最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
前提条件その一。ヴィヴィアネさんは、『調査』の第一人者である。
前提条件その二。『調査』では、迷宮のギミックや異界物質などの解明が主な目的となる。
前提条件その三。『調査』の結果は新素材流通につながるので、異界物質の流通に影響する。
ヴィヴィアネさんにとって『調査』は趣味であり仕事らしい。しかも彼女は
つまり、『調査』の最前線に関する情報に、ヴィヴィアネさんの手がかりがある可能性が高く──その情報は、異界物質の素材を売る行商から話を聞けば、手がかりが得られるかもしれない。
「餅は餅屋って言ったのはそういうことだよ」
「それならそうと言えばいいですよ。クロは持って回った言い回しが好きですよね」
「うるせぇなぁ……!」
自覚はあるけど、癖になってんだよ! そういう台詞回しが! だって真相を想像させておいて後から種明かしをすると湧くんだもん! リスナーが!
「まぁいい。そういうわけで、これからあそこの行商に話聞きに行くから」
そう言って、俺は先ほど見つけたドローン店舗を構えた行商らしき探索者を示す。
ナツカは違うが、『合成』系の
「了解ですよ」
「……対面は任せてもいい?」
「陰キャですよ(了解の意)」
失礼なことをのたまった無礼者の側頭部に拳をぐりぐりする攻撃を加えつつ、俺たちはドローンレンタル所で移動用のドローンをレンタルし、空──正確にはドローンが行き交う
雑然とドローンが飛び交っているように見えた中間空域には、交通整理用のドローンが浮遊しているなど、意外ときちんと管理されているようだった。こういう行政チックなものとかどういう組織割で決めてるんだろうとか、気になるところは枚挙に暇がないが、一般人の俺がそういうことを気にしてもしょうがないしな。
「すいません、ちょっといいですか?」
で、ナツカがドローン行商に声をかける。
相変わらずの神速であった。躊躇とか逡巡とかそういう情動を過去に置き去りにした挙動であった。あまりにも無防備な声掛けだったので、俺の方が大丈夫かと慌ててしまったくらいだ。
「いらっしゃい。何か入り用かい、お嬢さん方」
応対したのは、男性の探索者だ。
身長二メートルほどにもなる、クマの顔──クマみたいな顔ではなく、正真正銘──をした獣人タイプの探索者であった。その見た目だけでも特徴的なのに、フードを目深に被ったアングラっぽい特徴も兼ね備えているのが、
というのも、探索者の中には、こういう感じで明らかに人類じゃない見た目を設定している人はけっこういるのだ。『モコモコしてると可愛いじゃん』とか『獣だとムキムキでもむさくるしくない』とか、理由は色々だが。
フードを目深に被ったクマ獣人の探索者は、フードの陰から俺たちを一瞥して、ぴくりと眉(にあたりそうな場所)を動かす。
「……ん? ああ、君ら、見たことあるな。確か、最近デビューして話題になってた……」
「おお! 流石に商人さんだけあって目ざといですよ! そう、ナツカさん達はプロの新人ダイバーコンビ……ナツクロちゃんねるです」
「プロの新人って矛盾してないか?」
調子のいいことを言ってるナツカにツッコミを入れると、行商さんは楽しそうにくつくつと笑った。クマなので表情が分かりづらいけど、気のいいクマらしい。
「そしてわたしはナツカといいます。こっちは相棒のクロ」
「相棒じゃないが……クロです。よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも。僕は行商探索者の
すごい厳つい名前だな……。
ちなみに、ダイバーの名前は人前に出る名前なのでけっこうキラキラしたというかスマートなイメージの名前が多いが、ダイバーをやっていない探索者はユニークな感じの名前も多い。おそらくクマにイメージを寄せたであろうこの人なんかは全然真面目な方で、中には『もちもち』とか『絶対美少女カワ子』みたいなトンデモネームの連中もいたりする。
しかし、人当たりも良い感じだし、これはけっこうスムーズに情報を聞けるのではないだろうか。
「………………」
と思い、対人交渉担当のナツカに話の流れを任せていると、なぜかナツカは話し始めずにこちらの方へ視線を向けてきた。
どうしたんだよ。さっさと話を聞きなさいよ。
「で、何を聞いたらいいんでしたっけ?」
こ、このおバカ、主旨をよく理解していない……!?
「最近仕入れた珍しいものとかだよ!」
『調査』の第一人者であるヴィヴィアネさんの手がかりを調べるために異界物質の素材を売ってる行商に話しかけるって流れだったでしょうが! 餅は餅屋のくだりに引っかかってたくせによぉ……!
憤慨しながら補足すると、軒丸瓦さんはふむふむと頷く。
「最近仕入れた珍しいもの、ね。お嬢ちゃん達のどっちかが『合成』系なのかね? 勉強熱心なのはいいことだ」
「ナツカさんが『合成』系ですけど、
ナツカが首を傾げて軒丸瓦さんに尋ねる。コイツこういうときに躊躇なく質問できるのは強いよなぁ……。
軒丸瓦さんは鼻のあたりを太い指で掻きながら、
「そりゃあ、『合成』系の
「第三項ですよ。ナツカさんは基本法則のプロなので知っていますが……」
「基本法則のプロってなんだよ」
本当になんなんだよ。
「くっくく……。まぁ、だから異界物質で様々な物品を取り揃えて、必要に応じて合成する必要があるわけだが……加工品は高いからなぁ。『合成』の素材は基本的に使い捨てだ。そうなると、こういう無加工……つまり『素材』の異界物質が重宝されるんだよ」
『合成』系の強いところであり、弱いところだな。
その場にある物質を合成することで予想もできない物質を作り出すことができる反面、前以て準備できていないとその方向性は限定されてしまうという。その点、ナツカの『
「顧客としては『合成』系の探索者が多いけど、最近はDIY需要も多いね。知ってるかい?
「はえー、面白いですよ。クロ、ナツカさん達もやりませんか? 配信企画で」
「そのうちな」
心配しなくてもそういうのも企画メモにちゃんとあるから。収益化が通らないとそういう活動の資金も準備できないから、もっと活動が軌道に乗らないとできないが。
そこでふと、俺は軒丸瓦さんの言動に違和感を抱いた。
「……あれ。だとしたら、どうしてさっきは『合成』系で決め打ちしたんですか?」
俺たちのことを既に知ってはいたようだが、
軒丸瓦さんは頷いて、
「そればっかりは商人の勘、かな。強いて言語化すると、『君たちはまだ興味関心が内に向いていない』……ってところだね」
「興味関心が内に向いていない、ですよ?」
「ああ」
ナツカが問いかけると、軒丸瓦さんはクマの顔で笑みを作る。
モサモサなので人間的な印象を抱きづらいが、どことなく教授のように穏やかな雰囲気の
「『
そう言って、軒丸瓦さんはナツカではなく俺の方を指さしてきた。
……俺ェ? いや、確かに活動に対するモチベーションは高いが……別にDIYして別荘作るのだって全然攻めの企画にできるんじゃないか……?
いまいちピンとこないものの、こういう職種の人の人間観察の眼を軽視するのは不用心である。特に、これから俺たちが捕獲しようとしているヴィヴィアネさんも『
「随分話が逸れてしまったな。最近仕入れた珍しいもの、ねぇ……。といっても、僕みたいな木っ端行商はそういう最新トレンドのようなものよりも、既存の人気素材を売るのがメインなんだよ」
『僕自身が守りに入っているようで、恥ずかしいけどね』と軒丸瓦さんは照れ臭そうに肩を竦めて言った。……あぁ、もしかして軒丸瓦さんも
別に守りでも攻めでもどっちが良いとか悪いとかないと思うが。
「あんまりちゃんとした回答じゃなくて申し訳ないね。ところで、何で探索者の君らがそんなことを気にしているんだい? DIY用の素材目的でもないし、『合成』の素材にする訳でもないんだろう?」
……あっ。
しまった……! そこら辺のカバーストーリーちゃんと考えてなかった……! そうだよな、ヴィヴィアネさん捕獲依頼の件はあんまり他人には話せないんだから、ちゃんとそこのカバーストーリーも用意しておくべきだった……!
此処ばかりはナツカに任せていては変なことになってしまう。俺は瞬時に頭を回して、
「ああ、実は配信の企画にしようと思っていて……。色んな探索者のスタイルに触れていこうと思ってるんです」
無論、大嘘である。現時点でそんな企画の予定は一ミリもない。
ナツカも驚いてこっちの方を見ているくらい一ミリもない。おい、お前がそんな顔しちゃダメだろ。
「…………そっちの子は初耳みたいだけど」
「企画立案は俺の担当なんで。コイツに一枚嚙ませると話が進まないんですよ」
「心外ですよ!!」
「そう思うなら普段の態度を見直すんだな」
ぎゃーぎゃー騒ぐナツカを無視して、俺は話を進める。
「最初は意外性重視ってことで、身近ではないけど、よくよく考えたら探索者の活動を支えてくれているスタイルの人達についてにしようかな、と……」
「なるほどなあ……」
すらすらと嘘八百を並べると、軒丸瓦さんは腕を組んで頷きだした。……流石に無理やりすぎたか?
「いやあ、嬉しいねえ! 『
ああ……上手く誤魔化せたのはいいけど、期待させてしまった……。
「パドリング、ですよ?」
と、俺が内心あわあわしている横で、すっかり気を取り直したナツカがのんきに首を傾げていた。
軒丸瓦さんは上機嫌そうに組んだ腕を揺すりつつ答える。
「ああ。僕のように異界物質を仕入れて売るスタイルのことだよ。パドリングは行商って意味。『調査』、『マイニング』、『
一口に
俺のように対人戦で一対一で戦う
インフラ面では、
ちなみに、名称がイマイチ統一されていないのは、それぞれの界隈が独立しているからである。
「はえー。勉強になりますよ」
こいつは本当に分かってるのかね。
……しかし、軒丸瓦さんの扱っているもの的にあんまり『調査』方面の手がかりにはならなさそうか。そういうことなら、お礼に何かを購入してからおさらばと行きたいが……。
と、そんなことを考えていると。
「そうだな……。そういうことなら、僕も協力しよう」
と、軒丸瓦さんは良いことを思いついたとばかりに笑みを浮かべ、こう続けたのだった。
「
ずっと地の文でちょいちょい触れてた獣人タイプの探索者がようやく出せました。そのうち竜人も出したいです。