最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
さて、明くる日。
──青い空。
──白い雲。
小鳥たちも歌うような春の陽気──であったのだが。
対照的に、俺の心は曇天どころか暴風雨だった。
それというのも、全ては昨日の夜、俺の切り抜き動画のコメント欄に現れた『せなみさん?』というコメントのせいだ。
あの野郎──即座に非表示にしたが、後から確認したところ名前は『ナツカ』だった。本名か? リテラシーゼロか? ふざけんなという意味だが──がどうやって俺の正体に気付いたのかは分からない。
学校での俺は目立たない系だし、友達もいない。間違ってもキャピキャピして皆に愛されている美少女配信者キララとは結び付かないはずだ。何か俺が証拠となるエピソードトークをしたとかもありえないし、本当に接点がないはず。……言ってて悲しくなってくるが。
『ナツカ』が俺の正体を言いふらしていれば、人生の終わり──昨日はそう短絡したのだが、よくよく考えてみれば、流石にそこまで現実は終わってはいない。
何せ、現実の俺とキララはあまりにも違いすぎている。たとえ『ナツカ』がキララの正体が俺であると確信したとしても、周りの方が信じないだろう。何せ学校では友達のいない陰キャが登録者数二〇万人の人気配信者なんて、荼毘を加味してもギャップがありすぎるからな。
そう考えたら、そこまで状況は悪くない。ただし……俺の正体に気付いた者がいるのは事実。あそこでコメントを残したということは、向こうも俺に接触をしたいはず。勝負はその時だ。ああやってコメントを残した以上、正体のことで俺に脅迫をしかけてくるのだろうが……ナメるなよ。お前のその稚拙な脅しなど、社会には通用しないってことを教えてやる。
と、そんな風に意気込み半日。
登校した俺は、鞄を下ろし、机に突っ伏す。
がやがやと賑やかな教室のHR前を乗り切り、授業開始。
昼休みになると同時に学食に向かい、壁際の席について一人でかけ蕎麦を食す。
その後は図書室に向かって昼休みが終わる五分前まで本を読み、午後の授業開始。
そうこうしているうちに午後の授業も終わり、気付けば青い空も少しずつ赤くなり────
──誰も話しかけて来ねえ!!!!
いや、ぼっちだから誰も話しかけて来ないのは当たり前なんだが、『ナツカ』からのコンタクトすらもねえ!!
あのコメントが俺のことを特定したものだっていうのは俺の早合点だったのか!? いやでもわざわざ『せなみ』なんて言わないよなあ確証がなければ……。あるいは他の地域にいる瀬波さんと奇跡的に一致してたとか? だとしたら笑い話だがそれはそれで釈然としねえ……!
とはいえ接触を待つために学校に残っても、
ちなみに、俺はそこまで配信頻度が高い方ではないが、それでも毎日最低数時間は潜るようにしている。そうしないと腕が鈍る気がして怖いからだ。高校にあがって、これまで以上に探索の時間がとりづらくなることが予想されるのだから、時間の使い方は考えないといけない。これ、学生の辛いところね。
まったく、こんなことなら朝から気を張るんじゃなかった……。
昨日からずっと気が気じゃなかったっての。殺人的偶然だか臆病風に吹かれたんだか知らないが、とにかく人騒がせなヤツだった……。
そんなことを考えながら誰もいない教室でリュックを背負いかけていた俺だが、ふとその手を止める。
…………微かだが、床の振動。足音の反響だ。距離は……直線距離で九〇メートルくらいか? おそらく、階段を昇ってこの階の廊下に着いたあたり。忘れ物でもした学生か……あるいは、可能性は低いが遅れて来た『ナツカ』かね。今更そんなこともないだろうが……。
リュックを背負った俺は、そのまま帰宅しようと教室のドアを開け、右側へ視線を向ける。
既に足音が耳に届く距離。夕日の差す廊下にいたのは、一人の少女だった。
アイツは……知っている顏だ。同じクラスだし。
確か名前は、『浜辺』だったはず。物静かな感じだったが俺とは違って少ないながらも友達がいるタイプの陰キャである。
何だ……こりゃ忘れ物だな。ほんのちょっぴりだけ警戒して損した。
別に会話する仲という訳でもないので、特に挨拶をすることもなく横を通り過ぎる。そんな感じで足早に走り去ろうとしたところで──
「あ、せなみさん」
と、背後から浜辺が俺の名前を呼んだ。
「う、ウオッ」
……!! クソ!! 急に名前を呼ばれたからびっくりして変な声が出たじゃねぇか!! 陰キャは突然返事ができねぇんだよ覚えとけ!!!!
足を止める。名前を呼ばれたということは、何かしら用事があるということだろう。無視は流石に駄目だ。女子カーストの中ではふわふわしている浜辺と言えど、悪評をばら撒かれたら俺のただでさえ灰色の学園ライフが暗黒に塗り潰されかねない。
「……なに、浜辺か。……どした?」
「昨日の件ですよ。言うの忘れたまま帰りそうになっちゃったので。まだ帰ってなくて良かったです」
言いながら、浜辺は帰ろうとする俺の横に並んだ。
近っ……昨日のこと? 何のことだ? 別に俺は昨日も変わらず誰とも話していなかったが……、
「……あれ。もしかして違ってました? キララちゃんってせなみさんですよね」
「………………あぇ?」
再三の予想外。
昨日の時点で十分に想定していた範疇の問いかけだったにも拘らず、今日一日の間で散々揺さぶられ続けていたせいで、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
「な、どこに……そ、そんな証拠が……あるんだよ」
咄嗟に声を絞り出してから、すぐに俺は失策を悟った。
……違うだろ! 普通の人間はいきなりキララ=瀬波とか言われても何の話だか理解できない! すぐに何の話か理解した上で反論しようとした時点で語るに落ちてるんだよ馬鹿!!
「どこにって、昨日身体測定と体力テストがあったじゃないですか」
しかし、浜辺はそんな分かりやすいツッコミどころはスルーして、得意げに人差し指を立てる。
どことなく腹の立つドヤ顏を決めながら、浜辺は続けて、
「その時の
「な……んな……馬鹿な……」
た、体捌きを見て覚えた!? 体力テストの!?
……いや、確かに特筆するところがなさすぎて一切言及していなかったが、昨日は高校に入って初めての体力テストがあったんだ。普段目立たない俺が珍しくいい感じのポジションに行ける(とはいえ『身体の動かし方』だけで素の身体能力が高い訳じゃないが)イベントとあって、サボらず全力で頑張ったりもしていたのだが……その動きを見て、『キララ』としての俺を見透かしただと!?
当然だが、『キララ』と素の俺の体格は違う。素人ダイバーにありがちな落とし穴として、理想の姿を構築したせいで体の動かし方に齟齬が発生して動きがぎこちなくなるというものがあるが……俺にそれはない。きちんと体の動かし方をコンバートしている。だからこそ『キララ』はやっかみですら男だと疑惑を向けられることもないのだ。
もちろん、機械で制御している訳ではないのだからそこに何らかの共通点がある可能性は否定できないが……コイツがそれを、しかも一目で見抜いた……?
…………いや、んなわけねーよ。単なる思い込みが奇跡的なハマり方をしたって方がまだ現実味があるだろ。
殺人的な偶然に脱力する俺を置いて、浜辺は分かりやすく胸を張りながら、
「まぁこのナツカさんもまたプロのダイバーなので。その観察眼にかかれば、すぐに分かりました。ナメたらアカンですよ」
「…………あ? 今『ナツカ』って言ったか、お前?」
「引っかかるところはそこなんですか?」
さりげなく微妙なツッコミを入れられた気がするが、そんなところはどうでもいい。
え、『ナツカ』って言ったこいつ? リアルでハンドルネーム自称……。いや、違う! そういえば……コイツのフルネームって浜辺
絡みのねえ女子の下の名前なんかぱっと出て来ねえよ! クソ、気付いていれば今日中に俺の方からアクションをかけられたものを……!
「昨日コメントしましたよね? 気付かなかったんですか? 意外とにぶちんなんですね」
「とりあえずそこに直れテメェ」
「態度が急にでかいですよ」
このリテラシー最悪女が……。こいつが何かしらの脅しを持ち出す前に、俺は言わねばならない。
「ネット上でリアルの名前書き込むとか絶対にしちゃいけないだろうが! まして
「ひえっ」
ひえっ、じゃねーんだよひえっ、じゃ。
「いいか、もしも俺みたいなのが荼毘ってるなんてことがバレてみろ。人生の終わりだぞ!!」
「す、すみません……」
「第一、『キララ』としても終わる!! ガチ恋勢もいるんだぞ俺!! 炎上するだろうがそんなの!!」
「それもごめんなさいですけど、それはそれとして今この近くに人がいなくてよかったですね」
「いないの確認した上でこの声量なの!」
余計なことにツッコミ入れさすな!
「っていうかお前下の名前をハンドルネームにしてんの? それもネットリテラシー!! どう考えても不用心だろ!」
「だってナツカさんは顔出しで人気になりたいから……」
「その歳から怖いものなしかお前!?」
確かにあえて姿かたちをそこまで変えずにリアルの外見のままダイバーやってるような人もいるけども! だからといって本名そのまんまでネットに書き込むか普通? ……いや、クラスの連中とか普通に実名でSNSやった上で平気で顔出し動画とか上げてるし、ネットに精通してない一般市民はそれが普通なのか? わ、分からん……。
……だが……コイツのことはなんとなく分かって来たぞ。
この女、馬鹿だが悪気があるタイプじゃない。少なくとも、俺のことを
「はぁ……はぁ……」
立て続けに慣れないツッコミをして少し切れて来た息を整えて、俺は改めて目の前の女をまじまじと見る。
色素の薄い茶色い髪を肩くらいで切り揃えた、物静かそうな女。赤い縁の眼鏡の奥の目はスッと切れ長だが、不思議と印象としてはきつい感じを受けない。むしろ、これまでの会話を経て、真顔でボケてくるタイプのシュールな印象に変わっていた。
そして──俺と同じように、コイツもまた
よし、目の前の相手を分析したら落ち着いて来た。
元来、俺はクールな性質なのだ。相手の変人っぷりに振り回されてツッコミ役に回るなんて性に合わない。
「んで、要件は何だよ。何の用もないのに声をかけた訳じゃないだろ?」
「話が早くて助かります。実は、
……配信を手伝うぅ?
「どうですか? 報酬は帰りのコンビニアイスで手を打ちましょう」
「ちょっとお遣いに行きましたじゃねーんだぞオイ」
え~……。自分で言うのもなんだが、我人気配信者ぞ? 登録者数二〇万人ぞ? たかが数百円のコンビニアイスで釣り合いが取れる訳ないだろ……という常識的なツッコミは、まぁあるとしても。
それ抜きにしても、なぁ。
「何で俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ。拒否する」
「まぁ結論を急ぐ必要はないですよ」
「それ頼む側の態度じゃないよな絶対!?」
食い下がるとしても、普通は理由を聞くとかそういう感じだよな!?
「お前なぁ……、」
確かに、俺──『キララ』は配信頻度もそこまで高くないし、
だが、だからといって何の縁もゆかりもないヤツの配信をお手伝いするような義理もない。俺は、意外と薄情な人間なのだ。ましてコイツはネットリテラシー皆無女! 一緒に行動してたらコイツの盛大な身バレに巻き込まれるリスクすらある! 特に理由がないのなら回避が一番安定択!!
…………いや、待て。
コイツ自身には、悪意はない。だからにべもなく拒絶したとしても、俺に対して報復しようなんて思ったりしないだろう。
だが、だがだ。
一方で、さっきも言った通りコイツのリテラシーは本当に終わっている。情報教育を母親の胎内に置いて来たのかというレベルのリテラシー壊滅女なのだ。
その女のことを野放しにして放逐した場合……どこで俺の荼毘バレが飛び出すか分かったものではないのではないか?
しかも最悪なことに、俺は実際に荼毘ってることをコイツの前で堂々と認めてしまっている。たとえ口止めしていたとしても、何かの拍子に口を滑らせる可能性は全く否定できないのでは……?
それならいっそ、コイツを手元に置いて、そしてリテラシー管理を一手に担った方が俺にとっては安全ということもあるんじゃあ……!?
…………ぐ…………!!
クソ、まだ何も言われていないのに、俺の社会的生命が人質に取られている……!
自分自身の頭の回転が憎い……!
「ん? どうしましたか? やはり結論を出すにはまだ早いことに気付きましたか?」
「それRPGのNPCみたいに『はい』選ぶまで結論を出すにはまだ早いって言い続けるヤツだろ……」
言い淀みながら、俺は思考の隙を稼ぐ為にとりあえず思いついた問いを投げかけてみる。
「そもそも何で俺なんだよ? 俺、ランクマ勢だぞ? 普通のダイバーとは違うから参考にならないだろ」
実際、これも気になるところだ。
ランクマ勢というのは、一番人気でも精々登録者数一〇〇万人そこそこ程度の業界である。配信していない層も含めればそこそこ人口はいるのだが、まぁどれも泡沫というか……。
そもそもが、楽しみ方的にもニッチである。ナツカがランクマ勢を目指しているというのなら話は別だが……、
「お前、ランクマ勢志望じゃないだろ?」
「ええまぁ。ナツカさんは探索メインですからね」
だろうな。ランクマ勢志望で前からランクマ勢の配信を見ているなら、もっと前から俺とキララを結びつけることができていたはずだし。それにランクマ勢の配信を見てても実際にランクマ勢なことって結構少ないからな。いわゆるエアプ勢というやつだが。
「じゃあ、なんでわざわざ畑違いの俺に手伝いを求めるんだ? 近場にいたからか? でもそれなら、アドバイス配信をやってるダイバーに相談するとかの方がよくないか?」
業界が何年も続いていれば、色々とノウハウを蓄積したダイバーだってちらほら現れて来る。
ダイバー相手のアドバイス配信をするようなのも当然いる訳で、そういうヤツを頼ったっていい訳だ。
「確かに、クラスメイトっていうのもありますけど……」
ナツカはそう言って、一度言葉を区切った。
それから懐からスマホを取り出して、
「これ、見てみてください」
そう言って、とある画面を表示させた。
そこに映っていたのは、配信のアーカイブだ。しかし再生数は四回でコメントはゼロ件という代物。おそらく自前で再生数を回したくらいしかないのだろう。
その中に映っていたのは、色気のない探索者然とした衣装に身を包んだナツカの姿だった。
撮影用ドローンに撮られながら、ナツカは意気揚々と
『さあ!
映し出される、どアップのナツカの背中。
自信満々に言うナツカの顔は全く映っておらず、まるでケツから声が出ているかのような映像だった。
当然ながら、これからナツカが討伐する
『やあ! たあ! えぇい! どうだ! この! 思い知れ!』
掛け声のセンスひどくない?
……それはさておき、肝心の戦闘シーンもなかなか酷い。まずナツカの背中しか映っていないのもそうなのだが、映像のブレがひどい。ぐちゃぐちゃに画面が揺れるせいで、なんというか……画面酔いしそうだ。
『うぎゃ! つ、強……いや、此処は配信のテンポを優先しましょう。ナツカさんはプロなので。ある程度のダメージは与えられたので次の場所に移動します。撤退戦なのでナツカさんの勝利です』
戦闘能力が低いとか、配信映えしないとか、まぁそういう話は一旦脇に置くとしても……純粋に、撮影技術が酷すぎる。
っていうか、どうやればここまで酷くなるんだ? ってレベルだ。
小型で頑丈な上に安価なので、激しい戦闘が繰り広げられる鉄火場での稼働にも持って来いなのだが……いくら
それを此処までぐちゃぐちゃにできるというのは……。
「お前これ……」
「ご覧の通り、ダイバーのプロであるナツカさんにも弱点があるのです。ちょっとこう……撮影が苦手みたいな」
「ちょっとどころの騒ぎじゃねえだろこれ」
これがちょっとなら世の中のダイバーの撮影技術は神にも迫る勢いだぞ。
唖然として何も言えない俺に、ナツカはバッグの中から丸い珠──撮影ドローンを取り出す。
「ちょっと見ててくださいね。これを……」
ふわり、と撮影ドローンがナツカの掌から離陸する。五センチほどはちゃんと飛んでいた撮影ドローンだったが──がく! とすぐさまその軌道が捻じ曲がり、落下しかける。すぐに持ち直し、あとはちゃんと一定の距離を保ってナツカのことを撮影しているのだが……アングルを変えようとすると、常に微妙に軸がズレた感じの挙動をしていた。
こ、これは…………。
「ど、ド下手だ!!」
「心外ですよ!?」
いや完全なる事実だよ!!
俺は空中をふらふらしている撮影ドローンをつまみ、
「どうやったらこんな凄まじい挙動を描けるんだ……。多分俺とか狙ってやってもできないぞ」
「うううう……」
ナツカは恨めしそうに俺のことを見てから、
「どう頑張ってもドローンがおかしな感じになって、ちゃんと撮影できないのです。小学校の頃から探索してますけど、どうにもならず……。前にアドバイス配信をしているダイバーに相談したこともあったんですけど、釣り動画って言われてネタにされました」
「Oh……」
よくそれで耐えられたな。俺だったら心が折れてるかもしれん。
「まぁ、どんな天才にも弱点はありますからね。さしものナツカさんもその宿命からは逃れられなかったわけですが……」
なんか言ってるし。………………しかし、そうだな。
俺は、指でつまんだドローンに視線を落としながら思案する。よほど荒い操縦なのか、頑丈なはずのドローンには細かい傷が無数についていた。
「アドバイス専門のダイバーも匙を投げたって訳か。で、ランクマ配信をしている俺のことを見つけたと」
確かに、ランクマ配信中は目まぐるしく変わる戦況を見やすいアングルから映せるように色々と考えながらドローンを動かしている。ドローンを動かしながら戦う訳だから、そういう並列思考に関しては確かに優れているだろう。
藁をも掴む思いで、あのコメントを書き込んだ……というのは、想像に難くない。
「はい。ものすごくテンションが上がってしまったので、本名を書きこんじゃったのはごめんなさい」
「それはマジで反省してくれな」
しかし…………そうか。
つまんだドローンに視線を落として、俺はなんとなしに聞いていた。
「なんで、そんなんでダイバー続けてるんだ?」
俺は、あの日テレビで見たダイバーみたいに輝きたいという目標があった。
なんだかんだで幼いころの憧れとは微妙に違う形ではあったものの、それなりに目標に対しての手ごたえもあり、妥協しているなりに目に見える結果も出ていたから続けられたと思う。もし仮に何の成果も得られずランクマでも負け続きだったら、多分俺はダイバーどころか
だが……コイツは、小学生の頃から、つまり俺と同じくらいの頃から
「なんでって……楽しいからですよ?」
その凄まじい忍耐を、この女はあっさりと一言で総括した。
「
「………………そうか」
それは、かつてテレビの前で高揚していた
コイツはその頃の憧れを、今も愚直に持ち続けている。ドローン操作が苦手なんて致命的すぎる欠点を抱えているのに腐らず前向きに、輝くために進み続けている訳だ。…………方向はトンチンカンかもしれないが。
でもって、此処で俺が拒絶したら、コイツはこのままトンチンカンな方向に前向きに邁進していくんだろうなぁ……。どうすればいいのかも分からず、この傷だらけの撮影ドローンがオシャカになっても買い替えたりして、ずっと。そうやっていつか…………潜ることをやめてしまうのだろうか。楽しかったはずの記憶に、蓋をして。
…………それは、何か嫌だな。
「…………………………」
…………まぁ、一回だけならいいか。
リテラシーに関しては、
一回だけ、一回だけだ。それで終わりにしよう。それに…………此処でうんうん唸っているコイツを見捨ててもなんというか寝覚めが悪いし。
「……分かったよ。いいか、一回だけだぞ。一回だけ探索に同行してやる」
そう言うと、ナツカはほんの少しだけ目を見開き、喜色を滲ませる。
さっきまでの真顔からの変化は小さいものの、雰囲気だけは花が飛ぶような喜びようだった。……こいつ無表情っぽいけど、感情は分かりやすいな。
ナツカは満足そうに頷いて続ける。
「流石キララちゃん。太っ腹ですね」
「お前今二重でNGワード踏んだからな!!
…………幸先は、やや不安だが。
というわけで、今回の話はこのおバカ二人が中心になります。