最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
<前回までのあらすじ>
・クロとナツカ、無事にヴィヴィアネを捕獲する
・祝勝会をかねて焼肉を奢ってもらう
・その席で、ヴィヴィアネはキララと会うアポを取る
・その心境とは──
コハと交流するようになって、早いもので一〇年が経とうとしていた。
あの日コハに出会って……世界を救ったのに世界を壊したことに苦悩する一人の少女を知って、わたしの愚かな英雄願望は粉々に砕かれた。
そして、わたしは悟った。わたしには、英雄になる資格なんてない。わたしはそんな上等な人間じゃない。
だからせめて……誰かの為に戦うことのできる英雄に聖剣を渡せる、そんな善意の協力者になろうと思った。
だから御伽噺に出て来る、王を手助けする
わたしはすっかり
一方コハは、『迷宮省』の職員になった。
責任を取る──厳しい表情でそう言った時は、本気で喧嘩をしたこともあったけれど、あれから色々あって、今はもうすっかり吹っ切れて、前向きな気持ちで頑張っていると思う。
かつてのように毎日顔を合わせることはなくなったけれど、今もわたしは迷宮省の特別嘱託探索者として、コハとは頻繁に顔を合わせている。
一〇年の月日は、わたしという何者でもなかったただの小娘を、ひとかどの実力者へと成長させた。
わたしの活動が人の役に立ったことだって何度もあるし、それによって、わたしも一目置かれることが増えて来た。迷宮省の特別嘱託探索者にスカウトされたのも、そういう評価が参考にされたって、コハも言っていたものね。
「『迷宮省』に就職する気はないか?」
──その日も、最近恒例になったコハからの勧誘だった。
コハとの鬼ごっこの末に捕まったわたしは、『
「…………ごめんなさいねぇ。わたし、『迷宮省』の職員になるつもりはなくって」
「まだダメか。残念だ」
『迷宮省』の職員にならないかという打診は、過去に何度もされてきた。それこそコハが入省を考えていた頃から、一緒にやらないかと誘われている。
それでも入省せずに特別嘱託の位置に甘んじている理由は、『行動に制約がかかるから』とか『「調査」は必ずしも迷宮の安定だけを齎すスタイルじゃない』とか、色々と表向きのものは用意してあるけど……本当のところは、自信がない、というのが大きい。
確かに、
人から尊敬を集め、誰かの役に立てるようになって、色んな人から認められるようになった。
でもそれは、
『向こう』では、わたしはコハに引っ張ってもらってなんとか高校と大学を卒業した、無職の女。……いや、一応扱いとしては個人事業主か。でも、社会的には同じだと思う。何者かも分からない、ふわふわした存在だ。
でも、『迷宮省』はその性質上、職員の匿名性を許さない。
公的機関なのだから、当たり前だ。『迷宮省』の職員として行動する際は、基本的に『向こう』の姿での行動を義務付けられる。『迷宮省』の職員として動いていることを知らせたくないときは例外だけど、実際に職務にあたるときは『向こう』の外見で行動しなくてはいけない。
何者でもないどころかマイナスでしかない、惨めなわたしの姿で。
大人の世界では、わたしと切り離された『ヴィヴィアネ』でいることは、許されない。
わたしには、それが耐えがたい苦痛だった。
そんな理由で、わたしは親友の頼みを断り続けて来た。
……原因は、全てわたしの弱さにある。コハにはいつも申し訳ないと思ってる。わたしなんかのことをずっと誘ってくれてるのに、良い返事が出せないから。
でも同時に、わたしの中には醜い優越感もあった。
コハは、こんなわたしでもずっと誘いをかけてくれる。それだけ、わたしはコハに必要とされている。
…………別にそれを存在理由にするほど幼稚ではないけれど、でも自尊心の一つにする程度には幼稚なのが、わたしという人間の本性だった。
申し訳なさそうに断りを入れる裏では、仄暗い優越感に浸っている。我ながら最悪だと思う。
多分、バチが当たった。
ある時、いつものように食事をしていたときに、ふとコハがこんなことを言ったのだ。
「最近、別の探索者にも勧誘をかけてるんだけどね……。こちらも上手くいかないんだ。連絡すら帰って来ない。自分の力量のなさにびっくりしたよ。口下手なつもりはなかったんだが……」
「気付いてないのぉ? アナタ、けっこう口下手よぉ」
愕然とした表情のコハにくすくすと笑みを向けながら、わたしは内心意外に思っていた。
…………なんだ、わたし以外にも誘いをかけてるんだ。
「この人なんだけどな。名前は『キララ』。今年で活動歴八年になる大ベテランだよ。ず~っと
「……へぇ~」
そう言って、コハは目を輝かせながらわたしに動画を見せてくる。画面の中では、キャピキャピした女が愛嬌を振りまきながら敵を攻撃している。
──今はこんなのが流行ってるの? 全然良さが分からない。八年もやってるってことはこの女も結構いい
っていうか、全然コハの方が強くない? 最前線というなら、コハだって迷宮攻略の最前線で一〇年間戦ってきているのよ? こんな雑魚狩りに勤しんでいるようなヤツより、よっぽど戦闘経験値を積んでいるでしょ。自分を卑下しすぎじゃない?
そもそも連絡をガン無視っていう時点で終わってるでしょ。常識なさすぎ。メールとかめったに見ないタイプ? いくら強くても社会性がなくっちゃねぇ……。
あと、コハの方が絶対強い。
「……ちょっと苦戦してなぁい? いいのぉ? この対戦相手程度の探索者、言っちゃ悪いけどけっこういるわよ。こんなのに苦戦しているようじゃ……」
「いやいや、この続きを見てくれ」
画面の中では、キララが追い詰められている。キャピキャピしたファンサービスが災いして有利な状況を相手に作られていたのだ。……配信映えだかなんだか知らないけど、それで戦いを疎かにしていたら世話ない。男性視聴者はそれも愛嬌とか言うんだろうけど、それって真面目に
半ば呆れていると──キララの対戦相手がトドメの行動をしようとしたとき、空間がひとりでに爆発して対戦相手の腕が吹っ飛ばされた。
「…………え?」
「鮮やかだろう? 配信のためのアピール自体が、敵の行動を誘う罠になってたんだよ。対戦相手はそれに気付かず自分の首を絞めていたんだ。その後は……ほら」
鮮やかな戦いぶりだった。
街灯を生やして飛び回り、色々な照明が煌びやかに瞬いて画面を彩る。その中でキララは踊る様に戦い、可愛らしい笑みも忘れない。
まるでアイドルのステージのような戦闘に、わたしは思わず見惚れてしまう。
気付けば、勝負はキララの圧勝で終わっていた。
「これで勝ちだ。戦って強いだけの探索者なら大量にいるが、見る者を意識した立ち回りすらも戦法に組み込むような『次元が上』の強さは初めて見たよ。この戦いだけじゃない。他にもベストバウト動画を上げてるから、見てみるといい。オススメだ」
「…………そうねぇ。そのうち見るわぁ。気が向いたらねぇ……」
うわの空で返事をしていたけど、わたしはひどい敗北感に打ちひしがれていた。
わたしの戦局観は、あの対戦相手と同レベル。キララの狙いを読み解けずに追い詰められている彼女の状況をそのまま真実だと受け取ったというもの。……多分、あの場で戦っていたのがわたしだったなら、同じように惨敗していたと思う。
それからわたしは、キララが自分であげているベストバウトの切り抜き動画をちょこちょこ見るようになった。理由として表現するのに一番的確な言葉は──多分、『敵情視察』だろう。
そんなある日だった。
オフのコハに誘われて迷宮で一緒にお茶をしていた時、彼女はこんなことを言った。
「そういえば、例のキララ君と直接会って勧誘できたよ」
キララ……
わたしは紅茶をひと口含んで喉を潤してから、
「へぇ。どうだったのぉ?」
「残念ながら。勧誘は断られてしまったよ。嘱託もダメだった」
「…………何故?」
自分の眉が顰められたのが、自分でも分かった。
入省を断られるだけならまだ理解できる。『迷宮省』の匿名性排除は、長く活動しているベテランほど避ける傾向にあるからだ。
でも、嘱託もダメ? 特別嘱託探索者はそれほど拘束性の高いものじゃない。だから一癖も二癖もある探索者でも参画している人は多い。それすらもダメというのは……。
「……同じ世界にいたい人がいるんだそうだ」
そう語るコハの表情は、何故だかとても嬉しそうだった。
語りながら、コハは端末ドローンを操作して、一つの配信をわたしに見せてくる。……知らないルーキーのチャンネル。キララの配信はたまに見ていたけれど、他の探索者については力量があると噂のチャンネルしか見てこなかったから……。
…………動画の画面では、キララが自らの弟子と呼ぶ少女とその相棒の少女を救う場面が流されていた。
「弟子が……ってこと?」
「まぁそんなところだろうな。そう言われてしまっては、こちらとしてもそれ以上何も言えなかったよ」
苦笑するコハは、やっぱり嬉しそう。
でもわたしは、余計に納得がいかなくなっていた。……弟子をとって誰かのために行動できるなら、ベテランの自覚はちゃんとあるんじゃん。八年も最前線で戦ってきて、弟子もとっているのに、それでも嘱託は嫌なんだ。いい大人なのに。わたしでもやっているくらいなのに。
あんなにキラキラしていて、自信に満ち溢れていて、頭がよくって、きっと現実世界でも誰にでも愛されている女。
……きっと、だからアイツは『こっち』でそんなに頑張る必要がないんだ。
────気に食わない。
その時初めて、わたしは自分の心の中に巣食う暗い感情を自覚した。