく思考がクリアになった気がする。これまでごちゃごちゃ考えていたことが、急にシンプルな理路でまとまっていくのを感じた。

 つまり、()()()()()()()()()が。

 

 

「迷宮省。所属を公表するのも構わないよ。しているダイバーもいるしね。……先ほど、きみの配信を見ていた。新しいチャレンジに意欲があると言っていたな。今回の話はまさに、それにあたると思うんだが」

 

 

 心春さんは、身に纏う装束をパンツスーツのそれに戻しながら、優しく俺に選択肢を提示してくれる。

 先程、俺に問いかけた言葉を、もう一度投げかける形で。

 

 

「迷宮省の仕事に、興味はないか?」

 

 

 それに対し、俺は────。




ざっくり能力解説①:『救世の壱(ファースト)

 『移動』系。

 対象に攻撃を当てるのに相応しい位置に瞬間移動する能力。
 能力の発動には武装の黒剣による攻撃の予備動作が必要だが、攻撃の対象は自由。
 空気を攻撃の対象に指定することも可能なため、予備動作が必要なことを除けば実質転移先は自在となる。

 能力発動後は再発動までインターバルを要さないが、発動条件の関係で実質的に一動作分のインターバルが発生する。
 転移先に物質があった場合、そこからズレた形で転移することになる。

総評
⇒接近戦を強制できるので、相手によっては完封まであります。強いです。




ざっくり能力解説②:『救世の弐(セカンド)

 『移動』系。

 武装の黒剣の軌道上に存在する物質を瞬間移動させる能力。
 能力発動中、剣身に触れた物質のうち、〇・〇〇一秒後の剣の軌跡と重なる部分を半径一〇〇メートルのどこかにランダムに転移させる。つまり、外形的には『どんなものでも硬度を無視して切り裂く能力』となる。

 能力の発動は剣を振るう瞬間までに決める必要があり、振ってから能力を発動することはできない。
 また、一度発動させると剣を振り終わるまで能力は解除不能となる。

総評
⇒接近戦では無類の強さを誇ります。ただし防御力には欠けます。強いです。
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