最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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26:ある日森の中 ②/天蓋を支える巨人達

 異界迷宮(ダンジョン)での集団には、色々なレイヤーの区分が存在する。

 俺とナツカや柘榴坂さんと秋篠さんのような()()()の探索者もいるが、実はこういう例は一般的な表現ではない。異界迷宮(ダンジョン)での集団といえば、一般的には『パーティ』や『ギルド』である。

 

 『パーティ』とは、簡単に言えば個人的な繋がりによる探索者集団のことだ。

 ダイバーの場合は『複数人(パーティ)チャンネル』とも呼ばれていて、最近のダイバー界隈では探索の安定性の観点からパーティチャンネルが流行っている。

 というか、俺たちのようなコンビも大まかなくくりでは『パーティ』の一種だ。私的な集団なので、カジュアルに結成できるのが強みだな。

 

 一方、『ギルド』はそれよりも公的な、仕事上の繋がりだ。

 確か日本だと、『組合会社』という区分の会社を設立することで立ち上げる……えーと、法人格? とかいう扱いだったと思う。詳しいことは分からないが。

 ギルドは、同じスタイルの探索者が集まって作るものである。俺にとって身近なところだと、歴戦迷宮(ランクマッチ)は運営チームでギルドを設立していたはずだ。もっとも、あくまで運営チームのみで、参加者の大半は所属していないし、(キララ)も所属していないが。

 

 

「僕たちもそうだが、大抵のギルドはビルのテナントを借りてそこを事業所にしているよ。……こう説明するとなんだか堅苦しいものにはめ込まれているような印象を受けるかもしれないけど、それは違う。僕たちとしては、『好きを仕事にできている』感じかな」

 

「なるほど。プロだと思いますよ」

 

 

 得意げに語る軒丸瓦さんに着いて行きながら、俺は端末ドローンを起動して一連の会話を録音していく。企画のための取材って言っちゃったからな。嘘を本当にするためにも、情報は記録しておかねば。

 

 

「『組合会社』と言ってね。法的には殆ど合名会社と同じ扱いだよ。ただ、異界迷宮(ダンジョン)内に会社を構えているから従来の法律では登記ができなくて……」

 

「………………」

 

「くく、ごめん。難しい話になりすぎたかな」

 

 

 ぽかーんとしているナツカを見て、軒丸瓦さんは少し困ったように笑う。

 ただし、残念ながら俺もどういう話かはちんぷんかんぷんであった。組合会社っていうのはなんとなく知ってるけど、合名会社って何? 株式会社とかのお仲間か? っていうか俺、会社の種類って組合会社と株式会社しか聞いたことがないのだが……。

 

 そんな感じでうんうん唸っていると、ふと軒丸瓦さんが立ち止まった。

 

 

「さて、蘊蓄は此処までにしようか」

 

 

 そこは、何の変哲もない商業ビルだった。

 何の変哲もないと言っても、ドローンによる空中移動が発達した異界迷宮(ダンジョン)では、二階以上でも出入り口が存在しているという点は異なるが──軒丸瓦さんはそんなビルの三階出入口の前で停止して、こう続ける。

 

 

「ようこそ。此処が僕らのギルド──『組合会社アトラース』さ」

 

 

 三階出入口からビルの中に入ると、そこは役所の窓口のようになっていた。

 出入口からすぐ近くに受付があり、その向こうに幾つかの机と、そこに向き合う職員らしき探索者の後ろ姿が見える。

 俺達に気付くと、受付に座っていたリスの獣人系探索者が顔を上げた。この人も獣人系なんだ。

 

 

「あっ、ゲンさんおかえりぃ。お客さん連れて来たの?」

 

「ああ。表でちょっと会ってね。見学希望らしい」

 

 

 そう言って、軒丸瓦さんは俺達のことを受付の人に紹介してくれる。

 

 

「ナツカさん、クロさん、こっちはウチのギルドで受付嬢をやってくれてるもぐさんだ」

 

「もぐです。どうもぉ……って、もしかしてプロちゃん!?」

 

 

 あっ、この人リスナーだ。

 

 

「プロちゃんではなく、ナツカさんですよ。こっちは相棒のクロ」

 

「だから相棒じゃないが……、初めまして。クロです」

 

「わぁ、本物だぁ……!」

 

 

 もぐさんはそう言って、ぱあっと顔を明るくした(ように見える)。

 ナツカ、何故かリスナーからは『プロ』って呼ばれてるんだよな。まぁ口癖が『〇〇のプロ』とか『プロ××』とかだからだと思うんだが。

 そうこうしていると、騒ぎを聞きつけたのか、受付の向こうからぞろぞろと他の探索者達が顔を出してきた。

 ギルドって所属してる探索者はあんまり中にいないイメージだったけど……考えてみれば、みんな会社の社員なんだから受付の中にいるか。

 

 

「なになに? お客さん?」

 

「うわっ……ナツカちゃんだ!」

 

「企画? 聞いてないよー」

 

「どういうこと? ゲンさんなんかやってんの?」

 

 

 おお……めちゃくちゃ賑やかになって来た。

 軒丸瓦さんはそんな面々をおさめて、

 

 

「いいから仕事に戻って。職場見学みたいなモンだよ。この子達──ナツクロちゃんねるで『潜り売り(パドリング)』についての企画をやってくれるらしいから、その取材に協力してるんだ」

 

 

 軒丸瓦さんがそう説明すると。

 わっっっ!!!! と、一気に社内に歓声が広がった。うおおおお……凄い反響。やっぱり自分達の仕事が公にアピールされるって嬉しいことなんだろうか。…………俺も歴戦迷宮(ランクマッチ)をなんかで特集されてたら確かに嬉しいな。そういう感じか。

 でも、それだけになんかプレッシャーだな……。実際にやってみて変な感じの反応しかなかったら申し訳ない。

 潮が引くみたいに自分達の持ち場に戻った社員さんを見送ってから、リス探索者のもぐさんは嬉しそうに身体を揺らし、

 

 

「いやぁ、すごいよぉ二人とも。まだデビューしたてなのに色々考えてるんだね。迷宮週間(ダンジョンウィーク)も楽しみにしてるよぉ」

 

 

 …………あっ。

 しまった……! リスナーってことは、罰ゲームの話も聞いてるってことだよな!? つまり、バレるリスク……!

 

 

「あ、ありがとうございます! このあとお昼から配信するんですけど、アーカイブでも楽しめるように頑張りますんで!」

 

「いやいや、今日は休日だから普通に午前でお仕事終わりにするつもりだったから配信で見るよぉ」

 

「ありがとうございます……!」

 

 

 んんんん……! なかなか話が配信から変わらねえ……!

 困りつつ話題を変えようと頭を捻るが──そこで。

 

 

「そうだ。職場見学だっけ? 業務都合上話せないこともあるけど、聞きたいことがあればなるべく答えるよぉ」

 

 

 と、もぐさんの方から話を切り替えてくれた。助かった……。

 ……あ、もぐさんウインクした。そっか、俺が罰ゲームのことを隠してるって知ってるから、気を利かせてくれたんだな。

 

 

「……クロ、なんか隠してます? 今変な感じでしたけど」

 

「お前は企画の方に集中しなさい」

 

 

 なんで今のたったの三言くらいで違和感をおぼえるんだよ……! もぐさんのウインクか? もぐさんウインクするな。

 

 

「そういえば……」

 

 

 質問に答える──と言われたので、俺はさっき社員さん達が近づいて来た時に気付いた疑問をぶつけてみることにした。

 

 

「社員さん、皆獣人タイプの探索者さんみたいですけど、何か理由でもあるんですか?」

 

 

 クマの軒丸瓦さんに、リスのもぐさん。他にも犬とか猫とかタヌキとか、色々なタイプの獣が顔を突き合わせていたのだ。

 いくら獣人タイプの探索者がそこまで珍しくないとはいえ、ギルド全員がそうというのは流石に意図を感じざるを得ない。

 俺の問いに対し頷いて答えたのは、軒丸瓦さんだった。

 

 

「ああ。実は僕たちはもともと、趣味の集まりでね。獣人系探索者の同好会みたいなサークルをやっていたんだよ」

 

 

 ははぁ、なるほど……。

 割とよく聞く話だ。俺も、本当に最初の最初の頃に知り合った荼毘探索者が数人いるが、荼毘探索者も荼毘探索者で集まりを作っていると聞いたことがある。俺は参加したことないけど。

 

 

「元々は、獣系探索者としての『良さ』を共有したり、知見を共有したり、そういう集まりだったんだけどね……。そのうち、活動にも()()()()()()を求めようってことで、『マイニング』に特化し始めたんだよ」

 

 

 『動物といえば木の実を集めたりとか、そういうイメージあるだろう?』と言って楽しそうに笑う軒丸瓦さん。その感覚は正直良く分からないが、楽しかったんだろうなというのは見ているだけで分かる。

 

 

「ところがこれが、思いのほか好評でね。どんどん規模が拡大していくにつれて、段々と商流みたいなものが出来上がって来た。仲間内の一人に、そういうのの掌握が上手いのがいてね。ある時、こういう提案をしたんだ」

 

 

 軒丸瓦さんは、その時のことを思い返す様に虚空を見上げていた。

 

 

「『このまましっかりした商売になったら、絶対に揉め事が出て来ると思う。そうしたら、私達の関係性が壊れて仲違いが起きるかもしれない。そうなる前に、私にこの事業を預けてくれないか?』とね」

 

 

 ああ……。

 そういう話も、残念ながら異界迷宮(ダンジョン)ではよくある話だ。

 パーティとギルドの話もそうだが、異界迷宮(ダンジョン)には『私的な集団』と『公的な集団』が入り乱れている。それゆえに、両者の境界が曖昧になることで発生する揉め事が非常に多いのだ。

 お金の話とか、俺も今回の迷宮週間(ダンジョンウィーク)をやるにあたってけっこう気を遣ったりしたものだ。ナツカはその辺全然気にしてなさそうだったが。

 

 

「で、そいつを中心にして設立したのがこの『アトラース』。だから、ウチの社員は全員獣人系の探索者なのさ。でも、なんだかファンシーな感じで楽しいだろう?」

 

「確かに。珍しい特色だし、モフモフし放題ですよ」

 

 

 自信満々に言う軒丸瓦さんに、ナツカは相変わらずのマイペースで返した。いや、モフモフしちゃダメだろ……。本物の獣ならいざ知らず、探索者なんだから中身は同じ人間だぞ。

 軒丸瓦さんは愉快そうにくぐもった笑いを零して、

 

 

「くっくく、僕みたいなおじさんがモフモフされたら、逆に捕まっちゃうからやめてね」

 

「すいません、ウチのバカが無礼なことを……」

 

 

 たまらず俺がナツカの頭を下げさせると、今度こそ軒丸瓦さんは耐えきれないとばかりに噴出した。ウケてくれたなら良かったが……。

 

 ……しかし、元は『マイニング』メインの個人サークルから、事業の発展に伴って潜り売り(パドリング)のギルドに拡張したという流れか。

 だとすると、此処のギルドは潜り売り(パドリング)の中でも素材の収集にかなり力を入れているのかもしれないな。そういう意味だと、軒丸瓦さんは違ったけど、けっこう珍しめの素材を集めている探索者も在籍しているかもしれない。

 

 

「……気を取り直して、質問です。軒丸瓦さんに聞いたときは、あまり珍しめの素材は扱っていないとのことでしたけど、他の方はどうなんでしょう? ギルド全体で、既存の素材を扱う方針なんでしょうか?」

 

「その辺りは、けっこう個人の裁量に寄っているね。ギルドとしては販売する品物の指定はしてないよぉ。ただ、仕入れたものと売れたものの共有は義務付けてる。それで流行をギルド内部で共有してるんだよぉ」

 

 

 なるほど……。

 回答に頷いていると、もぐさんはさらに続けて、

 

 

「もちろん、中には『調査』で新たに発見された素材を買い取ったり、自分から『マイニング』に行って素材を仕入れて売る人もいるよぉ。ウチのギルド長……社長はそのへんしっかりした人でねぇ。意外と()()()との取引も多いんだよぉ?」

 

 

 ……大御所。

 『調査』における、ランクマ勢で言うところのトップランカーみたいな概念だ。

 『調査』は迷宮の構成やギミック、新素材なんかを調べるスタイルだから、スコアとかポイントのような数値評価が殆ど存在しない。なので、情報の公開件数が多いことで有名な探索者のことを特に『大御所』と呼んだりするのだ。

 そうした探索者は配信をあまりやらないが、自分の知見をまとめた動画を投稿することはある。配信ではないのでダイバーの定義からは一見外れそうではあるものの、実はそういう人も『動画投稿型のダイバー』という感じでダイバーの一種として扱われる。ややこしい話だけどな。

 もっとも、『調査』系のダイバーってやっぱり地味だからか、他のスタイルに比べたらそこまで人気はないのだが……。

 

 

「大御所って、たとえば誰です?」

 

 

 あ、ナツカがナイスパスを出してきた。

 『調査』の大御所といえば、同じ業界繋がりでヴィヴィアネさんの知り合いが出てくるかもしれない。出てこないにしても、ヴィヴィアネさんについての情報を得られる可能性は結構高いだろう。上手い話運びだ。まぁ、本人はシンプルに気になっただけだろうが。

 

 

「ああ、そうだね。たとえば──」

 

「わたしとか、かしらねぇ?」

 

 

 前提が。

 引き裂かれるように、女の声がした。

 

 気が付くと、もぐさんの背後に謎の『亀裂』が走っていて、その中からブロンドヘアの女性が悪戯っぽい笑みを浮かべて顔を出していた。

 ──女性の後ろには、オフィス内部とは全く異なるどこかの『壁』付近の景色が広がっている。

 

 

 …………ヴィヴィアネさんだ!! マジでノータイムで出て来るのか、あの『亀裂』……!

 

 

「うびゃあ!? ちょ、いきなり後ろに繋いでこないでよぉ!」

 

 

 俺が反応して身構えてから一瞬遅れて、もぐさんが驚愕した風なリアクションをした。

 ヴィヴィアネさんは俺の方を一瞥してから、

 

 

「ん~ごめんなさいねぇ☆ もぐちゃんの反応が可愛くてつい」

 

「もう……しょうがいない人だよぉ」

 

 

 もごもごと言うもぐさんを横目に、ヴィヴィアネさんはひょいと『亀裂』から身を乗り出して、こちら側に降り立ってきた。

 …………『壁』付近からわざわざ来たってことは、迷宮帰りか? となると、迷宮から直で来るのではなく『壁』に来たことから察するに『救世の零(ゼロ)』のように迷宮単位で移動範囲が区切られている可能性があるな。あるいは距離制限か……。

 

 

「お二人の方も、驚かせちゃってごめんねぇ。そっちの子も身構えなくていいから。取って食べたりはしないわぁ」

 

「…………失敬」

 

 

 つい、いつもの癖で臨戦態勢に入ってしまった。

 俺はナツカの方へ後ろ手に差し出した手(爆弾の素材を手渡すためだ)を下ろす。それを見て、ヴィヴィアネさんはどこからか取り出した扇子を広げて、改めてこう言った。

 

 

「初めましてぇ。わたしがこのギルドと提携している『調査』の大御所……人呼んで『御三家』の一人、ヴィヴィアネさんよぉ。以後、よろしくねぇ?」

 

 

 …………しかし。

 

 まさか、最初の最初で出て来るか……!?




 第一章完って感じの。高評価・感想・お気に入り登録ありがとうございます!
 ラスボス登場。鬼滅で無惨様が突然顏出してくるのとか、いいですよね。
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