最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
──眼前に迫る人々。
彼我の距離は、ちょうど三〇メートルといったところか。落下速度からして、俺達が『空の底』に到達してから〇・五秒後には激突する計算だ。
そして、移動に使えるような『燃料物質』の発現には、最低でも〇・一秒は必要になる。残りの〇・四秒で俺だけならともかくナツカも一緒に回避……現実的ではない……!
なら、上方の探索者に声をかけてスピードを緩めてもらう? それも無理だ……! 第一に人が多すぎる。情報伝達と混乱が収まる頃には直撃コース。それに、仮に勘が鋭いヤツがいて速度を緩めてもらったとして、後続とぶつかって結局押し流されてしまう。
とすると、あとは……シンプルにナツカと俺で互いに突き飛ばし合って移動? 俺ならそれでも問題ないが、ナツカの場合は確実に空中で姿勢を制御できなくなって吹っ飛んでしまうだろう。もしそうなれば、制御不能のナツカが他の探索者と衝突して迷惑をかけてしまうかもしれない……!
…………正直このまま押し潰されて乙ってもそれはそれでおいしくない? と思わなくもないのだが、やめておこう。一応主題は『マイニング』の方だしな……。関係ないポカで乙ってグダるのも配信的には微妙かもだし……。
それに、乙るだけならともかく、どさくさに紛れてカメラが潰れて壊れたりしたら地味にショックだしな……。
うん。とりあえず、なんとか回避するということは確定。
つまりこの状況の打破に必要なのは、着地よりも前にこちらの制御可能な形で空中制動するためのアイテム……!
ただし、ナツカのアホは『爆弾』のストックを多分用意していない(マジでアホ)し、『ナツクロイト鉱石』の断片は……どうせ腐るほど掘るからと持ってこなかったうえに、風圧規模が大きすぎておそらく他の探索者にも迷惑をかけてしまう。
つまりこの局面、打開するには俺の
「…………『
──元々『
『制限』の一つに、『自分が関係ない形で考案された、実在する「照明器具」しか発現できない』という項目を設定していたからだ。なので敵を攻撃する為の街灯にしても、実際に存在する中で先端の尖った『お誂え向き』のデザインをわざわざ調べて発現するようにしている。
ただしこの仕様は、
つまり、決まったデザインのない『素材』を発現した時に限り────そのデザインは発現時に設定することが可能なのである。
「おお……?」
目を瞠ったナツカの横で、俺は自分の体の前面から引きずり出すようにして、一枚の板を発現する。
ちょうど人二人が余裕を持って立てる程度の、サーフボードのような板だ。
「
ナツカを小脇に抱えつつ、俺はサーフィンよろしく漆黒のサーフボードの上に乗っかり、配信をご覧の視聴者の皆様に宣言してやる。
「バイオマスを原料とした人造の石炭──『バイオコークス』をサーフボードの形で発現した。人造の素材だからな……。こうやって好きな形で出せるって訳だ」
「おお、エアサーフィンですよ? これは新たな遊びの気配ですよ」
小脇に抱えた体勢からよじ登っておんぶの体勢に移行したナツカが、呑気なことを言い始める。実際、『ナツクロイト鉱石』の遊び方として昨日からちょっと考えていたものではあるが……。
「『TAL空域』の風による揚力は、全身に対して安定した浮遊を生み出してくれる訳じゃあない。ナツカが体勢を崩したり、フランが回転してたりするところからも分かる通り、動き方をミスれば揚力は
バイオコークスのサーフボードから、揚力を感じる。俺は体重移動でもってその揚力を制御し──そして、風の上を『滑った』。
「偏りを制御して『乗る』こともできるってことだ!」
以前までの探索で、無生物であっても誰かが所持した状態ならば所持者と一緒くたに揚力の影響を受けることは確認済みである。あとはこうやってサーフボードを傾けてやれば、揚力の傾きによってサーフボードは勝手に横移動してくれる。ちょうど、グライダーが翼を傾けることで旋回するような要領で。
『うわっ難しそ~~』
『クロなんか能力の使い方にさらに磨きがかかってない?』
『クロちゃんの超絶技巧にしては珍しくやってみたさが前に出て来る』
『待って今の
『ああそうだな…俺は聞き逃さなかったが』
『聞き逃さなかったおじさん!?』
なんかネットミームが飛び交っているコメント欄を横目に見ながら、俺は空中で体重移動によってボードの動きを止める。良い感じに空中で静止したところで、〇・五秒前まで俺達がいた場所を複数の探索者達が通り過ぎて行った。
「二人一組になって、一人がボード役になれば同じことできるぞー!」
成す術もなく押し潰されても可哀想なので、俺は落下中の探索者達に声をかけてやる。
すると数人の探索者はすぐに対応して、探索者サーフボードによってなんとか縦型玉突き事故を回避したようだ。押し潰されて乙っちゃった人もまぁまぁいるようだが。
人をサーフボードにして危機を回避するのはちょっと滑稽だが、背に腹は代えられまい。あとちょっと面白い絵面を撮れたので配信的には
「というかクロ、コメントでも書かれてたけど、
「言う機会がなかったからな……。黒子だし」
「由来は何なんですよ?」
なんかやけにぐいぐい聞いてくるな……。
……ああいや、一応俺もこのチャンネルのレギュラーだしな。ナツカの『
「由来っつってもな…………」
俺は言葉を濁しつつ、
「この
「ふむ。ナツカさんの『
「そうなるように設定したしな。つまり、この能力で出した『燃料物質』は最初から燃えているわけじゃない。もしも火が付くとしたら、それは点火された後。即ち『
俺はあくまで黒子なので、サン……太陽を
もっとも、月ですよとかまでいちいち口で説明するのは無粋なのでやらないのだが。…………我ながら妙な自尊心という自覚はある。
「むふん。流石はナツカさんの相棒。オシャレでカッコイイ
「よせやい。褒めても『燃料物質』しか出ないぞ」
「あとそのサーフボード、ナツカさんも使ってみたいですよ」
「それはダメ。お前が使ったら間違いなく吹っ飛ばすから」
「褒めたのに『燃料物質』すら出ないですよ!?」
『やってみなくちゃ分かんないですよー!』と無駄に熱血っぽく荒ぶるナツカを抑えつつ、コメント欄をチラ見してみる。どうかな。
……などと思っていると。
『
『は?』
『そうなるように設定したってどういうことですか(半ギレ)』
『師匠譲り感ある 相談とか乗ってもらった?』
『今何見せられた?』
『エアサーフィンやりてぇ…「D1」で試す人おらんかな』
『は????』
……なんか怒ってる人が一定数おる。あとキララとのエピソードトークを引き出そうとしてる
いや確かに火種を自前で用意できないって『制限』は甘えてると俺も思うけどさ……。でも、ナツカの存在も含めて『制限』としては美味しすぎるんだよ。許してくれ。
あ、いやこれナツカ前提の能力を設定したことにカプ厨が勝手に喜んでるだけ? オタクの感情表現分かりづれぇな……。いや俺もオタクだが……。
こういうのはあんまり触れない方が喜ばれるので適当に流しつつ、
「さて……もう掘り始めてる人もいるみたいだし、俺達も降りるか」
言いながら、俺はサーフボードを脇に抱えて『空の底』へと着地する。ナツカは『空の底』だとエアホッケー状態になってしまうので、まだおんぶ続行である。
で、元々の着地予定地点に一応寄ってみるとそっちの方では生き残りの探索者達がなんとか立つことに成功していたところだった。
「大丈夫かー?」
相手はリスナーなので、特に気遣いとかなく呼びかける。すると、生き残りのリスナー達の間に俄かにざわめきが起こった。
「さっきの凄かったです!」
「何とかサーフボードになって乗り切れたよ……ありがとう」
「あと数人上に
「ふふん。もっと感謝してもいいですよ。ナツカさん達はリスナー守護のプロでもありますからね」
「何人か乙ってんのよ」
プロなら全員助けなきゃいかんでしょ。当選した人は当日に限り再入場自由だから、そんな大きな問題にはならんと思うが。
……んで、流石にこれだけのリスナーと近距離で交流しているなら、普段通りに動くよりも、トークショーみたいな感じでやった方が配信的にも面白いよな。
「じゃあナツカ。早速『マイニング』に入るか。準備はいいか?」
それとなくリスナー集団の方にカメラを飛ばし、そちらの方に体の向きを変えつつナツカに呼びかける。
ナツカはそれに気付いた様子もなく自然と合わせて頷き、
「でも『爆弾』の素材がないですよ」
「学ばぬ女よ……」
言いながら、俺は拳サイズの石炭を四個発現する。
石炭をその場に浮遊させつつ、俺はバイオコークスのサーフボードを砕く。計六つの破片になったバイオコークスを石炭四個と合わせてナツカに差し出しつつ、
「これで五セットだ。これだけあれば『マイニング』には十分か?」
「もちろんですよ。というか二個でもよかったですよ」
得意げに胸を張りながら、ナツカは『爆弾』を生成していく。
まぁ、コイツの『爆弾』の威力については折り紙付きだ。実際に一セットだけでも十分『空の底』は破壊できていただろう。
えーと、あとは掘って良い区画だが……。
「ナツクロちゃんねる様ですね。採集区画はそちらから周囲五メートルの範囲となります」
と、揉め事にならないように迷宮省の案内を待っていると、神座さんが呼びかけてくれた。
よかった。やっぱりちゃんと迷宮省の方で採集区画は管理してくれてるっぽい。どういうアルゴリズムで採集区画を設定しているのかは謎だけど、色々と裏で仕組みを用意してくれているのだろう。短納期なのにありがとうございました。
「うっす。ありがとうございます」
「お疲れ様ですよ」
案内をしてくれた神座さんに、二人でお礼をする。
よく見てみると、『空の底』では他にも様々な探索者達がスーツ姿の迷宮省職員に案内を受けているようだった。……ひょっとして『空の底』にやってきた探索者にマンツーマンでついてる? いやそれはないだろ……多分範囲を決めてそこの担当の人が案内をしてくれてるんだと思うが……。
………………ん!? よく見たらあっちにいる職員さん、神座さんじゃね!?
「……え!?」
数十メートル先で活動している職員さんが神座さんに酷似しているのを確認した俺は、思わず先程まですぐ近くにいた神座さんに視線を向ける。
…………いる。普通に神座さんはその場にいた。案内を終えて俺達から離れようとはしているが、別に半透明になっていたりもしない。
そして、数十メートル先の職員さんの他にも、神座さんと酷似した職員さんが……目に見える範囲だけでも三人いる。『移動』系ではない。これは…………分身を作るタイプの
なるほど。神座さんが抜擢されたのも、この
「クロ、どうしたんですよ? 『マイニング』開始ですよ」
「あ、ああ……。なんでもない。じゃあ頼む」
「ナツカさんにお任せあれ、ですよ!」
ナツカがそう言って『爆弾』を『空の底』に投げると、直後、ずどどどどどん!!!! という派手な爆音と共に『空の底』が破壊された。
下から吹き上げる風が消え、そして地面には空色の鉱石と漆黒の鉱石が転がった。一部の鉱石は重なってそこから風を吹き出しているので、俺はそれに触れないよう注意しながら『ナツクロイト鉱石』を回収する。
「これがナツクロイト鉱石だな」
「おおおおぉぉぉぉぉ…………」
『しっかりズームしてくれるのたすかる』
『相変わらずすげー威力』
どよめくリスナー探索者と興奮を共有するように、コメント欄にも様々なざわめきが流れてくる。
ナツカはせっせと周辺に『爆弾』を仕掛けながら、
「この辺一帯のナツクロイト鉱石が手に入るなら、かなりの量になりますね。ナツカさん達はそんなに要りませんよ。この場にいるリスナーに配りますか?」
「お、それ面白そうだな。ついでにサインでも書いてやれよ」
「サイン!!!!」
思い付きで言うと、ナツカが分かりやすく目を輝かせ始めた。ああ……そういうスターっぽいことやるの大好きだもんな、お前……。
「そういえばサインペンとか持ってんの?」
「え? 持ってる訳ないですよ。なんか都合のいい『燃料物質』ないんです?」
「無茶言うな。一〇〇メートル超過で解除されるサインなんて悲しすぎるだろ」
『
とはいえ、サインとして使うには論外だ。純正の『練成』系なら射程∞でサインに使える『燃料物質』を出せたんだが。
「…………む~~~~~。サイン、サインしたいですよ」
「ペンを持ってないならしょうがないだろ。プロ意識が足りてないんじゃないか?」
「むぐううううう…………!!!!」
世にも珍しい超悔しそうにするナツカを楽しみつつ、俺は懐から油性のサインペンを取り出す。
ナツカが、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような雰囲気の無表情で固まった。
「最近契約事が多いから、一応ペンとメモは懐に忍ばせてあるんだよ。ほれ、これ使え」
「流石はナツカさんの相棒ですよ!!」
「相棒じゃないが」
あとお前もちゃんと用意しとけよ。何度言っても『爆弾』の素材を用意しないあたりは多分期待できないと思うが……。
そんなことを言いつつ、俺はリスナー達に改めて視線を向けてみる。まぁけっこうな数のリスナー達が譲渡会に参加したがるだろうな。
「ってことで、突発だがサインつき鉱石の譲渡会やるぞー。欲しい人いるか?
──そこにいたのは、スッ……と綺麗に手を挙げるお行儀の良いリスナー達の姿であった。
しかも全員、覚悟の決まった表情をしていた。戦士の顔つきである。……そんなお行儀の良いリスナーにはご褒美でもくれてやるか……。
そう思い、ナツカに追加の起爆を指示しようとして──そこで、俺はふと気付いた。
何か……地鳴りのような音が、遠くから近づいている?
もしや
確かに、常時俺達のことを追いかけるような熱心なリスナーは、数百人弱しか此処には来ていないだろう。
だが、それでもここでしか手に入らないサイン付き記念アイテムをもらえるチャンスと言われれば、純粋なファン感情にしろプレミア狙いにしろ、欲しがる層は倍増なんて言葉じゃきかないくらいに増えるわけで。
つまり、この後何が起きたかというと。
俺達は、今度は人の波を乗りこなさなくちゃならなくなったのであった。
配信向けの能力名でもあるので本人がドヤ顏で能力名の由来を説明してもいいの、だいぶ無法ですね。