最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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50:魔王城へようこそ ①/前座は王座

 『ヘヴンリーマインフェス』の一日目が終わってから、瞬く間に三日が経過した。

 『迷宮週間(ダンジョンウィーク)』五日目──全八日を折り返した後半初日の朝。清々しい目覚めで覚醒した俺は、未だに惰眠を貪っているナツカのことを叩き起こした。

 

 

「おい。ナツカ、起きろ! 朝だぞ! 今日の用事を忘れたのか?」

 

「う、うぅぅ~~ん…………。もうちょっと寝かせてほしいですよ……」

 

「探索者の身体で惰眠を貪ろうとすなや」

 

 

 素直に起きなかったので、俺は蹴りを入れてベッドから落とす。

 ──当初こそなんとなく互いの部屋には不可侵というルールを敷いていた俺たちだったが、ナツカの寝起きが俺の想像をはるかに超えて悪かったことで、この目論見は早々に瓦解した。

 部屋の扉をバンバン叩いても一向に出てこなかった三日目の春眠籠城事件(動画投稿済み)を経て、俺は朝になるとナツカのことを叩き起こすのが習慣となっていた。

 

 

「いだぁ! もう少し優しく起こせないんですか!?」

 

「寝坊しそうになったら蹴ってでも起こせっつったのはお前だろうが! 日によって言ってること変えるな! シェフの日替わりランチかおのれは!」

 

「時間的にはブレークファーストですよ!」

 

「そういうことを言ってんじゃ…………ええい、もういい!」

 

 

 このおバカに付き合っていたら、あっという間に午前中が過ぎ去ってしまう。せっかく八時に行動を開始したのだから、ぐだぐだせずに『準備』を済ませてしまうべきだろう。

 のそのそと起き出したナツカに対し、俺はこう付け加えた。

 

 

「顔洗ってきな。気持ちの問題なんだからそれで充分だろ。それが終わったら作戦会議をするぞ。────ヴィヴィアネさん捕縛のな」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 この三日間、俺たち──というか俺は、大きく分けて二つの策を走らせていた。

 

 一つは、ヴィヴィアネさん確保のためのアイテムづくり。

 キララの配信のときに探りを入れていたが、あれはナツクロイト鉱石を加工して対ヴィヴィアネさん用の異界装備にしてくれる『ブラスミ』系探索者を探していたのだった。ヘヴンリーマインフェアのときにも名刺はもらったけど、まだナツクロ名義だと使えるお金がないからな。名刺(あれ)はもっとこの先に使わせてもらいます。

 ちなみに目当ての『ブラスミ』系探索者からはあのあと十数人ほどDMが届いてきたので、ありがたく全員にお仕事を依頼させてもらった。

 ぶっちゃけて言うと、三日間というのは殆ど全て、このアイテムの作成期間である。かなり簡単な依頼とはいえ、けっこう短いかなと思ったが、調べてみたところ『ブラスミ』系探索者の中ではこのくらいの納期感はよくある範疇らしい。特に珍しい素材を使ったアイテムだと納期が短くなる傾向があるあたり、やっぱり趣味人なのだなぁと思う。

 

 そしてもう一つ──それは、ヴィヴィアネさんの()()()()であった。

 

 

「でも、ヴィヴィアネさんもよく応じてくれましたよ。コハ姉の言い方だと、生半可なやり方じゃ連絡すら取れないみたいな雰囲気でしたけど」

 

「ま、生半可なやり方じゃないしな」

 

 

 言いながら、俺は得意げな笑みを浮かべて見せた。

 確かに、あのあとヴィヴィアネさんは俺たちとのあらゆる連絡を断った。試しに『WF城塞』に一度顔を出してみたこともあったが、そのときももぬけの殻だったしな。

 一応念のため、本当に返信が来ないか確認するために旋風にDMを送ってみたが、このときは未読スルーだった。心春さんの言う通り、ヴィヴィアネさんは俺たちからの連絡を完全に断とうとしているとみていい。

 

 ただし一方で、ヴィヴィアネさんはとても面倒見の良い、優しい人だ。

 言い換えれば、対人関係に対して責任感がある人でもある。何せ、このままでは心春さんが『WF城塞』にやってくるという時にも、あえて逃げたりしなかったほどだ。

 少なくとも、自分の利益よりも関係性や義理を優先する人ではあると思う。だからこそ、無期滞在(レジデント)という現実の手続きをぶっちぎるような存在であっても、なんだかんだ心春さんに引っ張られて度々現実に戻っていたのだろうから。

 そんなヴィヴィアネさんだからこそ通る『連絡』が、一つだけある。

 それは──『お礼』だ。

 

 あの会食のときにナツカがぽろっと言ったのと、考え方としては同じ。

 あのときは、ヴィヴィアネさんが待ち構える『WF城塞』に侵入するのに適当な言い訳がなかったが、訪問の理由が『お礼をするため』ならば、ヴィヴィアネさんは拒絶できないので受け入れるしかないし、動機としても自然だから()()()()()()()()()()──という理屈だった。

 あれから状況が変わって、ヴィヴィアネさんは俺達が心春さんの尖兵であることを認識してしまった。ただ、それでもヴィヴィアネさんは俺達から『この前の一件のお礼をしたい』と言われれば、それを拒絶することはできない。俺たちはハンターとターゲットである以前に探索者の先輩後輩だし、ヴィヴィアネさんもそう思ってくれているからだ。

 後輩が『お礼をしたい』と言ってきたら、ヴィヴィアネさんがそれを無視することはできない。メンタル面の弱みにつけ込む策ではあるが──まぁ、つけ込む隙があるなら思う存分つけ込ませてもらおう。『つけ込む隙があるのが悪い』がランクマ流なので。

 

 

「今回俺たちは、お礼の為にヴィヴィアネさんを『招く』んだ。要するに、待ち構える形。普通にお礼をして、そしてついでに捕獲する。そういう筋書きだな」

 

「え~、上手くいきますか? なんだか心配ですよ」

 

「そりゃ俺も心配だよ。向こうはどこへでも繋がってなんでも切断できる『亀裂』の使い手だ。だから、これでも頑張って策を用意してきたわけだ」

 

 

 そう言って、俺は部屋の中にある装備置き場を開ける。

 ナツカが一切利用しないのでチェックインしてからずっと空っぽだったこの部屋には、昨日搬入した『とある異界装備』が大量に置かれていた。俺はそれをナツカに見せる。

 

 

「今回は、こいつらを使う」

 

 

 そこにあったのは、六角形の円盤のような、小型のアイテムだ。

 上側は表面質の黒。下側は銀色のカバーで覆われ、その中に底質が詰められている。内部には透明度を変更できる仕切りがあり、これによって風力を調整することができるという代物である。

 ちなみに、このサイズで思考制御式なので、自由自在に操縦することが可能だ。もちろん、端末ドローンから完全手動(ハンドマニュアル)操縦も可能である。

 

「おお…………想像の一〇〇倍くらいありますよ」

 

 

 ()()()()()()()()()()

 もちろんこの数をひとつひとつ思考操縦しながら高速で戦闘するのは流石に無理なので、この辺については簡単に群体単位で操作するためのアプリを組んでもらっている。ちょっと思ったよりもクオリティ高いものを用意されちゃったので、(流石に道義的に)いずれキララの配信でも使ってやらにゃならなくなったのはちょっと誤算だったが……。

 

 

「名付けて『風上ドローン』だ。常に風の吹いてくる方にこのドローンが位置するからな」

 

「ダサい上にしっくりこないですよ。もっと四字熟語で横文字ルビでどーんがいいですよ」

 

「だまらっしゃい」

 

 

 いいのが思い浮かばなかったの!!

 俺のチョップを受けたナツカは、頭頂部を抑えながら、

 

 

「でも、これがヴィヴィアネさん対策になるんですよ?」

 

「ある程度はな。ヴィヴィアネさんの能力は物理的障壁を無視するが、一方で風を無視できる類のものじゃない。たとえ『亀裂』を展開されたとしても、『亀裂』による移動先にこいつを先回りさせておけば、『亀裂』から吹く風で押し返せるって寸法だ」

 

「おお、すばらしい作戦ですよ。さすがはナツカさんの相棒」

 

「相棒じゃないが」

 

 

 俺は二〇〇台のドローンを事前に用意しておいた巨大台車に積みながら、

 

 

「だが、この作戦には一つだけ問題があってな」

 

「問題ですよ?」

 

 

 のんきに首を傾げるナツカに、俺はたった一つの、しかし致命的な懸念を告げた。

 

 

「バッテリーの問題で、思考制御は『現地』についてからだ。つまり、それまでの移動は手作業で運ぶことになるな」

 

「絶対にいやですよー!!!!」

 

 

 ナツカは断固拒否の構えをとったが、結局、その後二時間ほどかけて搬入を行った。

 待ち合わせが一五時なのになんで八時に起こしたと思ってるんだ。下準備を整えるために決まってんだろ。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 俺たちが決戦の舞台に選んだのは、とあるスポーツ用品企業がネーミングライツを持つ迷宮だった。

 星一つない夜空の下、溶岩の海と篝火だけで昼間のような明るさを保つ石砦。一手ミスれば即乙のギミックと強力な迷獣(モンスター)(ひし)めく此処は、平常異界深度(フロアレベル):8──ウィステリアフィールド(WF)城塞だ。

 

 

「で、『王の間』に来たわけだが」

 

「早すぎですよ!?」

 

 

 『WF城塞』の『奥』…………通称『王の間』。

 諸々の障害はさっさと突破し、ファンタジー系のゲームでなじみのある王座が設置された広間の手前に位置する回廊に、俺たちはやってきていた。ちなみに、搬入した風上ドローンは『壁』付近に置いてある。ここまで運ぶのは流石に厳しかったからな。

 しれっと言った俺に、ナツカは不満そうにする。

 

 

「なんかめちゃくちゃあっさりクリアされましたよ。ギミックも一度も引っかからなかったですし」

 

「そりゃ、今回は攻略情報見たし、ギミックはお前も分かるし、そもそも此処一回来てるし」

 

「詰まる要素がゼロでしたよ」

 

 

 だからそう言っているじゃないか。

 今回は完全プライベートなのもあって、別に撮れ高を気にする必要もないしな。瞬間移動トラップにさえ気を付けていれば、鈍重な騎士甲冑(ナイトレス)など簡単にスルーできるのである。

 遠隔攻撃タイプにしても、直線的な動きをしていれば狙い撃ちされるが、障害物を適宜用意しながら戦えば狙いを定められる心配はないしな。

 

 

「あとは、迷宮主(フロアボス)CNE(シーエヌイー)をどうにかすれば『王の間』は確保できる」

 

 

 今回の作戦では、俺たちは『王の間』でヴィヴィアネさんを待ち受けることになっている。

 ただし、当然だが異界迷宮(ダンジョン)が俺達の作戦に配慮してくれるわけじゃない。そのため、対ヴィヴィアネさんに専念するためにはまず目先の迷宮主(フロアボス)で自力でどうにかする必要があるのである。

 

 

「此処の迷宮主(フロアボス)ってCNEって言うんですよ?」

 

「ああ、そうらしい。海外の探索者がつけたっぽいな。ちなみに道中出てくる迷獣はナイトレスって言うんだと」

 

「由来は何なんですよ?」

 

「それ今気にすることか……? ナイトレスは、騎士甲冑が一揃いあるけど中身の騎士がいないからKnight Lessらしいけど」

 

「おー、オシャレですよ。でもCNEはなんか毛色が違くないですか?」

 

「うむ。CNEは、ナイトレスがパワーアップして、武装を自由に変形させられるようになったっていう亜種強化型の迷宮主(フロアボス)なんだがな……」

 

「よくある迷獣(モンスター)を強化した感じの迷宮主(フロアボス)ですよ」

 

「で、『裸の王様』って御伽噺あるだろ? あれの英題が『The Emperor's New Clothes』なんだよ。こっちは王様(なかみ)が見えないから『The Clothes's New Emperor』で、CNE」

 

「はえー……シャレてますよ」

 

「海の向こうのセンスだからなあ」

 

 

 日本の探索者がネーミングしてたらどうなっただろうね。甲冑王とかそんなんじゃないかな。キクラゲとか言い出す連中だし。

 

 

「んじゃ、そろそろ行くぞ。さっさとしないとヴィヴィアネさんが着いちまう」

 

「了解ですよ」

 

 

 俺たちは頷き合って、『王の間』に足を踏み入れる。ちなみにここは通路右端以外瞬間移動トラップの『ギミック』で封鎖されているというクソ仕様なのだが、予習している俺はもちろんのこと、何も教えていないナツカも当たり前のように右端を通っていた。

 『王の間』には最奥に巨大な玉座があり、ナイトレスのそれより数段豪奢なつくりの、金色に輝く騎士甲冑が鎮座している。

 

 

「…………偉そうにふんぞり返ってるなあ」

 

 

 俺が低く唸るように言うと、CNEは呼応するように重い腰を上げ、玉座に備え付けられていた大剣を大儀そうに掴み取る。

 迷宮主(フロアボス)のくせに、まるで本物の王様みたいに鼻持ちならない動作である。それを見て、俺はテンションのギアを上げる意味も込めて、吐き捨てるようにナツカに言った。

 

 

「所詮は前座だ。こんなもんはさっさと済ませるに限る」

 

「勝ってナツカさん達がこの城の王になりますよ! うおー!」

 

 

 …………あの、やる気になるのはいいんだけど、俺より不遜になるのはやめてくれない?




 キララの注文は、「このくらいのサイズで風力調整できるドローンにしてくれない?」だったんですが、依頼した人たちは当然全員かなりのキララファンのため、ハッスルして群体操作機能とそれ用のアプリを実装してくれました。
 なぜハッスルしたかというと、「キララちゃんは何だかんだ優しいから、超・力が入ったものを作れば配信で使ってくれるはず」という欲望のためです。ちなみにナツクロイト鉱石の揚力では原理上スカートはめくれません。哀れ。
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