最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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31:お約束も忘れずに/白亜の大海を歩いて

 その後、ヴィヴィアネさんと別れた俺達は早速最初となる迷宮へとやって来ていた。

 当然だが、現在地は『WF城塞』ではない。そもそもさっきの今でヴィヴィアネさんはやって来ていないし、俺としても、最初から高難易度の迷宮に挑むのは(主にナツカの練度の問題で)無謀だと考えているからだ。

 

 俺達がやって来たのは、無限に広がる蒼穹の世界。

 雲の大地の上に構成された迷宮──平常異界深度(フロアレベル):3、『高天原エアライン空域』である。

 

 この迷宮は基本的に雲で構成されており、そこから落下すると雲から放たれる落雷によって問答無用で乙ってしまうというけっこうシビアな迷宮だ。

 しかもこの異界迷宮(ダンジョン)、雲の形状もけっこう細かったりして足場として不安定だからな……。

 

 

「ナツカ、準備いいか?」

 

「あーあーあー、オッケーですよ。いつでも始められます」

 

「よし、じゃあ配信開始するぞ」

 

 

 いつもの調子で、俺はカメラドローンの撮影を開始する。同時に、設定で紐づけられたアカウントで配信も開始された。

 とはいえ、最初から映像と音声が入るわけではない。いかに告知しているとはいえ、リスナーが集まり切るまでは少しラグがあるからな。端末ドローンを起動して、旋風(つむじ)に配信開始の報告。それからコメント欄の流れを確認する。

 端末ドローンから空間に投影されたウインドウには、早くも配信にやって来たリスターのコメントが流れていた。

 

 

『待機』

 

『たいき』

 

『待機』

 

『迷宮週間やるんだっけ?』

 

『楽しみ 色んな意味で楽しみ』

 

『待機』

 

『最初どこ行くんだろ』

 

『taiki』

 

『たいき』

 

 

 ……うむ、人が集まって来たみたいだな。そして、此処に至るまで罰ゲームの件を匂わせるようなコメントはなし、と……。……ちょっと怪しいコメントはあるが、まぁ許容範囲だろう。このくらいなら、誤魔化せなければそれは俺の方が悪い。

 

 

「じゃあ映像入るぞ。三、二、……」

 

 

 一分ほどコメント欄の流れを確認して、そこそこ人が集まっていそうなのを確認した俺は、蓋絵(待機画面のこと)を開けて、映像と音声を繋げる。

 それを受けて、ナツカはカメラの方に向けて元気よく挨拶する。

 

 

「皆さんこんにちは! スカイダイビングのプロ、ナツカさんです」

 

「此処雲の上だぞ。飛び降りたら乙るだろ」

 

 

 開幕でアホなことを言い出したナツカに、俺は軽くツッコミを入れる。コメント欄では、早速このロケーションで最悪のボケをかましたナツカに対して『草』というコメントがつけられていた。

 

 

「黒子のクロだ。今日は『高天原エアライン空域』にやって来てる」

 

 

 言いながら、俺はカメラを動かして周辺──無限の蒼穹と白亜の雲海を映し出す。

 同時に、迷宮名だけ言われてもピンと来ない一般リスナー向けに簡単な説明も。

 

 

「『高天原エアライン空域』は、広大な大空の上に浮かぶ雲の大地の異界迷宮(ダンジョン)だ。平常異界深度(フロアレベル)は3。えーと、航空会社の高天原エアライン所属の企業探索者が踏破したからこの名前になったんだったか?」

 

「へー詳しいですね」

 

「ネットで見た。空系の異界迷宮(ダンジョン)なんて、航空会社なら絶対にネーミングライツ取りたいところだよなぁ」

 

「ナツカさんもそのうち異界迷宮(ダンジョン)を踏破してねーみんぐらいつをもぎ取りたいですよ。ナツクロ海域みたいな感じで」

 

「未平定迷宮はお前にはまだ早い。まずは精進せよ」

 

『全否定はしないクロちゃん優しい』

 

『クロプロてぇてぇ』

 

「なんでナツカさんはプロ表記なんですよ?」

 

「リスナーは黙りな」

 

 

 言いながら、俺は周辺を見渡して、

 

 

「雲の下は、『日双工業の丘』と同じく無限に続く空。……だが、無限に落下し続ける心配は要らない。落ちたら雷の『ギミック』で乙るという結構怖い場所だからな」

 

『落ちそう』

 

『落ちそう』

 

『落ちるな(確信)』

 

『もう落ちた』

 

「落ちないですよ!?」

 

 

 コメント欄は、もはやナツカの落下に対する期待一色だ。リスナーに愛されてるな、ナツカ。

 こほんと咳払いすると、ナツカは自信ありげに胸を張る(いつものことだ)。

 

 

「ご心配には及びません。見てくださいこの雲。しっかりとした足場だとは思いませんか?」

 

 

 なんか御高説を垂れ始めたので、俺は周辺の警戒を始める。

 もちろん、この『高天原エアライン空域』にも迷獣(モンスター)は存在するからな。たとえば……、

 

 

「こんなに飛び跳ねても底が抜けないふしぎ雲なのです。足を踏み外すなんてことはそうそうありませんよ。ましてナツカさんはプロの雲登り師ですので。これはもう、DTAの始まりと言っても過言ではありませんよ」

 

 

 …………む。

 御高説を垂れているナツカの背後。空の遠くから、一羽の鳥が音もなく急接近してくるのが目視で確認できた。

 当然、良い気になって人差し指を立てながらカメラに講釈しているナツカは気付けない。

 

 

「──そもそもクロは心配性なんですよ。昨日の初配信の時も──」

 

『なんか近づいてない?』

 

『ん?』

 

 

 続いて、コメント欄の方も気付いたらしい。

 しかし、気持ちよく講釈するのに夢中になっているナツカはそれには気付かず、次の瞬間──

 

 

「──なのでナツカさんはカッコよく決めるんですよ。プロとして──」

 

「ギャアアアアアアアッッ」

 

「ひえぇ!?」

 

 

 全長五メートルになるかという怪鳥『サンダーバード』が、ナツカの身体をがっしりと掴んで持ち去ってしまった。

 サンダーバードは稀に現れる迷獣(モンスター)で、その巨体に似合わない静音性と高速飛行が能力だ。とはいえそんなに手強いタイプではなく、攻撃対象はあくまで『自分に気付いていない相手』だし、捕まえる直前に鳴き声を上げる性質があるので、仮に不意打ちを食らったとしても対応の余地は十分にある。

 まぁ、油断しているバカは突然後ろから大声で驚かされた挙句に運ばれてしまうという最悪な目に遭うのだが……。

 なお、この迷獣(モンスター)はダウトロデンと同じく、探索者を迷宮から『落とす』のを目的として行動する。理由は不明だ。もしかしたら、ダウトロデンやサンダーバードに関わらず、迷獣(モンスター)って探索者を乙らせるために行動しているのかもな。

 その辺の詳しい原理原則は、『調査』系の探索者が調べているんだろうが。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 

 で、ナツカは当然そこで機転を利かせて脱出などできるようなタマではなく。

 大空高くまで運ばれた後、そのまま無造作に放り投げられて雲の下に落下し。

 

 

『伝 統 芸 能』

 

『草』

 

『やっぱこれだね』

 

『伏線回収DTA』

 

『これを見に来た』

 

『草』

 

『くさ』

 

『1』

 

 

「────ぎゃばびっ!?」

 

 

 見事に身体をばたつかせながら雷を浴び、そのまま乙って消えた。

 その勇姿を目の当たりにして、俺は感心しながら呟く。

 

 

「…………流石はスカイダイビングのプロ。見事な落ちっぷりだったな」

 

『ひでぇw』

 

『草』

 

『今日もうこれで配信終わる?』

 

『これで配信開始五分も経ってないってマジ?』

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 その後は、ナツカが戻って来るまで数分、俺が適当な雑談をすることで場を繋いだ。

 少ししてから、改めて『高天原エアライン空域』に戻って来たナツカを迎えて、俺達は本格的な探索を開始する。

 

 

「──だから、分かってたならクロも助けてくれたら良いですよ」

 

「必要ないんじゃないのか? プロだろ」

 

「プロにも失敗ありですよ! 弘法も木から川流れ!」

 

「全部載せやめな」

 

 

 意味が繋がってないだろ、意味が。なんで弘法大師が木から川に飛び込んでるんだよ。

 

 

「つっても、周囲を警戒してればサンダーバードは襲って来ないんだ。油断せずにちゃんと警戒するんだな」

 

「むー。仕方ないですよ」

 

 

 まぁ、同じミスを何度も見せられても探索がダレるから、次からは阻止するが。

 ぶつくさ言うナツカを伴って移動を続けているが──周囲の景色は代わり映えがしない。

 俺はキョロキョロと見渡しながら、

 

 

「しっかし……周りが雲しかないっていうのも考え物だな。お陰で方向感覚が狂いそうだ」

 

 

 白亜の雲海と言えば聞こえはいいが──イメージとしては、この地形は『雲で出来た砂漠』である。

 下からは日差しの照り返しがあるし、周辺は変わり映えしないし、雲の地面はちょっとふかふかしていて足が沈むので余計な体力を使う。

 探索者の体力があるので気にせず進めているが、おそらく生身の身体なら一時間やそこらでグロッキー状態に陥ることだろう。それかその前に熱中症だ。

 

 

「こういう迷宮は、分かりやすい『奥』があるのがセオリーなんだが……」

 

 

 『高天原エアライン空域』については、基本情報は調べているが、『奥』についてとかの攻略情報は殆ど確認していない。調べたのは精々、全体的な地形と雷のギミックとサンダーバード程度だ。あの一連の流れが一番最初に出て来る初見殺しと書いてあったので。

 まぁ、こういう踏破企画で俺が色々調べ過ぎても、それはそれでヌルくなりすぎるからな。

 あと、ナツカに()()()()需要がある以上、いつまでも俺がスマートにやりすぎるのもどうかと思ってたりするのもある。キララの時は俺が強すぎるばかりにプロレスが成立しなくなってしまったが、迷宮ならば、たまには(クロ)が痛い目を見てリスナーに笑いを届ける展開も需要があるのではなかろうか。

 

 

「んー、確かに妙ですよ。そこらにギミックっぽい雲はありますけど……」

 

「は?」

 

 

 しれっと言ったナツカに、俺は思わず声を上げてしまった。

 あるとは思っていたけど、やっぱ雷以外にもあるのか、ギミック……! おそらく、雲の足場を踏んだら落ちるみたいな感じか……?

 

 

「それ、どこにあるんだ?」

 

「あっちとかあっちですよ」

 

 

 そう言って、ナツカは指をさす。指し示された先には──雲の丘みたいなものが。

 ナツカが示したのは、雲の丘の麓にあたる部分だ。当然ながら、普通に進んでいたらまず触れもしない場所である。……こんな誰も引っかからないようなところに『ギミック』?

 いや、『ギミック』と言っても迷宮に存在する自然現象なので、別に探索者を引っかけることが目的で存在している訳じゃない。なので、こういう地味な場所に『ギミック』があっても何ら不思議ではないのだが……。

 

 

『あっ』

 

『ギミック知ってるなら納得できるんだけど、なんで場所が分かんの?』

 

探索技能(スキル)でもなさそうだし謎すぎ』

 

『それってぇ・・・』

 

『さすプロ』

 

『あっ』

 

『さすプロ』

 

 

 …………なるほど、あの『ギミック』に何か攻略の糸口があんのね。

 

 

「ナツカ。そこの『ギミック』なんか怪しいぞ。コメント欄が反応してる」

 

『うわバレた』

 

『匂わせコメントやめろよ』

 

『気をつけろクロちゃんは容赦なく匂わせコメントから正解引き当てるぞ』

 

『偽情報混ぜろバランス取れバランス』

 

『そのギミック触ると雲の下まで突き抜けて乙るよ』

 

『↑もう遅いだろ』

 

 

 コメント欄が慌てて体裁を整えようとしているが、もう遅い。

 罰ゲームについての匂わせコメントは(俺が別枠で短尺動画を公開したから)控えてくれているようだが、そもそも集団というのは無軌道なものなのだ。誰かが匂わせコメントをしてしまうのは避けられないし、情報がなくとも適宜そうしたコメントを確認すればヒントくらいは掴み取れるのである。

 もっとも、長く続けていけばリスナーも学習してあんま参考にできなくなりそうではあるが。

 ……まぁ、匂わせコメントって探索配信とか見てても荒れる要因になるみたいだから、こういう感じでエンタメに繋げられれば面白いよね。

 

 

「移動系の『ギミック』か、変形系の『ギミック』か……。何か状況が動かせるかもしれない。触ってみて」

 

「えー、ナツカさんが触るんですか? クロが触ればいいですよ」

 

「俺は撮影係だからお前が『ギミック』に触ってどうなるか確認しなきゃなの」

 

 

 ぶつくさ言うナツカだったが、好奇心もあったらしい。渋々ではあるものの、大して躊躇わずに『ギミック』に手を伸ばした。

 次の瞬間。

 バシュ!! と音を立てて、『ギミック』に触れたナツカが雲の中に()()()()()()

 ……やはり移動系の『ギミック』か。見た感じ、雲の中にもう一階層ある感じだったな。……ナツカに言われてコメント欄で確信を得るまで、気付けなかった。やっぱりこういう異界迷宮(ダンジョン)の探索勘みたいな部分では、俺はまだまだだな。逆に言えば、もっと成長の余地があるということでワクワクもするが。

 

 

「中に入れるみたいだな。それじゃあ、俺もナツカを追うか」

 

 

 ナツカがいなくなってしまったのでアングルを俺に向けつつ、『ギミック』に触れる。

 

 そして直後、

 

 暗転。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ──気付くとそこは、大空の真っ只中だった。

 

 それまで雲の大地に立っていたはずの俺は、いつの間にか大空を身一つで落下していた。

 一瞬パニックになりかけた俺だったが、コメント欄からこのルートが正規であることは確認済みと思い直して冷静さを取り戻す。

 雷は来ない……とすると、さっきの雲の大地の物理的な『下』ではないな。風景(テクスチャ)は似ているが、さっきとは異なる相の階層に転移させられたのだろう。おそらく、さっきまでの雲の大地とここの空間的連続性はないとみていい。

 

 

「これは……落下してると思ったが、下から強風が吹いてるだけで実際には落ちていない……?」

 

『もう気付いた』

 

『気付くのはやない?』

 

『適応力◎』

 

 

 どうやら正解らしい。

 コメント欄を横目に見て答え合わせを済ませた俺は、次に周囲へと視線を走らせる。

 ──この空の世界は、先ほどまでの雲の大地とは違い、複数の小さな雲の浮島と空によって構成されているらしい。そして、大空の下方からは強烈な風が吹き付けてきて、俺の身体を宙に浮かせてくれているようだ。身体を縮こまらせると、空気の抵抗が減るからか高度を下げることができた。

 ……こうやって風による浮遊を駆使して、雲の浮島を移動する訳ね。理解した。

 

 

「おお~! これは画期的ですよ!」

 

 

 と、声がしたので上へ視線を向けてみると、そこにいたのは逆さまの姿勢で飛行しているナツカだった。

 ……多少不格好だが、あれで何故かちゃんと飛行はできているらしい。

 飛び方の方は問題なくマスターできているみたいだ。よかった。パニックになってたらどうしようかと思った。

 

 

「おい! ナツカ! こっちだ! あそこの浮雲で合流しよう!」

 

「クロ! 飛び方分かりますか? 自由形空中遊泳のプロであるナツカさんが教えてあげますよ」

 

「息をするように新たな競技を生み出すな」

 

 

 適当にあしらいつつ、俺は空気抵抗を抑えて真下の浮雲に着地する。程なくして、ナツカの方も(頭から)無事に着地した。

 ナツカの手を掴んで助け起こしつつ、俺は改めて落ち着いて周辺を確認する。

 

 点々とした浮雲は、跳躍の勢いと飛行を併用すれば割合簡単に行き来できるだろう。だが、自由に空中で旋回できる方法がなければ跳躍の延長線上でしかない。

 警戒していた迷獣(モンスター)だが、視界の範囲内には空を飛ぶ類の迷獣(モンスター)は確認できない。だが、幾つかの浮雲の上には何かがいるようだ。流石に遠すぎて何かまでは分からないが、大きさからしてそこまで凶悪ではないだろう。

 

 

「さて……いよいよ迷宮第二階層ですね」

 

 

 起き上がったナツカは、改めて胸を張って遠くを眺めながら言う。

 不敵さすら感じさせる佇まいを見せつつ、ナツカは握った手の中にあるものをこっちに見せて来た。ん? なんだ、雲かこれ? ……雲って掴めんの? いや、上に立てるのに今更何言ってんだって感じだが。

 カメラに掌をアップにさせていると、ナツカは自信満々な調子のままこう続けた。

 

 

「早速ですけど、ナツカさんはこの迷宮の攻略法を見つけてしまいました。──我に策あり、ですよ!」

 

 

 …………大丈夫かなぁ。めちゃくちゃ心配なんだけど。

 

 

『プロがなんか言ってる』

 

『本日の金言』

 

『一級フラグ建築士すぎるだろ』

 

 

 ほら、コメント欄も心配してるぞ。




 サンダーバードというネーミングは、実在の神話上の生物と『落として雷乙を狙う鳥』をかけたダブルミーニングでつけられたそうです。
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