最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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57:エイトデイズ・ア・ウィーク ③/決着の時

 そんなに褒められた人間じゃなかった──と言うと、あまりにも言葉を選び過ぎていると言われると思う。

 

 一〇年前のわたしは、人生から落伍した失敗者だった。

 高校に入学して三か月。同級生からいじめを受けたわたしは、心をぽっきりと折ってしまって、家族と会うのもままならないような状態になっていた。

 三か月。……たったの三か月だ。

 高校は、義務教育じゃない。受験料を何万も払って入れてもらったのに、受験勉強だって頑張ったのに、たったの三か月で不登校の引きこもり。スタートラインに立った瞬間のドロップアウト。当時のわたしは、自分で自分の無能さに……いや、有害さに絶望していた。

 家族は、そんなわたしのことも受け入れようとしてくれていた。学校に行けなんて一度も言わなかったし、家族と会うだけで吐き気を催してしまうわたしに根気強く向き合ってくれた。

 でも、分かってしまうのだ。そんな家族でも、わたしのことをどう扱えばいいか測りかねているという空気が。

 そしてわたしは一層絶望する。こんなにも温かい家族に囲まれて、それなのに()()()()()()であっさり折れて、人生の最初の最初の最初で立ち止まって。……この体たらくで、この先五〇年? 六〇年? 七〇年?

 ……無理だ。絶対に、どこかでガタが来る。無駄に生きただけ抱えた負債がわたしの上に崩れて来て、そして圧し潰される。そんな未来が、手に取る様に分かった。

 

 

 『異界開闢(グランドローンチ)』が発生したのは、まさにそんな時だった。

 

 

 ──正直、腹立たしかった。

 

 わたしと同年代くらいの、何者とも知れない少年が、世界を救い、世間に賞賛される姿。……まるで、御伽噺に出て来る勇者のような。わたしとは、全く正反対の在り方に、強い嫉妬と……そしてやっぱり、絶望を感じた。

 だって、きっとわたしは同じ機会を与えられても、同じ成果は得られない。

 『とある少年』は一人の死者も出さずに未曽有の危機を打破したけれど、わたしだったらきっと何人も死者を出して、『異界開闢(グランドローンチ)』を拭えない惨劇にしてしまっていただろう。

 ──当時のわたしはそんな風に考えて、それからこう思った。

 当時は『基本法則』の第六項も判明していなかったから、無理からぬ誤解ではあったけれど──それにしても、愚かな発想だったと思う。そう思える自分になれたことに、少しだけ安堵するくらいには。

 

 

「……そうだ、迷宮に行けば………………()()()()()死ねる」

 

 

 きっとこのまま行けば、わたしの人生の終着点は『ナントカ歳・無職、自殺』が関の山。

 何十年も家族に迷惑をかけて、呆れられて、諦められて、『ああやっとか』なんて思われて、記憶のゴミとして消えていく。

 でも、迷宮で死ねば話は変わる。わたしは、世界を守る為に勇者として戦って死ぬ。家族からも世間からも()()()()()()()()()()()()()。それは、わたしに許された最上の死だと、当時のわたしは思った。

 

 今なら分かる。

 当時のわたしは、悲劇に酔いたかった。悲劇のヒロインになって、かわいそうだねと、惨めな自分を悲劇でデコレーションしたかったのだ。

 

 まぁ、結果的には、『基本法則』第六項で、迷宮内で死んでも『大空洞』か異界迷宮(ダンジョン)外に放り出される訳なんだけれど……。

 

 ただ、幸いなことにわたしにはたっぷり時間があった。

 ドジでどんくさいわたしでも、一日の大半の時間を迷宮に費やせば、膨大な経験は蓄積してくれる。膨大な経験は経験則となって、何度も繰り返した手順は条件反射となる。

 そしてそれらは技能となり、やがて称賛の対象になった。称賛は自信に繋がり、皮肉にもわたしの精神状態は劇的に改善していくことになる。わたしは、期せずして勇者になることに成功したのだ。

 

 そしてそんなあるとき、『彼女』に巡り合った。

 『彼女』は────かつて世界を救った『とある少年』は、世界を救ったはずなのに、世界を壊したことで苦しみ続けていた。

 

 そのとき、わたしは自分の抱えていた自己憐憫がいかにちっぽけなものか、思い知った。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 『泉の女神』が手を掲げたその瞬間には、ヴィヴィアネさんは既に左腕を構えていた。

 まるで鏡映しのように──いや、()()()()()()()()()()!!

 俺が行動の意図を理解した直後、ピシピシと亀裂が入るみたいにヴィヴィアネさんの左腕が先端から黄金に変貌し始めた。

 それを見て、俺はすぐさま走り出す。

 

 ──ヴィヴィアネさんが、右手を左腕の付け根に添える。

 おそらく、『亀裂』で左腕を切断することでペナルティの波及を回避するためだろう。やはりヴィヴィアネさんは『泉の女神』への対抗策を知っていたようだ。

 そして、『亀裂』の発現。ヴィヴィアネさんの左腕が、金の浸食を待たずして根元から切断された。

 足元に対となる『亀裂』を発現したヴィヴィアネさんは、その縁を踏んで泉の外へと跳躍する。

 この機を逃す手はない。ここで決める。俺は、泉の女神との距離を一定に保つように大回りで身を低くして地面を撫でていく。

 

 

「ナツカ! 全部最小!」

 

「がってんですよ!」

 

 

 詰めの一手を打っていると、『泉の女神』はヴィヴィアネさんが致命打を受けていないことを認識したらしかった。

 泉のほとりに降り立ったヴィヴィアネさんの方へ少しだけ首を動かす。『泉の女神』が手を向け直す前に、ヴィヴィアネさんは残った右手を拝むようにして自分の目の前に向ける。明らかに、防御用の『亀裂』を発現する動きだ。

 

 ──問題は、防御用の『亀裂』と対になる『亀裂』をどこに発現するか、である。

 走り出したことで、ヴィヴィアネさんは俺の追撃を警戒するだろう。片腕を失い、探索技能(スキル)使用後の隙を突かれた攻撃である。無策で受けるのは絶対にNOのはず。

 とすると……対となる『亀裂』は俺の目の前に発現する?

 おそらく対となる『亀裂』は何かと重ねて発現することはできないが、〇・一秒後に俺が通過する場所に発現すれば、『発現した後の「亀裂」に勝手に俺が突っ込んで来た』ことになるのだから、能力上の制約はクリアできる。

 だが……発現位置が俺と重なるリスクを考えると、発現位置と俺の距離は多少空く。そうなれば回避は容易だ。むしろ、眼前という至近距離から俺の攻撃が届くわけで、そのリスクを考えないほどヴィヴィアネさんはまだ追い詰められていない。それにこの案だと、『泉の女神』の方が対処できないしな。

 

 単純に移動の為に使うセンはないだろう。

 これは勘だが、多分『泉の女神』にロックオンされている最中はそんなに遠くまで移動できないと思う。俺の時なんかまさにそんな感じの挙動だったし。

 なら、迷獣(モンスター)を引っ張り出してお茶を濁す? 意味ないよな。ヘイトが向くわけもないし。

 ……『ギミック』を使っての退避? これはありそうだな。『泉の女神』は探索技能(スキル)の解除すら無効化してくるトンデモギミックだが、同じ『ギミック』同士なら効きそうだし。とすると、あの『亀裂』は『城塞』内部に繋がる可能性があるな……。

 

 

 俺は分析しつつ、『泉の女神』の巻き添えを食わないように大回りしながらヴィヴィアネさんに接近していく。

 発現された『亀裂』の向こう側には、大方の予想通り城塞内部と思しき石畳が広がっていた。

 

 

『──欲深き者よ』

 

 

 『泉の女神』は、壊れたテープレコーダーみたいに同じ言葉を繰り返す。だが、そうチンタラされていたら逃がしてしまう可能性がある。それはなんとか阻止せねばなるまい。

 ということで。

 

 

「『燃え盛る逆説(イグナイテッドサン)』!!」

 

 

 触れた場所から発現するのは、『手力の火祭』に使用される『御幣行灯』。

 全長五メートル程度の棒の先に、三角形の形に小さな行灯が幾つも配置されている代物。遠距離から伸ばして『亀裂』とヴィヴィアネさんの間の遮蔽にするには十分な形状だ!

 

 ──俺が能力を使った直後、ヴィヴィアネさんがこちらの方を見て微笑んだ。

 

 

「『ギミック』までは読めてたのねぇ。でも残念。()()()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉の意味を考える間もなく。

 

 

『過ぎたる欲は、』

 

 

 言葉の途中で、『泉の女神』が()()()()

 

 

「ギミック『泉の女神』は、イベント対象者の座標を泉周辺に押し留める副次効果を持つわぁ。この効果はギミック『転移罠』よりも優先されるから、()()()()()()()は『転移罠』の影響を受けないのよねぇ」

 

 

 ねじれ、ねじれ、ねじれ。

 

 

「一方で、ギミック『転移罠』の対象は探索者に絞られるけど、探索者の所有する迷宮内の物質も対象になる。そしてどうも、『泉の女神』はイベント中はイベント対象者の所有物扱いになるらしいのよねぇ」

 

 

 ねじれ、ねじれ、ねじれ、ねじれ、ねじれ、ねじれ。

 

 

「ここで、一つ不思議な挙動が発生するのよぉ。わたし自身は、『転移罠』の影響を受けない。でも、所有物である『泉の女神』は『転移罠』の影響を受ける。……とはいえ、『泉の女神』は『ギミック』として泉に紐づけられているから、無理に移動させようとしてもその場に固定されたみたいに動けないのねぇ」

 

 

 ()()()、と。

 

 

「固定と、転移。相反する『ギミック』の作用を受けた『泉の女神』は…………」

 

 

 ねじれて、千切れた。

 

 

「こぉんな風に、機能停止して破壊されちゃうのよねぇ?」

 

 

 ヴィヴィアネさんは。

 無敵のはずの『ギミック』を容易く攻略してみせた歴戦の勇者は、探索技能(スキル)発動直後の俺へと照準を合わせる。

 ヴィヴィアネさんも発動直後ではあるが、一瞬発動タイミングが早かった。加えて、そもそもの能力の発現スピードもヴィヴィアネさんの方が僅かに上。このままだと、俺が次の『燃料物質』を発現する前にヴィヴィアネさんの『亀裂』が通る。

 

 が。

 

 

「ナツカぁ!!」

 

「あいさーですよ!」

 

 

 一瞬の間隙に滑り込むように、ナツカが小石を投げ込む。おそらく足元の石を使って『合成』したのだろう。

 それが、俺の発現した『御幣行灯』に触れた直後。

 

 

 バァァァアアアアアアアアアアアア!!!! と、『御幣行灯』から大量の火花が撒き散らされる。

 

 

「っ!? な、これは!?」

 

「『手力の火祭』は面白い祭でしてね、降り注ぐ火花の下で、上裸の男が神輿を担ぐんですよ。度胸試しなんですかね」

 

 

 その程度の火力なので、当然だが探索者の身体には微塵もダメージを齎さない。

 だが、大量の火花は確実にヴィヴィアネさんの視界を遮ってくれる。その一瞬だけは、ヴィヴィアネさんは俺の行動を『推理』するしかなくなる!!

 

 つまり。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 

 火花の向こうから伸びて来た『亀裂』を躱し、その『亀裂』の向こうにいた隻腕のヴィヴィアネさんと目が合いながら、俺はニヤリと笑ってやる。

 

 

「かな~り追い詰められちゃったけど、これでチェックメイ──」

 

「ヴィヴィアネさん、うしろうしろ」

 

「え?」

 

 

 ヴィヴィアネさんの間の抜けた一言の直後。

 

 

「はい、ターッチ!!!!」

 

 

 ナツカの勝鬨が、溶岩に浮かぶ城塞に響き渡った。

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