最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
「おぉ! クロ、大丈夫でしたか?」
果たして、城門まで戻ると、ナツカはのほほんとしながら俺のことを出迎えて来た。
俺は手を挙げて応えて、
「ああ。連中、俺が撤退したら一切攻撃してこなかったよ。やっぱ撃退しようとしてるだけなんだな、アレ」
俺は遠く廊下の向こうでこちらを警戒しているであろう騎士甲冑の方を一瞥し、
「ナツカの方こそ大丈夫だったのか? 『ギミック』に巻き込まれたっぽいけど」
「不覚ですよ。爆発の煙の奥の床がちょっとまずそうなのは分かったんですけど、気付くのが遅かったですよ。車とナツカさんは急に止まれないので」
「確かに探索者の中には車くらい速く走れるヤツもいるが……」
まぁ、爆発のせいで気付くのが遅れれば、たとえ『ギミック』の場所が分かったとしてもすぐには回避できないだろう。というか、ナツカは目こそいいが、身のこなしに関しては下……ひいき目に見ても中の下だしな。
何にせよ、モンスターハウスに転送されてボコられて戻って来たとかそういうのじゃなくてよかった。
俺はナツカの背中を軽く叩いて慰めつつ、
「大丈夫か?」
と、我ながら意味不明な問いかけをしていた。
いや、大丈夫かって、今まさに聞いたばっかりだし、別にナツカはどこも無理していそうな感じはないし、何ならこの探索をする前は俺の方がなんか心配されてるくらいだったのだが…………。
…………いや、違うか。
意味不明な問いかけじゃない。十分意味は通る。だって、
ナツカの方は、完全にきょとんとした様子で首を傾げ、
「? だから大丈夫ですよ? もしかして『はい』を選ばないとイベント進まない感じですか?」
「そうじゃねぇ。……新物質の契約とかの話だよ」
実際に口に出してみて、ようやく分かった。
俺は…………ナツカのことが心配だったんだ。
確かに、俺はヴィヴィアネさんが提示した契約の流れについて、全く乗り気じゃなかった。このまま進めていいんだろうかと、この流れを止めたいとすら思っていた。
でもそれは別に、
『大丈夫か?』っていうのは、『俺達が向かっているのは、ちゃんとお前にとって
……つまり、俺が気にしていたのは最初から、この頼りない横顔だったのだ。
俺は、心春さんとナツカ、二つの未来の中からナツカを選んだ。
でもそれは、
そもそも俺は既にキララとしてまぁまぁな収益を持っているし、ナツクロちゃんねるだって早いとこ収益化してやりたいという野望すら持っている。将来は専業ダイバーとして食っていくという未来だって、正直全然アリだ。そしてもしそうなったら、仕事としてダイバーを頑張る覚悟もある。
そういう意味で、俺は最初から、自分達の活動に商業的な気配が紛れ込むことに忌避感を全く感じていない。
だから今回の新物質の件だって、正直言えば面白そうとは思っていたのだ。ヴィヴィアネさんを窓口にしているとはいえ、色んな分野のプロと実務レベルで繋がれるわけだし。それは今後の俺達のキャリアにとってかなりのプラスになるだろう。
では、何故俺が素直にこの状況を歓迎できないかというと。
『このまましっかりした商売になったら、絶対に揉め事が出て来ると思う。そうしたら、私達の関係性が壊れて仲違いが起きるかもしれない』。
──脳裏に、軒丸瓦さんが語った『アトラース』ギルド長の言葉が過る。
結局は、今つらつらと並べ立てた言葉は、俺の感想でしかない。
ナツクロちゃんねるは俺とナツカ、二人のものであり、どちらが欠けても成立しない。どちらかが本気で嫌なことをやるわけにはいかないのだ。
では、ナツカはこの状況をどう思っているのか? 急速にマネタイズが進んでいくこの状況を、自分が関与できない『難しいこと』が一気に増えていき、俺ばかりが大人とやりとりをして先に進んで行ってしまうこの状況を、ナツカは本当に受け入れているのか?
本当は、この流れのまま進んで行ってしまうのが嫌だとしたら?
そうやって変質してしまった俺達の活動を、ナツカが楽しめなくなったら?
急速に『仕事』になっていった俺達の関係が、壊れて仲違いしてしまったら?
強ち、考えすぎとも言えないと思うんだよ。
だってコイツ、実は意外と大事なことは抱え込む性格っぽいしさぁ。
しかもそういう時に限って、らしくもなく遠慮もするみたいだしさぁ。
…………怖いんだよ。
俺って陰キャだし、コミュ障だから。ナツカのメッセージを見落として先に進んでないのかなって。
「ナツカは、どう思う。このままだと、ヴィヴィアネさんを窓口にして色々な話が進んでいくことになるが」
真っ直ぐに見据えて問いかけると、ナツカもまた真面目な表情になって、そのまま沈黙した。
数秒か、数分か。
少し考え込んでいたナツカだったが、真面目な表情とは裏腹に、回答の声色はそこまで深刻ではなさそうだった。
「実は、気になってるところがちょっとありますよ」
ナツカは、腕を組みながら、
「契約をやるとなったら、これから一ヵ月は本当はナツカさん達の独占ですけど、そこをこう……雇った人にもやらせてあげる感じなんですよね」
「委託な。概ねそういう考えで良いと思うが」
実際には、雇ってるかどうかは微妙というか、多分ライセンス料をもらうとか売り上げの数%をもらうとかみたいな話になっていくんだと思うが……まぁそこはいいだろう。
俺が頷くと、ナツカは溜息を吐いて、
「ナツカさん、どうもその流れがこう……ややこしくて気になってますよ。なんか無用に難しいというか、お祭り感が足りないというか、やな感じですよ。もうちょっとなんとかなりません?」
と、そんなことを言い出した。
それは、俺が想定していた最悪よりもずっと明るく軽い感じの申し出だったが……でもやっぱり、ナツカには思うところがあったらしい。
実は、そうなんじゃないかと思ってはいたんだよな。だって俺ばっかりヴィヴィアネさんと会話してたし、ヴィヴィアネさんもナツカには難しい話が分からないと判断したのか、途中から俺にばっかり説明してたし。
とはいえ…………。
「なんとかと言われてもな……」
ちゃんと契約を結ぶなら、そうしないと実務が回らないしな……。
「それとも、一切委託しないで自分達だけでやるか? 殆ど一ヵ月何も進まずに終わると思うし、普通に忙しくて死ねると思うが」
「流石のナツカさんもそれは無理ですよ……」
なんで人並み以上にできるみたいな感じで言ってんだよ。できねぇだろ書類仕事。旋風のアカウントすらも一人で開設できない分際で舐めた口を叩きおって。
……ただ、ナツカの感覚は正直分からないでもない。自分達が見つけたものがそういう『物々しいシステム』の中に取り込まれているのが、なんとなく据わりが悪いのだ。
ナツカのイメージでは新発見はとてもド派手なお祭り騒ぎの始まりだろうに、実際に発生するのは単調な手続きと手堅い利益のみ。これはナツカの好みの展開ではないなと、最初の方から何となく分かってはいたんだ。俺もそこはなんだかなーと思っている。
「だからこう、契約をお任せするでも、自分達で仕事するでも、どっちでもない、二択問題の三択めをクロにはお願いしたくですね……」
「無茶苦茶を言いよる……。ランクマじゃないんだから、実際の社会に分かりやすい抜け穴なんか早々ないんだよ。抜け穴があったら困るとも言うが」
ランクマで論理の抜け穴を突けばトップランカーになれるが、実際の社会でそれをやったら詐欺師まっしぐらだからな。そして俺は、詐欺師にはなりたくない。
そう言って、でもせっかくナツカが腹を割ってくれたし、一緒になって考えてみるか──と思って腰を据えて思考を巡らそうとして、ふと俺は気付いた。
…………待てよ?
よく考えたら、別にこの話って詐欺師にならなくてもどうにかできるんじゃないか? 難しく考えすぎているから解決方法も難しく感じているのであって、この話ってもうちょっと単純にできる気がする。
そう──せっかくの大発見なのに、お祭り感が足りないのが、そもそもの問題なのだから。
「……いや、しかし。これなら…………。……上手くやれそうな気がする」
「おお、流石はクロ。それでこそナツカさんの相棒ですよ」
「相棒じゃないが」
相棒じゃないが…………多分これなら、ヴィヴィアネさん他色んな人には迷惑もかからないはずだし。
思いついたからには、俺達のやり方でやらせてもらおう。
契約で話が進む大人の世界の論理ではない。
そういうのを全部ぶっちぎった、子どもの世界の論理で。
◆ ◆ ◆
「………………ごめんねぇ。ちょっと、もう一回言ってもらえるかしらぁ?」
その後、一〇分ほどして。
『大空洞』での用事を終えて戻って来たヴィヴィアネさんを中庭で出迎えた俺達は、二人で『決めたこと』をヴィヴィアネさんに伝えた。
結果、ヴィヴィアネさんは眉間を揉みながら一旦思考を整理する必要性に襲われたらしいが、ご容赦いただきたいと思う。多分これが一番面白くなると思うので。
俺は頷いて、
「はい。ですから、俺達は
これが、俺達の決断。
全てをヴィヴィアネさんに委託して『システム』にお任せするのではなく、全ての業務を自分達でこなしてみるのでもない……ありきたりな二択問題には存在しない三択めの選択。
つまり、『せっかくのお祭り騒ぎなら、とことんお祭りにしてやろうぜ』という訳である。
「……一応聞いておくわぁ。それが何を意味するか、分かってるぅ? 『ナツクロイト鉱石』は間違いなく
ヴィヴィアネさんは真剣な表情で、真っ直ぐに俺達を見て言う。
「一〇〇万円とか、そういう大金をイメージしてるぅ?
それは、短慮を諫める大人の発言だった。
まぁ、それは俺も分かっている。俺だって同じ立場なら、同じように諫めると思う。一〇〇〇万という大金が得られる機会を投げ捨てますとドヤ顏で言っている新人がいたら、いっぺん引っ叩いてでも考え直させるだろう。
なのでまぁ、理論武装は既に済ませてある。俺は陰キャなので。
「本当にそうですかね」
ヴィヴィアネさんの諫言に対して、俺は疑義を呈する。
「確かに利益って面では、ヴィヴィアネさんの言う通りだと思います。でもその裏には、当然デメリットだってありますよね」
「…………、」
「これだけの画期的新物質です。需要は留まるところを知らないはず。となれば、ヴィヴィアネさんがいくら仲介してくれたとしても、一か月間は品薄状態が続くのは火を見るより明らかだ。多分、大きな混乱が発生する」
買い占めとか転売とか盗難とか、そういう問題がね。
そしてそうなったら、揉め事によるマイナスイメージがせっかくの新物質にかけられてしまうことになるだろう。たとえ大金を手に入れても、俺達の活動は続いていくのだ。そういう混乱を生み出してお金を稼いだダイバーってイメージが付与されてしまうのは、あまり好ましくない。
もちろんつまんない問題は権利を放棄しても起きるだろうが…………そういう無秩序からくる問題っていうのはどうせ一か月後の制限解放のときにも起きるのだから同じことだ。
「あえてこういう言い方をしますけど……俺達は、一〇〇〇万円のことなんて
「…………権利関係を握ることによるデメリットについては、分かったわぁ。確かに、ダイバーは人気商売だものねぇ。流通関連で発生したヘイトがアナタ達に向くのは良くないしぃ……でも」
一応は納得してくれたらしく、ヴィヴィアネさんの雰囲気はだいぶ和らいだ。
しかしそれでも、心配するような声色のままヴィヴィアネさんは続ける。
「だとしたら、権利放棄による混乱のデメリットはきちんと対策できてる? 想像できる流れとしては、権利放棄を受けてマイニング目的の探索者がTAL空域に殺到するわよねぇ? 絶対に場所取りで揉めるし、最悪大規模な戦闘になるわよぉ。そうなったら、結局マイナスイメージは旗振り役の二人になっちゃうわよねぇ?」
道理である。言いづらいことでもきちんと忠告してくれるヴィヴィアネさんは、本当に面倒見のいい人だと思う。
もちろん、俺もその可能性は考えている。そして、それに対する対策も。
「
俺は、自信を持ってそう回答した。
「めっ……迷宮省? それは流石に……個人の為に迷宮省が動くはずは……」
ヴィヴィアネさんも、この回答は想定外だったらしい。驚愕して声を上げるが……実は、俺達にならこの手を取ることが可能なのだ。
「言ってなかったですけど、コイツの姉が迷宮省で働いてるんですよ。妹が一〇〇〇万円クラスの権利を持っちゃったとか、そんな事態に組織がどうとか言って黙ってるような人じゃないんで。だから、そこについては問題ないです」
つまり、
ちょっとずっこいが、そういうのも含めて俺達の武器だ。思う存分使わせてもらおう。
「あ、あねッ……、……その人ってもしかして、心春って名前ぇ…………?」
「おっ、正解ですよ」
あ、分かるんだ。ナツカと心春さんって顔はそんなに似てないけど、雰囲気はどこか似てるからなぁ。
ヴィヴィアネさんと心春さんの付き合いの長さは知らないけど、ある程度の付き合いがあるなら分かるもんなのかもな。
「………………そう。そう、なのねぇ……、なるほど、道理でぇ……」
ヴィヴィアネさんは小さく呟きながら、何度か頷く。多分、これまでのナツカの言動が腑に落ちたのだろう。
──
類似例で言えば、低難易度迷宮で小学生くらいの若年探索者の姿が見られるようになったのもそうした働きかけの成果だったはず。つまり、迷宮省主導で採集ツアーみたいな企画に繋げられれば、場所取り問題は解決できるはずだ。
それに少なくとも、主体が迷宮省になれば、万一問題が発生したとしても、ヘイト管理的にも俺達が矢面に立つことはないと思う。そういう意味でも、ヴィヴィアネさんの懸念への回答にはなるだろう。
「……そういうこと、なら、わたしも協力するわぁ……。実は、わたしも迷宮省の嘱託探索者でねぇ……」
非常に複雑そうな表情をしながら、ヴィヴィアネさんはそんなことを申し出てくれた。
まぁ、ヴィヴィアネさんが複雑な気分になるのも分かる。このやり方、意外と手堅いとは思うけど、それでも常識破りではあるからな。ひとつひとつ回答したことについての反論はなさそうなので、俺の策の妥当性は理解してもらえたと思うが、それで感情的に納得できるかは別問題だ。
そんな中でわざわざ自分の所属を明かしてまで協力を申し出てくれるヴィヴィアネさんには頭が上がらない。今後もお世話になります。
「色々と手を打とうとしてくださったのに、すみません。でもまぁ、こっちの方が俺もコイツも楽しいし、活動の為にもなると思うんで……」
「ナツカさんからもお礼を言いますよ。ありがとうございます!」
そう言うと、ヴィヴィアネさんは諦めたようにそっと微笑み、頷いてくれた。
「アナタ達が良いっていうなら、仕方ないわねぇ。……ほんと、破天荒なコ達なんだからぁ」
「ご迷惑おかけします」
「しますよ!」
呆れて言うヴィヴィアネさんにちょっと冗談めかして頭を下げると、ヴィヴィアネさんは吹っ切れたように笑ってくれた。
目尻に浮かぶ涙をぬぐいながら、
「それじゃあ、今日はどうするのかしらぁ? 予定通り此処で一泊していく? それとも……」
「取ってある宿に戻ります。一旦荷物類を置いて落ち着きたいですし」
「そ。残念だわぁ。なら今日は解散ねぇ。二人ともお疲れ様ぁ」
そう言って、ヴィヴィアネさんはひらひらと手を振って俺達を見送ってくれた。
俺とナツカは互いに見合わせて、同時に頭を下げる。
「「色々とお世話になりましたっ!」」
特に示し合わせた訳でもないのに選んだ言葉が同じだったのは、やっぱりそれだけヴィヴィアネさんから与えてもらったものが大きかったからだろう。
色々と大変なことはあったが、結果的に俺達が納得のいく選択はできたし、それはそれとして
今日は帰るけど、後日ちゃんとお礼はしような。うん。
──そんな充実感を胸に、俺達は『WF城塞』を後にしたのだった。
ここ数話の契約の流れはこれの前振りなのでした。やっぱりお祭り騒ぎならとことん騒がせないと、世間!!