最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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03:いざ迷宮へ/譲れないこだわりは誰にでも

 それから少し後──異界迷宮(ダンジョン)内、『大空洞』。

 見渡しきれないほど広大な空間の中に、俺とナツカはやってきていた。

 

 空を見上げれば一面に広がる、『夜空の闇』の天蓋。それと、極彩色に輝く異星の煌めき。かつて『破局氾濫(オーバーフロー)』の際に現実を浸食した恐怖の象徴だが、今となっては天空を彩るアクセサリだ。

 そして地上に目を向けてみれば、まるで黒く塗りつぶした大理石のような質感の地面。デザインをサボった3Dモデルのテクスチャじみた無機質な床面がそれこそ地平線の向こうまで広がっていた。

 此処が異界迷宮(ダンジョン)の入口──『大空洞』である。

 

 異界迷宮(ダンジョン)には、世界中に点在する『門』は、どこを通っても同じ『大空洞』へと転移する──という法則が存在している。異界迷宮(ダンジョン)基本法則の第一項だ。そしてこの『大空洞』から、様々な特徴を持つ無数の迷宮へと道が分岐しているわけである。

 いわば、この『大空洞』は巨大な共通ロビー。それだけに、この空間は二四時間いつでも一定の賑やかさを誇っている。

 

 『大空洞』の中は、いつも通り人がたくさんいた。

 その名の通りもともとは何もない空洞が広がるばかりだった『大空洞』は、一説によるとオーストラリア大陸以上の広さを誇ると言われている。

 人類は『異界開闢(グランドローンチ)』以降文字通り此処に『入植』して環境を整備した。現在は雑然とした街並みめいた風景が広がるに至っているほどだ。今となっては、『大空洞』という名前は完全に名前負けである。

 ちなみに、『門』から『大空洞』に入る時、同じ『門』から入ればいつでも同じ場所に出られる訳じゃない。『大空洞』での出現場所は『門』の位置だけではなく『門』へ入る時間とも紐づいているらしく、同じ『門』から入っても時間が違えば全く別の場所から出てきたりすることもある。

 とはいえ──

 

 

「さて、着きましたね」

 

「…………ああ」

 

 

 俺達二人は同じ『門』へ同じ時間に入ったので、こうして同じ場所に転移したらしいが。

 

 話してみて分かったのだが、俺とナツカは住んでいる地域が意外にも近いらしかった。何せ最寄り門が同じだったのだ。今まで鉢合わせしなかったのが不思議なくらい……と思ったが、まぁ『門』からの移動って一瞬だしな。よく考えたら、ナツカに限らず誰とも『門』の前で鉢合わせたことないし。

 異界迷宮に入れば、制服姿だろうと関係なく迷宮用の姿に変換されるので、一旦家に戻ったりする必要もない。異界物質製の装備を身に纏っているダイバーはその限りじゃないが、まぁそんな金のかかることをするのなんて、よっぽどの有名ダイバーか『企業勢』かくらいのものだろうしな……。

 

 軽く装備を確認していると、不意に横にいるナツカからの視線に気付いた。

 ナツカは先ほどのアーカイブで見たダイバー衣装だ。セーターのような上着にホットパンツ。全体的に淡いブラウンを基調とした、活動的な格好だ。両手にはベアークローが装備されている。おそらく、アレを起点にした接近戦を得意とする戦闘スタイルなのだろう。

 

 

「…………どうした?」

 

「いや、キ……いつもの格好じゃないんですね」

 

 

 ナツカに言われて、俺は自分の姿を省みた。

 ああ……そうだな。

 

 今の俺は、やはり少女の姿をしている。

 といっても、普段異界迷宮に潜る時のキララとしての姿じゃない。背丈は元の姿と大して変わらず一七〇センチほど。黒い長髪をそのまま後ろに流した、クールビューティという感じの風貌だ。黒いジャケットにスキニーパンツという動きやすい格好で臨んでいる。

 ところで、キララって言いかけたのにちゃんと言い直したのは進歩だな。

 

 ナツカは辺りを見渡して近くに聞き耳を立てている人がいないのを確認すると、

 

 

「なんで姿が違うんです?」

 

「何でってそりゃあ……登録者数二〇万人程度でも、一応俺は人気配信者だしな」

 

 

 こほんと咳払いをして、

 

 

「変に駆け出しのダイバーと一緒にいるところを目撃されて話題になったら、お前もやりづらいだろ。配慮だよ配慮」

 

「ナツカさんは別にそれでも構いませんけど……」

 

「俺が嫌なんだよ!」

 

 

 ダイバーの中には素人ダイバーを育てますみたいな企画をやってるヤツもいるけどさ。(キララ)はそういうのじゃないんだよ。それに、そういうことをしちゃうとナツカが一人のダイバーじゃなくて『(キララ)の提供するコンテンツの一部』になってしまう。そういうのは、良くないだろう。

 

 

「いや、ナツカさんが気にしているのはそもそもそこではなくてですね」

 

 

 まったく、このくらい配慮をきかせてることくらいすぐに気付けよな……と呆れていると、ナツカはきょとんとしながら、

 

 

「どうして()()()()姿()()()()姿()()()()()()()()()?」

 

 

 そんなことを、問いかけて来た。

 どうして、って……。

 

 

「ねっとりてらしーがどうのっていうのは、分かりますよ。でもだったら顔だけそれっぽく変えた男の子の姿でもいいはずです。なんでわざわざ背丈も格好も全然違う女の子の姿に???」

 

「……………………」

 

「しかもなんだか妙にディティールまで拘ってませんか? 普通、即興でそんな細かいところまで作り込んだ女の子の姿になれます???」

 

 

 ………………。

 

 

「あ、あのなぁ! これから俺はお前の配信に協力するんだぞ? なるべく目立たないように振舞うつもりだが、声とか姿とかはどうしようもないだろ! そんな時に、男の姿や声が入ったらどうなると思う!?」

 

「なんか急に必死に語り出しましたね」

 

「カップルチャンネルならともかく、お前みたいな駆け出しのダイバーに最初から男が映ってたら、人気が出るものも出ねえんだよ! でも裏方が女の子なら、それはそれで需要が出て良い感じの話題性になんの! あとこの姿は普段の格好を安直に反転させたものだからすぐにイメージできただけでそれ以上でも以下でもない!」

 

 

 大手企業所属のダイバーでも、そういう裏方芸が話題を呼んで人気を博した例だってあるんだ。けっこうバカにできない手法なんだよ、これは!

 

 

「でも、これは練習だから実際に映像を表に出すことはないですよね」

 

「…………、」

 

「……ひょっとして、シンプルに女の子の姿になるのが好、」

 

「単なる市場戦略ですぅー!! ド失礼なヤツには配信の協力してやんねえぞ!!」

 

「別に女の子の姿になるのが好きでもいいと思うんですけど……」

 

 

 ぶつくさ言うナツカを、気合で押し流す。

 決して、キララみたいなキャピキャピしたぶりっ子のロールプレイをしてるとたまにはサバサバした感じになりたくなるので前々から考案だけはしていた姿だったりなどということはない。ないのだ!!

 

 

「あと言っておくけど、本名で呼ぶのもなしだからな。呼んだら速攻帰るから」

 

「じゃあなんて呼べばいいんですか?」

 

 

 普通に問い返されて、俺は一瞬答えに窮してしまった。

 そうだ。呼び名を考えていなかった。うーん……俺は今回あくまで裏方だし……裏方……黒子……。

 

 

「……クロで。裏方の黒子で、クロだ。良い感じだろ」

 

「ふむー、分かりました。ナツカさんはいつも通りナツカでいいですよ」

 

「そこを一番なんとかしてくれない?」

 

 

 だからネットリテラシー! ……まぁ最低限俺の身元さえ隠せていれば、まかり間違ってコイツが大人気ダイバーになって身バレしたとしても俺に影響はないが……。

 

 

「それで、これからどうするんです? 初心者用迷宮で撮影練習ですか?」

 

 

 言いながら、ナツカは駅へと足を向けた。

 『大空洞』の広さがオーストラリアより大きいというのは説明したが、それだけ広大な土地を人間の足で移動すればそれだけで大冒険になってしまう。なので、『大空洞』には異界物質によって作られた『大空洞線』という真空式リニアモーターカーの路線が無数に張り巡らされているのだった。

 その移動速度は、どんな場所からでも三〇分で中心区である『蜘蛛の巣(ターミナル)』に行け、そこからどこの迷宮にも三〇分で行けるほど。俺は詳しくないので知らないが、愛好家なら時速何百キロだの異世代車両何百系だのみたいな解説もしてくれるだろう。

 

 ちなみに初心者用迷宮というのは、異界迷宮(ダンジョン)の中でも比較的異界深度(フロアレベル)の低い迷宮のことだ。

 看板を見る限り此処は西地区だから……ここらで一番近い初心者用迷宮といえば、『クーロン蟻塚』だろうか。大空洞線を使えば一〇分程度で着く距離だ。

 だが、

 

 

「いいや、初心者用迷宮は使わない。あそこは低年齢層が多いしな」

 

 

 異界迷宮(ダンジョン)探索のカジュアル化に伴い、探索者の低年齢化も俺達が子供(ガキ)の頃よりも進んで来た。俺達が小学生の頃は小学生が異界迷宮(ダンジョン)探索なんて本当に珍しいくらいだったが、今はそう珍しくもないのだ。

 その代わり、低年齢層は必然的に難易度の低い初心者用迷宮に集まりやすい状況になっている。

 

 

「え、今そうなってるんです? はえー……ナツカさん達が子どもだった頃とはえらい違いですよ」

 

「つってもほんの三、四年かそこらしか変わらんけどな」

 

 

 『いやー三、四年って凄い違いだと思いますけど』などと言うナツカを横に連れながら、俺は話を続ける。

 

 

「低年齢層が多いと、色々やりづらいだろ。うるさいし練習に集中できん。だから、多少難易度が高くて、ついでに戦利品の実入りも少ない不人気迷宮……行くならそんなとこだな」

 

「ふむ……何か目当ての迷宮が?」

 

「いや、ないが」

 

「ないんですか!?」

 

 

 そりゃ、あるわけないだろ。

 俺は対人専門のランクマ勢だぞ。ランクマ勢御用達の迷獣(モンスター)も滅多に湧かない迷宮なら知っているが、ああいうところには大抵誰かしらのランクマ勢がいるし、撮影練習には向かん。

 

 

「じゃあ、どうやっていい場所を見つけるんです?」

 

 

 途方に暮れた感じで問いかけて来るナツカ。

 まぁ、もうアイデアはないだろうな。だが……心配には及ばない。俺には、既に名案が一つあるのだ。

 つまり。

 

 

「案ずるなかれ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。対人戦の鉄則だな」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「いいか。こういうのは、人の流れを見るんだよ。乗る人が少ない路線、降りる人が少ない駅、そういうのはパッと見で分かるだろ? そこを狙って降りるんだ。そこは十中八九不人気迷宮になる」

 

「はー、なるほど。勉強になります」

 

「まぁ精進したまえよ」

 

 

 そんなことを言いながら駅に降り立った俺達の目の前には、真っ黒な材質の『壁』が聳え立っていた。迷宮の入口には、決まってこうした『壁』がある。その『壁』にできた光の亀裂が、迷宮の入口なのだ。

 この『壁』には、触れるとその奥に存在する迷宮へと転移する性質がある。ちなみに、迷宮の中で大ダメージを受ける──俗に『乙る』という──と戻って来るのもこの『壁』だ。この法則は異界迷宮(ダンジョン)の基本法則の中でも、第六項に挙げられている。

 

 この迷宮の周辺には、やはり駅こそあるものの人影の類はまったくいない。調べてみたところ出て来るモンスターはそんなに貴重でもなく、迷宮で採掘できる資源もありふれたものしかないのだという。

 全く採れないという訳でもないのがなんか悲しいよな。結局、一番パッとしないのは『ゼロ』なものではなく『ない訳ではないが下位互換』なものなのである。

 

 

「さて、今回の目的は撮影練習だが……ただ目的もなく撮影練習だけしてたんじゃ、上達が遅い」

 

 

 『壁』に近づいて亀裂の様子を確認しながら、俺はナツカに言う。

 俺もダイバー始めてから最初の方は蹴り技の練習動画とか上げてたけど、ああいうのって本当に伸びが悪いんだよな。結局配信スキル的には何の上達にも繋がらないし。

 配信スキルを鍛えたいなら、結局配信をするのが一番の早道なのである。ということで、俺は分かりやすい目標を用意してみた。

 

 というのも────。

 

 

「今日、ナツカには…………『デビュー配信』をやってもらう!」

 

 

 駆け出しダイバーのお約束、『デビュー配信』だっ!!

 

 ……え? ナツカは既にデビューしてて配信アーカイブもある?

 

 

 あんな画面ブレブレの放送事故、ノーカンに決まってんだろ。

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