最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
あと、更新時刻を次回から昼12時に変更します。次回更新は明日12時予定です。
店内は想像していたよりも広々としていた。
学校の教室より少し小さいくらいの店内には、十数のテーブル席が配置されている。ドレスコードがあるのは二階だけ──とヴィヴィアネさんは語っていたが、二階席へ続く階段は見当たらない。二階に続く道はドローン用出入口しかないのだろう。
ヴィヴィアネさんに先導されて入店した俺達は、緊張しつつも周囲を確認する。
店内には他の客もおり、だいぶ賑わっているようだ。……というか、雰囲気だけでもだいぶ高級店のイメージとは違っていた。言うなれば、『冒険者の酒場』と言った感じだ。
ちなみに、空席はない。……これ大丈夫なのか?
「おや、誰が来たかと思えば……久しいねヴィヴィアネ。若い子など連れて珍しいじゃないか」
と、程なくして少年が現れる。
相手は黎明期の探索者だ。見た目通りの年齢ではあるまい。当時が実年齢通りだったとしても俺より年上になる計算だ。現実だと心春さんより年上の可能性もある。
「久しぶりぃ、コロネちゃん。ちょっと有望な新人を見つけてねぇ。席用意してくださる?」
「別に構わないがね……。こちらに来たまえ」
コロネさんはそう言って、ヴィヴィアネさんを店の奥へと誘導する。俺達もそれについていくと……店のバックヤードらしきところに突き当たった。人が一人通れるくらいの幅の通路が、地下へと繋がっていく感じだ。
此処は……、VIPルームか何かか?
「此処ねぇ、常連さんが案内されるVIPルーム。あ、ちなみにサービス自体は特別なものとかないからそこはご愛敬ねぇ」
「なんか秘密基地みたいで凄いですよ」
「流石に緊張しすぎて何も言えないっす……」
呻くように言いながら、俺は確信していた。
……間違いない。ヴィヴィアネさんは俺達を
ベテランとして、後輩の新人をご飯に連れていくのにファミレスじゃ格好つかない……みたいな心理がある可能性もあるにはあるが、此処まで見たヴィヴィアネさんがそういうことを気にするタイプとも思えない。
むしろ、相手が気にしていないならどこまででも気を抜き、それを相手にも許させる……そんな魅力を持っているタイプではないだろうか。
そんなヴィヴィアネさんが、こうも露骨に俺達に『特別な体験』をさせてくる。
落とし込まれたシチュエーションについていくのが精いっぱいでそこの意図に思考を巡らせる余裕がなかったが──気付いてしまえば後は早い。ヴィヴィアネさんはこうやって特殊過ぎるロケーションに置くことで俺達の判断能力を鈍らせようとしているのだろう。
おそらくは、
そしてこの状況は、俺達にとっては好機でもある。
口を滑らせそうなナツカはVIPルームに興味津々で本来の目的を忘れているし、俺は自分が仕掛けられている状況をきちんと認識できている。その上、『自分が攻めているつもり』のヴィヴィアネさんは、俺達が心春さんから依頼を受けていることに気付かない。
「さ、座りたまえ。……全く連絡もなしに来るとはどういうことだね……」
「ごめんごめぇん☆ 一つ貸しってことにしておいてあげるからぁ」
「……その理屈だと、返すべき借りがまだ残っている私が気まずいだろう」
ぼやきながらのコロネさんが案内してくれたのは、一階よりも幾分か狭い──広めのカラオケルームくらいの部屋だった。
こちらにも数卓のテーブルがある。道中の通路は地下なので薄暗かったが、中は優しい明かりの照明で照らされており、いかにも『隠れ家的』という感じだ。
優雅に座ったヴィヴィアネさんが二、三言注文を告げると、コロネさんはそのまま奥へと引っ込んでいってしまった。
ヴィヴィアネさんに倣って席に着いた俺に、ヴィヴィアネさんは早速切り出す。
「──しっかし、改めて考えると不思議なものよねぇ。黒い大理石みたいな大地が無限に広がっているだけだった『大空洞』が、こんな風に発展するなんてぇ」
「ニュースチャンネルの特番動画とかで、当時の人がどれだけ頑張ったかみたいなのをたまに見ますね。去年の『
一応、『
心春さん──『とある少年』のお陰で人的被害こそゼロだったが、多くの都市が被害を被った。なので、毎年『
「ああいうのねぇ。歴史として語っておかないと、人の記憶っていい加減だから、そのうちグッチャグチャになるのよねぇ。
……多分、心春さんのことか? 国営系のチャンネルの番組制作に協力するってなったら、迷宮省が出てきそうだし。
ちょうどいい。向こうが探りを入れやすいように、話題を寄せてみるか。
「やっぱ顔が広いですね……。師匠にその辺の話を聞いてみたことがあるんですけど、良く分からないって言ってましたよ」
「師匠……、って、
「あ、知ってるんすね」
「そりゃもう。というか、今アナタ達を追っていて知らない人はいないんじゃないかしらぁ? 例の配信事故
そう言って、ヴィヴィアネさんはナツカの方へ視線を向ける。当のナツカは用意されたメニューを食い入るように眺めて、提供される食事への期待値を上げまくっているようだった。順調に置物になってくれて俺としては有難いばかりである。
「今回の
すい、と。
視線をこちらの方に戻して、ヴィヴィアネさんは俺に問いかけて来る。──食いついて来たな。
俺は『ん~』と不満げに唸って、
「師匠、その辺の活動に関するアドバイスとか全然くれないんですよね。『ランクマやったら?』って言うくらいで。俺はコイツとのコンビでやっていくつもりなんで、そういう意味じゃアテにならないですね」
「厳しい師匠ねぇ」
ヴィヴィアネさんはそう言って軽く苦笑した。そのタイミングで、俺は爆弾を投げてみることにする。
「ただ、ちょっと忙しそうな感じはしましたね。普段はアドバイスとかはしてくれないにしても、話は聞いてくれるんで」
「忙しい?」
俺の言葉に、ヴィヴィアネさんは滑らかに問い返してくる。情報の糸口を前にして動揺したり、警戒したりするような素振りは一切見せない。……役者だな。
俺は頷いて、
「はい。多分周年が近いから何か準備してるんじゃないですかね」
その可能性も考えているのか、ヴィヴィアネさんはゆっくりと目を細めて、
「へぇ。ライヴの準備とかでもあるのかしらぁ。クロちゃん、キララちゃんに困ってることがあったら、わたしも力になるわよぉ。実はわたし、キララちゃんのファンだからねぇ」
「え! そうなんですか……。いやまぁ、そういうこともありますよね」
…………ファンと来たか。
これは、俺を介してキララと接触を取ろうとしている……のか? だが何故? ヴィヴィアネさんがキララのことを刺客(こう表現すると剣呑だが)と認識しているなら、むしろ接点を持たないように逃げた方がいいはずだが……。
「そりゃあ、わたしと同じ古株で、一つの『スタイル』の頂点に位置する探索者だものぉ。勝手に同志みたいに思ったりしてねぇ」
「ああなるほど……。そういうことなら師匠に伝えておきますね。多分喜んでくれると思いますよ。師匠、あんま知り合いいないんで」
冗談めかして言うと、ヴィヴィアネさんはにっこりと微笑んで返してきた。同志ねぇ……。どこまで本気だか分からないが、俺も古参の探索者に対してはどこか仲間意識みたいなものを抱いたりするので、気持ちは分かる。
……依頼とは別に、この縁についてはしっかり使わせてもらおう。実際、ヴィヴィアネさんの人脈は非常に有難いものなので。
俺は端末ドローンを操作しながら、
「ヴィヴィアネさんの連絡先、師匠に送ってもいいですか?」
もちろんクロとキララは同一人物なので、これは芝居だが……このひと手間を挟んでおかないと不自然になってしまうからな。
一応の確認をした俺に、ヴィヴィアネさんは快く頷いてくれた。
「えぇ。もちろんいいわよぉ」
「ありがとうございます」
適当にそれっぽい操作をする素振りを見せ、ドローンを仕舞う。
横でナツカがぼんやりとそんな俺のことを眺めていたが……何も言わない。よし、お前はもう今日はそれでいいぞ。
「というか……ヴィヴィアネさんはすごく顔が広いですよね。さっきの『アトラース』と言い、今回のコロネさんと言い」
そこで、俺は普通に気になっていた部分へと切り込んでみる。
ヴィヴィアネさんは曖昧に笑いながら、
「年の功よぉ。……というのもあるけど、『調査』というスタイルの関係っていうのもあるかしらねぇ」
「……『調査』が?」
「えぇ。ほら、『調査』って、迷宮のギミックや
扇子をぱたぱたさせながら、ヴィヴィアネさんは続ける。
「『調査』系の探索の結果得られる情報って、色んな分野で活用されるのよねぇ。ギミックや
「どうですかね。『ミカルダ生命街』みたいな極端に
「ああいう『一番乗り』は、必ずしも『調査』系とは限らないけどねぇ。最近までわたしが潜っていたところも、未平定ではあるけど発見済みではあるしぃ」
頬に手を当てて言うヴィヴィアネさんに、俺は勝機を見た。
……此処だ。此処から、ヴィヴィアネさんの今後の動きを探る糸口にしてやろう。
「潜ってたと言えば、ヴィヴィアネさん──」
「クロ、待ってください」
そこで。
これまで存在感を消し去っていたナツカが、不意に俺の言葉を遮った。
……なんだ? 此処に来て何か気になることが? コイツ観察眼は凄まじいけど、腹芸ができるわけじゃないしなぁ。変なこと口走ったりしないだろうか……でも、ヴィヴィアネさんの目の前で変に喋らせなかったりしたらそれはそれで違和感を持たれるよな……。
……クソッ、こうなるから飯をぶら下げて黙らせておきたかったのに……!
一瞬にして状況が読めなくなった俺に対し、ナツカは地下フロアの入口を指差す。あ? 外? …………あー。
「……ついに来ますよ。料理が。ナツカさんはこれが楽しみで仕方がなかったですよ」
ナツカが聞いていたのは、外から聞こえてくる足音と、料理の匂いだろう。
ヴィヴィアネさんとの腹の探り合いに集中していたので強いて意識はしていなかったが、足音がしていたことくらいは俺も認識している。このくらいは感じ取れてないと、ランクマじゃ容易く不意打ちで乙るし。
……でも、なぁ。
「お前な、主旨を考えなさいよ、主旨を」
「? 腹が減っては探索はできぬと言いますよ」
それはそうなんだが。
……表向きのシチュエーションで考えても、此処は大ベテランの話を聞く方が大事みたいに思うもんじゃないの? 俺がおかしいだけ?
コロネさんの