最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
とはいえ、表向き俺達は企画の為に
人間関係の構築という意味では、アトラースを後にする前に軒丸瓦さんやもぐさん、ヴィヴィアネさんと連絡先を交換したくらいだ。普通に取材としては色々な話を聞けて有意義ではあったし、ヴィヴィアネさんと連絡を取れるようになったのはかなり大きな成果だが。
「…………で」
アトラースの皆さんに別れを告げて、ビルの三階出入口からドローンで飛び立った俺は、そこで横に
「戻らなくていいんですか? てっきりその『亀裂』で元の場所に帰っていくもんだと思ってました」
俺の横では、『亀裂』に腰かけたヴィヴィアネさんその人が楽しそうな笑みを浮かべていた。
ヴィヴィアネさんは意味深な笑みを浮かべると、『亀裂』の中に背中から飛び込んでいく。すると斜め上に走っていた『亀裂』からヒュンと鉄棒の逆上がりをするような勢いで起き上がり、また同じ体勢に戻る。
……そういう感じで移動もできるのか。近距離での移動は前以て『亀裂』が見えているから、移動による不意打ちの脅威は低そうだが……出て来る時の『向き』は自由自在らしい。要注意だな。
「心配してくれてるのかしらぁ? ありがとうねぇ。でも大丈夫。ちょうど『調査』のお仕事を終えた後だからねぇ……。今日はもうお休みよぉ」
「ありゃ、大分お疲れです? ヴィヴィアネさんも大変ですね」
「も~大変よぉ。今回の『調査』だって三日がかりだったしぃ。でも、お陰で新発見も色々あったからねぇ」
『調査』は数日単位でかかるのか……。そりゃあ、『
……そして、数日単位で迷宮に潜っているということは、一度潜ったらそのくらいの期間連絡が取れなくなるということでもある。これはバッドニュースだが……それはヴィヴィアネさん側からしても同じことか。
とにかく重要なのは、こっちがヴィヴィアネさんの情報を探ろうとしていることを悟られないこと。その為には……まず、ナツカは黙らせておく必要があるな。
「そうだ。俺達これから時間までメシにするつもりなんですけど、ヴィヴィアネさんもどうですか?」
「おお。ナツカさんもいい加減お腹が空いてたですよ」
「いいわねぇ! じゃあ、お邪魔じゃなければ是非ご一緒させてもらおうかしらぁ」
そう言って、ヴィヴィアネさんは軽い調子で『亀裂』から飛び降りた。
──かと思えば、足元に発現した『亀裂』を足場にして跳躍し、さらに上の方に新たに発現された『亀裂』に着地する。……まるで月の上かと錯覚するくらい、かろやかな身のこなしだった。
おそらく、足場として発現した『亀裂』が繋がる先が上の方に発現された『亀裂』なのだろう。
……一方の『亀裂』は自分の手足付近からしか伸ばせない。おそらくこれは確定の『制限』。問題は、『移動先』の『亀裂』を発現する条件だな……。
「って言っても、俺達の懐事情で行けるのはファミレスくらいっすけどね。ヴィヴィアネさんがそれでよければですけど……」
「あらぁ、わたしファミレス大好きよぉ? というか、わたしのことなんだと思ってるのかしらぁ」
「なんというか、高貴というか……」
「女王様っぽいですよ」
「女王様!」
ナツカのド直球発言に、ヴィヴィアネさんは『亀裂』に寄りかかりながらけらけらと笑う。
どうやらナツカはヴィヴィアネさんが自分達に好意的なのと、このあとのご飯が楽しみすぎて本来の目的を良い感じに忘れているらしいが……それはそれでお前のワードチョイスはひやひやするんだよ!
「そんな大層なものじゃないわぁ。ごくごく普通の一般人よぉ? わたし。ただ
そう言って、ヴィヴィアネさんは控えめに胸を張る。アンタでちょっとなら、この世界の大半は素人ってことになっちゃうだろ。
ともあれ、ファミレスでも問題なしとのお言葉をいただけたので、俺はそれに甘えて近くのファミレスへと向かう。
今朝もちょっと触れたが、探索者は食わなくても餓死しないが、飢えると弱くなるし、現実に帰った時に酷い疲労感に襲われる。
生命活動を行わない探索者の身体になる
なので、昔は『とりあえず食べられればいい』という感じの携帯食料が主流だった。俺が
ただし、外部企業の参画や探索のカジュアル化によって間口が広くなった現在の
「いやーホント、良い時代になったわよねぇ」
そんなわけで、ファミレスに向かっている途中──ヴィヴィアネさんは踊る様に『亀裂』から『亀裂』へと跳びながら、そんな風に笑った。
俺もナツカも年季は長いので、その気持ちは良く分かる。新人ダイバーのクロとしては、分かる訳にはいかないが。
「どこを見てもご飯屋さんがい~っぱい。昔は『ダンジョンディッシュ』のスタイルの探索者がいないとまともな料理なんて食べられなかったからねぇ……。今は『ダンジョンディッシュ』やってる人は大体ギルド所属か、ダイバーやってるかになっちゃったけどぉ」
「ああ、聞いたことあります」
というか、俺も体感してたしな。その時代。
今の様に企業の参画がない時代、料理の確保には本当に苦労した。そもそも調理器具すら安定供給できない世界だ。そんな世界で美味しいものを食べるには、それなりの料理スキルが要る。火があって肉が焼けるだけではダメなのだ。
まして、探索において重要なのは持ち運びできる食料である。そうなってくると、いよいよ本当に素人では準備できない。そんな中、食の充実に喜びを見出す『ダンジョンディッシュ』というスタイルの探索者が重宝された。
彼らは討伐した
「黎明期の『ダンジョンディッシュ』系探索者が経営してるお店とかも、ありますもんね」
黎明期に活躍した『ダンジョンディッシュ』系探索者達は、今はもう個人で活動している者はほぼいないと聞くが──活動を辞めた人もまた、ほぼいない。
どれも自分で店を持って、そこで活動しているらしい。むしろ、近年参画した企業も現場のトップには古株の『ダンジョンディッシュ』系探索者を相談役に起用しているのが大半なくらいだ。そしてもちろんそういう人達も『
俺達が今向かっている『ボナ・ペティ』も、確か有名な『ダンジョンディッシュ』系探索者が参入にあたって監修したと聞いたことが──
「そうそう。昔の仲間たちはみ~んなお店を持ってねぇ…………あら、着いたわねぇ」
と。
そこで不意に、ヴィヴィアネさんが声を上げた。
……いや、まだ着いてないけど? ドローンの速さならあと数分で着くとは思うけど、この辺はまだオフィス街と繁華街の間みたいな地域だし。
怪訝に思う俺をよそに、ヴィヴィアネさんは『亀裂』から軽い調子で地上へと降り立った。俺達も、合わせてドローンを着地させる。
「あの、ヴィヴィアネさん。『ボナ・ペティ』はもうちょっと後に……」
「『ボナ・ペティ』? いやねぇ、そこじゃないわよぉ。ランチにするんでしょう? なら此処じゃないとねぇ」
そう言ってヴィヴィアネさんが視線を向けた先には──高級っぽいレストランの看板が。
看板には、『Delizioso!』という文字。イタリア語か? 読み方は知らないが……知らないお店の名前だ。ただ、めちゃくちゃ高そうということだけは分かる。
「ヴィヴィアネさん、此処は……」
「『
なんてことないように言って、ヴィヴィアネさんは一歩前に出る。
いやいや……『迷宮の歩き方』に載ってるって言ったら、ガチガチの高級店じゃん。そんなとこに高校生が入れる訳がないでしょ。
「安心してぇ? ドレスコードがあるのは二階だけ。一階ではうるさいこと言われないからぁ」
「そうじゃなくてですね……。そもそも、こんな高いところでランチなんか無理ですよ! というか予約とかなくていいんですか此処……」
「まぁまぁクロ、そんな気にしなくてもいいじゃないですか」
ナツカのヤツは完全に奢ってもらえる気でいやがるし……、……ああいや、そうか。奢ってくれるのか?
よく考えたら、俺達は新参ダイバーで、ヴィヴィアネさんは『御三家』にも数えられる大ベテランだもんな……。一緒にご飯に行ったら、そりゃ奢ってくれるか。そんでもって奢ってくれるならファミレスで~なんて言わないか。そりゃそうだ。
ナツカの能天気さでようやく気付いた俺に対し、ヴィヴィアネさんはふっと微笑んだ。
「ナツカちゃんの言う通りねぇ。わたしってばけっこう顔がきくから。クロちゃんは細かいことは気にしなくていいの。どうしても気兼ねするなら、クロちゃんが立派になったら後輩ちゃんに同じことをしてあげてぇ?」
「……は、はい」
ヴィヴィアネさんに優しく窘められて、俺は何も言えなくなってしまった。
やっぱこういうところで陰キャは社会的経験がなさすぎる……。
「さ、いきましょう? 時間もそんなにないことだしぃ。お料理の美味しさは、自信を持って保証するわよぉ?」
「お、お手柔らかに……」
「いざいかん! 腹が減っては探索はできぬと言いますよ!」
ヴィヴィアネさんに先導されて、俺達は店へと入っていく。
……ナツカは頼むから、あんま調子乗らないでくれよ。
あと、こんな高そうな店で腹を埋めようとするなよ。もったいないぞ。