最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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33:目指す先はすぐそこに ①/空の底に潜む者

 身体を縦にして空気抵抗を減らすと、先ほどまでの浮遊感が嘘の様に俺達の身体は下降を開始した。

 ……いくら空気抵抗を低減しているとはいえ、下降と上昇の振れ幅が広すぎるんだよなぁ。多分、『ギミック』の風だけあって通常の物理法則とはまた違った異界の法則で動いているのだろう。

 

 

「そういえば、こんなに凄い風なのにどうして普通に喋って意思疎通できるんですよ?」

 

 

 エレベーターくらいの、自由落下よりやや遅いくらいの速度で下降しながら、ナツカは疑問を口にする。

 異界迷宮(ダンジョン)に潜ってると、たまにそういうこと気になるよね。日双工業の丘で地面が浮いているのはなんで? とか、カーマシア砂漠のピラミッドの中は密室なのに中の照明は火だけど酸欠とか大丈夫なの? とか。だいたいそういうのの答えは『そういう風に見えるだけの現象なので気にするな』で終わってしまうのだが。

 

 

「さぁな。そういうのを調べるのは『調査』の探索者だし……俺達が無理にアレコレ理屈をつけるのもナンセンスだろ。リスナーの中に『調査』の人いるか?」

 

 

 下降中ちょっと暇だったので、俺はコメント欄のリスナーに向けて呼びかけてみる。

 こういう風にほどほどのところでリスナーに話を振るのも、ダイバーにとっては必要な技術である。完全にダイバーの中で会話のやりとりが完結していたら、リスナーからしたら無編集の動画を見ているのと変わらないからな。

 話を振ってみると、案の定コメント欄は喧々諤々だった。

 

 

『「調査」系だが、音波には干渉しない特殊な気流なんじゃないか』

 

『俺「D1」系だからそのへん全然分からんわ』

 

『クロちゃんもうちょっとアングル下に向けてくれない?』

 

『↑こいつパンツ見ようとしてるぞ』

 

『ウチは「清掃」系なので以下略』

 

『「調査」系だけど、さっきから見てると風の影響が揚力しかないし、物質に触れた時点で落下の運動エネルギー相殺に全て変換される性質なのかも?』

 

『俺「歴戦迷宮(ランクマッチ)」』

 

『プロのパンツ、本当に見たいか……?』

 

『探索スタイル発表会はこちらですか?』

 

『探索者多いなこのコメ爛』

 

 

 うむ、良い感じに混沌としている。俺はやっぱりこのくらいごちゃごちゃしたコメント欄が好きだな。

 

 

「ちなみにナツカさんはこの下ホットパンツだからスカートは履いてないですよ」

 

「そういうことは言わなくていいんだよバカ」

 

 

 言って、俺は空中でナツカの頭をしばく。

 下ネタ系は拾うとリスナーが調子に乗るからやめとけ。

 

 

「……ん。音波には干渉しない特殊な気流、落下の運動エネルギー相殺に変換される性質ね。なるほど、どれも一理ありそうだな」

 

 

 多分、後者の方が正解に近い気がする。髪が風に靡く様子がほぼないしな。

 

 

「クロそういうの好きですよね。小難しいこと考えるやつ」

 

「だって気になるだろ。機序が分かればなんかで利用できるかもしれないしさ」

 

「発想が陰キャですよ」

 

「陰キャって言うな!! ネット上だと範囲攻撃だからなそれ!」

 

『うぐっ』

 

『死んだ』

 

 

 ほら! コメント欄もダメージ受けてるし! リスナーは繊細なんだぞ!

 

 

「あ、地面が見えて来たと思いますよ」

 

 

 と、そこでナツカが下を見ながら指をさす。

 確かに、遥かに続くと思われた空は、いつの間にか黒曜石のような黒い煌めきの大地に変わっていた。

 あそこが地面…………いや、『空の底』か。

 

 

「着地の衝撃で乙ったら笑えないし、空気抵抗広げて減速しとくぞ」

 

「了解ですよ」

 

 

 俺達は身体をやや広げて減速しつつ、着地を試みる。

 ──が、そんな心配しなくとも、俺達の身体は空の底から二メートルくらいのところで完全静止した。どうも、風の層が地面付近にあるらしく、エアホッケーの弾のように地面からある程度浮いたところで止まってしまうらしい。

 

 

「お……これ以上は降りられないっぽいな。移動は……ああ、重心移動でいけるっぽい」

 

 

 身体をちょっと傾けると、わりと簡単に動き回ることができた。これ、体重をかける方向を微妙に変えるだけで方向転換も容易にできるから、下手したら普通に動くよりも素早く動けるかもしれん。

 

 

『着地と同時に移動法マスターしてんの何?』

 

『俺この迷宮そこそこ潜ってるけどそんなスムーズに動けない……』

 

『はいはいバケモノバケモノ』

 

 

 あ、コメント欄が何か不本意な感じになっている……。ランクマ勢として、このくらいの異常事態には瞬時に適応できなきゃ分からん殺し(初見の能力で相手に状況を理解させないまま倒すこと)の餌食になるから、対応力は必須なんだよ。

 

 

「ちょっ、クロ、あの、たすけっ」

 

 

 と、声がしたのでナツカの方に視線を向けてみると、ナツカの方はエアホッケーになっていた。

 どういう意味かというと、横転した状態でくるくる回転している。

 

 

「えぇ…………」

 

 

『草』

 

『期待を裏切らないその姿、プロ』

 

『逆にどう態勢を崩したらそんなくるくる回るんだよ』

 

 

 呆れる俺をよそに、コメント欄は草に包まれていく。しかし……助けるっつったってどうしろと。下手に引っ張り起こそうとしたら俺の方まで体勢を崩しそうで怖いのだが……。

 とりあえず、俺は足でナツカの回転を止めて、それから爪先を軽く蹴る。すると、ナツカの身体はすいーっと滑る様に蹴った方向へ移動していく。

 

 

「あぁ~~~~…………」

 

『蹴wwwwるwwwwなwwww』

 

『草』

 

『何で今蹴ったの!?』

 

『シュールすぎる』

 

「いや、助け起こすの面倒だなって……」

 

 

 蹴ればそのまま移動できるしね。

 滑りながらナツカがじたばたしているのを、同じく滑って並走しながら、

 

 

「っていうかさ、自分の下で爆弾起爆すればいいじゃん」

 

「雲の欠片取ってくるの忘れましたよ! もう爆弾は品切れです!」

 

「『合成』系が残弾用意しないでどうすんだよ」

 

 

 いや、何も拾ってねぇなぁとは思ってたけども……。

 ……はぁ、仕方がない。俺は藁の松明を二本発現し、並走しているナツカの身体を踏んづけてから体重を傾けてブレーキをかけてやる。『うえっ』と軽い呻き声をあげて、ナツカの身体が停止した。

 

 

「ほれ、この松明使え。腹の下に敷いてから起爆するんだ」

 

「了解ですよ……」

 

 

 揚力の影響を受けないように慎重に手渡したが、どうやら無生物については『その場で浮遊するように』しか揚力は働かないらしく、簡単に手渡すことができた。

 思い返せばナツカの掌にあった雲の欠片もあんな軽い物質が上に吹っ飛ばされなかったしな。揚力の利き方についても通常の物理法則をベースに考えてると裏をかかれるのかもしれない。

 

 

「『匠の愉快な名人芸(フルリフォーム)』、発動!」

 

 

 どむん!! と、ナツカの号令と共に藁の松明が起爆し、ナツカの身体が浮かび上がる。松明は一瞬だけ風の層よりも下に沈下したが、すぐに浮かび上がって俺の胸元くらいの高さまで上昇した。

 俺は『爆破』によって『爆弾』化が解除された松明を回収しながら(『匠の愉快な名人芸(フルリフォーム)』で作った『爆弾』は起爆しても爆発の影響は受けず、そのまま合成が解除されるだけである)、起き上がったナツカの背中に手を添えて支えてやる。

 

 

「わたたたた、っと?」

 

「大丈夫かよ……。おら、ちょっと肩貸せ」

 

 

 この分だと、まともに動けるようになるのに何時間もかかりそうだったので、俺はナツカの脇の下に首を突っ込んで、肩で担ぐようにして持ち上げる。

 

 

「ちょ、いきなり何するんですよ?」

 

「こうした方が動きやすいだろ。俺が移動担当するから、お前が移動方向指示しろ」

 

「む……司令塔というわけですか。それならいいですよ」

 

 

 ……ちょろいな。

 

 

『さりげなく気遣うクロちゃん優しい』

 

『こういうのがいいんだよ』

 

 

 ……うるさいコメント欄である。

 

 

「ロケーション的に、多分もうこの迷宮の『奥』は近いだろ。あとは迷宮主(フロアボス)を探すだけだ。お前の観察眼に期待してるからな」

 

「大船に乗った気で任せるといいですよ。ナツカさんが今乗っているのはクロですけど」

 

 

 俺の身体によじ登っておんぶの態勢になったナツカは、そう言って前方を見渡す。といっても、周囲には障害物らしい障害物はない。地平線まで見渡せるような形なので、俺とナツカで発見できるものが違うとも思えないが。

 ……両膝で腰を挟まれた上に、軽く両腕を首に回されているのでやや呼吸が苦しい。まぁ、運動に支障はなさそうだな。

 

 

「大丈夫そうか? 変に身体揺らすなよ。流石に転びそうだ」

 

「バッチリですよ! さあ、真っ直ぐ進んでください!」

 

「了解」

 

 

 短く答えて、俺は真っ直ぐ前へと移動する。さてどう探そうか……と思った俺だったが、どうやら当てもなく空の底を探し回る必要はなかったらしい。

 移動してみるとすぐ、俺はこの空の底に緩やかな傾斜があることに気付いた。普通に進んでいるだけでも、その傾斜の低い方へと自然に誘導されているのだ。おそらく……この先に迷宮主(フロアボス)がいる。

 

 

「………………」

 

「ナツカ、どうした?」

 

 

 いつもはやかましいナツカが無言なので、俺はちょっと確認してみる。

 カメラを見る限り、どうも地面の方を眺めていたらしい。……何かギミックでもあったか?

 

 

「いや、なんでもないですよ。それより、なんかこの地面傾いてません?」

 

「やっぱ分かるか。どうも傾斜がついてるっぽい。この先に迷宮主(フロアボス)がいるんじゃないか?」

 

「うーんそれっぽいですね……って、噂をすればですよ!」

 

 

 ナツカが声を上げたので、俺は前方に向かって目を凝らしてみる。すると、遠くの方に巨大な迷獣(モンスター)()()()いるのが見えた。

 

 

「あれは…………」

 

 

 そいつは、巨大な樹木のような迷獣(モンスター)だった。

 極端に太い幹に、触手のように伸びた根。枝と葉は一体化して、まるで傘のようになっている。ゴツゴツした茶色い身体を見ても、間違いなく樹木なのだが……不思議と、全体的なシルエットはクラゲのような印象だった。

 ──それは、空中をふわふわと漂っているというこのロケーションゆえの印象かもしれない。

 

 

「コメント欄、あれなんですよ? 名前だけ教えてほしいですよ」

 

『キクラゲだよ』

 

米国(こっち)だとArbor Jelly(アーバージェリー)って呼んでる。「小屋みたいなクラゲ」って意味だ』

 

「…………あーばーじぇりーですね!」

 

 

 日本語名、センスが……。そりゃ海外では違う風に呼ばれるよ。

 ふよふよと漂っていたキクラゲもといアーバージェリーは、接近してくる俺達に気付いたらしい。触手をせわしなく動かし始めた。

 さて、どう動いてくるかだが──

 

 

 ドッ!!!! と。

 

 

 まずは様子見をしようとした俺の思考を追い抜くように。

 

 アーバージェリーが()()()()()




 当然おんぶの際には胸が当たっているはずなのですが、この瀬波とかいう男全く意識していない……。……だから異性として意識されないんじゃないの?
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