最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
ヴィヴィアネさんと無事に和解した翌日。
俺とナツカはハロルド森林にやってきていた。 かつて、ナツカと配信練習の為にやってきた不人気迷宮である。
あの時の動画は、一応保存はしてあるが……お蔵入りなんだよなぁ。俺が『
「皆さんこんにちは。木登りのプロ、ナツカさんです」
「裏方のクロだ」
幹と枝と葉によって構成された洞窟のような風体の迷宮を歩きながら、俺とナツカはカメラドローンに向かってお決まりの挨拶をする。
どうでもいいが、
「さて、本日は実際に迷宮の中でナツクロイト鉱石を使って遊んでみよう! ということで、ハロルド森林にやってきましたよ! 此処なら人も少ないので思う存分遊べます」
『なぜこの企画で木登り技術をアピールした?』
『ムササビ縛りDTAでもするんでしょ』
『猿も木から落ちる読みのナツクロイト鉱石とはね』
『ムササビ縛りDTAってなんだよ』
今日も今日とてコメント欄は通常営業である。
ちなみに、わざわざハロルド森林を選んだ理由だが、これは『不人気迷宮だから』というのが一番デカい。
ナツクロイト鉱石の風上ドローンを使って遊ぶのが今回の主題な訳だが、アレを使って大規模に遊ぼうとするとけっこう場所をとるからな。下手に人気の迷宮に行くと、他の探索者の迷惑になってしまう。
その点、ハロルド森林は不人気迷宮なのでそもそも他の探索者が絶無だし、2Fに行けば広々とした空間もある。風上ドローンを使った遊びをするにはもってこいの迷宮なのだ。あと、2Fは『夜』になると
こういう配信映え要素を考えて潜る迷宮を選定するのも、俺の仕事である。
「ではクロ、今回使用するアイテムを紹介するんですよ」
「あいあい。……今回使用するアイテムはこれ。ナツクロイト鉱石だ」
そう言って、俺はバッグから黒い鉱石と青い鉱石をそれぞれくっつけないように注意しながら取り出す。
ほんとは風上ドローンを使いたかったのだが、アレはキララが作ってもらったものだからな……。キララの後に貸してもらった体で使うならともかく、初お披露目まで俺がやっちゃうと作ってくれたリスナーが可哀想なので今回はやめておいた。
「おおー、素材そのままですよ。で、これでどうやって遊ぶんです?」
「ああ。今回の企画は――ずばり、『ハロルド森林ver2 DTAチャレンジ』だ!!」
「はろるどしんりんばーじょんつー、でぃーてぃーえーちゃれんじぃ?」
「流石に一言一句分からないのはおかしいだろ」
わざとらしく首を傾げるナツカにチョップを入れつつ、俺は答える。
「このハロルド森林は、森林で出来た洞窟の1F、枝葉の大地の中にある庭園迷路の2F、そしてその『最奥』に位置する大樹の塔の3F構成になってる。3Fで『夜』を迎えると
DTA、即ちダンジョン・タイムアタック。
RTAっていう文化から派生した
そして今日、俺はこのDTAのレギュレーションに新たな項目を創出するという野望のもと配信企画を練った。
即ち――『レギュレーション:ナツクロイト鉱石設置』!!
「配信前、既にナツクロイト鉱石をこの迷宮の各所に設置しておいた……。今、このハロルド森林は思わぬところから突風が噴き出す半飛行地帯と化している。ナツカには、このニュー・ハロルド森林をこれから攻略してもらう!」
「おおおおお!! 流石はクロ! 素晴らしい心配りですよ! ナイス相棒!!」
「相棒じゃないが」
『AJN』
『き、企画力ゥ~…』
『配信前に一人でハロルド森林に行って設置頑張ってるクロかわいい』
『AJN』
俺の配信前の苦労をねぎらうコメントも散見されたが……やめい。そういう裏方の苦労にあんまり思いを馳せるなよ。エンタメが面白くなくなるだろ。
あとAJNって最近たまに見るけどあれなに?
「だが、ただ飛行できるだけじゃ面白くない。そこで一つ、特別ルールを設けようと思う!」
「おお! 特別ルールとは?」
「今日はいつにもまして前のめりだね君」
そんなに今回の企画がワクワクするのか? まぁ空飛ぶのかなり気に入ってたからさもありなんって感じだが……。
「特別ルール……それは、『着地禁止』! 俺がナツクロイト鉱石を設置した場所から先は、地面に触れたらその時点で失格とする。失格したらその場で自乙して最初からやり直しな」
「えぇー…………」
めちゃくちゃテンション下がるじゃん。
「それじゃ最後まで踏破するの大変ですよ。配信的にもダレるんじゃないですか?」
「何で何度も失敗するの前提で話してるんだよ。プロじゃねぇのか?」
「落ちる落ちないではなく、ナツカさんはミスしたらそのステージの最初からやり直しになるタイプのゲームはイヤですよ」
「現代っ子め……」
試行錯誤の楽しみが分からんか。
「だがまぁ、その点については安心しろ。ちゃんといっぱい設置してるから、
「ならいいですけど」
俺の説明に気を取り直したナツカは、そのままずんずんと迷宮の先へと進んで行く。ややあって、空気の流れが変わったのを俺達はまず耳で感じ取った。
風の吹く音――それ以上に、木々の揺れる音だ。
それから、その正体を知る。床に設置されたナツクロイト鉱石から吹く風が、天井を構成している生い茂った枝葉を容赦なく揺らしているのだ。もっとも、アレは枝葉
「此処からだな。んー……」
俺は唸りながら、ガーデントーチを発現して地面に一本の線を引く。まるで境界を決めるみたいに。
「フィールドは此処から先ってことにするか。此処から先で地面に足をつけたら、自乙して最初からやり直しな。あと、天井に身体を叩きつけられないように気をつけろよ」
「了解ですよっ」
言うが早いか、ナツカは勢いよく飛び上がってチャレンジを開始させる。威勢のいいスタートだが……そんなに飛び上がって両手を広げていいのか? ナツクロイト鉱石の『揚力』は風にあたる面積が広いほど強く働く……つまり、
「あべぁっ」
「ほら言わんこっちゃない」
――そうやって勢いよく天井に吹っ飛ばされるぞ。
俺は呆れつつ、風に乗ってナツカを追尾する。
『当たり前やけどクロは余裕やね』
『流麗さすらある』
『ローアングルありがとうございます』
……俺ズボン履いてるんだけど、それでもローアングルって嬉しいもんなの?
「ほれ、身体を縮めて揚力を弱めるんだよ。地面全体に配置してるんじゃなくて物陰に幾つか角度を調整して設置してるだけだから、身体を丸めすぎると地面に着いちゃうからな」
「こっ、こうです?」
天井に叩きつけられたナツカの腕をたたんでやりながら言うと、ナツカはおっかなびっくり態勢を整える。腋を締めて、ファイティングポーズをとるような姿勢だ。するとナツカの身体は地上三メートルくらいのところで安定した。
「おーそうそうそんな感じ」
「なるほど! コツが分かってきましたよ!」
そう言って、ナツカは自信満々にくるりとその場で一回転してみせる。
くるくるとその場で回転するナツカを見届けて、俺は天井を手で押して壁を構成している木の枝に掴まる。『燃料物質』を発現して足場にすることで移動できる俺はともかく、そうじゃない場合はこうしないと、何も掴めない空中で静止しちゃったらその場で身動き取れなくなるからな。
「………………」
くるくる。
「………………」
くるくるくるくる。
「……あの、クロ、ナツカさんのことを助けてもいいですよ?」
…………あそこにいるバカみたいに。
「DTAっつってんだろ。手助けはナシだ」
「でもさっき助けてくれたじゃないですか」
「あっ!!」
し……しまった! そういえば天井に衝突したナツカの腕を掴んで高度調整のレクチャーをしてた……! いつもの癖で……! ガバった!
『さっきの助けたのってゆるゆる企画だからじゃなくてガチでうっかり?』
『やり直しする?』
『君らいったいなんなんだマジで』
『もう多少の手助けくらいよくね?』
『脳が破壊されるぅ=』
うう……コメント欄でもツッコミを入れられてしまった。不覚。
「……さ、さっきのはチュートリアルだ。もう手助けはなし。っていうか普通に一人で切り抜けられるだろ」
「そうは言っても、そろそろナツカさんも目が回ってきましたよ。等速直線運動ですよ」
「回転運動だけどな」
……ではなく!
「両手を広げればいいだろ。そうすれば高度が上がって天井に手を付ける。そこから反動で俺みたいに移動すればいい」
「はっ、流石ですよクロ。うべっ」
あ、勢いよく両手を広げるもんだからまた天井に叩きつけられてる……。
天井に叩きつけられたナツカは今度は慎重に腕を畳みつつ、天井伝いに脇の木の幹に掴まった。よしよし、これでようやく先に進めるな。
「さぁ、さっさと行くぞ。っていうか俺の想定だともうそろそろ1Fの中頃くらいには行ってるはずだったんだよなぁ……」
「クロのバランス感覚はアテにならないですよ」
「オラッ」
「ぎゃっ!!」
発現して蹴っ飛ばした固形燃料が見事ナツカの後頭部にクリーンヒット。ナツカはそのまま吹っ飛び、無事にハイペースで探索を始めるのだった。
なぁに、手助けだよ。手助け。
◆ ◆ ◆
そんなこんなで探索を終えた俺達は、疲弊した身体を引きずりながら
いや、別に探索が過酷だったから疲弊していた訳ではない。疲弊していた理由……それは、
いやね、今回のチャレンジ、ナツクロイト鉱石を物陰に配置してたんだけどさ。全階層で浮遊移動を可能にしようとすると、それはもう生半可な数じゃ足りないわけで。
相当頑張ってちりばめたんだが、異界物質は『
ナツカがいなかったらマジでヤバかった。でも『こういう感じで風が吹いてるんだし、あのへんじゃないです? よくわかんないですけど』って言ったところにことごとくナツクロイト鉱石が落ちてたのはちょっとヒいたぞ。
「はぁー…………非常に疲れました。飛行縛りはまたやりたいですけど、回収はもう二度とやりたくないですね」
「今度は風上ドローン使おうな」
その為には、まずキララの配信で風上ドローンを使わないとなぁ……。何の企画にしようか。空中でライブ配信とかやるかぁ……?
うーんうーんと唸りつつ、俺は今後の配信プランを考える。キララの配信で風上ドローンを利用したダンス配信なりカラオケ配信なりをやるとして、準備は必要だしなぁ……。場所取りも大事だし。今から準備しとかないとだな。
…………。
…………ん? 何か、忘れているような……?
忘れているというか、なんだろう。こんなことをしている場合じゃない焦燥感というか…………。
……………………。
…………
「あっ……あああァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「うわっ、超絶びっくりしましたよ」
「しッまったァッッ!! 『
俺は、愕然としていた。
そうだ……
しかもこの企画にはナツカにも内緒の裏ルールがある!! 期間中に一〇基踏破できなきゃ俺に罰ゲーム、しかもナツカに自腹でご褒美というなんでこんな分の悪い条件設定したんだよっていうアホの企画が!!
ただでさえ諸々の対応に追われていて全然探索できてないというのに、今日はもう六日目。ゴールデンウィークは九日間しかない……が、ナツカの宿題の問題があるので
そしてこの六日間で踏破した迷宮はTAL空域とWF城塞の二つのみ(ちなみにハロルド森林ver2は
つまり、あと二日で九基の迷宮を踏破しなくてはならないのだ。
…………あ、あと九基を、たったの二日で…………? ナツクロイト鉱石関連のネタもやりながら…………?
……………………。
じ、時間が…………時間が足りない!!!!